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第248章『再会』
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第248章『再会』
仕事を片付けて大部屋を出れば外を見回っていて戻って来た敦賀とかち合い、高根の家に行くと告げればついて行こうかと言われ、病み上がりには違い無いがそこ迄やわでも鈍ってもいないと断って基地を出た。
入院している間にだいぶ暖かくなって来たと思いつつ十五分程の距離を歩いて高根の自宅へと辿り着く。
「タカコさん!退院されたんですか、おめでとう御座います!」
「ありがとー。お腹、随分大きくなったねぇ」
「それが実は……真吾さんにもまだ言ってないんですけど、双子ですよって昨日の検診で言われたんですよ」
「嘘!双子!?うわー、おめでたが二倍だねぇ!」
「はい。本当なら昨日言うつもりだったんですけど、ちょっと別の話になっちゃって」
「お祖父さんとお兄さんの話?」
「はい、そうですけど……真吾さんに聞いたんですか?あ、どうぞ上がって下さい、お茶淹れますから」
「お邪魔しまーす」
双子という思いもよらない単語に驚くタカコ、凛はタカコの言葉に小首を傾げ、玄関先で話すのもと中へと誘う。タカコはそれに抗う事も無く中へと入り、凛の後について廊下を歩いて居間へと入る。
「それで?別の話ってのは、凛ちゃんの苗字とかお祖父さんの事とか?」
「そうなんですよ、普段は帰って来るの分かるんですけど、玄関が開く音で。でも昨日はそーっと帰って来て、台所の入り口から顔半分だけ覗かせて、『凛ちゃん、ちょっと聞きたい事が有るんだけど』って。それでどうしたのか聞いたら、『君のお祖父さん、海兵隊の先々代総司令の島津義弘中将?お兄さんは島津仁一?』って聞くから、はいそうですよって答えたら、いきなり海兵隊基地の方向に向かって土下座して、『先々代!申し訳有りません!』って。土下座ですよ土下座」
「……家でもやったのかよ……それで?」
「ええ、それで、言ってなかった事が有る、俺、海兵隊の総司令なんだって言うから、知ってますよって言ったんですよ。そうしたら、タカコさんの格好見て気が付いたのかって聞くから、いえ、祖父の葬儀の時にお見掛けしてたので顔は知ってましたって答えたら崩れ落ちちゃって」
「葬儀?」
「はい、真吾さんが総司令に着任してから少し後なんですけど、もう退官してた祖父が亡くなって、その時に真吾さんが来てくれてたんですよ。私は色々手伝いをしていたので挨拶もしなかったですし遠くから両親や兄と話してる真吾さんを見掛けただけなんですけど、それで顔は知ってたんです」
「そうなんだ。何で真吾にそれ言わなかったの?様子から察するに言ってなかったんでしょ?」
「私、一度嫁いでて離縁されてるんでけど、それで困ってた時に真吾さんが凄く良くしてくれて。祖父の孫だって知ったら余計に重荷になっちゃうんじゃないかと思って……それで言えなかったんです」
「あー、そういう事情か……」
確かに世話になった先々代の孫娘と知れば扱いは今よりも丁重なものになっただろう、兄とももっと早くに再会出来たかも知れない。しかし逆に高根との仲が深まる事も無く今の幸せも無かったかも知れないわけで、世の中や人の縁とは何とも奇妙なものだとタカコは出された茶を啜りながらそんな事を考える。
「タカコさんはもうお仕事されてるんですか?今日はどうしたんです?戦闘服着てるのにこんな時間にうちに来て……あ、さぼりですか?」
「いやー、さぼりたいのはいつもの事なんだけど、今日は違うのよ。真吾のお遣いでね、凛ちゃんを基地に連れて来てくれって」
「え?私をですか?」
「うん、そう。お茶飲んだら行こうか」
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのか驚く凛、結婚もしていないのに図々しく職場に顔を出すとはと渋る彼女をタカコは何とか宥め賺し、上着を着せて靴を履かせ外へと出る。呼ばれた理由が皆目見当がつかないのか何度も尋ねて来る凛、それに
「ごめんね、私も詳しくは聞いてないんだ」
と、それだけ言葉を返しゆっくりと歩き続け、小一時間程前に潜った正門を再度潜り、今度は基地内へと足を踏み入れる。警衛所で凛の入場手続きを済ませた後は真っ直ぐに本部棟へと向かい、その道中に凛を興味深げに見る海兵隊の面々には意味有り気な笑みを向けておいた。
