大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第365章『福江島』

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第365章『福江島』

 ――長崎、五島列島福江島西部――
『おい、交代の時間だぞ』
『ああ、もうそんな時間か』
『佐世保迄補給に出てたケインとヴィンスが戻って来た。これ食ったら少し眠れ、どうせ待つ以外はやる事も無ぇ、体力と気力貯えとけよ』
 周辺は漁業資源の豊かな海域の五島列島、その最大の島、福江島。現在ここに暮らす大和人は五百人程、その全員が漁師とその家族で、外洋で獲った魚を佐世保漁港へと水揚げして生計を立てている。タカコ達がいるのはその西部の海岸線近くの廃墟、明かり取りの窓から覗く暗い水平線の遥か向こうには、嘗て大韓民国と呼ばれた国の領土であった火山島、済州島が在る。
 済州島――、『あの日』、事故が無ければ自分達の部隊が乗った輸送機が着陸していた筈の場所、自ワシントンが大和へと関わる為の巨大な橋頭堡。千日目を迎えた後は速やかに大和陣営から離脱しこの福江島へと渡り、沿岸警備隊の監視を潜り抜け夜間に迎えに来た小型の艦艇へと乗り込み帰投する、それが当初からの計画だった。
 本来であれば直接の指揮権を持たないJCSが総指揮権を有するこの計画、そこにヨシユキがマクマーンを仲介して入り込んでいる事が判明した今、水平線の向こうからやって来るものが味方なのか敵なのか、それは分からない。マクマーンが大人しくしている筈が無いと部下に命じて潜入はさせているものの、決定的な証拠が見つからなければそちらからの働きかけにより本国から部隊が改めて送られて来る事も無いだろう。
『ほら、食えよ。久し振りに温かい飯だぜ?海兵隊基地出て来て以来だ』
 腕時計を見れば時計は既に深夜、隣へと腰掛けたドレイクが手渡して来た雑炊の椀を受け取り、中身を匙で口へと運びながらタカコは視線を前へと戻した。月の明かりを受けて微かに煌めく海面、海岸は目と鼻の先の崖の下、波の音はこうして室内にいても聞こえて来る。
 ここ福江島は島外の人間がやって来る事は殆ど無い、他所者がいれば直ぐに気付かれる。それは分かっていたから出来ればギリギリ迄本土の佐世保に留まっていたかったが、佐世保にいられたのはほんの数日。沿岸警備隊や佐世保近辺の陸軍に加え、博多にしかいない筈の海兵隊迄もが佐世保の街で何かを探す様になり、危険過ぎるというタカコの判断の下、福江島へと入り身を隠す事になったのが十日前、博多を出てから二週間目の事。
 そうして身を隠せたは良いがそれで直面したのは今度は補給問題、人口も少なく人の入れ替わりも殆ど無いこの島で島民の食料をや家畜を盗めば、騒ぎは直ぐに島全体に広がるだろう、かと言って鍛えた軍人七名の腹を満たす様な大型の野生動物もおらず、持ち出して来た食料を食べ尽した後には使われていない船を拝借し、結局佐世保へと補給の為に舞い戻る羽目になった。
 今はとにかく待つしか無い、済州島からやって来るのであれば済州島と九州を結んだ最短距離の直線状、その上に有るこの島の周辺海域へと必ず艦艇は現れる。それを見付けてから船で海へと出て、艦艇へと乗り込んで合流すれば良い。
 その先は、下手をすれば艦艇に乗り込んだ瞬間から戦闘に発展するかも知れない。ヨシユキは輸送機に手を加えられる程計画に近いところにいた、マクマーンという仲介も有れば、自分達先遣隊の後に島に上陸している筈の本隊はヨシユキを指揮官として据えた部隊かも知れない、否、確実にそうだろう。そして、彼は先遣隊の帰投を待つ事無く、自らの配下の私兵達も加え大和へと上陸したに違い無い。
 佐世保にいた時もここへと来てからも、昼夜通して見張りを立て海を監視しているが不審な船が沖へと向かって行った様子は無い。太平洋側は産油施設として、日本海側は軍事施設が集結しているという重要性から沿岸警備隊の監視は密だ、それを掻い潜ろうとするのなら最短距離を行く事は間違い無い、その海域に位置するここで監視をしていても何も見ないという事は、ヨシユキと彼が率いて上陸した部隊は未だ大和国内に留まっている筈だ。彼の息の掛かった者が全員そちらにおり、済州島にいるであろう本隊は何も知らなけれは良いのだが、タカコはそんな事を考えつつ椀に口を付け、残り少なくなった中身を呷り一気に胃へと流し込む。
 もし知らないのであればどうとでもやり様は有る、総指揮官はJCS議長であるウォルコット、その彼から現場の全権を委任されて投入された自分には大きな権限が有る。他の部隊長と連携し、ヨシユキとマクマーンの息の掛かった者は拘束すれば良い。
 しかし、二人の指揮下に在る人間が一定数いるのだとしたら事情はだいぶ厳しくなる、そうなって欲しくはないが、覚悟だけはしておくべきだろう。
『……なぁ、お前、本当に良いのかよ?』
 これからの事を考えていたタカコの意識を現実へと引き戻したのはドレイクのそんな語り掛け、何を指しての事かはタカコにも分かってはいたが、敢えて知らぬ振りで言葉を返す。
『何がだ』
『敦賀の事だよ、お前等、くっついたんだろ?碌に話もしねぇで出て来たんじゃないのか?良いのかよ?』
『……本気になるなとか言ってたのお前だろうがよ、今更何言ってんだ』
『そりゃそうなんだけどさ、お前はあいつを選んだんだろうが。お前を置いて行くって選択は俺もお前の部下達も誰も考えてないだろうけどよ、それなら、あいつを、敦賀を連れて来ても良かったんじゃねぇのか?』
『……立場が逆ならどうするか、もう答え出てるじゃねぇかよ、今ので』
『……だな、悪い……一番しんどいのはお前だよな』
『しょうがねぇさ、仕事だ、仕事。仕事と俺とどっちが大事なんだとか言われてもな、答えは決まりきってるさ』
 副長に、敦賀の父親に言われた言葉はドレイクにも部下達にも言っていない。知ればきっと激怒するだろう事は分かりきっている。
『そろそろ寝とけ、俺が添い寝してやろうか?』
『お前がこれからの見張りなんだろうがよ、何言ってんだ。まぁ、膝枕でなら寝てやっても良いぞ』
『はいはい、してやるからさっさと眠れ』
 窓から差し込む月明かりだけの闇の中、そんな軽口を叩き合った後、床へと腰を下ろしたドレイクの横にタカコも続き、ごろりと横になるとドレイクの腿へと頭を乗せて目を閉じる。
『……なぁ、俺にしとくか?ジャスティンさんてば見た目も中身もイケメンだしお勧めだぜ?』
『見た目が良いのは認めるがよ……中身は屑だろお前』
『酷い事言うな、お前』
『……お休み』
『ああ、お休み』
 頭へと乗せられてそこを優しく撫でるドレイクの大きな手、タカコはそれに微かに微笑み、やがて眠りへと落ちて行った。
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