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第161章『親子』
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第161章『親子』
「……つーかーれーたー……」
演習場での披露目も無事に終わり、混成部隊は二条城跡へと戻り喫煙室で和やかな一時を過ごしていた。感触は全体的に良かったと言って良いだろう、危惧していた方向へと話が流れる事も無く、守旧保守が多い統幕の面々らしからぬ質問や提案等も引き出す事が出来、口約束ではあるものの予算確保の言葉も引き出す事が出来た。
「お疲れさん、今日の立役者だな、晩は好きなもん食って良いぞ、敦賀の奢りだ」
「マジで!?京都って何が美味しいの?」
「ちょっと待てや総司令様、何でてめぇと龍興がいるのに俺が出すんだよ」
「いや、俺等ついでで片付けておきたい案件をお互いに色々と持って来ててな、この後は別行動だ。俺等は明後日の朝にこっちを出るが、お前等はこの後は街にでも出て美味いもん食って宇治駐屯地に一泊して、それで明日出発しろ」
「三軒屋にはまた世話になれる様に話は通してあるから、途中そこで一泊して明後日の夕方か夜には博多に戻れるだろ」
緊張が一気に解けたのか長椅子に寝転がり脱力するタカコ、『敦賀の奢りで好きなものを食え』という高根の言葉にがばりと起き上がれば、高根の言葉に険を深くした敦賀が高根に向かって文句を言う横顔が目に入り、ふと思い出した様に口を開く。
「そう言えばさ、統幕副長だと思うんだけど」
その言葉にワシントン勢以外の全員が一瞬にして言葉を失い、妙な空気が漂う。当然タカコも直ぐにそれに気が付き、何か拙い事を言ったかと思い口を閉じれば、彼女に言葉を返して来たのは高根だった。
「うん?副長がどうしたって?」
「いや、私から見て須藤大将の左隣にいた人、陸軍の中将。あの人さ、見た時に思ったんだけど、敦賀に凄い似てるよね、そっくり。背も高かったし、敦賀が歳とったらこういう感じになるんだろうなって勢いでそっくり……だったねって……思った、んだけど……」
タカコが言葉を重ねる度に張り詰める空気、その主な発生源は真横にいた敦賀、他の面々は『あーあ……』や『あっちゃあ……』とでも言いたい様な面持ちで天井を仰いだり掌で目を覆ったり、挙句には会話の輪から逃げ出そうとする者迄出る始末。
何か非常に宜しく無い部分に触れてしまったらしい、これは所謂『地雷を踏み抜いた』という奴かとタカコは嫌な汗を掻く。しかし、中将に似ていると言うのがそんなに拙かったのか、理由は何なのかと考えたところでと或る可能性に行き着き、それが明確な形として脳内に展開される直前、突然喫煙室の扉が開き人が入って来た。
「……!」
入室して来たのは件の人物、統幕副長である陸軍中将。弾かれる様にして立ち上がり他に倣って挙手敬礼をすれば、相手はそれを視線で軽くなぞった後、
「楽にしてくれて構わない、仕事の話をしに来たわけじゃない」
と、静かな口調でそう告げる。
仕事の話でないと言うのなら私用なのか、この中の誰かと親しくでもしているのかと敬礼を解いて周囲を見回してみれば、真横にいる敦賀が活骸ですら泣いて許しを請いそうな目付きで中将を睨みつけているのが目に入る。どうかしたのか、そう問い掛けようとしたタカコの言葉は、中将が放った一言に掻き消された。
「高根大佐、愚息が迷惑を掛けてはいないか?」
「とんでもない、我が海兵隊には無くてはならない人物ですよ。大和海兵隊史上最強の称号に相応しい働き振りです、いつも助けられてます」
『愚息』、そして『大和海兵隊史上最強』、その言葉に、つい先程自分の頭の中に浮かんだ事が正鵠を射ていた事をタカコはここで漸く理解する。道理で似ているわけだ、親子ならこれだけそっくりなのも頷ける。何故父親と同じ陸軍の道に進まなかったのかは知らないが、敦賀の性格を考えれば父親との折り合いがあまり良くなかったのかも知れないなと窺えた。
