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第358章『睦』
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第358章『睦』
「……っ、つる、が……も、無理……っ!」
「るせぇ……お前が煽ったんだろうが……、大人しく抱かれてろ……!」
深夜の中洲、その一角の連れ込み宿の一室の寝台の上で、一糸纏わぬ姿で絡み合う男女が一組。
タカコを傷付ける自らの父の言葉と態度に耐え切れず、今後一切関わるなと吐き捨てタカコの腕を引いて自らの執務室を飛び出した敦賀、その彼が向かったのは、基地からは随分と離れた、一度も利用した事の無い連れ込み宿。少しでも離れたい、そんな思いが普段であれば来る事も無い距離迄足を延ばさせた。
室内に入ればそのままタカコを寝台へ押し倒し、戦闘服のズボンを片脚だけ脱がせた彼女を性急に貫いた。我に返ったのは滾る欲を吐き出した後、強姦まがいの抱き方をしてしまったと身体を起こし詫びた敦賀に触れたのは、タカコの優しい指先、そして掌。
「……落ち着けよ、私は何処にも行かないから、ちゃんとここにいるから……な?さっきのは、親父さんに話を合わせただけだよ。約束しただろ、ずっと、お前の傍にいるって」
そう言って敦賀を見上げるタカコの顔は僅かに苦痛に歪められ、碌に慣らしもしなかった所為で快感ではなく痛みを与えてしまった事が窺えた。
「……悪い、すまねぇ……痛かったか?」
「平気だよ……そうだ、いつも私がされてばっかりだから、偶には私がしてやろうか」
「……は?」
突然何かを思いついた様に身体を起こすタカコ、無理をさせたのだから大人しくしていろと制しようとした敦賀の腕を払い除け、今迄とは逆にタカコが敦賀の身体を跨ぎ、ふふ、と笑いながら彼を見下ろす。何をする気だ、と、敦賀がそう問い掛ければ、彼女から与えられたのは何度も何度も繰り返される、触れるだけの口付けだった。
最初は額、次に眦、頬、唇、少しずつ下へと降りる唇はやがて首筋へ、胸へ腹へと下がって行き、辿り着いたのは勢いを取り戻しつつあった敦賀の雄。
「おい、待て、待て待て」
今迄タカコにさせた事は無い、して欲しくないと言えば嘘になるが、それでも彼女と出会う迄の自分の行状を思い出せば流石に躊躇が生まれてしまう。肩を押して
「タカコ、止めろ、しなくて良い」
と、そう言ってはみたものの、彼女から返されたのは
「い、や、だ、大人しく咥えられてろ」
という言葉と悪戯っぽい笑み。結局はそれに負けて好きな様にされ、彼女の口へと欲を吐き出した後は仕返しとばかりに押し倒し返した。そして再度組み敷いた後は今度は服を全て剥ぎ取り自らも脱ぎ捨て、彼女が根を上げる迄抱き、昂ぶらせ、高みへと押し上げてやり、自らも吐き出した。
それがどれ程続いたのか、流石にもう無理だと緩々と頭を振って降参の意を示すタカコ、敦賀自身も流石に疲れたと彼女の脇へと身体を横たえ、腕の中の小さな身体をそっと抱き締める。
「……なぁ、何処か、遠くに行くか。お前の事も俺の事も誰も知らない様な、遠くに」
「……え?」
「今のまま博多に、海兵隊にいても、先は見えてる。親父にも勘付かれた、この先どうなるか……お前にも分かってるんじゃねぇのか?」
「……そう、だな」
抱き締め返す背中へと回された腕、その温かさに目を細め、汗でしっとりと濡れた頬へと口付けを落とし、敦賀は静かに言葉を続ける。
「だったらよ……関東でも東北でも、蝦夷でも良い、俺達の事を誰も知らない様な遠くに行って、そこで暮らすか、二人で」
「……それも良いな」
「海兵隊しか知らねぇから他の仕事なんか最初は難渋もするだろうがよ、何とかなるだろ。二人しかいねぇんだ、小さい部屋借りて、掃除と洗濯は営舎暮らしで叩き込まれてるから問題は無ぇし、料理は追々覚えれば良い」
「仕事って……何やるんだよ。軍上がりの脳筋なんだから、体力仕事しか無理だろ、頭使うとか絶対に無理だろ」
