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第366章『捜索』
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第366章『捜索』
博多に次ぐ軍の街、佐世保。九州地方の沿岸警備隊と陸軍が使用する全ての艦艇を製造し修繕する巨大な船舶工廠が在り、それに隣接して沿岸警備隊佐世保基地が置かれている。それと同時に日本海と東シナ海の境目に位置し、周辺海域は豊かな漁業資源に恵まれており漁業も盛んで、完全に軍需に依存している博多とは全く違った活気を見せる街。そこでは本来見る事の無い、海兵隊の戦闘服が視界の端にちらりと映り、タカコはそちらを注視する事も無くするりと物陰へと滑り込んだ。
完全に身を潜めてから見てみれば、やはりそこには数名の海兵がおり、その内の二人がよくよく見知った人物、少佐の島津と上級曹長の藤田である事を確認し大きく溜息を吐く。
海兵隊を去ってから一ヶ月、もう会う事は無いと思っていたが、彼等は別れから十日も経たない内にこの佐世保の街へと姿を現した。自分達を探しに来たのか、それとも訓練の為の出張なのか、直ぐには動かずに様子を窺おうかと思ったものの、彼等が手にしていた自分や部下の写真を佐世保の街で見せ回っているのを目にした事で福江島への移動を決断した。
「何で今更探しに来るかな……もう終わったんだってば、お前等との同盟は」
溜息を吐きながらそう言って補給物資を地面に置きその横に座り込み、がしがしと頭を掻く。船に戻る予定は夜半過ぎ、今直ぐ動く必要が有るわけではないから慌てはしていないものの、今回は多めに補給しようと思い東洋系全員で佐世保に上陸していた事を思い出し、他の面々が見つかる様な事にならなければ良いが、と、そんな事を考えた。
敦賀の自分への執着と意向を汲んでやって来たという事は無いだろう、海兵隊総司令の高根には離脱の事はきちんと話した事は無かった、彼の立場からすれば手放したくはないだろうから、彼の命令で連れ戻す為に探しているのかも知れない。戻るわけにはいかないから、万が一見つかってしまえば確保しようとするに違い無い彼等に対して反抗するしか無い、殺すつもりは無いが少々の時間動けなくなる程度の怪我はしてもらわざるを得ないだろう。自分だけが相手であればそれで済むが、キムはまだ良いとしてもカタギリとマクギャレット、元から扱い難い気質の上に部隊外の人間に対しては攻撃的なあの二人が居合わせたら血を見るのは確実で、自分が割って入らなければ冗談抜きで死人が出る事になる。
「……頼むから、気付かないでいてくれよ」
久し振りに見た、よく見知った人物達、タカコはその彼等を物陰から見詰めつつ、小さく、小さく呟いた。
「いないっすねぇ……本当に佐世保に来てるんすか?」
「俺に言われても……ただ、副長にタカコが話したらしいけど、佐世保の沖合に有る大きな島が前線基地になる予定だったらしくて。そこに戻る可能性が高いから、それなら絶対にこの佐世保から出向するだろうからって司令も言ってたし、今はそれに賭けるしか無いでしょう」
今年で任官から十八年になる、敦賀に次ぐ経験の持ち主である上級曹長の藤田と、任官から九年にしかならないが士官であり現在の階級は少佐の島津。経験の長さと年齢と星の数、その三つが複雑に絡み合う軍隊という場所では互いに相手を立てつつ立てられつつであり、夫々が敦賀程には親しく付き合っているわけでもなく、中途半端な言葉遣いと態度で成果の無い現状を零しつつ、喫茶店へと入り向かい合って腰を下ろす。
最初は博多の街やその近隣を探していたが何も痕跡は見つからず、そうこうしている内に副長から高根達上層部へと情報が齎されたのか、佐世保を狙い撃ちにするように命令が下された。それ以来通常の任務を解かれてタカコ達の捜索の為にこの佐世保の街へと赴任し、沿岸警備隊の営舎に間借りし昼夜を問わず交代で佐世保の街を歩き回る日々。
