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第57章『熱を欲す』
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第57章『熱を欲す』
黒川が太宰府へと戻って行った日の夜、タカコは自室で寝台に寝転がり本を読んでいた。
「すげぇ……挨拶代わりにセックスとか真似出来ねぇ……何か変なフェロモン出てるんじゃねぇのこの男……しかも幼女から熟女迄とかどんだけストライクゾーン広いんだよ……ヒくわぁ……」
本の内容に唖然としつつも読み進めていると、扉の開く音がして誰かが室内へと入って来る、この気配は敦賀だなと本から扉の方へと視線を遣れば、そこにいたのは予想通りの人物。
「何、どうしたの」
何か言いたそうな面持ちでこちらを見下ろしているものの返事は無く、何か深刻な話なのかとタカコは本を枕の横に置いて起き上がる。
「……どうした、何か深刻な話か」
再度問い掛けても返事は無く、一体全体どうしたものか、困ったタカコが取り敢えず茶でも淹れて来るかと立ち上がり掛けたその時、
「……何が有った」
その言葉と共に寝台の上に押し戻され大きな体躯に覆い被さられた。
「……何、この状態は」
「龍興と何が有った」
「別に……何も無いけど。つーか近い近い近い!」
段々と近づいて来る顔、真っ直ぐにこちらを射抜く視線に耐え切れずきつく目を閉じれば眦に触れる指先、一体何がしたいのかと閉じた瞼を持ち上げてみれば
「……龍興見送って戻って来た時、目が赤かった……泣いてたんじゃねぇのか」
その言葉と共に、指が触れていたところに今度は口付けが一つ降って来る。
「……驚いたな……お前みたいな朴念仁がそんな事に気が付くとはね」
「……てめぇはこの体勢にもう少し危機感を持った方が良いんじゃねぇのか、俺の好きにしようと思えば出来る状態で朴念仁呼ばわりたぁ良い度胸だな」
思ったままたを口にすれば敦賀の険が若干ではあるが深くなったのが見てとれて、そこで漸く危機感を感じたタカコは脱出しようともがいてはみたものの、既にがっちりと固定された身体は少しも自由にならず、諦めて身体から力を抜けば、再度眦に口付けを落とされた。
「……あの糞に何かされたのか」
「……されたと言えばされた、かな?」
「……殺す」
「いや違うから!乱暴されたとかじゃないから!」
「じゃあ何なんだ」
「いや、タツさんね、落ち着いて見えてもやっぱり気が立ってたみたいで、私が何か隠し事してるんじゃないかって言われてさ。話聞いてた時に私が何か考え事してるみたいに見えて、それを何か隠し事してるんじゃないかって。結構真剣に言われたからちょっと吃驚しちゃってさ、何か涙出て来たらタツさん我に返って、ごめんって謝ってくれたよ」
「……本当にそれだけか?」
「うん、本当にそれだけ」
「……なら良い。本当は良くねぇが、まぁ奴もあんな事の後ならそりゃ気も立つだろうよ、時機が悪かったな」
「ん」
敦賀にしては真っ当な慰めの言葉、それと共に一旦顔が離れ、今度は唇へと口付けが降って来る。侵入して来る舌、耳朶と首筋を撫でる指、その感触に背筋をぞくりとさせればそれに呼応するかの様に小さな喘ぎを漏らした。それを合図にするかの様に指先が這っていた敦賀の手が胸元へと降りて行き、代わりに唇が首筋へと降りて来る、そして掌が服の上から乳房に触れた瞬間、タカコは当人にとってはとても大切な事を思い出した。
(やばい……もう寝るつもりだったから下着……!)
