大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第139章『因縁』

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第139章『因縁』

「……で、だ、話が上手く纏まったところでてめぇ等二人に話が有る」
 にこやかに、しかし怒気を孕んだ声音でそう言ったタカコがゆっくりとキムとカタギリの方に向き直る。
「やっぱり命令無視かてめーら!あれ程来るなと言っておいただろうが!」
「そうは言いましてもねぇ!ボスを見捨てて本国に戻ったところで俺等他の連中に殺されますよ!」
「そうですよ!それだったら命令無視で軍法会議覚悟で突っ込んであんたを守った方がまだ楽な死に方が出来ます!あと早く拘束代わって下さい!下半身だけで押さえ込むのも限界です!」
「てめーら私の事じゃなくて自分の死に方が大事か!」
「当たり前じゃないですか!」
「当然です!早く交代して!あと手錠外して下さい!」
「何なんだその忠誠心の無さは!」
「そんなもん我が身を振り返って下さい!」
「真っ当に忠誠誓って欲しかったらそれなりの振る舞いをして下さい!つか、いい加減交代しろって言ってんだろ馬鹿上官!」
「てめぇ等人の頭上で何をわけの分かんねぇ事を――」
「部外者は黙ってろ!」
 突如始まったタカコ達三人の言い争い、唖然とする大和勢三人を他所にぎゃんぎゃと騒ぎ、それに嘴を突っ込もうとした北見には、即座にワシントン勢三人の靴底と頭突きが入れられた。
「……あの?タカコちゃん?そっちのお話はそろそろ纏めてくんねぇかな?」
 益々激化する言い争い、こいつ等は本当に指揮官とその部下なのかと半ば呆れた面持ちで高根がそう言えば、それで我に返ったのか若干ばつの悪そうな面持ちでタカコがキムに向かって
「ケインと代わってやれ、先ずは手錠を」
 と、そう言って高根の方へ歩み寄って来た。
「……お前、部下に尊敬されてないね」
「……言うな……で?」
「ああ、瓶は北見が?」
「ああ、恐らくは私がこの二人から報告を受けているのを嗅ぎつけたんだろう、それで活骸大発生の原因をケインに押し付け、その序でに私も始末しようとした、そんなところじゃないか?」
「成程ね」
「ちょっと待て、昨年の本土侵攻の時、確かその男がてめぇが陸軍に連れ去られたのを真吾に報告したんじゃなかったか?てめぇを殺すつもりだったのなら、何であの時は態々報告を上げる様な真似をした?そのまま放置しときゃ――」
 死んでいた、それは流石に言い淀む敦賀、黒川も彼女がどんな辱めを受けたのかを思い出したのか俯いて視線を逸らし、それでもタカコはそれに構う事無く言葉を返す。
「混乱に乗じて私を連れ去れ、それがあの時の命令だったんだろう。だから陸軍の協力者を通じて下っ端を動かし、私を拉致させた……ところが下っ端らしい働きで要らん事を思いつき、私を拷問なんぞしようとしちまったから見失う羽目に。自分一人では探しきれない、そう考えたから真吾に話を持って行ったってところだろうよ」
「協力者ってのは?」
「博多駐屯地の佐竹前司令、恐らくは彼だ。タツさん、あんたに対する敵愾心に付け込まれたんだと思うよ」
「……おい、その連れ去りをそいつに命令したのは……誰なんだ?」
 話を聞いていれば当然行き着く疑問を敦賀が口にする、それに同意し答えを求める高根と黒川の視線、タカコはそれを黙って受け止め、カタギリに代わりキムが押さえ込んだ北見の前へと歩み寄った。
「……大方の見当はついてるが……それはこいつ本人の口から歌ってもらおうじゃないか……尋問の主導権、うちが貰うが構わんな?」
「俺達が同席するのであれば、任せよう」
「構わん、少々どぎつい事になるがその点だけ覚悟しておいてくれ」
 押さえ込まれて床に伏せる北見、その顎を爪先で持ち上げ、叩き付けられる鋭い視線、それをタカコは薄く笑って軽く往なす。
「何処の誰だか知らんが……私と敵対する羽目になったのが運の尽きだったな……そうだ、知ってるか?我々が一年の大半を過ごしていた南方戦線、その相手ってのがなかなかにエグくてなぁ、ワシントン兵を捕らえたらどうするか、知ってるか?ドラム缶に手足でしがみつかせてな……そこから先どうするか、お前に身を以て教えてやるよ」
 不意に冷たくなるタカコの声音、それでも何故かそれはとても楽しそうで、何がどうなっている、そう思い歩み寄って状況を確かめようとした敦賀を遮ったのはカタギリの腕。
「――下がれ」
 何の抑揚も感じさせない言葉と冷たく鋭い眼差し、
「どういうつもりだ」
 そう思わず内心を口に出せば、
「分を弁えろ、そう言ってるんだ上級曹長」
 と、階級の部分をやけに強調してそう吐き捨てられた。
「……何だと……?」
 その言葉に反射的に不快感を抱き更に一歩前へと出れば、今度は高根に
「落ち着け敦賀、相手は他国の士官だぞ、てめぇの切り札は通用しねぇよ」
 そう言って押し止められる。それに舌打ちをして数歩下がればカタギリも下がり、敦賀はその彼の向こうで北見を見下ろして立つ、タカコの後ろ姿を舌打ちをしつつ見詰めていた。
 様子がおかしい、今迄に見た事の無い、けれど指揮官として振舞っている風でもないタカコの姿、北見との間に、否、北見の背後にいるであろう誰かとの間に並々ならぬ因縁が有りそうだと高根と黒川を見れば、二人共同意見なのか鋭い眼差しで頷き肯定の意を返して来る。
 緊迫した場面が終わったと思ったらどうやらまた一波乱有る様だ、なかなか剣呑な状況からは脱しないなと、大きく溜息を吐いた。
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