大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第368章『仲間』

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第368章『仲間』

「……連れ戻しにって……誰の命令だよ」
「馬鹿か、司令に決まってるだろうが。海兵隊には、大和にはお前が必要だ、だから必ず連れて帰れ、そう命令されてるんだよ、俺も藤田さんも……帰るぞ」
 帰る、島津と藤田の口から出るその言葉にタカコは険を深くして舌を打つ。違う、自分はもう大和海兵隊とは袂を別ったのだ、お前達とは敵ではないが仲間でもない、『帰る』事等有り得ないのだ。もう私に構うな、固執するな、求めるな、そんな事を考えつつ、ぎりり、と、歯を軋らせた。
「何が有ったのかは詳しくは聞いてない、でも、何の挨拶も無くいきなり消える事は無かったんじゃないのか?先任だって――」
「黙れ!!」
 先任――、『あの人物』を指し示す言葉を聞いた時、ほとんど無意識に声を張り上げていた。忘れようとしているのだ、思い出させるな、身体の奥底を掻き毟られる様な衝動を抑え込みながら一つ大きく息を吸い、そして吐き、そこで改めて島津へと向かって向き直る。
「――タカコ、帰るなとは言わない、俺達だって軍人だ、任務や役目が有ればそうしなきゃならないのは分かってる。でも、何も話もせずに挨拶もせずに消える事は無いんじゃないのか?国が違っても、所属が違っても、俺達はお前の仲間だろう?」
 実に嫌なところを突いて来る、この国に来てから二年九ヶ月、やはり近くに居過ぎたかも知れない、ここ迄自分の心が揺れるようになるとは思ってもみなかった。それでもやはり彼等と戻るわけにはいかないのだ、自分は役目の為に、部下の為に、そしてあの人物――、敦賀の為に、海兵隊と袂を別ちこの国から姿を消さなければいけない。
 さて、どう動いたものか、タカコはそんな事を考えつつ、島津の言葉に返事をする事も無く唯黙ったまま。そんな時間がどれ程経過したのか、痺れを切らしたのか島津と藤田がじりじりと動き出す。タカコの実力は思い知ってはいるものの相手は女が一人、男二人掛かりならどうにかなるだろうと彼女を挟んで目線で合図をしつつ少しずつ少しずつ距離を縮めていく。
「仲間に、お前に危害を加える気は無い、俺達と一緒に博多に、基地に戻ってくれるだけで良いんだ。そこで改めて司令達と話をしてくれ、その上で――」
 タカコはじっとしたまま身動ぎもせず、努めて冷静に話し掛けつつにじり寄っていた島津が、あと一歩、そう思い彼女へと向けていた腕を更に伸ばした、その瞬間だった。
『勘違いするな大和人、この人は俺達の指揮官だ、お前達大和人の仲間なんかじゃない』
 既に日は暮れ始め薄暗くなっていた景色、不意に上空に影が差し更に暗くなる。その言葉と共に降って来たのは聞き覚えの有る声が紡ぐ意味の分からない言葉、そして、隠しもせずに全身に殺気を纏ったカタギリの身体だった。
「片桐!?邪魔を――」
 タカコと島津の間に割って入る形で屋根から飛び降りて来たのであろうカタギリの身体、言葉を聞き終える事も無く掌底が喉元を狙い繰り出され、咄嗟に身体を捻って跳び退りはしたものの胸板へとそれを食らった島津の身体が地面へと転がる。タカコの背後には同じ様に飛び降りて来たのであろうマクギャレットの背中、その彼女もまた一切の躊躇無く素早く踏み込んで藤田の間合いへと入り込み、タカコへと伸ばされた彼の腕を薙ぎ払いつつ掴んで捻り、大きな体躯を軽々と地面へと転がした。
『御無事ですか、ボス』
『やはり離れない方が良かったですね、申し訳有りません』
 二人はタカコの今迄の行動を知ってか知らずか責める事も無く気遣うだけ、そして夫々がタカコはを背中に庇いつつ、凄まじい迄の殺気を迸らせ今にも無力化に動かんばかりの様子で、タカコはそれを見て一度ふるふると素早く頭を振ると、低く、そして冷たい声音で二人へと向けて命令を下した。
『これ以上の面倒は避けたい、殺すなよ。暫くの間動けなくなる程度に痛めつけておけ』
『了解です』
『了解しました』
 そうだ、個人的な感情や感傷を表に出している場合ではない、自分は任務と部下達に対して責任が有る、今は、それを最優先させなければ。それをはっきりと意識すれば途端にタカコの意識も身体も冷え鋭くなっていく。何とか体勢を立て直し距離を取る島津を見れば、その変化は彼にも伝わっているのだろう、目を見開いた後に顔を歪めて大きく舌打ちをしたのが伝わった。
「……どうしても、駄目なのか?」
『……悪いな、大和人』
「ワシントン語なんか俺には分からん!大和語を話せよ!!」
『……やれ』
 大和語で言葉を返さないタカコの様子に苛立った様子で島津が声を張り上げる。しかしタカコはもう彼のその様子に動じる事は無く、眉一つ動かさずに部下二人へと命令する。それを受けて地面を蹴り相手との間合いを詰め襲い掛かる二人、その彼等に対して僅か程の抵抗も反撃も出来ずに瞬く間に地面へと崩れ落ちる嘗ての盟友の姿を、タカコは何も言う事も無く、真っ直ぐに鋭い眼差しで見詰めていた。

「……藤田さん……無事ですか……」
「……いたた……肋骨何本か罅入ったかなこりゃ……少佐はどうです」
「……俺は一本は確実に折れた気が……行っちまいましたね」
 二人が目を覚ましたのはすっかりと夜になってから、地面に転がったままで腕時計を見てみれば、タカコとの接触から既に三時間が経過しており、彼女達の気配は消え失せてしまっている事に思わず舌打ちをする。
「しかし、収穫は有りましたよ」
「マジですか、居場所とか?」
「タカコが随分と大きな荷物を持ってたでしょう、佐世保の街に潜伏してるのならあんなに大量に物資を買い込む必要は無い、食い物なんか街に出れば幾らでも売ってますからね」
「じゃあ……」
「旧時代の韓国領だった済州島が前線基地になる予定だったそうですから、そこから回収の艦艇が来るんだとしたら、それを待つのなら本土よりももっと沖合に出て待つ筈です。恐らくは五島列島の一番外海側、福江島西部が潜伏場所になってる筈です。あそこなら定期的に本土に上陸して補給をする必要が有る、最短距離の長崎に上陸しなかったのは佐世保の方が人が多くて溶け込み易かったからでしょう」
 あんな混乱していた中でよくそこ迄観察していたものだ、藤田が身体を起こしながら感心した様にそう言うのを聞きながら島津も痛む身体を庇いつつ起き上がる。
「とにかく、急ぎましょう。物資は消えてるから福江島に戻っているかも知れませんが、俺達と接触してしまった以上今の潜伏先は放棄する筈です。東洋系以外は目立つから福江島に居残ってるんでしょうが、その彼等を回収したらまた何処かに消えますよ。早く沿警隊の佐世保基地に戻って人間集めて、艦艇を出してもらって福江島に」
「……ですね、行きましょう」
 間に合えば良い、否、間に合わせなければ、これを逃せば彼女を確保出来る可能性は今よりも更に低くなる、二人は顔を見合わせて頷き合い、沿岸警備隊の基地へと向かって歩き出し、佐世保の街中へと入って行った。
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