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激闘九州猛将伝
第四百九話 恐い
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帰り道も順調で、多くの兵士達が笑顔で送ってくれました。
ダメです。
そんな笑顔を見せられたら、もう敵として憎むことが出来ません。
「ただいま戻りました!」
幹部の待つ学校の、応接室のドアを開けるなり続けて私は言いました。
「うおーーっ!!!! も、桃井さん!! 無事ですかー? 何もされませんでしたかー?」
ベッキーが、泣きそうな顔をして駆け寄って来て、上から下まで何度も私の体を確認します。ちょっと恥ずかしいです。
なんだか、ベッキーが可愛い弟のように感じられます。
すごいですねえ、私の弟のベッキーは、とても美しく整った顔をしています。
『きれい』と口走りそうになります。
大殿がもし、こんな美形ならモテモテだったのでしょうにね。でも、きっと好きには、なっていないかも知れません。
「はい!! 大丈夫です。とても紳士的に対応してもらいました」
「そうでしたか。お疲れ様でした」
島津義弘様がイスをすすめて下さいました。
「あの、帰り間際にナカヅイ隊長が『明日だ』とだけ言いました。お土産だそうです。島津義弘様にそう言えばわかるはずだと言われました」
「な、なにーーっ!! 俺にそんな禅問答のようなことを言われてもなあ」
「ええーーっ!! ま、まさか、わからないのですかー」
「この作戦は、俺が立てたものではないんだ……俺なら既に砦に襲いかかっている」
「まったく、兄さんは」
「わわ、歳久様」
応接室の横の扉から、島津歳久様がお茶を持って来て私の前に置きました。
「私も、暇でしたから来させてもらいました。桃井さんならわかりますよねえ」
「ええっ!! 私にもサッパリちんぷんかんぷんです。私なら既に砦に総攻撃をしかけています」
「はーーっ!!!! ま、まさか、ベッキー、安東常久殿、お二人ならわかりますよね?」
「いやー、俺なら今頃、敵の砦に総攻撃を仕掛けています」
「ふふ、俺なら、今頃総攻撃が終わっている頃じゃろうて」
ベッキーと安東常久様が頭をかきながら言いました。
それを聞くと歳久様は頭を抱えました。
「来て良かったーーーー!!!!」
歳久様は、心の底からしみ出るように声を出しました。
「歳久!! もったいぶらずに、早う申せ!!」
「ふふふ、明日、待ちに待った、化け物達がやってくると言うことです」
「なっ、なにーーっ!!!! 化け物ってなんだ?」
私とベッキー、そして安東常久様、島津義弘様の声がそろいました。
歳久様がガクッと、それはもう、見事にずっこけました。
「まったく! 桜木とサエコですよ。大殿が警戒する二人です。ついでに言っておきますが、この地にとどまっているのは、この戦いに負けたときに関門橋を渡って九州に逃げ帰るためですからね。かなわないとわかったら、すぐに撤退をしますよ」
「と、歳久。まさかそれほどなのか」
「ふふふ、この具足を装備していれば攻撃をされても即死はない。それほどの敵と大殿が言っておられました。ちなみにこの地にとどまることは、大殿の命令ですよ」
「うっ……」
四人の口から思わずうめき声がそろって漏れました。
私は背中に冷たい汗がブワッと吹き出るのを感じました。
そして、全身に鳥肌が立っています。
それはベッキーと安東常久様、島津義弘様も同じようです。
なにか、恐ろしい怪物がヒタヒタと近づいてくるそんな気配さえ感じます。
翌朝、私達は学校を出て、北にある線路が横切る田園地帯を決戦の地としました。
本当なら、沢山の稲が緑に育っている場所なのでしょうけど、今は雑草しか生えていません。
空は嫌になるほど美しい青空です。
風は少し元気が無くて、私の忍者コスチュームのスカートを微かに動かす程度です。
「来たぞーー!!!!」
ゆっくり新政府軍が来るのが見えてきました。
音楽を奏でながら行進してきます。
シルバーに輝く、西洋風の鎧を着けています。