以前感じた事の有る敦賀の印象、海兵隊に入隊する迄の事は京都の出身だという事以外何も知らなかったが、それなりの教育を受ける機会を持ち得たという事は窺えたし、職務に対して非常に真摯で禁欲的だと彼に対して持っていた印象も、父親が陸軍の高級士官ともなれば幼少期からの教育によるものなのだろう。
今迄に感じていた事の断片、その一つ一つが目の前の男によって繋ぎ合わされ一つの形を作っていくのをタカコは感じながら、高根や黒川と笑顔を浮かべて言葉を交わす様子を黙したまま見詰めていた。
と、突然中将の顔がタカコへと、否、タカコの真横の敦賀の方へと向けられ、笑みの消えた面持ちと鋭い眼差しで敦賀を真っ直ぐに見据え、そして、静かに口が開かれる。
「……その歳になっても未だ家族も無しか。職務に忠実なのは結構だが人並みらしい事もしてみたらどうだ……幸恵も、母さんも心配してる、いつ発つのかは知らんが京都にいる間に一度位顔を見せてやれ」
その言葉と二人の佇まいに張り詰める室内の空気、険を更に深くした敦賀が何か言い掛けようとすれば、中将はそれを待つ事無く踵を返し、静かに部屋を出て行った。
「……お父上だったのね……敦賀の……そりゃ似てるわな……」
「敦賀貴一郎陸軍中将、次の統幕長と目されてる陸軍の大物だよ」
「タツさんの上官?」
「おお、俺の上の上のそのまた上位のな」
それなりの年月軍に在籍し敦賀貴之という人物を知っていれば、自然とその父親に関する話も知る事になるのだろう、高根と敦賀以外の海兵隊員も最古参と言って良い程に経験豊富な人材で、やはりこの事は知っていたのか、
「タカコよぉ、勘弁してくれよ、先任の目の前でいきなり副長がとか言い出すんだもんなぁ」
「マジで心臓と胃に悪いから止めて、禁句なんだよそれ」
と、こそこそとタカコに耳打ちをして、これ以上この話題を持ち出すなと釘を刺して来る。
今迄の和やかな空気は何処かへと消え失せ、高根と黒川が仕事を片付けるかと言って身支度を整え始める中、敦賀は苛立ちを隠しもせずに
「おい、俺等も移動するぞ、先ずは宇治駐屯地に挨拶だ」
そう吐き捨てて歩き出す。
「敦賀、敦賀」
それを引き止めたのは、彼の制服の裾を握るタカコの手だった。
「……つーかーれーたー……」
演習場での披露目も無事に終わり、混成部隊は二条城跡へと戻り喫煙室で和やかな一時を過ごしていた。感触は全体的に良かったと言って良いだろう、危惧していた方向へと話が流れる事も無く、守旧保守が多い統幕の面々らしからぬ質問や提案等も引き出す事が出来、口約束ではあるものの予算確保の言葉も引き出す事が出来た。
「お疲れさん、今日の立役者だな、晩は好きなもん食って良いぞ、敦賀の奢りだ」
「マジで!?京都って何が美味しいの?」
「ちょっと待てや総司令様、何でてめぇと龍興がいるのに俺が出すんだよ」
「いや、俺等ついでで片付けておきたい案件をお互いに色々と持って来ててな、この後は別行動だ。俺等は明後日の朝にこっちを出るが、お前等はこの後は街にでも出て美味いもん食って宇治駐屯地に一泊して、それで明日出発しろ」
「三軒屋にはまた世話になれる様に話は通してあるから、途中そこで一泊して明後日の夕方か夜には博多に戻れるだろ」
緊張が一気に解けたのか長椅子に寝転がり脱力するタカコ、『敦賀の奢りで好きなものを食え』という高根の言葉にがばりと起き上がれば、高根の言葉に険を深くした敦賀が高根に向かって文句を言う横顔が目に入り、ふと思い出した様に口を開く。
「そう言えばさ、統幕副長だと思うんだけど」
その言葉にワシントン勢以外の全員が一瞬にして言葉を失い、妙な空気が漂う。当然タカコも直ぐにそれに気が付き、何か拙い事を言ったかと思い口を閉じれば、彼女に言葉を返して来たのは高根だった。
「うん?副長がどうしたって?」
「いや、私から見て須藤大将の左隣にいた人、陸軍の中将。あの人さ、見た時に思ったんだけど、敦賀に凄い似てるよね、そっくり。背も高かったし、敦賀が歳とったらこういう感じになるんだろうなって勢いでそっくり……だったねって……思った、んだけど……」
タカコが言葉を重ねる度に張り詰める空気、その主な発生源は真横にいた敦賀、他の面々は『あーあ……』や『あっちゃあ……』とでも言いたい様な面持ちで天井を仰いだり掌で目を覆ったり、挙句には会話の輪から逃げ出そうとする者迄出る始末。