たった数人の為に、しかも最大の目標は一人の女、それに対して全く何も思わないわけではない。それでもその女一人がどれだけの影響力を持っているのか、大和の未来の為にどれ程重要な人物なのか、それは彼女という存在を間近に見て来た彼等にもよく分かっていた。
何よりも、単なる価値有る人物としてだけではなく、親しい友人としても好ましく思っていた、そんな人物が突然何も告げずに消えてしまったという事は、彼等にとってそれなりの衝撃を齎す出来事だった。出来ればまた彼女達に戻って来て欲しい、本国に戻るにしてもきちんと言葉を交わし笑顔で握手を交わして別れを告げたい、それが彼等の、藤田と島津の偽らざる心境だった。
タカコが消えてからの敦賀の様子を見るにつけ、彼女が姿を消した事は予定されていた事ではないのだろう、少なくとも敦賀にとってはそうだった筈だ。もし知っていたとすれば、彼がタカコに心底惚れ込んでいるとは言えど、傍目にも危ういと分かる程に調子を崩す事は有り得ない、そこ迄分別の無い男でも脆弱な精神の持ち主でもない事は、長年付き合って来た自分達がよく分かっている。恐らくは、彼の前から突然に、別れも告げずに彼女は姿を消したのだ、だからあれ程敦賀は狼狽し、そして落胆しきっているのに違い無い。
タカコ達が姿を消した日、総司令執務室で敦賀が副長を殴り飛ばすという騒ぎが有った事は既に周知の事実で、副長も絡んだ何か突発的な事態が起き、それがタカコが姿を消した事にも関わっているのだろうという事が窺えた。
何にせよ、戦略的にも一人の人間としても女性としても、彼女は大和に、敦賀に必要とされている、出来るだけ早く探し出し、少々手荒な事をしてでも博多へと、海兵隊基地へと連れ帰らなければ。藤田と島津の二人はそんな事を言い合いながら、店員へと定食を二つ注文しポケットから取り出した煙草へと火を点けた。
博多に次ぐ軍の街、佐世保。九州地方の沿岸警備隊と陸軍が使用する全ての艦艇を製造し修繕する巨大な船舶工廠が在り、それに隣接して沿岸警備隊佐世保基地が置かれている。それと同時に日本海と東シナ海の境目に位置し、周辺海域は豊かな漁業資源に恵まれており漁業も盛んで、完全に軍需に依存している博多とは全く違った活気を見せる街。そこでは本来見る事の無い、海兵隊の戦闘服が視界の端にちらりと映り、タカコはそちらを注視する事も無くするりと物陰へと滑り込んだ。
完全に身を潜めてから見てみれば、やはりそこには数名の海兵がおり、その内の二人がよくよく見知った人物、少佐の島津と上級曹長の藤田である事を確認し大きく溜息を吐く。
海兵隊を去ってから一ヶ月、もう会う事は無いと思っていたが、彼等は別れから十日も経たない内にこの佐世保の街へと姿を現した。自分達を探しに来たのか、それとも訓練の為の出張なのか、直ぐには動かずに様子を窺おうかと思ったものの、彼等が手にしていた自分や部下の写真を佐世保の街で見せ回っているのを目にした事で福江島への移動を決断した。
「何で今更探しに来るかな……もう終わったんだってば、お前等との同盟は」
溜息を吐きながらそう言って補給物資を地面に置きその横に座り込み、がしがしと頭を掻く。船に戻る予定は夜半過ぎ、今直ぐ動く必要が有るわけではないから慌てはしていないものの、今回は多めに補給しようと思い東洋系全員で佐世保に上陸していた事を思い出し、他の面々が見つかる様な事にならなければ良いが、と、そんな事を考えた。