下は穿いているものの上は締め付けを嫌い夜は付けない、出掛ける用事も無くもう寝るだけのつもりだったから普段通り、そこに敦賀には触れて欲しくないと思ったものの、拒む間も無く武骨な指にそっと力が込められた。
「……っ!」
やがてその指が布の上からでもそれと分かる突起を探し当て、首筋を緩く吸い上げながらそれを優しく弄び始める。途端に身体に奔る今迄よりも大きな衝撃と強い疼き、喘ぎつつ身体を捩り逃れようとすれば、それを宥める様にして片腕で抱き締められ、敦賀の熱を太腿に押し付けられる。
拙い、非常に拙い、敦賀の臨戦態勢もそうだが何よりも自分自身がこの状況を受け入れそうになっている、この先を望んでいる。この男に抱かれる事だけはあってはならないと、つい先日そう誓ったばかりなのに何をしているのか、掻き消されそうになる理性の声を必死で手繰り寄せ、それを支えにして腕に力を込めて敦賀の身体を向こうへと押し遣った。
「っ……や、だ……!」
腕に込めた力と共に何とか絞り出した声、それに弾かれた様に動きを失い、やがてゆっくりと敦賀の身体が離れて行く。行くな、自分が突き放したのにそう口に出してしまいそうになる衝動を何とか押し留めるタカコの頭を一度撫で、敦賀が寝台から降りて立ち上がる。
「……悪い、すまねぇ」
「敦賀、あの――」
何と言って良いのか分からないままに伸ばした手は、優しく振り解かれた。
「……今は俺に触るな、我慢出来なくなる……悪かった、もう寝ろ」
目線を合わせるのも辛いのか顔を扉の方に向けたままそう言って出て行く敦賀、タカコはその彼にこれ以上掛ける言葉を今の自分は持ち得ていない事に気付き、伸ばした手を握り締め扉が閉じられる音と共に寝台へと叩き付ける。
「……悪いもすまないもごめんも、全部私が言わないといけない事だよ……敦賀」
自分がどうすべきなのか、どうしなければいけないのか、よく分かっている筈なのに最近その箍が外れてしまいそうになる。決して誰でも良いわけではないけれど、身体が熱を与えられる事を切望し渇いているのだと叫びを上げている。
「……超欲求不満だわ……誰か後腐れの無い奴いねぇかな……馬鹿みたい、いや、馬鹿か、私は」
もう一度拳を寝台に叩き付け、そのままごろりと横になり布団を頭迄被り目を閉じた。
「目が覚めたら……全部無くなってれば良いのに」
その呟きは誰にも聞こえる事は無く。
黒川が太宰府へと戻って行った日の夜、タカコは自室で寝台に寝転がり本を読んでいた。
「すげぇ……挨拶代わりにセックスとか真似出来ねぇ……何か変なフェロモン出てるんじゃねぇのこの男……しかも幼女から熟女迄とかどんだけストライクゾーン広いんだよ……ヒくわぁ……」
本の内容に唖然としつつも読み進めていると、扉の開く音がして誰かが室内へと入って来る、この気配は敦賀だなと本から扉の方へと視線を遣れば、そこにいたのは予想通りの人物。
「何、どうしたの」
何か言いたそうな面持ちでこちらを見下ろしているものの返事は無く、何か深刻な話なのかとタカコは本を枕の横に置いて起き上がる。
「……どうした、何か深刻な話か」
再度問い掛けても返事は無く、一体全体どうしたものか、困ったタカコが取り敢えず茶でも淹れて来るかと立ち上がり掛けたその時、
「……何が有った」
その言葉と共に寝台の上に押し戻され大きな体躯に覆い被さられた。
「……何、この状態は」
「龍興と何が有った」
「別に……何も無いけど。つーか近い近い近い!」
段々と近づいて来る顔、真っ直ぐにこちらを射抜く視線に耐え切れずきつく目を閉じれば眦に触れる指先、一体何がしたいのかと閉じた瞼を持ち上げてみれば
「……龍興見送って戻って来た時、目が赤かった……泣いてたんじゃねぇのか」
その言葉と共に、指が触れていたところに今度は口付けが一つ降って来る。
「……驚いたな……お前みたいな朴念仁がそんな事に気が付くとはね」
「……てめぇはこの体勢にもう少し危機感を持った方が良いんじゃねぇのか、俺の好きにしようと思えば出来る状態で朴念仁呼ばわりたぁ良い度胸だな」
