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第58章『下半身事情』
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第58章『下半身事情』
「なぁ真吾、私と身体だけの付き合いしねぇ?」
執務室にふらりと現れたタカコ、敦賀の姿は無く一人だけ、ここ数日どうも二人の間がぎくしゃくしている様だがと考えつつソファに座らせて茶を出せば、それを一啜りした後に彼女が口にした言葉に、高根は思わず口に含んでいた茶を勢い良く噴き出した。
「きったねぇなぁ、何やってんだよ」
「……いや、何やってんだはこっちの台詞だ、今お前何て言った?」
「え、だからさ、私と身体だけの――」
「はい、もういい、言わなくていい」
『今日は寒いが良い天気だな』位の軽い調子でとんでもない事を言い出したタカコ、何か変な事を言ったかと言わんばかりの気の抜けた面持ちでこちらを見る彼女を見て思わず眉間を押さえて溜息を吐く。
「敦賀と何か有ったのか」
「……別に」
「有ったんだな。どれ、何が有ったのかおじさんに話してみろ」
「……やだ」
ふい、とそっぽを向くタカコの姿に、結構な事が二人の間に有ったのだろうという事は窺えるが、それでもそこから自分に関係を求めて来る理屈が分からない、これはどうも腰を据えて話を聞いた方が良さそうだと判断し立ち上がり、部屋の外にいた隊員に
「ちょっと人払いしてくれるか。一時間で良い、誰も近付けるな。お前も離れててくれ」
そう言って扉を閉め念の為鍵も掛けて再度ソファへと戻って来る。
「それで?態々俺にそんな話しなくたって相手なら敦賀がいるだろうが」
「いや、私と敦賀は別にそんな関係じゃないし」
「俺とお前もそんな関係じゃねぇよ……」
「えー?だってさ、真吾って昔から特定の相手は作らずに花街で発散するだけって聞いたよ?割り切った付き合いするには最高の相手じゃん」
「……それ、誰から聞いた?」
「タツさん」
「……あの野郎……人の下半身事情をぺらぺらと……」
高根の発した『下半身事情』という単語、それに反応しタカコが背凭れに預けていた身体を起こし、前のめりになって口を開く。
「そう!そこなんだよ!下半身って言うかさ、身体の欲求が溜まっててそれを発散したいだけなのね、気持ちは要らないのよ。敦賀ってそういうの面倒臭そうじゃん、タツさんは千鶴さんいるし、真吾だったらすっきりさっぱり出来る上に後腐れ無さそうだなーと思ったんだけど」
「お前な……男を何だと思ってるんだ、お前の欲求不満解消の道具じゃねぇんだぞ、男は」
「この場合に於いては道具だよ、そこそこ気心が知れてて穴に突っ込む竿が生えてればそれで良いよもう」
「……何か物凄い侮辱されてる気がするが気の所為か」
敦賀の気持ちが彼女に向くに従って明らかになって来た傾向、心を真摯に向けられる事を彼女はひどく警戒している、今も顕著に現れているそれに高根は内心溜息を吐き、どうしたものかと考えた。
敦賀もまた自分と同じ様に特定の相手は作らず時折花街に出掛けてはいるが、そこに自分の様な愉しみは無く純然たる『処理』なのだろうと想像がつく。処理とは女性を道具としてしか見ていないのかと言われそうではあるが、こんな稼業をやっていれば精の勢いが強くなるのは生物として至極自然な事、その事について誰も責められるものではないだろう。
その事を除外したとして、敦賀は気の利かない朴念仁ではあるが生真面目で情の深い男だ、その彼がタカコへと向ける感情は真っ直ぐで純粋で、受け止める側としては確かに少々重く感じる事も有るかも知れない。
けれど、性交を処理としてしか見ていなかった男が情を持ってタカコを抱きたいと思っているのであれば、その先を望むのであれば、自身の目論見が無かったとしても応援してやりたい、そう思うのは彼の親友として上官として自然な事でもあった。
その当の相手が違う人間、しかも自分に身体だけの付き合いをしないかと言って来るとは、どんどんややこしくなる事態に若干の頭痛を感じつつ彼女を見てみれば、向けられるのは若干人を食った笑み。流石に男というものを虚仮にし過ぎだろう、彼女の所作にそんな不快感を感じ、そう言うのであればのってやると立ち上がり制服の上着を脱ぎ捨てる。
「……え?真吾?」
