大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
12 / 100

第312章『暗中模索』

しおりを挟む
第312章『暗中模索』

『火発襲撃、絶対に有るだろう、何も聞いてないのか』
『聞いてない、マジで。お前が大和に協力してる事が確定してからこっち、上も作戦の扱いには神経を尖らせてる、この間の鳥栖の襲撃も俺達実働部隊に詳細が知らされたのは前々日だ。露払いとその後の本格的な侵攻を考えれば間違い無く近い内に発電所は叩くだろうが、その時機もどう叩くのかも今の俺には何も知らされてねぇよ』
 場所は海兵隊基地内の営倉、その独房に入れられたドレイクと、彼と鉄格子を挟んで向かい合うタカコ。床に腰を下ろして向かい合う二人の話題は、近々実行されるであろう敵勢による軍用火発への襲撃について。
 軍事侵攻をする上で最優先目標となる事が多い発電所、夫々の駐屯地や基地も自前の発電設備と燃油の備蓄を持ってはいるものの、それはあくまでも非常用電源としての扱いで、稼働するのは発電所の発電機を点検等で複数機停機させる時のみ、それも数年に一度有るか無いか、ここ数年は点検以外で稼働させた事は無い。基本的に海兵隊基地に隣接する博多軍用火力発電所に電力のほぼ全てを依存している、それが九州地方と本州の一部、そして四国の軍事施設の電力事情だった。
『送電ケーブルは海岸線に沿って日本海の海中に沈められてるか、南部や四国へ向けての送電はこっちは地中だ。その場所については私も知らないしお前の上が掴んでるとも考え難い、だとしたら――』
『当然、叩くのは発電所そのものだな』
『それがいつか、それさえ分かればなぁ……』
『この件については俺も本当に知らないんだ、悪いな。上もおかしなもんでな、直属の部下は全て『奴』の配下で固めてる、俺達正規軍からの派遣はその下の扱いだ……直属なら当然知らされているんだろうがなぁ』
 ドレイクの口から出た『奴』という言葉、タカコはそれに肩をぴくりと揺らし、若干小馬鹿にした様子で吐き捨てる。
『直属から正規軍を排した理由、マクマーンは気付いてないんだろうな……『奴』にとってはJCSの副議長なんて肩書は何の意味も無い……目的を達する為の手駒の一つでしかないよ……時機が来れば……マクマーンも、お前も捨てられるぞ』
『……そこ迄の屑か』
『……ああ、私が保証するね』
 奴――、彼の名を口にしなくなり、そう呼ぶようになってから、それすら忌み嫌い余程の事が無ければ話題にも出さなくなってからどれ位になるのだろうか、後から全てを知らされ涙を流しつつも呆然とするしか無かった自分よりも激しく憤り、嘆き、そして数え切れない程に謝罪をしていたタカユキをふと思い出し、込み上げる何かを堪える様にして口元を引き結ぶ。今はそんな感傷に浸っている場合ではない、今日にでも起こるかも知れない火発への襲撃、海上も含めて周辺の警戒を厚くしてはいるものの、万全の備えで臨まなければ恐らくは突破されるだろう、大和の技量は未だに凌ぎ切れる水準には達していない。
『……何ともまぁ……面倒臭ぇ流れになったよなぁ……『奴』が関わってると勘付いた時点で、作戦の続行は不可能と判断して撤退すべきだったかもなぁ、私がいなけりゃ――』
『――それだけは絶対に言うな、タカユキだって同じ事を言ってただろうがよ』
 思わず吐き出した自棄気味の言葉、それに返されたのはドレイクの荒く強い口調。弾かれた様に顔を上げてみれば、向けられているのは言葉と同じ様に強く真っ直ぐな眼差しで、その直後にふわりと和らぐ表情と浮かぶ穏やかな笑み、そして、
『自分がいなけりゃ良いとか、そんな事は何が有っても絶対に言うな。悪いのは『奴』であって、お前じゃない、絶対にだ。タカユキだって、他の誰だって誰もそんな事は言わないし、思ってもいねぇよ……お前はお前らしく前向いて、馬鹿みてぇに大口開けて笑ってろ。お前にはそれが一番似合うから、ブラザー?』
 という言葉に、思わず涙腺が緩むのを感じたタカコは、それを気取られない様に下を向いた。
『……有り難う、ブラザー』
『ブラザーだからな、当然だ』
 タカコさえいなければ、そんな事を言っていた人間がいる事は知っている、きっと彼もそうだろう。それでも、付き纏って離れない汚泥の様な悍ましい呪縛をこうしてあっさりと否定してくれる事がどんなに嬉しいか、救いになるのか、彼も、そして同じ言葉を自分へと与えてくれていたタカユキも、きっと知らないだろう。

「おいタカコ!火発が占拠された!!連中、正面から銃撃食らわせて突っ込みやがった!!最悪な事に真吾も龍興も親父も他のお偉方も纏めて人質だ!!直ぐに来い!!」

 暖かな優しい時間を突然に断ち切ったのは、荒々しく営倉の扉を開けて駆け込んで来た敦賀の言葉、その内容に弾かれる様にして立ち上がり駆け出そうとすれば、格子の向こうから伸びて来た手が肩を掴む。
『ジャス!?今は――』
「お前になら協力するって言っただろうが、俺も連れて行け、ここから出せ!おい上級曹長!そういう事だ、鍵を開けろ!!」
 つい今し方迄の会話とは違い大和語を口にするドレイク、敦賀にもその内容は当然の事ながら理解出来、タカコに先んじて営倉を出ようとしていた足を止めて振り返り、確認をする様にタカコの方を見てドレイクを顎で指し示した。
「信用出来るのかそいつは」
「……ああ、私が保証する……もし反する様な事が有れば私が殺す、鍵を開けてくれ」
 事情に精通し熟練の技量を持った人間は一人でも多い方が良い状況、敦賀はタカコとドレイクを数度交互に見た後、大きく溜息を吐いて外にいた警衛へと声を放る。
「捕虜の独房の鍵を開けてくれ!!責任は俺が持つ!!」
「了解です!!」
「感謝するよ、上級曹長」
「これ以上無ぇくれぇにややこしくなってんだ、面倒掛けるんじゃねぇぞ……それと」
「それと?」
「……あまり俺を怒らせるな……分かったな」
 独房から出て来たドレイクに投げ付けられた敦賀の言葉、その意図するところを理解したドレイクはにやりと笑い、
「努力はするよ、兄弟」
 そう言って敦賀の肩をぽんと叩いて外に向かって歩き出し、敦賀もまた
「……それを止めろって言ってんだろうが……どうもてめぇとは上手くやれる気がしねぇ……」
 と、苛立ちと諦観が入り混じった様な声音でそう吐き捨てると、踵を返して歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...