思ったままたを口にすれば敦賀の険が若干ではあるが深くなったのが見てとれて、そこで漸く危機感を感じたタカコは脱出しようともがいてはみたものの、既にがっちりと固定された身体は少しも自由にならず、諦めて身体から力を抜けば、再度眦に口付けを落とされた。
「……あの糞に何かされたのか」
「……されたと言えばされた、かな?」
「……殺す」
「いや違うから!乱暴されたとかじゃないから!」
「じゃあ何なんだ」
「いや、タツさんね、落ち着いて見えてもやっぱり気が立ってたみたいで、私が何か隠し事してるんじゃないかって言われてさ。話聞いてた時に私が何か考え事してるみたいに見えて、それを何か隠し事してるんじゃないかって。結構真剣に言われたからちょっと吃驚しちゃってさ、何か涙出て来たらタツさん我に返って、ごめんって謝ってくれたよ」
「……本当にそれだけか?」
「うん、本当にそれだけ」
「……なら良い。本当は良くねぇが、まぁ奴もあんな事の後ならそりゃ気も立つだろうよ、時機が悪かったな」
「ん」
敦賀にしては真っ当な慰めの言葉、それと共に一旦顔が離れ、今度は唇へと口付けが降って来る。侵入して来る舌、耳朶と首筋を撫でる指、その感触に背筋をぞくりとさせればそれに呼応するかの様に小さな喘ぎを漏らした。それを合図にするかの様に指先が這っていた敦賀の手が胸元へと降りて行き、代わりに唇が首筋へと降りて来る、そして掌が服の上から乳房に触れた瞬間、タカコは当人にとってはとても大切な事を思い出した。
(やばい……もう寝るつもりだったから下着……!)
下は穿いているものの上は締め付けを嫌い夜は付けない、出掛ける用事も無くもう寝るだけのつもりだったから普段通り、そこに敦賀には触れて欲しくないと思ったものの、拒む間も無く武骨な指にそっと力が込められた。
「……っ!」
やがてその指が布の上からでもそれと分かる突起を探し当て、首筋を緩く吸い上げながらそれを優しく弄び始める。途端に身体に奔る今迄よりも大きな衝撃と強い疼き、喘ぎつつ身体を捩り逃れようとすれば、それを宥める様にして片腕で抱き締められ、敦賀の熱を太腿に押し付けられる。
拙い、非常に拙い、敦賀の臨戦態勢もそうだが何よりも自分自身がこの状況を受け入れそうになっている、この先を望んでいる。この男に抱かれる事だけはあってはならないと、つい先日そう誓ったばかりなのに何をしているのか、掻き消されそうになる理性の声を必死で手繰り寄せ、それを支えにして腕に力を込めて敦賀の身体を向こうへと押し遣った。
「っ……や、だ……!」
腕に込めた力と共に何とか絞り出した声、それに弾かれた様に動きを失い、やがてゆっくりと敦賀の身体が離れて行く。行くな、自分が突き放したのにそう口に出してしまいそうになる衝動を何とか押し留めるタカコの頭を一度撫で、敦賀が寝台から降りて立ち上がる。
「……悪い、すまねぇ」
「敦賀、あの――」
何と言って良いのか分からないままに伸ばした手は、優しく振り解かれた。
「……今は俺に触るな、我慢出来なくなる……悪かった、もう寝ろ」
目線を合わせるのも辛いのか顔を扉の方に向けたままそう言って出て行く敦賀、タカコはその彼にこれ以上掛ける言葉を今の自分は持ち得ていない事に気付き、伸ばした手を握り締め扉が閉じられる音と共に寝台へと叩き付ける。
「……悪いもすまないもごめんも、全部私が言わないといけない事だよ……敦賀」
自分がどうすべきなのか、どうしなければいけないのか、よく分かっている筈なのに最近その箍が外れてしまいそうになる。決して誰でも良いわけではないけれど、身体が熱を与えられる事を切望し渇いているのだと叫びを上げている。
「……超欲求不満だわ……誰か後腐れの無い奴いねぇかな……馬鹿みたい、いや、馬鹿か、私は」
もう一度拳を寝台に叩き付け、そのままごろりと横になり布団を頭迄被り目を閉じた。
「目が覚めたら……全部無くなってれば良いのに」
その呟きは誰にも聞こえる事は無く。
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