「そこ迄言うなら相手してやるよ、丁度人払いしたところだ、一時間は誰も近付かねぇ」
ネクタイに手を掛けて一気に抜き去り、シャツの釦を二つ三つ外しながら片足でタカコの両足をソファの上に上げ、それと同時に伸し掛かり腕で上半身を、脚で下半身を押さえ込みソファの上に完全に縫い付けた。
「……海兵隊総司令舐めんなよ、頂点とは言っても毎月出撃してるんだ、そこいらの隊員より腕は立つぜ?ここ迄密着すりゃお前程度を押さえ込む位何でもねぇぞ?」
唇が触れる程の至近距離で低くそう言えば組み敷いたタカコの身体が固くなるのが分かる、もう少し灸を据えておこうか、悪戯心も手伝ってそんな事を考えつつ、直ぐ目の前に在る彼女の唇へと口付ける。
半ば無理矢理に舌を侵入させれば彼女のそれは逃げ惑い、加虐心を擽られ暫く追えば結果として口腔内を蹂躙し尽くす事になった。五分程も味わったか満足して唇を離し顔を覗き込めば涙目で睨まれて、
「分かったか、あんまり男を虚仮にするとな、こういう目に遭う事も有るんだよ、覚えとけ口だけ大将」
そう言ってもう一度今度は触れるだけの口付けを落とし身体を退かす。タカコは凄まじい勢いで起き上がりソファの隅へと身を寄せ、
「すっごいよく分かった、もう絶対にお前には言わない」
そう言って両腕で自分の身体を抱き締める。その様子に、活骸侵攻の際に受けた傷を抉ってしまったか、そう思った高根が
「……日も浅いのに悪かったな、怖かったか?」
そう声を掛けつつ腰を下ろせばそれにはふるふると頭を振り、
「それはそもそも気にしてないから良いんだけど、いきなり来られたからちょっとびっくりした」
そう言って高根の二の腕に頭を寄せて凭れ掛かって来た。
「そりゃお前が誘ったからだろうが」
「そうなんだけど……実際にどうこうじゃなくて、愚痴言いたかっただけ、欲求不満なのは本当だし」
「だから、それは敦賀に言え」
「それは駄目」
「何で駄目なんだよ、良い男じゃねぇか」
「鬱陶しいから」
「……酷いねお前」
きっとこの言葉は彼女の本心ではないのだろう、自分には図り知れない程の大きな何かを彼女は抱えている、それが有るから敦賀を受け入れる事が出来ないのだろう。
それが無くなれば良いのに、そう思う。そうすれば敦賀は幸せを手に出来る、自分も望みを叶えられるのだから。
「なぁ真吾、私と身体だけの付き合いしねぇ?」
執務室にふらりと現れたタカコ、敦賀の姿は無く一人だけ、ここ数日どうも二人の間がぎくしゃくしている様だがと考えつつソファに座らせて茶を出せば、それを一啜りした後に彼女が口にした言葉に、高根は思わず口に含んでいた茶を勢い良く噴き出した。
「きったねぇなぁ、何やってんだよ」
「……いや、何やってんだはこっちの台詞だ、今お前何て言った?」
「え、だからさ、私と身体だけの――」
「はい、もういい、言わなくていい」
『今日は寒いが良い天気だな』位の軽い調子でとんでもない事を言い出したタカコ、何か変な事を言ったかと言わんばかりの気の抜けた面持ちでこちらを見る彼女を見て思わず眉間を押さえて溜息を吐く。
「敦賀と何か有ったのか」
「……別に」
「有ったんだな。どれ、何が有ったのかおじさんに話してみろ」
「……やだ」
ふい、とそっぽを向くタカコの姿に、結構な事が二人の間に有ったのだろうという事は窺えるが、それでもそこから自分に関係を求めて来る理屈が分からない、これはどうも腰を据えて話を聞いた方が良さそうだと判断し立ち上がり、部屋の外にいた隊員に
「ちょっと人払いしてくれるか。一時間で良い、誰も近付けるな。お前も離れててくれ」
そう言って扉を閉め念の為鍵も掛けて再度ソファへと戻って来る。
「それで?態々俺にそんな話しなくたって相手なら敦賀がいるだろうが」
「いや、私と敦賀は別にそんな関係じゃないし」
「俺とお前もそんな関係じゃねぇよ……」
「えー?だってさ、真吾って昔から特定の相手は作らずに花街で発散するだけって聞いたよ?割り切った付き合いするには最高の相手じゃん」
「……それ、誰から聞いた?」
「タツさん」
「……あの野郎……人の下半身事情をぺらぺらと……」
高根の発した『下半身事情』という単語、それに反応しタカコが背凭れに預けていた身体を起こし、前のめりになって口を開く。
