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第79章『祝福』
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第79章『祝福』
寝台脇の棚の上で鳴り響く耳障りな鈴の音、タカコはそれに忌々しそうに舌打ちをして身体を起こし、依然音を立て続ける時計を叩き自分の横で寝ている敦賀の肩を揺すって声を掛ける。
「……おい、敦賀、朝だ」
「……もうそんな時間か」
「今日は対馬区への出撃だろうが、そろそろ起きないと間に合わんぞ」
「……そういやそうだったな……」
共に夜を過ごす様になってからというものお互いに深く寝入る事が増え、目覚ましを設定しないと朝も寝過ごしそうになる事が増えた。別々に寝た方が良いのではと思わないでもないが敦賀が頑として頷かず、ずっとこの状態が続いている。
「ほら、起きろって、早く部屋戻って身支度整えろよ先任様」
返事はするものの動こうとしない敦賀、職務に忠実なのが取り柄だろうと今度は強めに肩を揺すれば、逆にその手を掴まれて敦賀の腕の中へと引き入れられ、次の瞬間には覆い被さられていた。
「……人の話聞いてるのかお前は」
「……だからこうやって起きてるだろうが」
「違う!何かが激しく違うぞ敦賀!」
「寝起きに喚くな、頭に響く」
言葉が終わると同時に降って来る口付け、共に眠る様になってから始まったそれはその先へと進む事は無いが日に日に深くなり、タカコは敦賀のこの行為にひどく困惑していた。
無駄な接触を嫌うと思っていたこの男はどうやら結構な触れたがりの気質らしく、夜二人きりでいる時には決してタカコを離そうとしない。日中に二人きりになる事が有ればその時にも頭を撫でたり肩に触れたり、それが少しずつ積み重なり、タカコは段々とこの状況に危機感を抱き始めている。
危機感、という単語は正確ではない、彼のその行為により自分の中に口付けの先に進みたいという欲求が生まれ日毎に大きくなっていて、それに悶々とする事が増えて来たというのが実際のところだった。
彼に抱かれる事は非常にまずい、何度もそう自分を戒めた筈なのに大きくなる欲求、この状況自体が良くないのだと夜を共に過ごす事はもう止めようと敦賀へと訴えるものの、当の敦賀はそれを無視して受け流し、今もまた深い口付けをタカコへと与え続けている。
熱に浮かされた様に段々とぼんやりとするタカコの意識、その内に無意識に敦賀の首と背中に腕を回し先をせがむ様に身体を摺り寄せれば、唇がタカコのそれを離れ首筋へと落とされた。
背中に奔る電流の様な衝撃、疼く身体、思わず喉の奥で小さく啼けばそれに弾かれる様にして敦賀の身体が離れて行く。
「……敦賀」
「……もう起きねぇとな……お前もさっさと支度しろ」
その言葉と共に一度だけ口付けられ、寝台を降りた敦賀は自室へと戻って行った。
「……うわぁ……マジでヤバい……このままじゃ私が敦賀を押し倒しそうだ……帰還したらタツさんとこに行こう……」
起き上がり頭を抱えて溜息を吐く、もうそろそろ自制が利かなくなりそうだ、そうなる前に一旦黒川のところに逃げようか、そんな事を考えつつ寝台を降り、身支度を整えて部屋を後にした。
そして一時間後の出発の時間、タカコは敦賀の率いる突入隊とは別のトラックの荷台にいた。タカコ以外は全員が研究班、活骸の捕獲を試みる彼等の警護、それが今日の彼女の役割だ。
「タカコ、どうしたの?何か物凄い色っぽい表情してるけど。あ、もしかして先任と――」
「ねぇよ!」
「何だ、つまんないの」
「だからね誠ちゃん、何度も言うけど人で勝手に遊ばないでよ」
やがて動き出した車列、その荷台の上で取り留めも無い話をしていれば、やがて福井が声を潜めタカコの耳へと顔を近付けて来た。
「あのさ……」