立ち止まったのは総司令執務室の扉の前、扉を叩こうとすれば向こうから
「十八歳ですよ十八歳!結婚が早ければ親子でもおかしくない様な年齢差ですよ!」
という島津の興奮した声が聞こえて来て、少々早かったかと思いながら後ろに立った凛をちらりと見遣る。興奮した声が誰のものなのか分かったのだろう、信じられない、そんな心の内を表しているかの様な驚きに目を見開いた面持ちに小さく笑い、タカコは視線を前に戻す。
「まぁ離縁されたのはしょうがないと言うか寧ろ歓迎です、俺はあの男もその親も気に入りませんでした!それで、妊娠も結婚も良いとしましょう、凛も、妹ももう大人です!でもその相手が司令ってどういう事ですか!だって考えてみて下さいよ、『あの』高根海兵隊総司令ですよ!?女性関係に関しては屑の極みと言われてる男が妹を手篭めにして妊娠迄させてるって!は?十一歳年上の、しかも自分の所属の最高司令官を義理の弟に持つ事になるんですか俺は!!」
興奮で我を忘れているのか最高司令官を面と向かって屑呼ばわりする島津、以前高根に『部下に尊敬されていない』と言われた覚えが有るが、これでは彼も自分の事は言えないな、そんな事を思いつつ扉を叩く。
「真吾、連れて来たよ」
「入ってくれ、もう来てる」
中へと向かって呼び掛けてみれば何ともほっとした様な声音、それに笑いながら扉を開ければ、高根の縋る様な眼差しと、島津の射抜く様な眼差しを向けられた。まぁまぁそういきり立つな、島津を見て半歩脇へとずれれば、兄妹の間にはもう隔てるものは何も無く。
「……凛……!」
「……おに、ちゃ……ん……?」
夫々の顔を見てみれば島津は驚きに固まり言葉を失い、凛はと言えば、ぶわりと涙を浮かべ、やがて両手で顔を覆って泣き出してしまった。そしてその後はもう堪え切れずに声を上げて泣くだけ、時折、良かった、良かった、とそう繰り返すのが精一杯。
「……無事で、良かった」
感極まって動く事も出来ない妹に島津がそっと歩み寄り、一言だけそう言って優しく頭を撫でる。少し震えた声音、それでも堪えて彼は高根へと向き直り、
「……妹を……宜しく、お願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
「……有り難う、生涯を懸けて、大切にする」
高根もまたそう言って深く頭を下げ、タカコは目を細めて優しく微笑み、何とも言えない胸の温かさを感じつつ、黙ったままその光景を見詰めていた。
仕事を片付けて大部屋を出れば外を見回っていて戻って来た敦賀とかち合い、高根の家に行くと告げればついて行こうかと言われ、病み上がりには違い無いがそこ迄やわでも鈍ってもいないと断って基地を出た。
入院している間にだいぶ暖かくなって来たと思いつつ十五分程の距離を歩いて高根の自宅へと辿り着く。
「タカコさん!退院されたんですか、おめでとう御座います!」
「ありがとー。お腹、随分大きくなったねぇ」
「それが実は……真吾さんにもまだ言ってないんですけど、双子ですよって昨日の検診で言われたんですよ」
「嘘!双子!?うわー、おめでたが二倍だねぇ!」
「はい。本当なら昨日言うつもりだったんですけど、ちょっと別の話になっちゃって」
「お祖父さんとお兄さんの話?」
「はい、そうですけど……真吾さんに聞いたんですか?あ、どうぞ上がって下さい、お茶淹れますから」
「お邪魔しまーす」
双子という思いもよらない単語に驚くタカコ、凛はタカコの言葉に小首を傾げ、玄関先で話すのもと中へと誘う。タカコはそれに抗う事も無く中へと入り、凛の後について廊下を歩いて居間へと入る。
「それで?別の話ってのは、凛ちゃんの苗字とかお祖父さんの事とか?」
「そうなんですよ、普段は帰って来るの分かるんですけど、玄関が開く音で。でも昨日はそーっと帰って来て、台所の入り口から顔半分だけ覗かせて、『凛ちゃん、ちょっと聞きたい事が有るんだけど』って。それでどうしたのか聞いたら、『君のお祖父さん、海兵隊の先々代総司令の島津義弘中将?お兄さんは島津仁一?』って聞くから、はいそうですよって答えたら、いきなり海兵隊基地の方向に向かって土下座して、『先々代!申し訳有りません!』って。土下座ですよ土下座」
「……家でもやったのかよ……それで?」
「ええ、それで、言ってなかった事が有る、俺、海兵隊の総司令なんだって言うから、知ってますよって言ったんですよ。そうしたら、タカコさんの格好見て気が付いたのかって聞くから、いえ、祖父の葬儀の時にお見掛けしてたので顔は知ってましたって答えたら崩れ落ちちゃって」
