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夏休み編
第三百六十七話 夏休みの始まり
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「とーさーーん……」
あずさの声が聞こえた気がした。
思えば俺が一番人生で楽しかったのは、あずさと出会ってから十歳の誕生日までの四年ほどだ。
ガリガリに痩せたあずさは、とにかく可愛かった。
可愛すぎて何度抱きしめたかわからない。
もどれるものならもどりたい。本気でそう思う。
九州の人質交換も無事終わり、四国の子供達の救出も順調だ。
オーストラリアの調査も終わり、俺はずっと行動を共にしてくれた人達に夏休みを与えた。
それは、俺が一人になりたいと思う気持ちが強かったので、半ば強制的に休んでもらった。
「俺は、大阪城から三日間は絶対動かない。だから3日だけでも休んでくれ」そうお願いして、やっと納得してもらった。
今は恐らく、アドと桃井さん、オオエの三人がいるだけだろう。
三人は姿も気配も消している。いるかどうかは本当の所は分からない。
俺の後ろには、フォリスさんが黙って立っていてくれる。
フォリスさんは人間じゃないので、姿がみえる人間はここには俺だけだ。
大阪城天守閣最上階を、ほとんど真っ暗にして俺の前には、ちゃぶ台が一つ置いてある。
その上に茶碗と皿が一つ。
茶碗には、ほかほかご飯。皿の上にはキャベツの千切と目玉焼きだ。調味料は醤油。
俺とあずさの、定番のいつものご飯だ。
時には三食がこれの時もあった。
「とーさーーん……」
ふふふ、懐かしいご飯を前にして、またあずさの声、空耳なのだが聞こえてしまう。
あの頃、テレビで刑務所の囚人のご飯が放映されたときがあったけど、そっちのご飯の方が美味しそうで、あずさは「美味しそう、大きくなったら囚人になる」って言っていたよな。
将来の夢が囚人って、俺はおかしくって笑ってしまった。
今も子供が飢えているが、あの当時も多くの子供が飢えていたよな。
囚人より質素な食事をしながら慎ましく生活していた日本人は大勢いた。
夏休み中は、お金が無くて子供にご飯が食べさせられないから、休みがいらないなんて言っていた親御さんもいたよなあー。
あの頃はなんで、あんなに貧乏人が多かったんだろうなあ。
「なあ、あずさ。囚人になると、食事は豪勢になるけど、とうさんと一緒に暮らせなくなるぞ」そう言ったら、しばらく考え込んでいたよな。
よほど、刑務所の食事が美味しそうだったんだろうなあ。
長い沈黙の後「やっぱり囚人はやめる。とうさんと一緒のほうがいいもん」と言ってくれたのはいいけど。それは、即答してほしかったよなあー。考える時間が長すぎなんだよ。
「とうさん!! これ食べないの? じゃあ私が食べるよ」
「え、ああいいぞ!!」
ふふふ、空耳だけじゃ無くて、姿まで見える。
「うふふ、懐かしい」
「でも、その姿、今の姿じゃねえか。どうせ幻覚なら、頭がハゲチョロの頃の姿がいいなあ」
「ハッ、ハゲチョロ????」
「あれっ? ヒマリまで見える」
「ヒマリちゃんも食べる?」
ヒマリがコクコクうなずいている。
「とうさん、もう一つ出して、東京から直行してきたから、おなかが減っているの」
「あ、ああ」
俺は、ちゃぶ台に、もう一セット定番セットを出した。
「食べてみて、全然おいしく無いから」
「ふふ、まあまあ美味しいです」
「って、本物かよ!! なんでいるんだ?」
「なんでって、夏休みだからよ!!」
「ねえ、あずさちゃん、ハゲチョロって??」
「ああー、これを見て」
あずさは手荷物から写真を出した。
子供の頃、柳川が撮った奴だ。
「あのー、確かにハゲチョロでガリガリの骸骨のような男の子がいるけど、これが何か?」
「ふふふ、そのみすぼらしい、ハゲチョロの男の子こそが私なのだーー!!」
何が自慢なのか、あずさの鼻の穴がピクピクしている。