何か非常に宜しく無い部分に触れてしまったらしい、これは所謂『地雷を踏み抜いた』という奴かとタカコは嫌な汗を掻く。しかし、中将に似ていると言うのがそんなに拙かったのか、理由は何なのかと考えたところでと或る可能性に行き着き、それが明確な形として脳内に展開される直前、突然喫煙室の扉が開き人が入って来た。
「……!」
入室して来たのは件の人物、統幕副長である陸軍中将。弾かれる様にして立ち上がり他に倣って挙手敬礼をすれば、相手はそれを視線で軽くなぞった後、
「楽にしてくれて構わない、仕事の話をしに来たわけじゃない」
と、静かな口調でそう告げる。
仕事の話でないと言うのなら私用なのか、この中の誰かと親しくでもしているのかと敬礼を解いて周囲を見回してみれば、真横にいる敦賀が活骸ですら泣いて許しを請いそうな目付きで中将を睨みつけているのが目に入る。どうかしたのか、そう問い掛けようとしたタカコの言葉は、中将が放った一言に掻き消された。
「高根大佐、愚息が迷惑を掛けてはいないか?」
「とんでもない、我が海兵隊には無くてはならない人物ですよ。大和海兵隊史上最強の称号に相応しい働き振りです、いつも助けられてます」
『愚息』、そして『大和海兵隊史上最強』、その言葉に、つい先程自分の頭の中に浮かんだ事が正鵠を射ていた事をタカコはここで漸く理解する。道理で似ているわけだ、親子ならこれだけそっくりなのも頷ける。何故父親と同じ陸軍の道に進まなかったのかは知らないが、敦賀の性格を考えれば父親との折り合いがあまり良くなかったのかも知れないなと窺えた。
以前感じた事の有る敦賀の印象、海兵隊に入隊する迄の事は京都の出身だという事以外何も知らなかったが、それなりの教育を受ける機会を持ち得たという事は窺えたし、職務に対して非常に真摯で禁欲的だと彼に対して持っていた印象も、父親が陸軍の高級士官ともなれば幼少期からの教育によるものなのだろう。
今迄に感じていた事の断片、その一つ一つが目の前の男によって繋ぎ合わされ一つの形を作っていくのをタカコは感じながら、高根や黒川と笑顔を浮かべて言葉を交わす様子を黙したまま見詰めていた。
と、突然中将の顔がタカコへと、否、タカコの真横の敦賀の方へと向けられ、笑みの消えた面持ちと鋭い眼差しで敦賀を真っ直ぐに見据え、そして、静かに口が開かれる。
「……その歳になっても未だ家族も無しか。職務に忠実なのは結構だが人並みらしい事もしてみたらどうだ……幸恵も、母さんも心配してる、いつ発つのかは知らんが京都にいる間に一度位顔を見せてやれ」
その言葉と二人の佇まいに張り詰める室内の空気、険を更に深くした敦賀が何か言い掛けようとすれば、中将はそれを待つ事無く踵を返し、静かに部屋を出て行った。
「……お父上だったのね……敦賀の……そりゃ似てるわな……」
「敦賀貴一郎陸軍中将、次の統幕長と目されてる陸軍の大物だよ」
「タツさんの上官?」
「おお、俺の上の上のそのまた上位のな」
それなりの年月軍に在籍し敦賀貴之という人物を知っていれば、自然とその父親に関する話も知る事になるのだろう、高根と敦賀以外の海兵隊員も最古参と言って良い程に経験豊富な人材で、やはりこの事は知っていたのか、
「タカコよぉ、勘弁してくれよ、先任の目の前でいきなり副長がとか言い出すんだもんなぁ」
「マジで心臓と胃に悪いから止めて、禁句なんだよそれ」
と、こそこそとタカコに耳打ちをして、これ以上この話題を持ち出すなと釘を刺して来る。
今迄の和やかな空気は何処かへと消え失せ、高根と黒川が仕事を片付けるかと言って身支度を整え始める中、敦賀は苛立ちを隠しもせずに
「おい、俺等も移動するぞ、先ずは宇治駐屯地に挨拶だ」
そう吐き捨てて歩き出す。
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それを引き止めたのは、彼の制服の裾を握るタカコの手だった。
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