大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第357章『親として』

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第357章『親として』

「ワシントン合衆国軍統合参謀本部直轄部隊Providence、その司令の任に就いております、階級は大佐です」
 落ち着いた声音で副長へと向かってそう告げるタカコ、言葉と共に姿勢を正し右手を挙げ、指先はこめかみへと向け、肘を真横に開いた陸軍式の敬礼を彼へと向ける。
「……話を聞いていたのなら単刀直入に言わせてもらおう、今直ぐに我々の前から姿を消しこの国を出て行って欲しい。そうしてくれるなら君の事を見逃そう、息子の事も含めて、事情を知る人間も全員が処罰の対象だがそれも見なかった事にする。断るのであれば君を拘束し京都に送り尋問する、息子も高根総司令も黒川総監も同じ道を辿る事になる……どうする?」
「親父!いい加減にしろ!!脅迫するのか!!」
「敦賀、下がれ、私と副長が話をしてるんだ」
「タカコ!?お前も――」
「――下がれと言ってるんだ、聞こえなかったか?」
 静かだが有無を言わせない迫力、それに思わず気圧されて息を飲めば、タカコは横目でそれをちらりと見遣り、再び前方の副長へと視線を戻した。
「構いません、私の役目ももう終わります。どちらにせよそろそろ離脱し本隊へと戻る頃合いでした。私は要求通りに姿を消します、ですから、御子息も高根総司令も黒川総監も、他に処罰対象者がいるのであればその彼等にも、累が及ばない様にお願いします」
「約束出来るのか?」
「はい。司令として部隊の名前を出しての約束を違える程、私は不誠実でも恥知らずでもありません、この場での約束は、確実に」
 お互いに感情を滲ませない口調での会話、敦賀はそれに顔を歪め歯を軋らせ二人から視線を外した。
 タカコは今個人として話をしているのではない、一つの部隊を預かる責任者として、他の陣営の責任者と対等に渡り合っている。そこに個人としての敦賀が入る隙は無い、大和海兵隊最先任としてもまた、それは同じだった。
 今は、今は父の気を静める為にも話を合わせておくのが良いだろう。そして父が駐屯地か官舎へと戻った後に高根に連絡を取り、今後の事を相談すれば良い。恐らくはタカコや彼女の部下達を何処かに匿いそれからまた話し合う事になる、その時に改めて、必ず自分のところに戻って来いと言い彼女に頷かせれば良い。
「多佳子さん、君はとても良い女性だと思う。君の国籍や任務の事が無ければ、私は貴之との結婚には反対しなかった。事実、君の素性を知る迄は息子にこんな素晴らしいお嬢さんが嫁いでくれるのかと、本当に嬉しく思っていた。しかし……分かってくれるね?」
「……はい」
「なかなか納得は出来ないだろう、しかし、それでもそこを堪えて身を引いて欲しい……統幕副長としてもそうだが、子を持つ親として、我が子が不幸になるのは見たくない。君と貴之が逆の立場だったとして、君の親御さんはどう思うだろうか?君に子供がいたとして貴之の立場だったら、君は、反対しないでいられるだろうか?」
 自らの父のその言葉、それを聞いた敦賀ははじかれる様にしてそちらへと向き直り、止めろ、その話題は持ち出すなと、話を遮ろうと一歩副長へと向かって踏み出した。
 それを制止したのはタカコの右腕、目の前の人間が何を言っているのか理解しているのかと彼女を見れば、ふるふると頭を横に振り、
『良いから』
 と、声は出ずに唇だけが動いてそう重ねて止められた。
「……親はいません、孤児です。生後直ぐに捨てられていたそうです。子供も……持てません、過去の任務で砲撃に遭い、その時に子宮を失くしました。ですが、私に親がいて愛されていたのなら、私が子供を持てていたのなら……仰る通り、副長と同じ事を考え、行動していたと思います」
 副長にとっては唐突且つ生々しいタカコの告白、流石に失言だったと思ったのか一瞬僅かに視線を揺らせるが、それでもその動揺は直ぐに消え失せ、少々の沈黙の後、副長は静かに、そしてはっきりと決定的な一言をタカコへと向けて吐き出した。
「……親御さんがいない事はともかくとして……子供を宿せないと言うのなら、益々君と貴之の結婚を認める事は出来ない。君も知っていると思うが貴之は器用な人間じゃない、だからこそ、平凡で構わないから、幸せな家庭を持って欲しいんだ。子供を持ち育て、孫が生まれ、そんな人生を君は貴之に――」
 父の言葉を聞いているのも、タカコが一切反論も否定も抗議もせずにそれを聞いてるのも、もう限界だった。
「もう止めてくれ!!」
 悲鳴にすら似た声を上げ、脇にいたタカコの身体を抱き寄せて頭を深く抱え込む。もう聞かなくて良い、何も言わなくて良い、誰もこいつをこれ以上傷付けないでくれと声を張り上げながら腕に力を込め、もう一秒たりともこの場にはいたくないと顔を上げ父へと向かって吐き捨てる。
「……最低だよ、あんた最低だよ親父……立場は分かる、気持ちも多少は分かる。でも、こいつの極個人的な事をそこ迄言ってこいつを全否定する権利があんたに、誰に有るってんだ?もう親だとは思わねぇ、俺に、こいつに一切関わって来ないでくれ……タカコ、行こう」
 怒り、悲しみ、羞恥、様々な感情が入り乱れて込み上げる何かを無理矢理に嚥下し、敦賀はタカコの腕を掴んで歩き出し部屋を出て行く。タカコは一瞬踏み止まり話はまだ終わっていないとでも言う様に副長へと視線を向けるが、敦賀はそれには構わずに強い力で彼女の腕を引き、やがて二人は扉の向こう、夜の廊下へと消えて行った。
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