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第168章『名前』
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第168章『名前』
「……知って……たの、か……だったら何で、言わなかったんだ?怒ってないのか?」
「……お前が誰を見てようが、お前を手放す気は俺には無ぇからだ」
その言葉に揺れるタカコの眼差し、逃げ出そうとするかの様に身体を捩る様を見て、敦賀は浮かせていた上半身をゆっくりとタカコの身体に密着させ動きを封じ込め、額へと一つ口付けを落とす。
「……どれだけ時間が掛かっても良い、最終的にお前が俺自身を見る様になれば、それ迄俺に旦那を重ねてようが……どれだけ龍興に抱かれようが、必要な過程なんだろうと思ってる」
「そんなの……私にばっかり都合が良くて、お前は我慢するばっかりじゃないか」
「そうだな。それを悪いと思うんだったら、とっとと俺自身を見られるようになりやがれ」
「でも!そんなの――」
「てめぇの言い訳なんざこれ以上聞く気は無ぇよ、てめぇの都合に合わせてやってんだ、それ以外は俺の好きにさせてもらうからな?」
「なっ!そっ、んな、無茶苦茶な――」
「んなもん百も承知だ馬鹿。もう黙ってろ……いい加減限界なんだよ、俺も」
既に充分な硬度を持った自らの雄をタカコの太腿へと押し当てつつ彼女の顔を覗き込めば、そこに在ったのは涙でぐちゃぐちゃになり歪められた面持ち。いきなり立て続けに一方的に気持ちを吐露されて混乱しているのか、その様に背筋と腰周りがぞくりとするのを感じつつ、敦賀は細い首筋へと顔を埋めた。
「……タカコ」
耳朶に唇を寄せて、初めてその名前を紡いだのは、無意識だった。途端に強張る身体、それは強張ると同時に熱くなり、その意味するところを理解した敦賀は目を細め、腕の中の身体を乱しながら何度も名前を口にする。その度に熱を増し押し殺した声で喘ぎ乱れるタカコの姿に、意味するところを何と無しに理解しつつも、それでも名前を呼ぶ事は止めなかった。
きっと、タカコの亡夫もこうやって行為の間中名前を呼んでいたのだろう、今彼女はそれを思い出している。生涯の伴侶として腹心として選んだ程の相手だ、簡単に忘れられるわけが無い。
行為にも身体にも、亡夫を重ね合わせていて構わない、けれど、声だけは違うのだ、幾ら目を閉じて亡夫の姿を求めても、こうして彼女の名を呼び耳に注がれる声だけは彼ではない、敦賀自身のもの。今はまだ亡夫との記憶に固執しその中にいても、こうして違う声が名前を呼び続ければ、それはきっと凝り固まってしまっている状況に皹を入れる楔になる。
数度吐き出しそれよりも少し多い程に絶頂に押し上げてやり、やがて意識を飛ばしてしまったタカコの体内に最後に吐き出し、寝台に身を横たえつつ腕の中の身体を抱き締める。涙で濡れたままの顔、ひどく混乱させてしまった事を多少申し訳無いとは思いつつも、敦賀の内心は満たされていた。
一つ、本心を教えてくれた、その内容は少々手厳しいものではあるものの勘付いていた事、今更怒りもしないし悲しいとも思わない。本心を吐露してくれたという事実が嬉しい、今はそれだけで納得出来る。
無論タカコが言った事だけが自分の前に立ちはだかる問題なのではない、やがて迎える千日目、その先に待ち構えるのは侵攻と同盟、そのどちらが結論として出されるのかは未だ誰にも分からない。けれど、どちらが答えだったとしても正規軍の指揮官として彼女は当然帰国を望まれるだろう、それをどうやって思い止まらせるか、それも重要な問題だ。
物理的に拘束して閉じ込めてしまえば良いだけの話だが、出来ればタカコ自身にこの国に、自分の隣に留まる事を選択して欲しい、その為にはどうすれば良いのか、それは未だ敦賀にも分からなかった。
「……それでも、俺はお前を手放す気は無ぇからな?」
タカコが自分の気持ちを知りつつもそれに付け込んだ事をしているのは確かだが、それは自分も同じ事、責めるつもりは毛頭無い。亡夫を求めるあまりに彼女が自分を拒否出来ないであろう事を知っていて求め、抱き、名前を呼んで自分を少しずつ刻み付けていく。
それを外道だと思いはするものの止めるつもりは更々無い、外道結構、最終的に求めるものが手に入るのなら、誰から幾ら謗られ様と構わない。
久し振りに何度も吐き出して少し疲れた、皆が起き出す直前迄は眠ろうかと双眸を閉じれば、素早く忍び寄って来た睡魔が敦賀の意識を眠りへと引き摺り込んでいった。
「――るが、敦賀、もう夜明けだ、皆起きて来る」
どれだけ眠ったのか、自分を呼ぶタカコの声に意識を引き摺り上げられ、枕に埋めていた顔を上げてみれば自分を見下ろすタカコの顔が視界へと飛び込んで来る。そろそろ部屋に戻れと言うタカコも起きたばかりなのか一糸纏わぬ姿で、敦賀はその身体に両腕を伸ばし、引き寄せて一気に組み敷き首筋に顔を埋め、口付けて緩く吸い上げた。
「ちょ!だから、もう皆――」
「――タカコ」
名前を紡げば途端に強張る身体、直ぐに熱を帯び始める様子に目を細め、首筋に触れていた唇を今度は耳朶へと触れさせ、囁く様に彼女の名前を呼び続けた。
