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第300章『実力差』
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第300章『実力差』
活骸との戦闘に於いて、戦力の分散は死に直結する。個人の力で出来る事は余りにも少なく、脆弱な肉体と力しか持たない人間が生き残る為には、決して一人にはならず、陣形をしっかりと組みそれを崩す事無く、そして、自らの後ろには決して行かせない。そうして少しずつ、時には一気呵成に相手の勢力を削り取って行く、それが、海兵隊の、否、大和の『戦闘』というものだった。
真実だとすら思っていたその価値観が今、薮内の、泉の、そして敦賀の目の前であっさりと覆される。目の前で繰り広げられるのは、自分よりも少し大きい程度か、若しくは自分よりも小さな身体の、自分達と同じ単なる人間が、ナイフと銃を手にたった一人で敵を殺している。時には自分が囮となり敵を分散させ、時には集合しているところに手榴弾を放り込み、『戦力の分散は下の下、死策』という常識を打ち砕いていく様を、大和人である彼等はただ呆然として見詰めていた。
「援護有難うねー。ケンゴ、なかなか筋が良いね」
へらりと、いつもの掴み所の無い笑みを浮かべてそう言うジュリアーニ。
「ダニー、ああ、ボスと一緒にこの国に来て事故で死んだ奴なんだが。彼と組んで狙撃をやる事が多かったんだが、たまにはこうやって身体を動かさないとな、鈍る」
そう言っていつもの穏やかさに力強さと獰猛さを滲ませて微笑むキム。
そして、
「駄目だよ?ちゃんと前方は確認しないと。でないと……ほら、そうなる」
楽しそうに、そして冷淡な声音でそう言いながら、目の前の床に転がる敵の頭部を見下ろしてそう言い放つタカコ。
違い過ぎる、と、それがワシントン勢の動きを目の当たりにした大和三人に共通する、心底からの、そしてほぼ唯一の思考だった。
体格と筋力差は、タカコは明らかに自分達に劣り、ジュリアーニとキムも自分達とほぼ同等程度だろう。肉体的な能力差はそう無い筈だが、心、そして思考は明らかに自分達とは大きな隔たりが有る。彼等は、殺すという行為を呼吸よりも自然に身に付け、そして、呼吸する事がそうである様に、殺す事に一切の躊躇が無い。更に言えば罪悪感もそこには無く、呼吸する、歩く、痒い所を掻く、そんな行為と同じ様に、極々自然に流れる様にして目の前の敵を殺していた。
「……何処が『同じ世界』だ……贔屓目も大概だろうがよ……」
ぽつりと、小さくそう呟く敦賀、彼の脳裏に蘇るのは先程タカコに言われた言葉。
『ああ、こいつは私と同じ世界に立ってるんだなって思ったんだよ、人を殺す事を割り切れて、それで壊れてしまわないで済む世界に。だから、今回のバディに選んだんだ』
確かに、相手が人間であろうと活骸であろうと、自分に、仲間に、そして大和に害為す存在であればそれを殺す事に躊躇は無い。鳥栖曝露のあの夜、飛び出して行ったタカコを守り援護をする為に自然と身体は動いたし、あれから今迄あの時の『初めての殺し』を気に病んだ事も夢に見た事も無かった。
けれど、タカコと自分には未だに大きな隔たりが有る。自分は未だ人間を殺すという行為に呼吸をする程には自然には及べない、その行動に出る前に、僅かの間ではあるものの自らへと言い聞かせている自分がいる、と、敦賀は踵を返して戻って来るタカコを見詰めながらそんな事を考えた。
意識や技量に大きな開きが有る人間同士を組ませる事は、どちらかが相手に引き摺られる事になり最悪の結果を生みかねない、それは活骸相手とは言え実戦経験の長い敦賀にもよく分かっている。それが人間相手ともなれば、そして、戦いが高度且つ激しいものとなればなる程に、群体の質を均一化させる事はより重要となるのだろあという事も。
タカコ達と自分達大和人を二人一組にする事は、恐らくは彼女達にとっても大きな賭けだったのだろう。下手をすれば技量の足りない大和人に自分達が引き摺られて死ぬ事になる、それを考えれば実力差の有るこの組み合わせは避けたかった筈だ。それでもワシントン勢だけでは流石に手は足りず、かと言って本物の対非正規戦に大和人だけを放り出す事も出来ず、最後の手段として大和人の中でも対人の戦闘に現時点で最も適性を持つ人間を選抜し組み合わせ、賭けに打って出たのだろう。
そこに在るのは、タカコの自分自身の能力と感性に対する絶対の自信、そして、大和人に対する全幅の信頼。
これが、彼女が高根と交わした『同盟』の神髄なのか、と、ぶるりと身体を震わせる。彼女が手の内や肚の中を全て見せたとは今でも思っていない、それでも、自らを信じ相手を信じ尊重し、共に戦うという事の意味と重さ、それを今更ながらに実感する。
今尚大きく隔たっていると実感した双方の実力差、きっと自分が、自分達が彼女達のいる高みへと昇るには長い時間と経験、そして犠牲が必要だろう。勝っているものが有るとすれば頭数程度のもの、それもワシントン本国が出て来ればきっとあっさりと覆されるのだろうが、それでもタカコはそれを頼ってくれた、命運を託してくれた。それならば、それを受けた自分達か出来る事は、その期待に応えられる様な働きを見せる、それだけだ。
未だに足りないのであろう事は理解している、それでも指名を受けた、そしてそれを受諾した以上はやるべき事は一つだけ。敦賀は内心で自らにそう言い聞かせながら、こちらへと向かって歩いて来るタカコへと、一歩、踏み出した。
第三部はこれで終了です。
第四部は11月4日20時より公開になります。
