大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第155章『破壊工作』

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第155章『破壊工作』

 カタギリの後を追い高根の執務室を出て営舎の方へと向かって歩き出した三人、それを、自らの執務室から出て来た敦賀が見つけ声を掛けて来る。
「おい、かたぎ……ケインがえらい形相で馬鹿女が何処にいるか聞いて来たんだが、何か有ったのか」
「あー、希硫酸で戦闘服の尻部分焼き切られてケツ丸出しにされたらしいぞ?」
「……また洒落になんねぇ悪戯やりやがったな、あの馬鹿」
「お前もやられたんだって?」
「ああ、まぁケインに比べれば俺のはまだイラっとする程度で済んでるが……しかし、あの形相もそうだが殺すとか言ってたぞ、大丈夫なのか」
「まぁ殴り合い位にはなるかも知れないから、収拾つかなくなれば止めに入ろうかと……君も来るか?」
「何やってんだ、お前の上官と同僚は」
「ああ、その点については申し訳無い」
 敦賀もそれなりに心配ではあるし興味も有るのだろう、合流し四人で外に出て営舎の方向へと歩き出せば、先日完成した仮設営舎の窓を突き破って出て来て旧営舎の方へと向かって全力疾走をするタカコ、それに続いて出て来たカタギリがタカコを追走する様子が前方に見て取れた。
「……窓突き破って出て来たな、今」
「……ああ、俺も見た」
「……窓硝子、発注しておけば良いのかあれは」
「……うちのボスが本当に申し訳無い」
 もう今夜からは仮設営舎での生活が始まると言うのに窓を割るとは、あの位置は確かタカコの自室、今夜はどうする気だと思いつつ敦賀は軽く頭を掻いた。
 少し前に『タカユキ』という名前に纏わる彼女の過去を聞いて以来、心理的な距離がぐっと縮まった事には敦賀も気付いている。自分が歩み寄ったのではなく彼女の方から距離を縮めてくれたという事実は喜ばしい事ではあるのだが、それと同時に顕わになって来たタカコの強烈な一面が、この一連の悪戯だ。最初は靴下を片方だけ隠される等のまだ可愛げの有るものだったが、内容は日を追う毎に強烈さを増し、幾ら怒ろうが説教しようが一向に止める気配は無い。カタギリやキムは耐性が有るのかタカコも容赦が無く、二人がされている事に比べれば自分や黒川はまだましではあるのだろうが、彼女にこんな一面が有るとは思ってもみなかった。
 旧営舎に飛び込んで行ったタカコ、その彼女を追って自らも飛び込んで行ったカタギリ、果てさて、この争いにはどんな決着がつくのか、そんな事を考えていた敦賀に向かってキムが言葉を投げて来る。
「敦賀、一つ聞きたいんだが、輸送機から回収した武器や弾薬はまだ残っているか?」
「……何でそんな事を今聞く」
「いや……まだ残っているのなら、今直ぐにその数を確かめた方が良い、旧営舎はもう取り壊しを待つだけなんだろう?」
「何が言いたいのかよく分から――」
 キムの言葉の真意を問い質そう、敦賀がそう思いつつ口を開いた瞬間、突然響き渡った爆音と振動、反射的に身体を屈めつつ音のした方、旧営舎を見れば、煙を吐き出す旧営舎の窓が視界へと飛び込んで来た。
「何が有った!」
「中に人間はいねぇのか!?」
「馬鹿女とケインが――」
「――心配無い、あれを仕掛けたのはボスだ。御自分の仕掛けたトラップに引っ掛かる馬鹿じゃないし無関係な人間がいるなら起動もしない、中にいるのはボスとケインだけだ」
「何を――」
「君達が回収していた武器と弾薬、それを持ち出してあの営舎を丸ごと罠に作り変えたんだよ、ボスは。トラップマスター、要するに罠の達人って事だが、あの方はああいうものを仕掛ける事に関しては天才だ、俺達がされていた悪戯も実に上手く仕掛けられていただろう?」
 『そういう勘を鈍らせない為の意味も有るから、悪戯にはあまり目くじらは立てないんだ』と言葉を続けて力無く笑うキム、敦賀はそんな様子を見て再度営舎の方へと視線を戻す。
 次々に上がる爆音、その度に割れ残っていた窓硝子が砕け散り日の光を受けてきらきらと輝くのがはっきりと分かる。カタギリもあの程度でどうにかなる様な人間ではないのか着実に追走を続け、爆音と破片が飛び散る位置が少しずつ移動している様子がここからでも窺えた。
 やがて不気味な地響きを立て始める営舎一号棟、支えになっている構造の要所要所を狙い済ましての爆破も同時に行っているのだろう、実に的確に爆薬を設置している事が分かる。
「おいおい……大分崩れて来たぞ、あの二人まだ出て来ねぇのか?」
「つーかよ……これ、上にどう報告すれば良いの俺……また京都に呼び出されて怒られるの勘弁なんだけど……おい!危ないから近付くなよ!」
 唖然としつつ状況を見守り言葉を交わす黒川と高根、その二人が
「あ、出て来ましたね、二人共」
 というキムの言葉に彼が指し示す方向へと視線を向ければ、一号棟を飛び出し二号棟へと駆け込むタカコとそれを追うカタギリの姿が小さく見える。
 そして二人が中へと消えてからやや有って一号棟と同じ様に二号棟も内部からの爆破が始まり、一号棟が真下へと真っ直ぐに崩れ落ちる直前、二人は二号棟から飛び出して来て団子になって地面をごろごろと転がり始めた。
「二人共いい加減にしろ!」
 轟音と粉塵を上げて崩れ落ちる二つの建物、状況の異常さに素早く退避した海兵達が遠巻きに様子を窺う中、キムだけが取っ組み合いを続ける二人へと歩み寄り呆れた様に言いつつ身体に蹴りを入れ脳天へと拳を落とす。その光景を、黒川と高根、そして敦賀の三人は唖然呆然としつつ只眺めるしか出来なかった。
 戦闘能力は飛び抜けて高いと、それは三人に共通したタカコに対しての評価だったが、初めて目の当たりにした罠や爆薬を扱う能力、こちらの方もまた想像を遥かに上回ると言って良いだろう。否、想像すらしていなかった程の能力の高さだ。
「……おいおい……あいつ一人だけでも敵に回したら、それだけでもう大損害確定じゃねぇか……対人戦闘の技術も知識も、ウチには無ぇぞ……」
「馬鹿言え、海兵隊だけじゃねぇよ……陸軍だってあんなのの相手する技術の蓄積は無ぇぞ……」
「指揮官としてだけじゃなく兵士としてもとんでもねぇな……どうすんだ、あれ」
 正に『ドン引き』という言葉がぴったりの大和勢三人は、それ以上紡ぐ言葉も見つからず、崩れ落ちる営舎を背景にぎゃあぎゃあと騒ぐワシントン勢を呆然と見詰めていた。
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