大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
58 / 100

第358章『睦』

しおりを挟む
第358章『睦』

「……っ、つる、が……も、無理……っ!」
「るせぇ……お前が煽ったんだろうが……、大人しく抱かれてろ……!」
 深夜の中洲、その一角の連れ込み宿の一室の寝台の上で、一糸纏わぬ姿で絡み合う男女が一組。
 タカコを傷付ける自らの父の言葉と態度に耐え切れず、今後一切関わるなと吐き捨てタカコの腕を引いて自らの執務室を飛び出した敦賀、その彼が向かったのは、基地からは随分と離れた、一度も利用した事の無い連れ込み宿。少しでも離れたい、そんな思いが普段であれば来る事も無い距離迄足を延ばさせた。
 室内に入ればそのままタカコを寝台へ押し倒し、戦闘服のズボンを片脚だけ脱がせた彼女を性急に貫いた。我に返ったのは滾る欲を吐き出した後、強姦まがいの抱き方をしてしまったと身体を起こし詫びた敦賀に触れたのは、タカコの優しい指先、そして掌。
「……落ち着けよ、私は何処にも行かないから、ちゃんとここにいるから……な?さっきのは、親父さんに話を合わせただけだよ。約束しただろ、ずっと、お前の傍にいるって」
 そう言って敦賀を見上げるタカコの顔は僅かに苦痛に歪められ、碌に慣らしもしなかった所為で快感ではなく痛みを与えてしまった事が窺えた。
「……悪い、すまねぇ……痛かったか?」
「平気だよ……そうだ、いつも私がされてばっかりだから、偶には私がしてやろうか」
「……は?」
 突然何かを思いついた様に身体を起こすタカコ、無理をさせたのだから大人しくしていろと制しようとした敦賀の腕を払い除け、今迄とは逆にタカコが敦賀の身体を跨ぎ、ふふ、と笑いながら彼を見下ろす。何をする気だ、と、敦賀がそう問い掛ければ、彼女から与えられたのは何度も何度も繰り返される、触れるだけの口付けだった。
 最初は額、次に眦、頬、唇、少しずつ下へと降りる唇はやがて首筋へ、胸へ腹へと下がって行き、辿り着いたのは勢いを取り戻しつつあった敦賀の雄。
「おい、待て、待て待て」
 今迄タカコにさせた事は無い、して欲しくないと言えば嘘になるが、それでも彼女と出会う迄の自分の行状を思い出せば流石に躊躇が生まれてしまう。肩を押して
「タカコ、止めろ、しなくて良い」
 と、そう言ってはみたものの、彼女から返されたのは
「い、や、だ、大人しく咥えられてろ」
 という言葉と悪戯っぽい笑み。結局はそれに負けて好きな様にされ、彼女の口へと欲を吐き出した後は仕返しとばかりに押し倒し返した。そして再度組み敷いた後は今度は服を全て剥ぎ取り自らも脱ぎ捨て、彼女が根を上げる迄抱き、昂ぶらせ、高みへと押し上げてやり、自らも吐き出した。
 それがどれ程続いたのか、流石にもう無理だと緩々と頭を振って降参の意を示すタカコ、敦賀自身も流石に疲れたと彼女の脇へと身体を横たえ、腕の中の小さな身体をそっと抱き締める。
「……なぁ、何処か、遠くに行くか。お前の事も俺の事も誰も知らない様な、遠くに」
「……え?」
「今のまま博多に、海兵隊にいても、先は見えてる。親父にも勘付かれた、この先どうなるか……お前にも分かってるんじゃねぇのか?」
「……そう、だな」
 抱き締め返す背中へと回された腕、その温かさに目を細め、汗でしっとりと濡れた頬へと口付けを落とし、敦賀は静かに言葉を続ける。
「だったらよ……関東でも東北でも、蝦夷でも良い、俺達の事を誰も知らない様な遠くに行って、そこで暮らすか、二人で」
「……それも良いな」
「海兵隊しか知らねぇから他の仕事なんか最初は難渋もするだろうがよ、何とかなるだろ。二人しかいねぇんだ、小さい部屋借りて、掃除と洗濯は営舎暮らしで叩き込まれてるから問題は無ぇし、料理は追々覚えれば良い」
「仕事って……何やるんだよ。軍上がりの脳筋なんだから、体力仕事しか無理だろ、頭使うとか絶対に無理だろ」
「何でもだ、お前一人食わせる位はどうとでも出来るだろうよ」
「私は何するんだよ」
「家の事やってろ」
「料理とか、私に出来ると思ってるのかお前は。自慢じゃないがな、私は自分の面倒すら碌に見られない人間だぞ、余りにも生活力が無さ過ぎて周りの人間があれこれ世話焼いてくれて、それで何とか生きて来られた程度なんだぞ。缶詰開けたりとか卵茹でるとかその位しか出来ないんだぞ、どうだ参ったか」
「……よし、俺が家の事をやるからお前が稼いで来い」
「いや、冗談抜きでその方が良いと思うわ。私に家を任せたら火事になるか倒壊するぞ、多分」
 そんな事を言いながら笑って身体を摺り寄せるタカコ、敦賀は彼女のそんな様子に目を細め、腕に力を込めて腕の中の身体を更に引き寄せ、その顎を掬い上げて口付け、深く優しく侵して行く。
 情事の後の戯れの言葉、現実味が全く無い事は、二人共に理解している。夜が明ければ基地に戻らねばならない、そして、目の前の、さしあたっては敦賀の父の問題へと対処する為に、高根や黒川と話し合わなければならない。
 敦賀が海兵隊を去る事も、タカコがそれについて行く事も出来ない事は分かっている、儚い夢。それでも二人はその事には触れず、抱き合って口付けを交わしながら、決して実現する事の無い未来の話をいつ迄も続けていた。
 それはやがて訪れた睡魔によって段々と途切れ途切れになり、敦賀が先に眠りへと引き摺り込まれて行く。
「……敦賀?」
「ん……何処にも……行くんじゃ、ねぇぞ……」
 タカコの呼び掛けに途切れ途切れに敦賀が言葉を返す。タカコはそれを見て小さく笑い、
「何処にも行かないよ……ずっと、ずっとお前の傍にいるから」
 囁く様にそう言って敦賀の頬へと一つ口付け、そのままそっと身体を摺り寄せた。敦賀はその感触に表情を和らげ、すう、と、一つ大きく息を吐くとそのまま眠りへと落ちて行く。
 タカコはそれを見ながら僅かに表情を歪め胸へと顔を埋め、彼の身体へと回した腕に、ぎゅ、と、力を込め目を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...