大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第113章『役割』

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第113章『役割』

「離脱させたらこちらも即時離脱、回収を頼むぞ!」
 その言葉の直後頭上にいたタカコが車体を蹴る衝撃が伝わって来て、助手席の窓の外を小さな背中が飛び降りて行く様子が敦賀の目に映った。
「あの馬鹿……!!」
 助手席との間に置いていた武蔵を掴み運転席から降りようとすれば、その彼の腕を掴んで引き止めたのは助手席にいた高根。何をする、そう言って腕を振り払おうとすれば、
「あいつを信じろ、手前ぇの命も仲間の命も軽く扱う馬鹿じゃねぇ」
 と、思いの外静かな口調でそう言われる。
「信じてねぇんじゃねぇ、あいつが――」
「心配なのは分かってる、俺だってそうなんだからお前なら尚更だろうよ」
「それなら――」
「司令!離脱完了です!」
 言葉を遮ったのは後方から飛んで来た声、後方へと下げる者の離脱が完了すれば後はもう掃討に専念するだけ、
「後にしよう、今はとにかく作戦に専念するんだ」
 高根のその言葉に大きく歯を軋らせながらトラックを発進させれば、前方にはかなりの速度で走りながらタカコの姿。時折振り返り追いすがる活骸の群れに向けて拳銃を発砲するその様子を見据えつつ、さっさと回収してしまおうと
「おい!あの馬鹿女引き摺り上げろ!」
 と荷台に向けて声を放り、彼女の脇へと付け併走する様にして速度を調整する。
「先任!タカコ回収しました!」
 こっちを持てあっちを引っ張れ支えろと大騒ぎが聞こえた後にどさりと何かが荷台へと放られる気配がして、それから漸く聞きたかった言葉が聞こえて来る。良かった、これで次の動きに移れる、高根と顔を見合わせて小さく息を吐くと、当初の予定通りに再び運動場へ向かう為に、一度活骸を大きく引き離そうと反対方向へと走り始めた。
「……敦賀、男としてのおめぇがタカコを心配してて、小っちぇえ傷の一つでも作って欲しくねぇと思ってるのは分かってる、俺だって惚れた女がいりゃそう思うだろうよ」
「分かってんなら止めるんじゃねぇよ、あいつが出るのはまぁ良い、状況的に出なけりゃどうしようもねぇ時も有るだろうよ。でもな、一人で出るのは駄目だ、絶対に認めねぇ。何か有った時に俺が直ぐに守ってやれる様に、俺が一緒じゃなきゃ認めねぇ」
「だから、それも分かるっての。でもさっきの場合はしょうがなかったろうよ、あれでタカコが囮の役を買って出なかったらまた無駄死に出してたんだぞ」
「……それも分かってるよ」
「分かってねぇだろうが。あれでタカコが出なかったらおめぇどう言い訳するつもりだ、惚れた女一人の為に見殺しにしたとでも言うんか」
 高根の言っている事は正しい、もう反論の言葉も見つからず黙り込めば、
「おめぇが惚れた相手はそういう女だ、同時におめぇにはおめぇの役割が有る。それに耐えられないってんなら、タカコの事なんか忘れちまえ」
 という、何とも辛辣な言葉をとどめにぶつけられた。
 出来る筈も無い事を軽々しく言ってくれる、それでも彼の方が正しい事は敦賀にも分かっているから反論も出来ない。それから先は押し黙ったまま活骸を集めて引き付け、運動場から一番遠い地点迄到達するとそこから高速で一気に離脱した。
「銃の数が少な過ぎる、弾薬はまだまだ有るが、これからは攻めに転じるってのにこれじゃ流石に効率が悪い」
 運動場に辿り着いてトラックを降りれば、荷台から降りたタカコがこちらへと歩み寄って来て高根にそう告げる。その彼女の頭を『無茶をしやがって』と敦賀が無言で小突けば、タカコはそれには何の反応も返さずに高根を見詰めたまま、彼の返答を待っていた。
「案は有るんだろう、言ってみろ」
「最初の墜落事故の時に押収した装備……あれを使いたい。散弾銃も弾薬も大量に積み込んであった、残った数は目録では幾つになってる?」
「五十三丁有る筈だ、全員に持たせるには足りねぇが」
「それはしょうがない、今こちらに有る二十丁と合わせて七十三丁、私が一つ持つから計七十二丁を二丁ひと組にして三十六組に分け、片方が撃っている間片方が下がり弾込めをする。これで弾込めの間に活骸との距離を縮められる危険は大幅に減らせる筈だ」
「経験は?」
「大量の活骸を相手にする場合、我が国では寧ろこの形式の方が一般的だ。活骸の活動線をこちらへと進ませない為のものだからな、弾幕が切れる時間を出来るだけ少なくする事が大事なんだよ」
「そうか……」
 高根はタカコの言葉を聞きながら暫し思案する。彼女の言う事は尤もだ、二十丁程度ではこの局面は乗り切れないだろう、あとどれ程の活骸が基地内に残っているかは分からないが、手元に残っている弾薬と銃で片を付けるには相当の時間が掛かる筈だ、そうなれば食料や水の補給も無い状態での消耗戦、遠からず疲弊して突破される事は目に見えている。銃を使用するのであればいつもの太刀を使っての接触戦は併用出来ない、彼女の言う通りに危険を冒してでも倉庫へと入り、銃を補給する他は無い。
 幸いにして今手元に有る銃はタカコが持ち込んだ物をそのまま模倣し作られた、弾薬もそれは同じ、持ち込んだ物とは完全な互換性を保持しているから混ぜてしまっても問題は無い。
 そうなれば答えは一つ、と高根は一つ大きく息をしてタカコへと問い掛ける。
「それを成功させる為に必要なものを言え」
「銃と弾薬以外にも使えそうなものは可能な限り持ち出したい、幌付きのトラックを五台、人員は運転手と荷台に二人を五台分の十五人。重量の有る物が多いから腕力に自信の有るのを揃えてくれ。それと、いつ活骸との戦闘になるか分からん、全員に太刀を携行させてくれ」
 既に頭の中では作戦が完成しているのか立て板に水の如く話すタカコ、高根はその様子を見詰め、流石特殊部隊の指揮官だ、場慣れしている上に変則的な状況への順応が凄まじく早いと目を細める。
 彼女に賭けるしか無いだろう、そう思いながら横の敦賀を見れば彼もまた同じ事を考えていたのか無言で頷き、高根はそれに頷き返すとタカコへと視線を戻し口を開く。
「分かった、その突入作戦の指揮はお前に任せよう。他は倉庫から活骸を引き離す為の囮部隊という事になるんだろうがそちらの指揮は俺が執る。敦賀を連れて行け、お前の細腕の代わりにこいつに装備担がせろ、良いな?」
「了解、総司令」
 タカコの口角が上がり獰猛な笑みを形作る。楽しんでやがるな、そう思いながら高根もまた同じ笑みを浮かべていた。
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