あれは、一番隊でしょうか。
新政府軍が誇る精鋭です。
「な、何だあれはーーーー!!!!」
田んぼの中にはいくつか建物が有り、その建物の屋根に兵士が昇り見張りをしています。
その物見の兵士から悲鳴のような、叫び声の様なものが聞こえました。
私も、その横に素早く移動しました。
一番隊とは別に二人の人物が現れました。
一緒に行動をしていたわけでは無いようです。
一人は、女性です。
かなり美しい女性ですが、顔に影が落ちて邪悪な感じがしています。
どこで見つけたのか、ピエロのような服を着ています。
「あれが、サエコでしょうか」
「……」
私がつぶやくと、横の兵士が無言でピエロの女を見つめます。
そして、その横に巨大で筋肉の発達した男がいます。
やはり、顔に黒いくまが走り、普通の顔をしているようですが、既に怒っているように見えます。
しかし、でかいです。二メートルをはるかに超えていそうです。
「あれが、桜木」
実は、古賀忍軍でも二人の行方を捜していましたが、あの二人は遊撃軍の為なのか神出鬼没で、どこにいるのかつかめていませんでした。
昨日、ナカヅイ隊長に教えてもらえなければ、今日ここに来ることさえ想定出来ていませんでした。
桜木とサエコが一番隊に合流すると、一番隊の中では一番大きな男が、二人に頭を下げました。
「あれが、一番隊隊長ですか」
「そ、そのようですね」
体の大きい一番隊の隊長が子供の様に小さく見えます。
遅れて、一番隊の後ろに、三つの部隊が合流します。
五番隊と六番隊、そして七番隊です。
隊長は鎧を装備していますが、兵士はそれぞれバラバラの装備をしています。
何も防具を装備できていない人までいます。
兵士には大きく差があるようです。
新政府軍の準備が終わる頃、二人のモンスターが前に出てきました。
「ふふふ、ソロソロ始めましょうか」
桜木は普通に言いました。優しい感じさえします。
そして、ニヤニヤ笑いながら両軍の中央を目指して歩いて来ました。
私は、昨日の夜の倍ほど冷たい汗が噴き出し、肌はでこぼこになるほどの鳥肌が立っています。そして、雪の中にいるように寒さを感じて体がガタガタ震えています。
――恐い……
ダメです。
そんな笑顔を見せられたら、もう敵として憎むことが出来ません。
「ただいま戻りました!」
幹部の待つ学校の、応接室のドアを開けるなり続けて私は言いました。
「うおーーっ!!!! も、桃井さん!! 無事ですかー? 何もされませんでしたかー?」
ベッキーが、泣きそうな顔をして駆け寄って来て、上から下まで何度も私の体を確認します。ちょっと恥ずかしいです。
なんだか、ベッキーが可愛い弟のように感じられます。
すごいですねえ、私の弟のベッキーは、とても美しく整った顔をしています。
『きれい』と口走りそうになります。
大殿がもし、こんな美形ならモテモテだったのでしょうにね。でも、きっと好きには、なっていないかも知れません。
「はい!! 大丈夫です。とても紳士的に対応してもらいました」
「そうでしたか。お疲れ様でした」
島津義弘様がイスをすすめて下さいました。
「あの、帰り間際にナカヅイ隊長が『明日だ』とだけ言いました。お土産だそうです。島津義弘様にそう言えばわかるはずだと言われました」
「な、なにーーっ!! 俺にそんな禅問答のようなことを言われてもなあ」
「ええーーっ!! ま、まさか、わからないのですかー」
「この作戦は、俺が立てたものではないんだ……俺なら既に砦に襲いかかっている」
「まったく、兄さんは」
「わわ、歳久様」
応接室の横の扉から、島津歳久様がお茶を持って来て私の前に置きました。
「私も、暇でしたから来させてもらいました。桃井さんならわかりますよねえ」
「ええっ!! 私にもサッパリちんぷんかんぷんです。私なら既に砦に総攻撃をしかけています」
「はーーっ!!!! ま、まさか、ベッキー、安東常久殿、お二人ならわかりますよね?」
「いやー、俺なら今頃、敵の砦に総攻撃を仕掛けています」
「ふふ、俺なら、今頃総攻撃が終わっている頃じゃろうて」
ベッキーと安東常久様が頭をかきながら言いました。
