大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第115章『昂ぶり』

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第115章『昂ぶり』

「どうかしたか……って、おい、何笑ってやがる」
 最初はどうしたのか、泣いているのかと思い焦った敦賀だったが、タカコが込み上げる笑いを必死に噛み殺している事が分かり途端に眉根を寄せて不機嫌になる。何を笑っていると頭を軽く叩けば、タカコはそれで漸く笑い以外のものをその口から紡ぎ出した。
「っ……いや、悪ぃ悪ぃ……お前が今言った事、旦那とまんま同じでさ、もう……おっかしくって……ぶふっ」
 最後は堪えきれずにタカコはまた笑い出し、敦賀は自分の発言でこんなにも笑われる不快感と、彼女の亡夫と同じ事を言ったという事に対しての動揺が綯交ぜになる。何をどうしたら良いものかと暫し思案し、第二陣が来る迄の間少し昔話でも聞こうかと思い至り、目の前の彼女の身体を抱き上げ、手近な積み上げられた木箱の上へと座らせた。
「……旦那と一緒って、そりゃどういう事だ」
 いつもよりもずっと近くなった顔、ほぼ同じ高さになった目線。タカコの後頭部に掌を回し唇が触れ合う程に顔を近付けてそう問い掛ければ、返されたのは背中に回された二本の腕。
「そのまんま、私があんまりにも単独でカチ込みかけるもんだから、それにキレた旦那が私を物凄い剣幕で怒鳴りつけた時に言ったのとまんま一緒。全くの別人から全く同じ事言われたってのがさ、もうおかしくって」
「……全くの別人から全く同じ事を言われるって事ぁ、その言ってる内容が真実だって事だろうがよ。ちったぁ自重しろ鳥頭」
「鳥頭だの空頭だの、お前本当に人をボロクソに言うよね、酷いよね」
「酷くねぇよ、事実だ事実」
「違うし!タカコさんお利口だし!」
「利口は指揮官のくせして率先して囮になんかなったりしねぇよ」
「だって、緊張感が有って楽しいじゃないか」
「……楽しい、だと?」
「うん、そう、楽しい。ゾクゾクするよ、自分の命賭け金にして博打打つのってさ」
 いつものタカコに戻ったと思っていたのにまた空気が変わる。獰猛さを湛えた眼差しと笑みに何故か背筋にぞくりと走るものを感じ、後頭部へと遣っていた掌に力を込め、敦賀はゆっくりとタカコへと口付けた。
 抵抗は無い、逆に背中に回された腕に力が込められ密着度が増し、敦賀も残った腕を彼女の背中に回し、しっかりと抱き寄せる。舌を侵入させれば直ぐにそれにタカコのものが絡められ、貪る様にしてお互いを求め合う。
 これは戦いによる昂ぶりだ、今迄に何度も覚えが有る、彼女もまたそうなのだろう。普段ならば遣り過ごし、殺気へと変えてぶつける相手は活骸の群れ。けれど今は目の前に、腕の中に何よりも大事な愛しい存在がいる。昂ぶりと愛情が戦場の真っ只中で混じり合えばこんな気持ちになるのかと思いながら、敦賀は夢中になってタカコを求め続け、タカコもまたそれに呼応し続けた。
「……来たな」
 やがて遠くに聞こえ始めたトラックの音、少し手前で車輪を軋ませながら切り返す気配がして、直後、鉄扉へと向けて散弾銃が発射され鉄扉がその弾を受け止める凄まじい轟音と衝撃が倉庫の中に響き渡る。
「活骸、やはり多少は嗅ぎつけて来てたか」
 そう言いながらもう一度だけ敦賀の唇へと口付けたタカコが彼の腕を離れ地面へと降り立つ、活骸を排除出来たのかトラックが後進して来る気配が扉越しに伝わって来て、敦賀は武蔵を、タカコはナイフを手に扉の合わせ目を境にして向かい合う。
「先任!開けます!!」
「タカコ!行くぞ!!」
 その声と共に扉が外から開かれ始め、やがて荷台を頭にして車体がゆっくりと中へと入って来る、
「降りて扉を閉めろ!俺と馬鹿女は活骸がいればそれを排除する!」
 敦賀のその言葉に従って荷台を飛び降り、二手に別れてタカコと敦賀の後ろに付き鉄扉へと手を掛けて身体を押し付ける海兵二人、トラックの車体が倉庫内へ入りきるのと同時に隙間から数体の活骸が顔を出し、二人は
「閉じろぉっ!!」
 と怒鳴りながらその活骸へと向けて素早く振り翳していた。
 先ずは敦賀、武蔵を鋭く振り下ろせば一体の首が飛ぶ、その武蔵の鋒が下がったところで今度はタカコが一歩踏み出て、残るもう一体の喉元にナイフの鋒を振り上げて突き立て、一気に再度振り上げて刎ねとばす。
 どす黒い血飛沫が上がりそれが顔と身体を汚して行く、それを受け止めながら、タカコと敦賀はお互いをしっかりと見詰め合っていた。
 力強く獰猛な眼差しと笑み、タカコから向けられるそれに敦賀の背筋を再び電流の様な何かが走り抜け、一気に肌を粟立たせ、次の瞬間には逆に身体が熱くなった。
 こんな彼女は今迄に見た事が無かった、知らなかったから違和感を覚え嫌だと思いもしたが、知ってしまえば何の事は無い、自分はこんな彼女も、否、こんな彼女を欲しているのだと頭ではなく身体で理解した。
 欲しいものはタカコ、欲しい場所は彼女の隣。こんなタカコを誰よりも近くで見て感じて、そして、何か有れば守ってやりたい、それが自分の望みなのだと思い知る。
 多くの仲間を失い、そして今殺したのは嘗て仲間だった存在。そんな残酷な戦いの中に身を置きながら、それでも敦賀は自らの中に力強く育ち始めた想いを否定する事は無く、彼もまた無意識にタカコと同じ笑みを薄らと浮かべていた。
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