大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

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第295章『砲撃』

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第295章『砲撃』

 突如として転進した大和軍教導隊の分隊、散発的な戦闘を展開しつつ彼等は細かく進路を変えながら進み続け、その全てが演習場の中心部に程近い役場跡地の建物へと入って行った。迫撃砲の設置を試みるも十m進んだかと思えば直ぐに進行方向を変える為にそれは叶わず目的地すら分からず、役場跡地が彼等の目的地だと把握出来たのは彼等のほぼ全てが建物の中へと姿を消してからだった。
 それからは沈黙の時間が流れ、建物を包囲しつつ双眼鏡で様子を窺って見れば、最上階の見晴らしの良さそうな部屋の中に数名の人影を発見した。この鳥栖が曝露に見舞われた時の愚を再び犯したか、ワシントン軍特殊部隊の指揮官を擁しておきながら、それを重用する様な慧眼は大和軍には無かったらしい、そんな事を小声で交わしつつ、相手が一か所に落ち着いたのならば迫撃砲の設置を、と、目配せをして動き出す。
 不気味な程に静まり返る周辺、相手に気取られない様にと遠巻きに包囲し砲を設置する。指揮所の爆破音がこちらへと届いて以降、分隊は慌ただしく動き出した、爆破された指揮所以外にもこちらが前線指揮所になっていたのか、高級士官の内誰がこちらへと入っているのか、それともこちらには指揮官は来ておらず、何か有った時の集合場所として指定されていただけなのか。こうして様子を窺っているだけではそういった事は何も分からないが、どちらにせよ最低でも十分隊百十名が集結しているのは確実だ。教導隊――、恐らくは体制が確立する迄の間は特殊部隊も兼ねるであろう集団をここで一気に叩けるのなら、その機会をみすみす逃す事は無い。
 やがて迫撃砲の配置も終わり、一斉の打撃を加えた後に建物に侵入し残りを掃討する為の兵員も包囲網の中且つ安全な位置に就く。ワシントン軍は遊撃要因として全員が演習場の中に配置されたらしく、その彼等によって多少兵員の損失を被ったものの部隊として機能するには充分な員数がまだ残っている。
『砲撃開始!!』
 その命令と共に火を噴く砲口、凄まじい速度で砲弾が吐き出され、装填手が次の榴弾を装填しまたそれが吐き出される。そうして、それ程密ではないものの、役場跡地をぐるりと取り囲む砲撃の円陣が突如として鳥栖の廃墟に出現した。砲弾は炸薬を内包し、建物の外壁や窓を突き破って飛び込んだ先の壁や床へと弾着しその牙を剥く。指揮所と思しき部屋もそれは同様で、こちらからは爆煙で何も見えなくなってしまったが、窓から見えていた人間は初弾の炸裂で既に肉の細切れへと姿を変えているだろう。
 十分程続いた砲撃、もう良いだろうと止めの命令が入り、周囲には火薬の匂いと再び訪れた静寂が漂うのみ。再度双眼鏡を覗き込めば役場跡地の建物からは濛々と粉塵が舞い上がり、段々と薄れて来たそれの向こうに、大量の砲弾を撃ち込まれ無惨な残骸となりかけた建物がぼんやりと姿を現す。距離が有る上に間には民家等それなりの高さの遮蔽物も有る、その為射線がほぼ地面と水平になる様な砲撃は出来ず、放物線を描く曲射の形をとった所為で、明確に破壊出来たのは地上五階建ての役場跡地の建物の四階五階部分に止まり、三階から下は遠目にも原型をほぼ維持しているのが見て取れた。
 見晴らしの良い最上階に全員が集結していたわけでもないだろう、建物の半分以上が無事である事を考えれば、兵員も同じ比率で無事である可能性は高い、ここからは遠距離からの迫撃砲による攻撃ではなく、小銃や手榴弾を使用した接触戦の始まりだ。
『前進を開始しろ。敵は区別無く全て無力化。送れ』
 無線に向けてそう言えば前方に配置した兵員から了解の応答が有り、さて、大和の腰抜け共はどれだけ粘ってくれるのか、そんな事を考えつつ迫撃砲についていた人間達も小銃を手に前進を始める。そして或る程度進んだところで物陰へと身を隠し、放置して来た迫撃砲に繋がる導線へと点火する。小さな火が勢い良く駆け抜けて行き、そして、その直後迫撃砲に設置していた爆薬が炸裂し廃墟の街並みに爆炎が噴き上がった。
 榴弾は使い尽くしたとは言えど、本体を使用可能なまま放置して行く様な愚行は犯さない。自分達にはもう用済みの代物でも、相手が手に入れてしまえば今度はこちらへと向けられる牙ともなりかねない事を考えれば、使用不能な状態にして放棄して行くのは当然の事だった。
 そうしては後始末を終えて進み始めた男達、建物内部の生き残りの掃討は先を行く部隊に専念してもらい、自分達は未だこの廃墟に潜んでいるかも知れないワシントン勢の迎撃、そして排除を念頭に置いておかなければ。相手は正規軍の通常部隊ではなく高い技量を持つ精鋭の揃った特殊部隊だと聞かされている、小銃による掃射のみで片付けられそうな大和軍を相手にするのとはわけが違う、心して掛からなければ全滅の憂き目を見る事にもなりかねない。
 何故彼等がこの地にいるのか、そして、自分達の指揮官は何故彼等に固執するのか、末端の身では窺い知る由も無いが、命令が下されれば相手が何であれ誰であれ、粛々と遂行に向けて動くのみ。頭数は自分達の方が勝っている、それを引っ繰り返されるだけの技量と幸運があちらに無い事を祈ろうか、と、男達はそんな事を考えつつゆっくりと、そして静かに廃墟の中を進んで行った。
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