「何でもだ、お前一人食わせる位はどうとでも出来るだろうよ」
「私は何するんだよ」
「家の事やってろ」
「料理とか、私に出来ると思ってるのかお前は。自慢じゃないがな、私は自分の面倒すら碌に見られない人間だぞ、余りにも生活力が無さ過ぎて周りの人間があれこれ世話焼いてくれて、それで何とか生きて来られた程度なんだぞ。缶詰開けたりとか卵茹でるとかその位しか出来ないんだぞ、どうだ参ったか」
「……よし、俺が家の事をやるからお前が稼いで来い」
「いや、冗談抜きでその方が良いと思うわ。私に家を任せたら火事になるか倒壊するぞ、多分」
そんな事を言いながら笑って身体を摺り寄せるタカコ、敦賀は彼女のそんな様子に目を細め、腕に力を込めて腕の中の身体を更に引き寄せ、その顎を掬い上げて口付け、深く優しく侵して行く。
情事の後の戯れの言葉、現実味が全く無い事は、二人共に理解している。夜が明ければ基地に戻らねばならない、そして、目の前の、さしあたっては敦賀の父の問題へと対処する為に、高根や黒川と話し合わなければならない。
敦賀が海兵隊を去る事も、タカコがそれについて行く事も出来ない事は分かっている、儚い夢。それでも二人はその事には触れず、抱き合って口付けを交わしながら、決して実現する事の無い未来の話をいつ迄も続けていた。
それはやがて訪れた睡魔によって段々と途切れ途切れになり、敦賀が先に眠りへと引き摺り込まれて行く。
「……敦賀?」
「ん……何処にも……行くんじゃ、ねぇぞ……」
タカコの呼び掛けに途切れ途切れに敦賀が言葉を返す。タカコはそれを見て小さく笑い、
「何処にも行かないよ……ずっと、ずっとお前の傍にいるから」
囁く様にそう言って敦賀の頬へと一つ口付け、そのままそっと身体を摺り寄せた。敦賀はその感触に表情を和らげ、すう、と、一つ大きく息を吐くとそのまま眠りへと落ちて行く。
タカコはそれを見ながら僅かに表情を歪め胸へと顔を埋め、彼の身体へと回した腕に、ぎゅ、と、力を込め目を閉じた。
「……っ、つる、が……も、無理……っ!」
「るせぇ……お前が煽ったんだろうが……、大人しく抱かれてろ……!」
深夜の中洲、その一角の連れ込み宿の一室の寝台の上で、一糸纏わぬ姿で絡み合う男女が一組。
タカコを傷付ける自らの父の言葉と態度に耐え切れず、今後一切関わるなと吐き捨てタカコの腕を引いて自らの執務室を飛び出した敦賀、その彼が向かったのは、基地からは随分と離れた、一度も利用した事の無い連れ込み宿。少しでも離れたい、そんな思いが普段であれば来る事も無い距離迄足を延ばさせた。
室内に入ればそのままタカコを寝台へ押し倒し、戦闘服のズボンを片脚だけ脱がせた彼女を性急に貫いた。我に返ったのは滾る欲を吐き出した後、強姦まがいの抱き方をしてしまったと身体を起こし詫びた敦賀に触れたのは、タカコの優しい指先、そして掌。
「……落ち着けよ、私は何処にも行かないから、ちゃんとここにいるから……な?さっきのは、親父さんに話を合わせただけだよ。約束しただろ、ずっと、お前の傍にいるって」
そう言って敦賀を見上げるタカコの顔は僅かに苦痛に歪められ、碌に慣らしもしなかった所為で快感ではなく痛みを与えてしまった事が窺えた。
「……悪い、すまねぇ……痛かったか?」
「平気だよ……そうだ、いつも私がされてばっかりだから、偶には私がしてやろうか」
「……は?」
突然何かを思いついた様に身体を起こすタカコ、無理をさせたのだから大人しくしていろと制しようとした敦賀の腕を払い除け、今迄とは逆にタカコが敦賀の身体を跨ぎ、ふふ、と笑いながら彼を見下ろす。何をする気だ、と、敦賀がそう問い掛ければ、彼女から与えられたのは何度も何度も繰り返される、触れるだけの口付けだった。
最初は額、次に眦、頬、唇、少しずつ下へと降りる唇はやがて首筋へ、胸へ腹へと下がって行き、辿り着いたのは勢いを取り戻しつつあった敦賀の雄。