それを聞くと歳久様は頭を抱えました。
「来て良かったーーーー!!!!」
歳久様は、心の底からしみ出るように声を出しました。
「歳久!! もったいぶらずに、早う申せ!!」
「ふふふ、明日、待ちに待った、化け物達がやってくると言うことです」
「なっ、なにーーっ!!!! 化け物ってなんだ?」
私とベッキー、そして安東常久様、島津義弘様の声がそろいました。
歳久様がガクッと、それはもう、見事にずっこけました。
「まったく! 桜木とサエコですよ。大殿が警戒する二人です。ついでに言っておきますが、この地にとどまっているのは、この戦いに負けたときに関門橋を渡って九州に逃げ帰るためですからね。かなわないとわかったら、すぐに撤退をしますよ」
「と、歳久。まさかそれほどなのか」
「ふふふ、この具足を装備していれば攻撃をされても即死はない。それほどの敵と大殿が言っておられました。ちなみにこの地にとどまることは、大殿の命令ですよ」
「うっ……」
四人の口から思わずうめき声がそろって漏れました。
私は背中に冷たい汗がブワッと吹き出るのを感じました。
そして、全身に鳥肌が立っています。
それはベッキーと安東常久様、島津義弘様も同じようです。
なにか、恐ろしい怪物がヒタヒタと近づいてくるそんな気配さえ感じます。
翌朝、私達は学校を出て、北にある線路が横切る田園地帯を決戦の地としました。
本当なら、沢山の稲が緑に育っている場所なのでしょうけど、今は雑草しか生えていません。
空は嫌になるほど美しい青空です。
風は少し元気が無くて、私の忍者コスチュームのスカートを微かに動かす程度です。
「来たぞーー!!!!」
ゆっくり新政府軍が来るのが見えてきました。
音楽を奏でながら行進してきます。
シルバーに輝く、西洋風の鎧を着けています。
あれは、一番隊でしょうか。
新政府軍が誇る精鋭です。
「な、何だあれはーーーー!!!!」
田んぼの中にはいくつか建物が有り、その建物の屋根に兵士が昇り見張りをしています。
その物見の兵士から悲鳴のような、叫び声の様なものが聞こえました。
私も、その横に素早く移動しました。
一番隊とは別に二人の人物が現れました。
一緒に行動をしていたわけでは無いようです。
一人は、女性です。
かなり美しい女性ですが、顔に影が落ちて邪悪な感じがしています。
どこで見つけたのか、ピエロのような服を着ています。
「あれが、サエコでしょうか」
「……」
私がつぶやくと、横の兵士が無言でピエロの女を見つめます。
そして、その横に巨大で筋肉の発達した男がいます。
やはり、顔に黒いくまが走り、普通の顔をしているようですが、既に怒っているように見えます。
しかし、でかいです。二メートルをはるかに超えていそうです。
「あれが、桜木」
実は、古賀忍軍でも二人の行方を捜していましたが、あの二人は遊撃軍の為なのか神出鬼没で、どこにいるのかつかめていませんでした。
昨日、ナカヅイ隊長に教えてもらえなければ、今日ここに来ることさえ想定出来ていませんでした。
桜木とサエコが一番隊に合流すると、一番隊の中では一番大きな男が、二人に頭を下げました。
「あれが、一番隊隊長ですか」
「そ、そのようですね」
体の大きい一番隊の隊長が子供の様に小さく見えます。
遅れて、一番隊の後ろに、三つの部隊が合流します。
五番隊と六番隊、そして七番隊です。
隊長は鎧を装備していますが、兵士はそれぞれバラバラの装備をしています。
何も防具を装備できていない人までいます。
兵士には大きく差があるようです。
新政府軍の準備が終わる頃、二人のモンスターが前に出てきました。
「ふふふ、ソロソロ始めましょうか」
桜木は普通に言いました。優しい感じさえします。
そして、ニヤニヤ笑いながら両軍の中央を目指して歩いて来ました。
私は、昨日の夜の倍ほど冷たい汗が噴き出し、肌はでこぼこになるほどの鳥肌が立っています。そして、雪の中にいるように寒さを感じて体がガタガタ震えています。
――恐い……
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