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第389章『諭す』
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第389章『諭す』
途中で一時的に車両を放棄し徒歩で博多を目指した部隊は他にも有り、その彼等の多くが
『教導隊を名乗る人間に会い、放棄車両の爆破をし伝言を頼み去って行った』
という話を指揮所へと伝えて来た。一番早く辿り着いた部隊が報告するにしろ、それがどの部隊になるのかは流石にタカコ達にも分からなかったのだろう、数を打てばより確実だとばかりに彼女の部隊全員でやったに違い無い。こういった事の念の入れ様と手際の良さは相変わらずだという事が窺えて、それが高根や黒川達を何とも安心させた。
春日や太宰府へと通じる南へと伸びる道、そして、本州へと続く東へと続く道、この二つを最優先で正常化しろという命令を受け、十分隊百十一名の小隊が二組編成され、東と南へと向かって博多基地を出て行く。博多を出て直ぐの辺りから道路は放棄車両で塞がれている為にトラックでの移動は見送らざるを得ず、数十kmの距離を徒歩で進みつつの爆破処理は大変な作業だろうが、今は彼等に頑張ってもらうしか無いだろう。
部下達の出発を見送り指揮所へと戻ろうとした高根、その彼の視界の隅に正門を潜って基地内へと入って来たトラックが映り、返した踵を戻してみれば、助手席に敦賀が座っているのが見て取れる。戻って来たか、とそちらへと歩み寄れば、本部棟前で停止した車両から降りて来た彼は、いつもの動きの少ない面持ちを些かも崩す事無く、高根へとちらりと一瞥をくれて口を開いた。
「あの馬鹿女が戻って来てるってな。あちこちで放棄車両に発破掛けて吹き飛ばしてるって聞いたぞ」
「いつ聞いたのそれ」
「交代の時に聞いた」
タカコが助言をしてくれたという事は直接は部下には言っていない。それでも、彼女との付き合いが長く深ければ凡そのところを察する人間は多いだろう、その彼等の誰かから聞いたのか、そう得心して並んで本部棟の中へと入り、タカコの事を話しながら並んで階段を昇る。
「陸軍の戦闘服を着てたらしいな。それに、こっちに応援に来た本州の陸軍の分隊の人間が拉致されて戦闘服だけ奪われたとか」
「あー、それも聞いたの?」
「あの馬鹿は何やってんだ」
「ま、あいつらしいじゃねぇのよ、色んな意味でさ」
肩を揺らせて笑う高根、敦賀はそれを横目で見遣りつつ階段を昇る。夫々の執務室の在る最上階へと着き、そのまま指揮所へとなっている会議室へと敦賀が足を向けた時、高根はそれを制して
「ちょっと話が有る、こっち来い」
そう言い、部屋の主の了解をとる事も無く、敦賀の執務室の扉を開けて中へと入って行った。
「何なんだよ、仕事は幾らでも有るってのに」
「まあまあ、ちょっと座れや、な?」
この忙しい時に何を、そう思い険を深くする敦賀には委細構わずに応接セットのソファへと腰を下ろす高根、こちらの言う事を聞く気は無いな、彼の表情を見た敦賀はそう思いながら苛立ちの混じった溜息を吐き向かいへと腰を下ろす。
「で?話ってな何なんだよ」
「タカコを見付けたら何が有っても捕まえろ、今度こそ絶対に離すな。親父さんからの伝言だ。あいつの心は、今でもお前と共に在る、今回の事で分かるだろ?任務に忠実なだけなら、危険を冒して陸軍を拉致して戦闘服を奪う必要なんか無い、それ以前に博多に戻って来る必要だって無い。俺達大和の、お前の事を心に留め置いてるからこそ、あいつは今、ああして博多に戻って来た」
「……あいつに消えろって言ったのはその糞だぞ、今更何を――」
「お前のその気持ちは俺にも分かるよ、俺だって副長の事を軽蔑したさ、正直。それでもな、人間ってのは反省するしそれで行動を修正もする、副長はそれをやってると、俺はそう思うぜ?許せとは言わねぇよ、ずっと拗れたままの上にあんな事が有ったんだしな。ただ、副長の、親父さんの今の気持ちは知っておいてやれ。あの人はもう、お前等二人の障害じゃねぇよ」
今更父の事を許す気にはなれない、あの夜の言動は、自分はともかくとしてタカコを酷く傷付けた。息子を、我が子を思っての事と言ってはいたが、だからと言って誰に何をしても言っても良いものではないだろうとぶり返す怒りを感じつつ大きく舌打ちをすれば、高根はそんな敦賀を見て困った様に笑い、ポケットから取り出した煙草に火を点ける。