「葬儀?」
「はい、真吾さんが総司令に着任してから少し後なんですけど、もう退官してた祖父が亡くなって、その時に真吾さんが来てくれてたんですよ。私は色々手伝いをしていたので挨拶もしなかったですし遠くから両親や兄と話してる真吾さんを見掛けただけなんですけど、それで顔は知ってたんです」
「そうなんだ。何で真吾にそれ言わなかったの?様子から察するに言ってなかったんでしょ?」
「私、一度嫁いでて離縁されてるんでけど、それで困ってた時に真吾さんが凄く良くしてくれて。祖父の孫だって知ったら余計に重荷になっちゃうんじゃないかと思って……それで言えなかったんです」
「あー、そういう事情か……」
確かに世話になった先々代の孫娘と知れば扱いは今よりも丁重なものになっただろう、兄とももっと早くに再会出来たかも知れない。しかし逆に高根との仲が深まる事も無く今の幸せも無かったかも知れないわけで、世の中や人の縁とは何とも奇妙なものだとタカコは出された茶を啜りながらそんな事を考える。
「タカコさんはもうお仕事されてるんですか?今日はどうしたんです?戦闘服着てるのにこんな時間にうちに来て……あ、さぼりですか?」
「いやー、さぼりたいのはいつもの事なんだけど、今日は違うのよ。真吾のお遣いでね、凛ちゃんを基地に連れて来てくれって」
「え?私をですか?」
「うん、そう。お茶飲んだら行こうか」
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのか驚く凛、結婚もしていないのに図々しく職場に顔を出すとはと渋る彼女をタカコは何とか宥め賺し、上着を着せて靴を履かせ外へと出る。呼ばれた理由が皆目見当がつかないのか何度も尋ねて来る凛、それに
「ごめんね、私も詳しくは聞いてないんだ」
と、それだけ言葉を返しゆっくりと歩き続け、小一時間程前に潜った正門を再度潜り、今度は基地内へと足を踏み入れる。警衛所で凛の入場手続きを済ませた後は真っ直ぐに本部棟へと向かい、その道中に凛を興味深げに見る海兵隊の面々には意味有り気な笑みを向けておいた。
立ち止まったのは総司令執務室の扉の前、扉を叩こうとすれば向こうから
「十八歳ですよ十八歳!結婚が早ければ親子でもおかしくない様な年齢差ですよ!」
という島津の興奮した声が聞こえて来て、少々早かったかと思いながら後ろに立った凛をちらりと見遣る。興奮した声が誰のものなのか分かったのだろう、信じられない、そんな心の内を表しているかの様な驚きに目を見開いた面持ちに小さく笑い、タカコは視線を前に戻す。
「まぁ離縁されたのはしょうがないと言うか寧ろ歓迎です、俺はあの男もその親も気に入りませんでした!それで、妊娠も結婚も良いとしましょう、凛も、妹ももう大人です!でもその相手が司令ってどういう事ですか!だって考えてみて下さいよ、『あの』高根海兵隊総司令ですよ!?女性関係に関しては屑の極みと言われてる男が妹を手篭めにして妊娠迄させてるって!は?十一歳年上の、しかも自分の所属の最高司令官を義理の弟に持つ事になるんですか俺は!!」
興奮で我を忘れているのか最高司令官を面と向かって屑呼ばわりする島津、以前高根に『部下に尊敬されていない』と言われた覚えが有るが、これでは彼も自分の事は言えないな、そんな事を思いつつ扉を叩く。
「真吾、連れて来たよ」
「入ってくれ、もう来てる」
中へと向かって呼び掛けてみれば何ともほっとした様な声音、それに笑いながら扉を開ければ、高根の縋る様な眼差しと、島津の射抜く様な眼差しを向けられた。まぁまぁそういきり立つな、島津を見て半歩脇へとずれれば、兄妹の間にはもう隔てるものは何も無く。
「……凛……!」
「……おに、ちゃ……ん……?」
夫々の顔を見てみれば島津は驚きに固まり言葉を失い、凛はと言えば、ぶわりと涙を浮かべ、やがて両手で顔を覆って泣き出してしまった。そしてその後はもう堪え切れずに声を上げて泣くだけ、時折、良かった、良かった、とそう繰り返すのが精一杯。
「……無事で、良かった」
感極まって動く事も出来ない妹に島津がそっと歩み寄り、一言だけそう言って優しく頭を撫でる。少し震えた声音、それでも堪えて彼は高根へと向き直り、
「……妹を……宜しく、お願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
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