大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第117章『対戦車砲』

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第117章『対戦車砲』

「おい馬鹿!目ぇ開けろ!!」
「うるせぇよ……力仕事して疲れたから休んでるだけだ、こんなもん軽傷じゃねぇか」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!とにかく傷口見せてみろ!服脱げ!!」
「だから!そういう誤解を招く様な事を言うんじゃねぇ!」
「何が誤解だ!意味不明な事喚いてんじゃねぇ、とっとと脱げ!」
「そういうのが誤解招くっつってんだろうが!」
「……あのよ、タカコ、必死になってるとこ悪いけど、お前と先任の仲、気付いてる奴多いぜ?」
「ほら見ろ!お前がそういう事言うからこいつ等が……ぱーどぅん?」
 相変わらず空気を読まずに服を脱げと言い放つ敦賀、他人の目も有るのに、いい加減不足しまくりの言葉をどうにかしろと彼の腕の中から起き上がり怒鳴りつけるタカコ。しかしその言葉と動きは言い難そうに口を開いた海兵の言葉で物の見事に停止する。
「ぱー丼?何だそれ」
「……今、私とこの木偶の坊がそういう仲になっていると誤解している人間が相当数いると聞こえた気がしたけど?」
「誤解じゃねぇじゃん……ここ、今も痕付いてんぞ?」
 海兵が呆れ顔でそう言って自分の項を指し示して見せ、タカコは思わずそこを掌で覆う。
「後さ……すっげぇ言い難いんだけど、俺の部屋ってお前の真下なワケよ……その、ギシギシっつー振動がさ……な?」
「……俺、用事が有って先任の部屋に行った時に……声、聞こえた」
 どちらも彼等に責任は無い、寧ろどちらかと言えば被害者と言うべきだろう状況に食ってかかる事も出来ず、タカコは動きを止めたまま顔を真っ赤にして黙り込む。代わりに動いたのは敦賀、こちらは自分のやった事等棚に上げて武蔵を構え、
「……てめぇ等……活骸に食われるか俺に叩っ斬られるか選ばせてやる」
 地を這う様な低い声でそう言って荷台へと立ち上がった。
「ちょ!俺等悪くないでしょ先任!」
「そうですよ!どっちかっつーと先任が悪いですよねこれ!」
「最先任が率先して風紀乱して俺等に八つ当たりとか、マジで止めて下さいよ!」
「うるせぇ!」
「おめぇ等この状況で何馬鹿やってんだ!先任も子供みてぇな真似しねぇで下さいよ!!」
 緊迫しきった状況の筈なのに何とも下らない騒ぎ、運転席からも窘める声が飛んで来るが敦賀は収まらず、どうしてくれようかと武蔵を手にして二人の海兵へと躙り寄る。
「言ってません!俺は他の奴には言ってませんから落ち着いて!」
「俺も言ってませんよ!先任、落ち着いて!!」
「うるせぇ!!」
 そろそろ誰かが止めないと本当に死人がでるのでは、そんな状況の中、空気を一変させたのはタカコの怒号だった。
「うるせぇぇぇ!!」
 荷台の奥、荷物の方にいた筈だがと動きを止めた三人がそちらを見遣れば、荷物の中から金属の筒を取り出したタカコがそれを肩に担ぎ、その筒先を三人へと向けている姿がそこに在った。
「……タカコちゃん?一つ聞いて良いかな?……それ……何?」
「個人携行用の対戦車砲……人間相手にゃ明らかに威力が大き過ぎるが……この状況だ、まぁ構わねぇやなぁ?」
 そう言ったタカコは次の瞬間には何の躊躇も無く引き金を引き、その瞬間三人は頭を抱えて荷台の床へと身を投げる。聞いた事の無い音と振動が鼓膜と身体を揺らす、この至近距離でとは自分もどうなるか分かっているのかと、敦賀はそんな事を考えたが、爆発音が聞こえたのは遥か後方、そちらから飛んで来た土塊と爆風に身体を起こしてみれば、視界へと飛び込んで来たのは、活骸の群れの真ん中に撃ち込まれた砲弾が周囲を吹き飛ばし地面に大きな穴を開けた様相だった。
「うっし、二年も放置してたけどしっかり動作するな……女子に対してあんな話聞かせるからだ、ちったぁビビったろ?」
 そう言って後方へと歩いて来て状況を確かめながらそう言って笑うタカコ、事の次第が飲み込めた三人は脱力し、次の瞬間には夫々がタカコに食って掛かった。タカコは笑いながら担いでいた鉄筒を地面へと打ち捨てて荷台の床へと腰を下ろす。
「てめぇ、何捨ててんだ、武器は幾つ有っても足りねぇ状況だってのに」
「ああ、あれは使い捨てだ。製造時に装填された弾使ったらもう後は使えない、捨てるだけだ」
「はっ……、そりゃ贅沢なこったな」
「使い捨てじゃない奴も有る、そっちは今みたいに後ろに仲間がいる時には使えないし、こんな半閉鎖空間でブッ放したらとんでもない事になるがな」
 にこやかにそう言って背後の荷物を顎で示してみせるタカコ、敦賀はそんな彼女の様子を見つめながら、彼女が何とも生き生きとした面持ちになり始めているのに気が付いた。普段の悪戯っぽい面持ちではない、それよりももっとずっと力強く、そして興奮と冷静を併せ持つ様な、そんな不思議な佇まい。
 きっともう直ぐまた新たなタカコの一面を見る事になるだろう、新たな、と言うよりは、本来の彼女を。自分が知らないタカコの一面がまだまだ有る、今はもうその事に不快感は覚えない、寧ろ早く見てみたい、楽しみだとさえ思えてくる。
「楽しそうだな、馬鹿女」
「ああ、楽しいね。ここからはワンマンアーミー、トラップマスターの本領発揮だ」
「何だそりゃ、意味が分からんがお前の渾名か何かか」
「二つ名ってやつだ……まぁ見てな」
 頭をくしゃりと撫でながら話しかければ力強い笑が向けられて、敦賀はそれに目を細め、
「……戻るぞ」
 と、それだけ言って追い縋る活骸の群れへと視線を向けた。
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