「えええええっ!!!!」
ヒマリが何度も写真とあずさを交互に見比べている。
「うふふ、とうさんのウザイほどの愛情で、あずさはこんな風になりましたとさ」
「馬鹿を言うな、愛情なんかで美しくはならない。愛情なんか無くても、あずさは自分の力で美少女に育っていたさ」
「ふっふっふー」
あずさは、人差し指を立てて左右に振った。
「とうさんがいなければ、私は死んでいました。……とーーさーーーん!!!!」
そう言うと、あずさは目に涙を一杯ためて、抱きついて来た。
全く、いくつになったんだ。
子供かよーー。とか思いながらうれしい俺であった。
「わっ、ばか!!」
口にくわえていた、半熟の目玉焼きが、俺のズボンの上にベチャリと落ちた。
なんてタイミングで、抱きついてくるんだ。
「あらまあ、もったいない事はいけませんねえ」
「やめろーー!! こんな所を誰かに見られたらどうするんだーー!!!!」
あずさは、ズボンに落ちた目玉焼きを、ちゅーちゅーしようと顔をズボンに近づけてきた。
俺は、あずさの頭をおさえて、出来無いように踏ん張るのだが、この娘、馬鹿に力が強い。
「やめろっちゅーのーー!! ヒマリー! たすけてくれーー!!!!」
「うふふ」
ヒマリはうれしそうに笑うだけで、助けてはくれない。
いや、ヒマリまで口に目玉焼きをくわえた。
この二人は何を考えているんだーー!!!! やめてくれーー!!!!
「きゃあああーーーーーー!!!!」
女性二人の悲鳴が聞こえた。
声の方を見たら、古賀さんと坂本さんがいた。
「やあ、古賀さん、坂本さん、久しぶり!!」
二人の目からは、中年のおっさんのズボンをチューチューする、美少女二人の姿がうつったに違いない。
恐らく俺がやらせていると思うのだろう。
違いますからね、この馬鹿娘二人が調子に乗ってふざけているだけですからね。
「やあじゃ、無いですよーーーー!!!! 娘二人に何をさせているんですかーーーーーー!!!!」
二人に、滅茶苦茶怒られた。
とんだ夏休みのスタートだよーーーー!!!!
あずさの声が聞こえた気がした。
思えば俺が一番人生で楽しかったのは、あずさと出会ってから十歳の誕生日までの四年ほどだ。
ガリガリに痩せたあずさは、とにかく可愛かった。
可愛すぎて何度抱きしめたかわからない。
もどれるものならもどりたい。本気でそう思う。
九州の人質交換も無事終わり、四国の子供達の救出も順調だ。
オーストラリアの調査も終わり、俺はずっと行動を共にしてくれた人達に夏休みを与えた。
それは、俺が一人になりたいと思う気持ちが強かったので、半ば強制的に休んでもらった。
「俺は、大阪城から三日間は絶対動かない。だから3日だけでも休んでくれ」そうお願いして、やっと納得してもらった。
今は恐らく、アドと桃井さん、オオエの三人がいるだけだろう。
三人は姿も気配も消している。いるかどうかは本当の所は分からない。
俺の後ろには、フォリスさんが黙って立っていてくれる。
フォリスさんは人間じゃないので、姿がみえる人間はここには俺だけだ。
大阪城天守閣最上階を、ほとんど真っ暗にして俺の前には、ちゃぶ台が一つ置いてある。
その上に茶碗と皿が一つ。
茶碗には、ほかほかご飯。皿の上にはキャベツの千切と目玉焼きだ。調味料は醤油。
俺とあずさの、定番のいつものご飯だ。
時には三食がこれの時もあった。
「とーさーーん……」
ふふふ、懐かしいご飯を前にして、またあずさの声、空耳なのだが聞こえてしまう。
あの頃、テレビで刑務所の囚人のご飯が放映されたときがあったけど、そっちのご飯の方が美味しそうで、あずさは「美味しそう、大きくなったら囚人になる」って言っていたよな。
将来の夢が囚人って、俺はおかしくって笑ってしまった。
今も子供が飢えているが、あの当時も多くの子供が飢えていたよな。
囚人より質素な食事をしながら慎ましく生活していた日本人は大勢いた。