「うん?どうしたの?」
いつも明け透けに話す彼女が珍しい事も有るものだ、そう思いつつ先を促せば、少しだけ逡巡した福井が言い難そうに、そして嬉しそうに口を開く。
「……あのね、出来たみたい、赤ちゃん」
「……はっ?え、あの、寛和?」
「え、何でそれ知ってるの、先任から聞いた?」
「ああ、うん、まぁそうなのかな?え、本当に?マジで?」
「うん、まだ病院には行ってないんだけど、生理が二十日位来てないから、多分間違い無いと思う」
「えーと……お二人は結婚はなさっては」
「してるわけ無いじゃん、苗字違うでしょ」
「ですよねー……え、で、どうすんの」
「いや、そろそろ籍入れようかって話はもうしててね、ちょっと順番間違ったちゃったかな」
「寛和には言ったの?」
「ううん、まだ、気付いたの出撃直前でさ。戻ったら真っ先に報告するつもり」
出撃、福井の口から出たその言葉にタカコは状況を思い出す。そうだ、今は対馬区へと出て危険地帯のど真ん中を活骸へと向かって進んでいる、何か有ったら、いや、それ以前に軍用トラックの荷台の振動自体が良いワケが無いと運転席へと言おうとすれば、それは福井によって押し止められた。
「大丈夫、言わないで。無理はしない、約束するから。私のだらしなさで迷惑は掛けられない」
「でも……」
「お願い」
真剣な福井の眼差しと口調、いつも明るい彼女が向ける真摯なそれにタカコは押し黙り、暫く考え込んだ後に唸りつつ頭を掻き、諦めた様に口を開く。
「……分かった、本当に無理したら駄目だよ?もう一人の身体じゃないんだからね?」
「うん、分かった」
「……おめでとう、私も嬉しい、式には呼んでよね。後、生まれたら抱っこさせて」
「うん、そう言ってくれて私も嬉しいよ」
顔を寄せ合ってのそんな遣り取り、それに気付いた他の隊員が何を話しているのかと問い掛けて来て、それに
「女同士の内緒の話!」
と、声を揃えてそう言って笑い合う。
重苦しい事が続いていた昨今、そこに久し振りに齎された明るい話題に、タカコは冬の終わりの良く晴れた空を見上げて静かに微笑んだ。
寝台脇の棚の上で鳴り響く耳障りな鈴の音、タカコはそれに忌々しそうに舌打ちをして身体を起こし、依然音を立て続ける時計を叩き自分の横で寝ている敦賀の肩を揺すって声を掛ける。
「……おい、敦賀、朝だ」
「……もうそんな時間か」
「今日は対馬区への出撃だろうが、そろそろ起きないと間に合わんぞ」
「……そういやそうだったな……」
共に夜を過ごす様になってからというものお互いに深く寝入る事が増え、目覚ましを設定しないと朝も寝過ごしそうになる事が増えた。別々に寝た方が良いのではと思わないでもないが敦賀が頑として頷かず、ずっとこの状態が続いている。
「ほら、起きろって、早く部屋戻って身支度整えろよ先任様」
返事はするものの動こうとしない敦賀、職務に忠実なのが取り柄だろうと今度は強めに肩を揺すれば、逆にその手を掴まれて敦賀の腕の中へと引き入れられ、次の瞬間には覆い被さられていた。
「……人の話聞いてるのかお前は」
「……だからこうやって起きてるだろうが」
「違う!何かが激しく違うぞ敦賀!」
「寝起きに喚くな、頭に響く」
言葉が終わると同時に降って来る口付け、共に眠る様になってから始まったそれはその先へと進む事は無いが日に日に深くなり、タカコは敦賀のこの行為にひどく困惑していた。
無駄な接触を嫌うと思っていたこの男はどうやら結構な触れたがりの気質らしく、夜二人きりでいる時には決してタカコを離そうとしない。日中に二人きりになる事が有ればその時にも頭を撫でたり肩に触れたり、それが少しずつ積み重なり、タカコは段々とこの状況に危機感を抱き始めている。
危機感、という単語は正確ではない、彼のその行為により自分の中に口付けの先に進みたいという欲求が生まれ日毎に大きくなっていて、それに悶々とする事が増えて来たというのが実際のところだった。
