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第十六話 音の正体
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「せせせ、先生、おおおお、女の子です。髪の長い……」
「お、落ち着いて下さい。安崎さん」
そう言いながら、私も少しビックリしました。
私にも見えたからです。
少女は相変わらず長い髪に隠れて、鼻と口しか見えませんが、明らかに泣いています。
「は、初めて見ました。先生は、あの子が最初から見えていたのですか」
「はい、見えていました。安崎さんに見えるとは思っていませんでしたが」
「さすが、先生です。あっ、お騒がせしましたー」
安崎さんは、他のお客さんに立ち上がって頭を下げています。
そして、椅子に座り直すと私を見ながら話しかけてきます。
「何度もこの映像を見ましたが、こんな映像はありませんでした。もう一度見てもよろしいですか」
安崎さんは同じところを何度か再生しなおします。
「おかしい、何か影のようなものが見えるだけだ」
安崎さんが納得したのを確認すると、あえて鏡から音が聞こえるところを飛ばして、最後のディスクに入れ替えます。
映像が出ると、ぬいぐるみを指さします。
「今の女の子の、場所と同じですよね」
「あっ」
「私は、このぬいぐるみを取り戻したのは、お父さんじゃ無いかと考えています」
「ザブに憑依していたと……」
安崎さんは私に視線を移す。
私はまたうなずいた。
「ふふふ、私は先生以外にそんなことを言われれば笑い飛ばしますが、もはや信じるしか有りませんな」
安崎さんはここでウーロン茶を飲み干すとお替わりをした。
私はここで、ディスクを入れ替えます。
そして、手鏡から出る音の所を再生した。
音と共にでる水色の影。
「この鏡に映るものと音は、娘さんが出しているものだと感じます。少女は父親より先に無くなっていて、お父さんの最後の姿を見ていたのでは無いでしょうか。だから、こうならないようにと、警告してくれていたのだと思います。助けてという口の動きも、少女の叫びと私は考えています」
動揺した安崎さんはウーロン茶を口に運んだ。
その手は、大きく震えていた。
少女の父親は神社の木で自殺した。
ガッチャンという音は脚立が倒れる音、ギシギシとは木とロープのきしむ音では無いだろうか。
ザブさんに憑依した霊は、そのまま同じ行動を起こしたのでは無いでしょうか。
以前見た映像で、自殺霊が何度も同じ所で自殺を繰り返す映像を見たことがあります。
「ふふふ、ザブも水色の服を着ていました」
「……」
私と安崎さんはしばらく黙り込んだ。
沈黙の後、安崎さんが口を開いた。
「ザブはどうすればよかったんですかねえ」
「廃墟では、悪さをしないで、礼儀正しく静かに撮影していれば良かったと思います。もし、間違って思いの強いものを持ってきてしまったら、直ちに返すことでしょうね」
「ふふふ、では、あのぬいぐるみと鏡は私が責任を持って、あの廃墟に返してきます」
「安崎さんの持っているものも一緒に返して下さいね」
「えっ」
安崎さんは目をまん丸にして驚いている。
「せ、先生」
「は、はい」
「日記の事もご存じなのですか」
うわーーっ、日記かー。
安崎さんの様子からまだ何か隠していると思っていましたが、まだそんなものまで持っていたのかー。
「ふふふ、ところで中には何が書いて有ったのですか」
「そうですねー、少し長くなりますがお聞きになりますか」
「はい、聞かせて下さい」
「わかりました」
安崎さんは目を閉じると、思い出しながらという感じで話してくれました。
「あの廃村はもともと昭和初期に、ダムに沈む予定だった村なのです。住人の中には村を出ることに反対する者もいました。あの親子は、賛成派でしたがある理由で村を出ることが出来なかったのです。ある理由とは、娘さんを二階の座敷牢に隔離している事でした」
たしか一九五〇年までそんな法律があったことを私は思い出していた。
二階に変な部屋が有ったのも思い出した。
――あれは座敷牢だったのね
「父親は、村人が全員引っ越すのをまって、引っ越しをしようと考えていましたが、反対派はなかなか引っ越しをしませんでした」
私は、この時安崎さんの横に座っていることに気づき、パソコンを使わないなら隣はおかしいだろうと思って、ビールのお替わりを頼んで向かいの席に座り直しました。
