大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
48 / 100

第248章『再会』

しおりを挟む
第248章『再会』

 仕事を片付けて大部屋を出れば外を見回っていて戻って来た敦賀とかち合い、高根の家に行くと告げればついて行こうかと言われ、病み上がりには違い無いがそこ迄やわでも鈍ってもいないと断って基地を出た。
 入院している間にだいぶ暖かくなって来たと思いつつ十五分程の距離を歩いて高根の自宅へと辿り着く。
「タカコさん!退院されたんですか、おめでとう御座います!」
「ありがとー。お腹、随分大きくなったねぇ」
「それが実は……真吾さんにもまだ言ってないんですけど、双子ですよって昨日の検診で言われたんですよ」
「嘘!双子!?うわー、おめでたが二倍だねぇ!」
「はい。本当なら昨日言うつもりだったんですけど、ちょっと別の話になっちゃって」
「お祖父さんとお兄さんの話?」
「はい、そうですけど……真吾さんに聞いたんですか?あ、どうぞ上がって下さい、お茶淹れますから」
「お邪魔しまーす」
 双子という思いもよらない単語に驚くタカコ、凛はタカコの言葉に小首を傾げ、玄関先で話すのもと中へと誘う。タカコはそれに抗う事も無く中へと入り、凛の後について廊下を歩いて居間へと入る。
「それで?別の話ってのは、凛ちゃんの苗字とかお祖父さんの事とか?」
「そうなんですよ、普段は帰って来るの分かるんですけど、玄関が開く音で。でも昨日はそーっと帰って来て、台所の入り口から顔半分だけ覗かせて、『凛ちゃん、ちょっと聞きたい事が有るんだけど』って。それでどうしたのか聞いたら、『君のお祖父さん、海兵隊の先々代総司令の島津義弘中将?お兄さんは島津仁一?』って聞くから、はいそうですよって答えたら、いきなり海兵隊基地の方向に向かって土下座して、『先々代!申し訳有りません!』って。土下座ですよ土下座」
「……家でもやったのかよ……それで?」
「ええ、それで、言ってなかった事が有る、俺、海兵隊の総司令なんだって言うから、知ってますよって言ったんですよ。そうしたら、タカコさんの格好見て気が付いたのかって聞くから、いえ、祖父の葬儀の時にお見掛けしてたので顔は知ってましたって答えたら崩れ落ちちゃって」
「葬儀?」
「はい、真吾さんが総司令に着任してから少し後なんですけど、もう退官してた祖父が亡くなって、その時に真吾さんが来てくれてたんですよ。私は色々手伝いをしていたので挨拶もしなかったですし遠くから両親や兄と話してる真吾さんを見掛けただけなんですけど、それで顔は知ってたんです」
「そうなんだ。何で真吾にそれ言わなかったの?様子から察するに言ってなかったんでしょ?」
「私、一度嫁いでて離縁されてるんでけど、それで困ってた時に真吾さんが凄く良くしてくれて。祖父の孫だって知ったら余計に重荷になっちゃうんじゃないかと思って……それで言えなかったんです」
「あー、そういう事情か……」
 確かに世話になった先々代の孫娘と知れば扱いは今よりも丁重なものになっただろう、兄とももっと早くに再会出来たかも知れない。しかし逆に高根との仲が深まる事も無く今の幸せも無かったかも知れないわけで、世の中や人の縁とは何とも奇妙なものだとタカコは出された茶を啜りながらそんな事を考える。
「タカコさんはもうお仕事されてるんですか?今日はどうしたんです?戦闘服着てるのにこんな時間にうちに来て……あ、さぼりですか?」
「いやー、さぼりたいのはいつもの事なんだけど、今日は違うのよ。真吾のお遣いでね、凛ちゃんを基地に連れて来てくれって」
「え?私をですか?」
「うん、そう。お茶飲んだら行こうか」
 まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのか驚く凛、結婚もしていないのに図々しく職場に顔を出すとはと渋る彼女をタカコは何とか宥め賺し、上着を着せて靴を履かせ外へと出る。呼ばれた理由が皆目見当がつかないのか何度も尋ねて来る凛、それに
「ごめんね、私も詳しくは聞いてないんだ」
 と、それだけ言葉を返しゆっくりと歩き続け、小一時間程前に潜った正門を再度潜り、今度は基地内へと足を踏み入れる。警衛所で凛の入場手続きを済ませた後は真っ直ぐに本部棟へと向かい、その道中に凛を興味深げに見る海兵隊の面々には意味有り気な笑みを向けておいた。
立ち止まったのは総司令執務室の扉の前、扉を叩こうとすれば向こうから
「十八歳ですよ十八歳!結婚が早ければ親子でもおかしくない様な年齢差ですよ!」
 という島津の興奮した声が聞こえて来て、少々早かったかと思いながら後ろに立った凛をちらりと見遣る。興奮した声が誰のものなのか分かったのだろう、信じられない、そんな心の内を表しているかの様な驚きに目を見開いた面持ちに小さく笑い、タカコは視線を前に戻す。
「まぁ離縁されたのはしょうがないと言うか寧ろ歓迎です、俺はあの男もその親も気に入りませんでした!それで、妊娠も結婚も良いとしましょう、凛も、妹ももう大人です!でもその相手が司令ってどういう事ですか!だって考えてみて下さいよ、『あの』高根海兵隊総司令ですよ!?女性関係に関しては屑の極みと言われてる男が妹を手篭めにして妊娠迄させてるって!は?十一歳年上の、しかも自分の所属の最高司令官を義理の弟に持つ事になるんですか俺は!!」
 興奮で我を忘れているのか最高司令官を面と向かって屑呼ばわりする島津、以前高根に『部下に尊敬されていない』と言われた覚えが有るが、これでは彼も自分の事は言えないな、そんな事を思いつつ扉を叩く。
「真吾、連れて来たよ」
「入ってくれ、もう来てる」
 中へと向かって呼び掛けてみれば何ともほっとした様な声音、それに笑いながら扉を開ければ、高根の縋る様な眼差しと、島津の射抜く様な眼差しを向けられた。まぁまぁそういきり立つな、島津を見て半歩脇へとずれれば、兄妹の間にはもう隔てるものは何も無く。
「……凛……!」
「……おに、ちゃ……ん……?」
 夫々の顔を見てみれば島津は驚きに固まり言葉を失い、凛はと言えば、ぶわりと涙を浮かべ、やがて両手で顔を覆って泣き出してしまった。そしてその後はもう堪え切れずに声を上げて泣くだけ、時折、良かった、良かった、とそう繰り返すのが精一杯。
「……無事で、良かった」
 感極まって動く事も出来ない妹に島津がそっと歩み寄り、一言だけそう言って優しく頭を撫でる。少し震えた声音、それでも堪えて彼は高根へと向き直り、
「……妹を……宜しく、お願いします」
 そう言って深々と頭を下げた。
「……有り難う、生涯を懸けて、大切にする」
 高根もまたそう言って深く頭を下げ、タカコは目を細めて優しく微笑み、何とも言えない胸の温かさを感じつつ、黙ったままその光景を見詰めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

処理中です...