小さな鏡

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第二話 深夜の廃屋

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映像は切り替わり夜になった。
街灯も無い山奥は、数個の星の光でも薄ら空が白く見える。
そして、昼間は美しかった緑が、夜には漆黒の闇になっている。
そんな中、ザブさんの高性能ライトがあたりを照らす。

「まずは、この廃屋から検証を開始したいと思います」

雰囲気から、昼間見た二軒目の廃屋でしょう。
朽ちている廃屋は、幽霊屋敷のように恐ろしいたたずまいである。
そんな廃屋に、ちゅうちょ無く近づくザブさんは、余程経験豊富な映像配信者なのだろう。
入り口は最早壊れて無くなっている。

「お邪魔しまーす。誰かいませんかー」

ザブさんは、声をかけながら中にはいっていく。
もちろん誰もいないはずなのですが、この手の廃墟探索者はたいてい声をかける。
こういう廃墟映像配信者には二種類のグループがいて、一つは廃墟を純粋に紹介するグループ、もう一つは幽霊を写すことを目標として廃墟映像を撮っているグループに分かれます。
ザブさんはもちろん後者ですよね。
この二つのグループの大雑把な違いは、前者は昼間の撮影だけで終了し、後者は深夜に必ず撮影をするという所です。

「うわー、すでに床も落ちてしまっていますね」

廃屋の中は荒れ果てていた。
床は抜け、天井も所々落ちている。
ふすまはびりびりにやぶれて、カーテンは原型をとどめないほど引き裂かれたようになっている。
そしてあたりは砂埃にまみれ、埃がかぶっていない場所はザブさんの足跡だけだった。
普通の人間は、この状況を見ただけで震え上がるだろう。

「この部屋は、まだ床が残っていますね」

ザブさんは、部屋の中を隅から隅までゆっくりと写した。
床の上にのぼると、あたりからキシキシと音が出ている。
ラップ音にも聞こえるが、これは床に加重が掛かり、部屋がきしんでいる音だろう。

「部屋から、音が出ています。こわいですねー」

ザブさんが恐そうにしている。
でも、これは恐らくフェイクでしょう。
私には余裕があるように見えます。

「では、ここで三十分待機をしてみたいと思います」

ザブさんはもう一度部屋の中を写し、この廃屋の気持ち悪さを写した。

「せっかく待機をするのですから、まず、ばけたんをつかってみたいとおもいます。ばけたんとはこれです」

ザブさんは腰のポシェットから、ばけたんを出すとカメラの前に、四センチ弱の大きさの白い半透明の四角い物を写した。

「いつも見ていて下さる方はおなじみですが、初めての方に説明をしたいと思います。このばけたんは、お化けが近くにいると赤又は、青に光るという装置です。青は良いお化け、赤は危険なお化け、何もいなければ緑のままという装置です。では、スイッチを入れてみたいと思います」

ザブさんがスイッチを入れると、数回点滅をした後、緑色にひかった。

「ですよね。ご覧のように緑色に光っています。続いてトリフィールドで検証したいと思います。トリフィールドは周囲の磁場の変化を調べる装置です。何か異常があれば音と、数値で変化がわかります。ではスイッチを入れてみます」

ザブさんは、装置の表示が見えるようにトリフィールドを写した。
大きさはスマホと同じ位で厚さが四センチ程の装置である。
チチチという音と共に、液晶パネルに数値が出ている。0000と表示されていた。

「やはり何も表示されません。こんな山奥に電磁波などはありませんよね。次はスピリットボックスで検証してみましょう。スピリットボックスは、周波数を変化させて周囲のノイズを音声に変化させる装置です」

ザブさんはスピリットボックスをカメラの前に写した。
大きさはトリフィールドを一回り小さくした大きさだった。
ザッザッザと一定のリズムが続いた。

「やはり、電波の無い山奥では、少しも反応がありません。まあ想定通りの反応ですね。もし幽霊がいて波長が合えば会話が出来るのですが、ここには何もいないようです」

ザブさんが用意している装置はこの三つだった。
最近は、サーモカメラや音源可視化装置やゴーストチューブを使うこともありますが、だいたいザブさんと同じ三種の神器で終っているようです。

「では、三十分たちましたので、検証を終了したいと思います」

その時、部屋の中でパチンと音がした。

「うわあ、なに、なに、何だ」

ザブさんが驚いたふりをしています。
私には、恐さが何も伝わってきません。
恐らくザブさんの体重移動で、おんぼろの建物が動いて出た音のように感じました。
または、ザブさんが意図的に体重移動で、音を出したのかもしれません。
それはあまりにもわざとらしかった。
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