大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第118章『反撃』

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第118章『反撃』

「司令!最後の一台戻って来ました!」
「お、皆無事に戻って来た……みてぇだな。しかし、さっきの爆発音は何だったんだ?」
 敷地内の活骸を出来るだけ倉庫から遠ざける為に走り続けている車列、その一台の助手席に座って状況を見ていた高根の許に、待ち侘びていた報告が飛び込んで来る。全員無事に戻って来たかと身を乗り出して見てみれば、運転手が親指と人差し指で輪を作って窓から出して掲げて見せるのを認め、それに全員の生還と持ち出しの成功を知り小さく安堵の息を吐いた。
「よし、ちょっくら今後の打合せして来るわ。あれの後ろに横向きにつけてくれ、乗り移る」
「了解です、お気を付けて」
 活骸は直ぐに来られる距離にはいないが用心に越した事は無い、意図を察したのか停止したトラックの真後ろにつけ、助手席の扉を開けて直接荷台へと飛び移れば、そこには腕と肩から血を流しているタカコが戦闘服とシャツを脱ぎ、敦賀から手当てを受けている姿が有った。
「おいおい、大丈夫か、食いつかれたか」
「ああ、油断したよ……いたた……ま、武器は使えそうなものは全て持ち出したから良しとしてくれや」
 トラックが再び動き出した中、真っ赤な血を滴らせる傷口が痛々しいなと思いつつ様子を見て、それから奥へと積み上げられた武器の箱へと視線を移す。
「随分大量に持ち出したな……今後の作戦案は?」
「ああ、先ずは中隊長小隊長級を十人位集めてくれ、各武器の使用方法を説明する。その彼等を頭にして分隊を編成して、更にその下へ説明してもらう形を採るのが一番手っ取り早いだろう。私は私でやらにゃならん事も有るんでな」
「やらにゃならん事?何するつもりだ?」
「それは追々、その時には敦賀を借りるぞ」
「まぁ……そりゃ構わねぇけどよ、概要だけでも聞かせてくれや」
「営舎の中庭、そこに纏めて誘い込んで一気に叩く。挟撃は大部隊を叩く基本戦術だ」
「……成る程、面白ぇじゃねぇか」
 海兵隊の営舎は二棟で構成され、その各階の両端が渡り廊下で繋がれた構造になっている。中庭の広さは三十m×百m程、それだけの広さが有れば残っている活骸全てを誘い込む事は充分に可能だろう。そうなると自分達は恐らく二階かそれ以上の高さの両側から中庭の活骸に向けて集中砲火を浴びせるという事だろう。人間相手の経験の長いタカコらしい発想だと小さく笑い、やはりこんな場ではえらく頼り甲斐の有る兵士であり指揮官だと内心感心した。
 やがてタカコの要請により中隊長や小隊長級の海兵が集められ、夫々の武器の使い方の指導を受け、夫々に担当の武器が割り振られる。そしてどの武器を持った小隊がどの辺りに位置取りをするか迄話を詰め、装備の積み替えを行った後、敦賀とタカコは一台のトラックに乗り一気に車列を離れ始めた。
「頼んだぞ!」
「任せな!行動開始は信号弾で合図を送る!」
 助手席から顔を覗かせたタカコがそう叫び、手を振って遠ざかって行く様子を見詰めながら、高根はポケットから煙草を取り出して火を点けた。
 掃討作戦の詰めの段階に入った、ここ迄来ればもう後は勢いに任せて突き進むだけ、何が有っても後戻りは出来ない。
 こんな戦い方は自分達海兵隊は全くの未経験、経験が豊富だというタカコを信じて彼女に従うしか無い。生き残った者の命全てをたった一人の外国人に託す事になるとは何とも情け無い気もするが、それでも事態を打開する方策はこれしか無いだろう。
 それにしても、と、作戦を説明していたタカコが随分と生き生きとして楽しそうだった事を思い出す。まるで水を得た魚と言うか何と言うか、本来の自分を取り戻した様なそんな気迫に満ち溢れていた。本国ワシントンで部下を率いて戦っていた彼女はどんな風だったのか何と無く分かる様で、もし自分の想像の通りだとするなら、きっと部下はとても優秀な人間が揃っていて、それでもあの上官では相当に苦労しただろうなと笑ってしまう。
 きっと自分達は彼女の部下よりも個々の技量では圧倒的に劣るだろう、その自分達を彼女が何処迄きっちりと把握し使いこなせるのか、お手並み拝見といくかと思いながら、高根は肺腑に吸い込んだ煙を空へと向けて吐き出した。

「それで?次はどうするんだ」
「一先ず追い掛けて来る活骸を反対方向に引き付けて一気に離脱、そのまま営舎に向かってくれ。着いたら二手に分かれて営舎内の掃討、それが済んだら地雷の敷設だ」
「……二手に分かれるのか」
「二人一緒にいても意味が無いし時間が掛かり過ぎる。何か有ったら絶対にお前を呼ぶから信用しろ」
「……絶対だぞ」
「ああ、約束するよ」
 トラックの運転席と助手席での会話、特に弾む様な事も無く、手持ち無沙汰になったのかタカコはポケットから煙草を取り出して火を点ける。
「俺にも一本寄越せ」
「運転中は――」
「寄越せ」
「しょうがねぇなぁ……ほら」
 いつもの事ながら本当に横暴だな、そんな風に思いつつタカコは自分が咥えていた煙草を敦賀の唇に突っ込み、自分は自分で新しいものを取り出してまた火を点けた。
「勝算は?」
「負ける喧嘩はしない主義でな……勝てる喧嘩しかする気は無ぇよ。だから、買った喧嘩は必ず勝つ、それがどれだけ不利に見えたとしてもな」
「……そうか」
 それっきり敦賀は何かを言う事は無く、活骸を見つける度に速度を落としてそちらへと寄り誘き寄せ、再び進むという事を繰り返した。
「敦賀、一つ言っておくぞ」
 そんな中突然タカコが突然名を呼ぶ、敦賀が何だと短く答えれば、タカコを煙草を噴かしながら前を向いたまま静かに、静かに言葉を続けた。
「お前は私と一緒にいて何か有れば守ってやりたい、そう言ったな。一緒にいるってのはこんな風に物理的に距離が近い事だけじゃない。この作戦の下準備の相棒に私はお前を選んだ、例え別々の場所で動く事になったとしても、これも『一緒にいる』って事だ。信用してなけりゃ、頼りにしてなけりゃ相棒になんか選ばんさ……旦那にも言った事だけどな……私を信じろ」
 その言葉に敦賀がタカコの方を見てみれば、煙を吐き出しながらにやりと笑う彼女と目が合って、敦賀もまた小さく口角を上げると再び視線を前に戻す。
「……行くか」
「ああ、行こうぜ、そして帰って来よう。なぁ、相棒?」
 そして、トラックは鋭角に向きを変え、営舎へと向けて走り出した。
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