「おい、待て、待て待て」
今迄タカコにさせた事は無い、して欲しくないと言えば嘘になるが、それでも彼女と出会う迄の自分の行状を思い出せば流石に躊躇が生まれてしまう。肩を押して
「タカコ、止めろ、しなくて良い」
と、そう言ってはみたものの、彼女から返されたのは
「い、や、だ、大人しく咥えられてろ」
という言葉と悪戯っぽい笑み。結局はそれに負けて好きな様にされ、彼女の口へと欲を吐き出した後は仕返しとばかりに押し倒し返した。そして再度組み敷いた後は今度は服を全て剥ぎ取り自らも脱ぎ捨て、彼女が根を上げる迄抱き、昂ぶらせ、高みへと押し上げてやり、自らも吐き出した。
それがどれ程続いたのか、流石にもう無理だと緩々と頭を振って降参の意を示すタカコ、敦賀自身も流石に疲れたと彼女の脇へと身体を横たえ、腕の中の小さな身体をそっと抱き締める。
「……なぁ、何処か、遠くに行くか。お前の事も俺の事も誰も知らない様な、遠くに」
「……え?」
「今のまま博多に、海兵隊にいても、先は見えてる。親父にも勘付かれた、この先どうなるか……お前にも分かってるんじゃねぇのか?」
「……そう、だな」
抱き締め返す背中へと回された腕、その温かさに目を細め、汗でしっとりと濡れた頬へと口付けを落とし、敦賀は静かに言葉を続ける。
「だったらよ……関東でも東北でも、蝦夷でも良い、俺達の事を誰も知らない様な遠くに行って、そこで暮らすか、二人で」
「……それも良いな」
「海兵隊しか知らねぇから他の仕事なんか最初は難渋もするだろうがよ、何とかなるだろ。二人しかいねぇんだ、小さい部屋借りて、掃除と洗濯は営舎暮らしで叩き込まれてるから問題は無ぇし、料理は追々覚えれば良い」
「仕事って……何やるんだよ。軍上がりの脳筋なんだから、体力仕事しか無理だろ、頭使うとか絶対に無理だろ」
「何でもだ、お前一人食わせる位はどうとでも出来るだろうよ」
「私は何するんだよ」
「家の事やってろ」
「料理とか、私に出来ると思ってるのかお前は。自慢じゃないがな、私は自分の面倒すら碌に見られない人間だぞ、余りにも生活力が無さ過ぎて周りの人間があれこれ世話焼いてくれて、それで何とか生きて来られた程度なんだぞ。缶詰開けたりとか卵茹でるとかその位しか出来ないんだぞ、どうだ参ったか」
「……よし、俺が家の事をやるからお前が稼いで来い」
「いや、冗談抜きでその方が良いと思うわ。私に家を任せたら火事になるか倒壊するぞ、多分」
そんな事を言いながら笑って身体を摺り寄せるタカコ、敦賀は彼女のそんな様子に目を細め、腕に力を込めて腕の中の身体を更に引き寄せ、その顎を掬い上げて口付け、深く優しく侵して行く。
情事の後の戯れの言葉、現実味が全く無い事は、二人共に理解している。夜が明ければ基地に戻らねばならない、そして、目の前の、さしあたっては敦賀の父の問題へと対処する為に、高根や黒川と話し合わなければならない。
敦賀が海兵隊を去る事も、タカコがそれについて行く事も出来ない事は分かっている、儚い夢。それでも二人はその事には触れず、抱き合って口付けを交わしながら、決して実現する事の無い未来の話をいつ迄も続けていた。
それはやがて訪れた睡魔によって段々と途切れ途切れになり、敦賀が先に眠りへと引き摺り込まれて行く。
「……敦賀?」
「ん……何処にも……行くんじゃ、ねぇぞ……」
タカコの呼び掛けに途切れ途切れに敦賀が言葉を返す。タカコはそれを見て小さく笑い、
「何処にも行かないよ……ずっと、ずっとお前の傍にいるから」
囁く様にそう言って敦賀の頬へと一つ口付け、そのままそっと身体を摺り寄せた。敦賀はその感触に表情を和らげ、すう、と、一つ大きく息を吐くとそのまま眠りへと落ちて行く。
タカコはそれを見ながら僅かに表情を歪め胸へと顔を埋め、彼の身体へと回した腕に、ぎゅ、と、力を込め目を閉じた。
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