彼に抱かれる事は非常にまずい、何度もそう自分を戒めた筈なのに大きくなる欲求、この状況自体が良くないのだと夜を共に過ごす事はもう止めようと敦賀へと訴えるものの、当の敦賀はそれを無視して受け流し、今もまた深い口付けをタカコへと与え続けている。
熱に浮かされた様に段々とぼんやりとするタカコの意識、その内に無意識に敦賀の首と背中に腕を回し先をせがむ様に身体を摺り寄せれば、唇がタカコのそれを離れ首筋へと落とされた。
背中に奔る電流の様な衝撃、疼く身体、思わず喉の奥で小さく啼けばそれに弾かれる様にして敦賀の身体が離れて行く。
「……敦賀」
「……もう起きねぇとな……お前もさっさと支度しろ」
その言葉と共に一度だけ口付けられ、寝台を降りた敦賀は自室へと戻って行った。
「……うわぁ……マジでヤバい……このままじゃ私が敦賀を押し倒しそうだ……帰還したらタツさんとこに行こう……」
起き上がり頭を抱えて溜息を吐く、もうそろそろ自制が利かなくなりそうだ、そうなる前に一旦黒川のところに逃げようか、そんな事を考えつつ寝台を降り、身支度を整えて部屋を後にした。
そして一時間後の出発の時間、タカコは敦賀の率いる突入隊とは別のトラックの荷台にいた。タカコ以外は全員が研究班、活骸の捕獲を試みる彼等の警護、それが今日の彼女の役割だ。
「タカコ、どうしたの?何か物凄い色っぽい表情してるけど。あ、もしかして先任と――」
「ねぇよ!」
「何だ、つまんないの」
「だからね誠ちゃん、何度も言うけど人で勝手に遊ばないでよ」
やがて動き出した車列、その荷台の上で取り留めも無い話をしていれば、やがて福井が声を潜めタカコの耳へと顔を近付けて来た。
「あのさ……」
「うん?どうしたの?」
いつも明け透けに話す彼女が珍しい事も有るものだ、そう思いつつ先を促せば、少しだけ逡巡した福井が言い難そうに、そして嬉しそうに口を開く。
「……あのね、出来たみたい、赤ちゃん」
「……はっ?え、あの、寛和?」
「え、何でそれ知ってるの、先任から聞いた?」
「ああ、うん、まぁそうなのかな?え、本当に?マジで?」
「うん、まだ病院には行ってないんだけど、生理が二十日位来てないから、多分間違い無いと思う」
「えーと……お二人は結婚はなさっては」
「してるわけ無いじゃん、苗字違うでしょ」
「ですよねー……え、で、どうすんの」
「いや、そろそろ籍入れようかって話はもうしててね、ちょっと順番間違ったちゃったかな」
「寛和には言ったの?」
「ううん、まだ、気付いたの出撃直前でさ。戻ったら真っ先に報告するつもり」
出撃、福井の口から出たその言葉にタカコは状況を思い出す。そうだ、今は対馬区へと出て危険地帯のど真ん中を活骸へと向かって進んでいる、何か有ったら、いや、それ以前に軍用トラックの荷台の振動自体が良いワケが無いと運転席へと言おうとすれば、それは福井によって押し止められた。
「大丈夫、言わないで。無理はしない、約束するから。私のだらしなさで迷惑は掛けられない」
「でも……」
「お願い」
真剣な福井の眼差しと口調、いつも明るい彼女が向ける真摯なそれにタカコは押し黙り、暫く考え込んだ後に唸りつつ頭を掻き、諦めた様に口を開く。
「……分かった、本当に無理したら駄目だよ?もう一人の身体じゃないんだからね?」
「うん、分かった」
「……おめでとう、私も嬉しい、式には呼んでよね。後、生まれたら抱っこさせて」
「うん、そう言ってくれて私も嬉しいよ」
顔を寄せ合ってのそんな遣り取り、それに気付いた他の隊員が何を話しているのかと問い掛けて来て、それに
「女同士の内緒の話!」
と、声を揃えてそう言って笑い合う。
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