敦賀の自分への執着と意向を汲んでやって来たという事は無いだろう、海兵隊総司令の高根には離脱の事はきちんと話した事は無かった、彼の立場からすれば手放したくはないだろうから、彼の命令で連れ戻す為に探しているのかも知れない。戻るわけにはいかないから、万が一見つかってしまえば確保しようとするに違い無い彼等に対して反抗するしか無い、殺すつもりは無いが少々の時間動けなくなる程度の怪我はしてもらわざるを得ないだろう。自分だけが相手であればそれで済むが、キムはまだ良いとしてもカタギリとマクギャレット、元から扱い難い気質の上に部隊外の人間に対しては攻撃的なあの二人が居合わせたら血を見るのは確実で、自分が割って入らなければ冗談抜きで死人が出る事になる。
「……頼むから、気付かないでいてくれよ」
久し振りに見た、よく見知った人物達、タカコはその彼等を物陰から見詰めつつ、小さく、小さく呟いた。
「いないっすねぇ……本当に佐世保に来てるんすか?」
「俺に言われても……ただ、副長にタカコが話したらしいけど、佐世保の沖合に有る大きな島が前線基地になる予定だったらしくて。そこに戻る可能性が高いから、それなら絶対にこの佐世保から出向するだろうからって司令も言ってたし、今はそれに賭けるしか無いでしょう」
今年で任官から十八年になる、敦賀に次ぐ経験の持ち主である上級曹長の藤田と、任官から九年にしかならないが士官であり現在の階級は少佐の島津。経験の長さと年齢と星の数、その三つが複雑に絡み合う軍隊という場所では互いに相手を立てつつ立てられつつであり、夫々が敦賀程には親しく付き合っているわけでもなく、中途半端な言葉遣いと態度で成果の無い現状を零しつつ、喫茶店へと入り向かい合って腰を下ろす。
最初は博多の街やその近隣を探していたが何も痕跡は見つからず、そうこうしている内に副長から高根達上層部へと情報が齎されたのか、佐世保を狙い撃ちにするように命令が下された。それ以来通常の任務を解かれてタカコ達の捜索の為にこの佐世保の街へと赴任し、沿岸警備隊の営舎に間借りし昼夜を問わず交代で佐世保の街を歩き回る日々。
たった数人の為に、しかも最大の目標は一人の女、それに対して全く何も思わないわけではない。それでもその女一人がどれだけの影響力を持っているのか、大和の未来の為にどれ程重要な人物なのか、それは彼女という存在を間近に見て来た彼等にもよく分かっていた。
何よりも、単なる価値有る人物としてだけではなく、親しい友人としても好ましく思っていた、そんな人物が突然何も告げずに消えてしまったという事は、彼等にとってそれなりの衝撃を齎す出来事だった。出来ればまた彼女達に戻って来て欲しい、本国に戻るにしてもきちんと言葉を交わし笑顔で握手を交わして別れを告げたい、それが彼等の、藤田と島津の偽らざる心境だった。
タカコが消えてからの敦賀の様子を見るにつけ、彼女が姿を消した事は予定されていた事ではないのだろう、少なくとも敦賀にとってはそうだった筈だ。もし知っていたとすれば、彼がタカコに心底惚れ込んでいるとは言えど、傍目にも危ういと分かる程に調子を崩す事は有り得ない、そこ迄分別の無い男でも脆弱な精神の持ち主でもない事は、長年付き合って来た自分達がよく分かっている。恐らくは、彼の前から突然に、別れも告げずに彼女は姿を消したのだ、だからあれ程敦賀は狼狽し、そして落胆しきっているのに違い無い。
タカコ達が姿を消した日、総司令執務室で敦賀が副長を殴り飛ばすという騒ぎが有った事は既に周知の事実で、副長も絡んだ何か突発的な事態が起き、それがタカコが姿を消した事にも関わっているのだろうという事が窺えた。
何にせよ、戦略的にも一人の人間としても女性としても、彼女は大和に、敦賀に必要とされている、出来るだけ早く探し出し、少々手荒な事をしてでも博多へと、海兵隊基地へと連れ帰らなければ。藤田と島津の二人はそんな事を言い合いながら、店員へと定食を二つ注文しポケットから取り出した煙草へと火を点けた。
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