「そう!そこなんだよ!下半身って言うかさ、身体の欲求が溜まっててそれを発散したいだけなのね、気持ちは要らないのよ。敦賀ってそういうの面倒臭そうじゃん、タツさんは千鶴さんいるし、真吾だったらすっきりさっぱり出来る上に後腐れ無さそうだなーと思ったんだけど」
「お前な……男を何だと思ってるんだ、お前の欲求不満解消の道具じゃねぇんだぞ、男は」
「この場合に於いては道具だよ、そこそこ気心が知れてて穴に突っ込む竿が生えてればそれで良いよもう」
「……何か物凄い侮辱されてる気がするが気の所為か」
敦賀の気持ちが彼女に向くに従って明らかになって来た傾向、心を真摯に向けられる事を彼女はひどく警戒している、今も顕著に現れているそれに高根は内心溜息を吐き、どうしたものかと考えた。
敦賀もまた自分と同じ様に特定の相手は作らず時折花街に出掛けてはいるが、そこに自分の様な愉しみは無く純然たる『処理』なのだろうと想像がつく。処理とは女性を道具としてしか見ていないのかと言われそうではあるが、こんな稼業をやっていれば精の勢いが強くなるのは生物として至極自然な事、その事について誰も責められるものではないだろう。
その事を除外したとして、敦賀は気の利かない朴念仁ではあるが生真面目で情の深い男だ、その彼がタカコへと向ける感情は真っ直ぐで純粋で、受け止める側としては確かに少々重く感じる事も有るかも知れない。
けれど、性交を処理としてしか見ていなかった男が情を持ってタカコを抱きたいと思っているのであれば、その先を望むのであれば、自身の目論見が無かったとしても応援してやりたい、そう思うのは彼の親友として上官として自然な事でもあった。
その当の相手が違う人間、しかも自分に身体だけの付き合いをしないかと言って来るとは、どんどんややこしくなる事態に若干の頭痛を感じつつ彼女を見てみれば、向けられるのは若干人を食った笑み。流石に男というものを虚仮にし過ぎだろう、彼女の所作にそんな不快感を感じ、そう言うのであればのってやると立ち上がり制服の上着を脱ぎ捨てる。
「……え?真吾?」
「そこ迄言うなら相手してやるよ、丁度人払いしたところだ、一時間は誰も近付かねぇ」
ネクタイに手を掛けて一気に抜き去り、シャツの釦を二つ三つ外しながら片足でタカコの両足をソファの上に上げ、それと同時に伸し掛かり腕で上半身を、脚で下半身を押さえ込みソファの上に完全に縫い付けた。
「……海兵隊総司令舐めんなよ、頂点とは言っても毎月出撃してるんだ、そこいらの隊員より腕は立つぜ?ここ迄密着すりゃお前程度を押さえ込む位何でもねぇぞ?」
唇が触れる程の至近距離で低くそう言えば組み敷いたタカコの身体が固くなるのが分かる、もう少し灸を据えておこうか、悪戯心も手伝ってそんな事を考えつつ、直ぐ目の前に在る彼女の唇へと口付ける。
半ば無理矢理に舌を侵入させれば彼女のそれは逃げ惑い、加虐心を擽られ暫く追えば結果として口腔内を蹂躙し尽くす事になった。五分程も味わったか満足して唇を離し顔を覗き込めば涙目で睨まれて、
「分かったか、あんまり男を虚仮にするとな、こういう目に遭う事も有るんだよ、覚えとけ口だけ大将」
そう言ってもう一度今度は触れるだけの口付けを落とし身体を退かす。タカコは凄まじい勢いで起き上がりソファの隅へと身を寄せ、
「すっごいよく分かった、もう絶対にお前には言わない」
そう言って両腕で自分の身体を抱き締める。その様子に、活骸侵攻の際に受けた傷を抉ってしまったか、そう思った高根が
「……日も浅いのに悪かったな、怖かったか?」
そう声を掛けつつ腰を下ろせばそれにはふるふると頭を振り、
「それはそもそも気にしてないから良いんだけど、いきなり来られたからちょっとびっくりした」
そう言って高根の二の腕に頭を寄せて凭れ掛かって来た。
「そりゃお前が誘ったからだろうが」
「そうなんだけど……実際にどうこうじゃなくて、愚痴言いたかっただけ、欲求不満なのは本当だし」
「だから、それは敦賀に言え」
「それは駄目」
「何で駄目なんだよ、良い男じゃねぇか」
「鬱陶しいから」
「……酷いねお前」
きっとこの言葉は彼女の本心ではないのだろう、自分には図り知れない程の大きな何かを彼女は抱えている、それが有るから敦賀を受け入れる事が出来ないのだろう。
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