11月4日20時以降に
http://www.alphapolis.co.jp/author/detail/513148962/
よりご確認下さい。
活骸との戦闘に於いて、戦力の分散は死に直結する。個人の力で出来る事は余りにも少なく、脆弱な肉体と力しか持たない人間が生き残る為には、決して一人にはならず、陣形をしっかりと組みそれを崩す事無く、そして、自らの後ろには決して行かせない。そうして少しずつ、時には一気呵成に相手の勢力を削り取って行く、それが、海兵隊の、否、大和の『戦闘』というものだった。
真実だとすら思っていたその価値観が今、薮内の、泉の、そして敦賀の目の前であっさりと覆される。目の前で繰り広げられるのは、自分よりも少し大きい程度か、若しくは自分よりも小さな身体の、自分達と同じ単なる人間が、ナイフと銃を手にたった一人で敵を殺している。時には自分が囮となり敵を分散させ、時には集合しているところに手榴弾を放り込み、『戦力の分散は下の下、死策』という常識を打ち砕いていく様を、大和人である彼等はただ呆然として見詰めていた。
「援護有難うねー。ケンゴ、なかなか筋が良いね」
へらりと、いつもの掴み所の無い笑みを浮かべてそう言うジュリアーニ。
「ダニー、ああ、ボスと一緒にこの国に来て事故で死んだ奴なんだが。彼と組んで狙撃をやる事が多かったんだが、たまにはこうやって身体を動かさないとな、鈍る」
そう言っていつもの穏やかさに力強さと獰猛さを滲ませて微笑むキム。
そして、
「駄目だよ?ちゃんと前方は確認しないと。でないと……ほら、そうなる」
楽しそうに、そして冷淡な声音でそう言いながら、目の前の床に転がる敵の頭部を見下ろしてそう言い放つタカコ。
違い過ぎる、と、それがワシントン勢の動きを目の当たりにした大和三人に共通する、心底からの、そしてほぼ唯一の思考だった。
体格と筋力差は、タカコは明らかに自分達に劣り、ジュリアーニとキムも自分達とほぼ同等程度だろう。肉体的な能力差はそう無い筈だが、心、そして思考は明らかに自分達とは大きな隔たりが有る。彼等は、殺すという行為を呼吸よりも自然に身に付け、そして、呼吸する事がそうである様に、殺す事に一切の躊躇が無い。更に言えば罪悪感もそこには無く、呼吸する、歩く、痒い所を掻く、そんな行為と同じ様に、極々自然に流れる様にして目の前の敵を殺していた。
「……何処が『同じ世界』だ……贔屓目も大概だろうがよ……」
ぽつりと、小さくそう呟く敦賀、彼の脳裏に蘇るのは先程タカコに言われた言葉。
『ああ、こいつは私と同じ世界に立ってるんだなって思ったんだよ、人を殺す事を割り切れて、それで壊れてしまわないで済む世界に。だから、今回のバディに選んだんだ』
確かに、相手が人間であろうと活骸であろうと、自分に、仲間に、そして大和に害為す存在であればそれを殺す事に躊躇は無い。鳥栖曝露のあの夜、飛び出して行ったタカコを守り援護をする為に自然と身体は動いたし、あれから今迄あの時の『初めての殺し』を気に病んだ事も夢に見た事も無かった。
けれど、タカコと自分には未だに大きな隔たりが有る。自分は未だ人間を殺すという行為に呼吸をする程には自然には及べない、その行動に出る前に、僅かの間ではあるものの自らへと言い聞かせている自分がいる、と、敦賀は踵を返して戻って来るタカコを見詰めながらそんな事を考えた。
意識や技量に大きな開きが有る人間同士を組ませる事は、どちらかが相手に引き摺られる事になり最悪の結果を生みかねない、それは活骸相手とは言え実戦経験の長い敦賀にもよく分かっている。それが人間相手ともなれば、そして、戦いが高度且つ激しいものとなればなる程に、群体の質を均一化させる事はより重要となるのだろあという事も。
タカコ達と自分達大和人を二人一組にする事は、恐らくは彼女達にとっても大きな賭けだったのだろう。下手をすれば技量の足りない大和人に自分達が引き摺られて死ぬ事になる、それを考えれば実力差の有るこの組み合わせは避けたかった筈だ。それでもワシントン勢だけでは流石に手は足りず、かと言って本物の対非正規戦に大和人だけを放り出す事も出来ず、最後の手段として大和人の中でも対人の戦闘に現時点で最も適性を持つ人間を選抜し組み合わせ、賭けに打って出たのだろう。
そこに在るのは、タカコの自分自身の能力と感性に対する絶対の自信、そして、大和人に対する全幅の信頼。
これが、彼女が高根と交わした『同盟』の神髄なのか、と、ぶるりと身体を震わせる。彼女が手の内や肚の中を全て見せたとは今でも思っていない、それでも、自らを信じ相手を信じ尊重し、共に戦うという事の意味と重さ、それを今更ながらに実感する。
今尚大きく隔たっていると実感した双方の実力差、きっと自分が、自分達が彼女達のいる高みへと昇るには長い時間と経験、そして犠牲が必要だろう。勝っているものが有るとすれば頭数程度のもの、それもワシントン本国が出て来ればきっとあっさりと覆されるのだろうが、それでもタカコはそれを頼ってくれた、命運を託してくれた。それならば、それを受けた自分達か出来る事は、その期待に応えられる様な働きを見せる、それだけだ。
未だに足りないのであろう事は理解している、それでも指名を受けた、そしてそれを受諾した以上はやるべき事は一つだけ。敦賀は内心で自らにそう言い聞かせながら、こちらへと向かって歩いて来るタカコへと、一歩、踏み出した。
第三部はこれで終了です。
第四部は11月4日20時より公開になります。
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