今は未だ誰を見ていても良い、最終的に自分を選ぶのであれば黒川に抱かれる事も見なかった事にしてやれる、そこ迄譲歩するのだ、絶対に逃がさない。
「……知って……たの、か……だったら何で、言わなかったんだ?怒ってないのか?」
「……お前が誰を見てようが、お前を手放す気は俺には無ぇからだ」
その言葉に揺れるタカコの眼差し、逃げ出そうとするかの様に身体を捩る様を見て、敦賀は浮かせていた上半身をゆっくりとタカコの身体に密着させ動きを封じ込め、額へと一つ口付けを落とす。
「……どれだけ時間が掛かっても良い、最終的にお前が俺自身を見る様になれば、それ迄俺に旦那を重ねてようが……どれだけ龍興に抱かれようが、必要な過程なんだろうと思ってる」
「そんなの……私にばっかり都合が良くて、お前は我慢するばっかりじゃないか」
「そうだな。それを悪いと思うんだったら、とっとと俺自身を見られるようになりやがれ」
「でも!そんなの――」
「てめぇの言い訳なんざこれ以上聞く気は無ぇよ、てめぇの都合に合わせてやってんだ、それ以外は俺の好きにさせてもらうからな?」
「なっ!そっ、んな、無茶苦茶な――」
「んなもん百も承知だ馬鹿。もう黙ってろ……いい加減限界なんだよ、俺も」
既に充分な硬度を持った自らの雄をタカコの太腿へと押し当てつつ彼女の顔を覗き込めば、そこに在ったのは涙でぐちゃぐちゃになり歪められた面持ち。いきなり立て続けに一方的に気持ちを吐露されて混乱しているのか、その様に背筋と腰周りがぞくりとするのを感じつつ、敦賀は細い首筋へと顔を埋めた。
「……タカコ」
耳朶に唇を寄せて、初めてその名前を紡いだのは、無意識だった。途端に強張る身体、それは強張ると同時に熱くなり、その意味するところを理解した敦賀は目を細め、腕の中の身体を乱しながら何度も名前を口にする。その度に熱を増し押し殺した声で喘ぎ乱れるタカコの姿に、意味するところを何と無しに理解しつつも、それでも名前を呼ぶ事は止めなかった。
きっと、タカコの亡夫もこうやって行為の間中名前を呼んでいたのだろう、今彼女はそれを思い出している。生涯の伴侶として腹心として選んだ程の相手だ、簡単に忘れられるわけが無い。
行為にも身体にも、亡夫を重ね合わせていて構わない、けれど、声だけは違うのだ、幾ら目を閉じて亡夫の姿を求めても、こうして彼女の名を呼び耳に注がれる声だけは彼ではない、敦賀自身のもの。今はまだ亡夫との記憶に固執しその中にいても、こうして違う声が名前を呼び続ければ、それはきっと凝り固まってしまっている状況に皹を入れる楔になる。
数度吐き出しそれよりも少し多い程に絶頂に押し上げてやり、やがて意識を飛ばしてしまったタカコの体内に最後に吐き出し、寝台に身を横たえつつ腕の中の身体を抱き締める。涙で濡れたままの顔、ひどく混乱させてしまった事を多少申し訳無いとは思いつつも、敦賀の内心は満たされていた。
一つ、本心を教えてくれた、その内容は少々手厳しいものではあるものの勘付いていた事、今更怒りもしないし悲しいとも思わない。本心を吐露してくれたという事実が嬉しい、今はそれだけで納得出来る。
無論タカコが言った事だけが自分の前に立ちはだかる問題なのではない、やがて迎える千日目、その先に待ち構えるのは侵攻と同盟、そのどちらが結論として出されるのかは未だ誰にも分からない。けれど、どちらが答えだったとしても正規軍の指揮官として彼女は当然帰国を望まれるだろう、それをどうやって思い止まらせるか、それも重要な問題だ。
物理的に拘束して閉じ込めてしまえば良いだけの話だが、出来ればタカコ自身にこの国に、自分の隣に留まる事を選択して欲しい、その為にはどうすれば良いのか、それは未だ敦賀にも分からなかった。
「……それでも、俺はお前を手放す気は無ぇからな?」
タカコが自分の気持ちを知りつつもそれに付け込んだ事をしているのは確かだが、それは自分も同じ事、責めるつもりは毛頭無い。亡夫を求めるあまりに彼女が自分を拒否出来ないであろう事を知っていて求め、抱き、名前を呼んで自分を少しずつ刻み付けていく。
それを外道だと思いはするものの止めるつもりは更々無い、外道結構、最終的に求めるものが手に入るのなら、誰から幾ら謗られ様と構わない。
久し振りに何度も吐き出して少し疲れた、皆が起き出す直前迄は眠ろうかと双眸を閉じれば、素早く忍び寄って来た睡魔が敦賀の意識を眠りへと引き摺り込んでいった。
「――るが、敦賀、もう夜明けだ、皆起きて来る」
どれだけ眠ったのか、自分を呼ぶタカコの声に意識を引き摺り上げられ、枕に埋めていた顔を上げてみれば自分を見下ろすタカコの顔が視界へと飛び込んで来る。そろそろ部屋に戻れと言うタカコも起きたばかりなのか一糸纏わぬ姿で、敦賀はその身体に両腕を伸ばし、引き寄せて一気に組み敷き首筋に顔を埋め、口付けて緩く吸い上げた。
「ちょ!だから、もう皆――」
「――タカコ」
名前を紡げば途端に強張る身体、直ぐに熱を帯び始める様子に目を細め、首筋に触れていた唇を今度は耳朶へと触れさせ、囁く様に彼女の名前を呼び続けた。
今は未だ誰を見ていても良い、最終的に自分を選ぶのであれば黒川に抱かれる事も見なかった事にしてやれる、そこ迄譲歩するのだ、絶対に逃がさない。
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