夏休み中は、お金が無くて子供にご飯が食べさせられないから、休みがいらないなんて言っていた親御さんもいたよなあー。
あの頃はなんで、あんなに貧乏人が多かったんだろうなあ。
「なあ、あずさ。囚人になると、食事は豪勢になるけど、とうさんと一緒に暮らせなくなるぞ」そう言ったら、しばらく考え込んでいたよな。
よほど、刑務所の食事が美味しそうだったんだろうなあ。
長い沈黙の後「やっぱり囚人はやめる。とうさんと一緒のほうがいいもん」と言ってくれたのはいいけど。それは、即答してほしかったよなあー。考える時間が長すぎなんだよ。
「とうさん!! これ食べないの? じゃあ私が食べるよ」
「え、ああいいぞ!!」
ふふふ、空耳だけじゃ無くて、姿まで見える。
「うふふ、懐かしい」
「でも、その姿、今の姿じゃねえか。どうせ幻覚なら、頭がハゲチョロの頃の姿がいいなあ」
「ハッ、ハゲチョロ????」
「あれっ? ヒマリまで見える」
「ヒマリちゃんも食べる?」
ヒマリがコクコクうなずいている。
「とうさん、もう一つ出して、東京から直行してきたから、おなかが減っているの」
「あ、ああ」
俺は、ちゃぶ台に、もう一セット定番セットを出した。
「食べてみて、全然おいしく無いから」
「ふふ、まあまあ美味しいです」
「って、本物かよ!! なんでいるんだ?」
「なんでって、夏休みだからよ!!」
「ねえ、あずさちゃん、ハゲチョロって??」
「ああー、これを見て」
あずさは手荷物から写真を出した。
子供の頃、柳川が撮った奴だ。
「あのー、確かにハゲチョロでガリガリの骸骨のような男の子がいるけど、これが何か?」
「ふふふ、そのみすぼらしい、ハゲチョロの男の子こそが私なのだーー!!」
何が自慢なのか、あずさの鼻の穴がピクピクしている。
「えええええっ!!!!」
ヒマリが何度も写真とあずさを交互に見比べている。
「うふふ、とうさんのウザイほどの愛情で、あずさはこんな風になりましたとさ」
「馬鹿を言うな、愛情なんかで美しくはならない。愛情なんか無くても、あずさは自分の力で美少女に育っていたさ」
「ふっふっふー」
あずさは、人差し指を立てて左右に振った。
「とうさんがいなければ、私は死んでいました。……とーーさーーーん!!!!」
そう言うと、あずさは目に涙を一杯ためて、抱きついて来た。
全く、いくつになったんだ。
子供かよーー。とか思いながらうれしい俺であった。
「わっ、ばか!!」
口にくわえていた、半熟の目玉焼きが、俺のズボンの上にベチャリと落ちた。
なんてタイミングで、抱きついてくるんだ。
「あらまあ、もったいない事はいけませんねえ」
「やめろーー!! こんな所を誰かに見られたらどうするんだーー!!!!」
あずさは、ズボンに落ちた目玉焼きを、ちゅーちゅーしようと顔をズボンに近づけてきた。
俺は、あずさの頭をおさえて、出来無いように踏ん張るのだが、この娘、馬鹿に力が強い。
「やめろっちゅーのーー!! ヒマリー! たすけてくれーー!!!!」
「うふふ」
ヒマリはうれしそうに笑うだけで、助けてはくれない。
いや、ヒマリまで口に目玉焼きをくわえた。
この二人は何を考えているんだーー!!!! やめてくれーー!!!!
「きゃあああーーーーーー!!!!」
女性二人の悲鳴が聞こえた。
声の方を見たら、古賀さんと坂本さんがいた。
「やあ、古賀さん、坂本さん、久しぶり!!」
二人の目からは、中年のおっさんのズボンをチューチューする、美少女二人の姿がうつったに違いない。
恐らく俺がやらせていると思うのだろう。
違いますからね、この馬鹿娘二人が調子に乗ってふざけているだけですからね。
「やあじゃ、無いですよーーーー!!!! 娘二人に何をさせているんですかーーーーーー!!!!」
二人に、滅茶苦茶怒られた。
とんだ夏休みのスタートだよーーーー!!!!
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