「お、落ち着いて下さい。安崎さん」
そう言いながら、私も少しビックリしました。
私にも見えたからです。
少女は相変わらず長い髪に隠れて、鼻と口しか見えませんが、明らかに泣いています。
「は、初めて見ました。先生は、あの子が最初から見えていたのですか」
「はい、見えていました。安崎さんに見えるとは思っていませんでしたが」
「さすが、先生です。あっ、お騒がせしましたー」
安崎さんは、他のお客さんに立ち上がって頭を下げています。
そして、椅子に座り直すと私を見ながら話しかけてきます。
「何度もこの映像を見ましたが、こんな映像はありませんでした。もう一度見てもよろしいですか」
安崎さんは同じところを何度か再生しなおします。
「おかしい、何か影のようなものが見えるだけだ」
安崎さんが納得したのを確認すると、あえて鏡から音が聞こえるところを飛ばして、最後のディスクに入れ替えます。
映像が出ると、ぬいぐるみを指さします。
「今の女の子の、場所と同じですよね」
「あっ」
「私は、このぬいぐるみを取り戻したのは、お父さんじゃ無いかと考えています」
「ザブに憑依していたと……」
安崎さんは私に視線を移す。
私はまたうなずいた。
「ふふふ、私は先生以外にそんなことを言われれば笑い飛ばしますが、もはや信じるしか有りませんな」
安崎さんはここでウーロン茶を飲み干すとお替わりをした。
私はここで、ディスクを入れ替えます。
そして、手鏡から出る音の所を再生した。
音と共にでる水色の影。
「この鏡に映るものと音は、娘さんが出しているものだと感じます。少女は父親より先に無くなっていて、お父さんの最後の姿を見ていたのでは無いでしょうか。だから、こうならないようにと、警告してくれていたのだと思います。助けてという口の動きも、少女の叫びと私は考えています」
動揺した安崎さんはウーロン茶を口に運んだ。
その手は、大きく震えていた。
少女の父親は神社の木で自殺した。
ガッチャンという音は脚立が倒れる音、ギシギシとは木とロープのきしむ音では無いだろうか。
ザブさんに憑依した霊は、そのまま同じ行動を起こしたのでは無いでしょうか。
以前見た映像で、自殺霊が何度も同じ所で自殺を繰り返す映像を見たことがあります。
「ふふふ、ザブも水色の服を着ていました」
「……」
私と安崎さんはしばらく黙り込んだ。
沈黙の後、安崎さんが口を開いた。
「ザブはどうすればよかったんですかねえ」
「廃墟では、悪さをしないで、礼儀正しく静かに撮影していれば良かったと思います。もし、間違って思いの強いものを持ってきてしまったら、直ちに返すことでしょうね」
「ふふふ、では、あのぬいぐるみと鏡は私が責任を持って、あの廃墟に返してきます」
「安崎さんの持っているものも一緒に返して下さいね」
「えっ」
安崎さんは目をまん丸にして驚いている。
「せ、先生」
「は、はい」
「日記の事もご存じなのですか」
うわーーっ、日記かー。
安崎さんの様子からまだ何か隠していると思っていましたが、まだそんなものまで持っていたのかー。
「ふふふ、ところで中には何が書いて有ったのですか」
「そうですねー、少し長くなりますがお聞きになりますか」
「はい、聞かせて下さい」
「わかりました」
安崎さんは目を閉じると、思い出しながらという感じで話してくれました。
「あの廃村はもともと昭和初期に、ダムに沈む予定だった村なのです。住人の中には村を出ることに反対する者もいました。あの親子は、賛成派でしたがある理由で村を出ることが出来なかったのです。ある理由とは、娘さんを二階の座敷牢に隔離している事でした」
たしか一九五〇年までそんな法律があったことを私は思い出していた。
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――あれは座敷牢だったのね
「父親は、村人が全員引っ越すのをまって、引っ越しをしようと考えていましたが、反対派はなかなか引っ越しをしませんでした」
私は、この時安崎さんの横に座っていることに気づき、パソコンを使わないなら隣はおかしいだろうと思って、ビールのお替わりを頼んで向かいの席に座り直しました。
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