「で、だ、これは俺からのお願いなんだけど、やっぱり同じ事をお前に頼みたいわけよ。次にあいつを見付けたら、何が有っても何をやってでも構わねぇ、絶対に捕まえろ。で、手足折ってでもぶった斬ってでも連れて帰って来い。あいつはお前にも必要だろうがよ、俺にも龍興にも浅田さんにも、小此木や横山さんにも、大勢の人間にとって必要な人間だ。あいつが俺達と心理的にも完全に訣別したってんなら話は別だがよ、状況を見る限りそうじゃねぇ。それならさ、ずっと大和に、海兵隊にいて欲しいんだよ、俺は。だからさ、お前が今でもあいつに惚れてて必要としてるんなら、見付けた時には躊躇うな、何が有っても捕まえろ、絶対に離すな。どうせあいつ人外だし、手足折って切り落としても直ぐに次のが生えて来るだろ、気にしねぇで思い切りやっちまえ」
おどけた調子で若干酷い物言いをする高根、それでも口調とは違いその眼差しはあくまでも真っ直ぐで穏やかさと優しさを湛えていて、敦賀はそれを見て大きく溜息を吐き、がしがしと頭を掻きながら口を開いた。
「人外だの手足切り落としてでも直ぐに次のが生えて来るだの……そんな化け物とどうこうなろうと思ってる自分に若干の疑問を感じるんだが……間違ってると言い切れねぇのがまたな」
「……お前さ、俺が言った事だけど、そこは否定するところだと思うぞ……結婚考える程に惚れた女だろうが」
「俺も否定できるもんならしたいところなんだがな……ま、とにかく、お前や親父になんぞ言われなくても分かってる。次に会ったら絶対に逃がさねぇよ、とっ捕まえてぶん殴る」
物騒な事を言う割にはその眼差しは先程迄とは違って随分穏やかで、それを見て高根はこちらは一安心だなと小さく笑い、仕事に戻るかと立ち上がる。
「じゃ、お仕事しますか。市街地の方はどうなってる?」
「非戦闘員の退去の完了は確認した、放棄車両の撤去も粗方。警察の退避はいつになる予定だ?」
「退去の完了が確認とれたなら直ぐにでも話がいくだろうよ」
そんな遣り取りを交わしつつ部屋を出て会議室へと向かえば、一番奥に座っている副長と目が会い、高根は軽く会釈をする。敦賀はと言えばこちらはあからさまに不機嫌な面持ちでそっぽを向き、この強情はどうしようも無いな、そんな事を考えつつ、仕事へと戻る事にした。
途中で一時的に車両を放棄し徒歩で博多を目指した部隊は他にも有り、その彼等の多くが
『教導隊を名乗る人間に会い、放棄車両の爆破をし伝言を頼み去って行った』
という話を指揮所へと伝えて来た。一番早く辿り着いた部隊が報告するにしろ、それがどの部隊になるのかは流石にタカコ達にも分からなかったのだろう、数を打てばより確実だとばかりに彼女の部隊全員でやったに違い無い。こういった事の念の入れ様と手際の良さは相変わらずだという事が窺えて、それが高根や黒川達を何とも安心させた。
春日や太宰府へと通じる南へと伸びる道、そして、本州へと続く東へと続く道、この二つを最優先で正常化しろという命令を受け、十分隊百十一名の小隊が二組編成され、東と南へと向かって博多基地を出て行く。博多を出て直ぐの辺りから道路は放棄車両で塞がれている為にトラックでの移動は見送らざるを得ず、数十kmの距離を徒歩で進みつつの爆破処理は大変な作業だろうが、今は彼等に頑張ってもらうしか無いだろう。
部下達の出発を見送り指揮所へと戻ろうとした高根、その彼の視界の隅に正門を潜って基地内へと入って来たトラックが映り、返した踵を戻してみれば、助手席に敦賀が座っているのが見て取れる。戻って来たか、とそちらへと歩み寄れば、本部棟前で停止した車両から降りて来た彼は、いつもの動きの少ない面持ちを些かも崩す事無く、高根へとちらりと一瞥をくれて口を開いた。
「あの馬鹿女が戻って来てるってな。あちこちで放棄車両に発破掛けて吹き飛ばしてるって聞いたぞ」
「いつ聞いたのそれ」
「交代の時に聞いた」
タカコが助言をしてくれたという事は直接は部下には言っていない。それでも、彼女との付き合いが長く深ければ凡そのところを察する人間は多いだろう、その彼等の誰かから聞いたのか、そう得心して並んで本部棟の中へと入り、タカコの事を話しながら並んで階段を昇る。
「陸軍の戦闘服を着てたらしいな。それに、こっちに応援に来た本州の陸軍の分隊の人間が拉致されて戦闘服だけ奪われたとか」
「あー、それも聞いたの?」
「あの馬鹿は何やってんだ」
「ま、あいつらしいじゃねぇのよ、色んな意味でさ」
肩を揺らせて笑う高根、敦賀はそれを横目で見遣りつつ階段を昇る。夫々の執務室の在る最上階へと着き、そのまま指揮所へとなっている会議室へと敦賀が足を向けた時、高根はそれを制して
「ちょっと話が有る、こっち来い」
そう言い、部屋の主の了解をとる事も無く、敦賀の執務室の扉を開けて中へと入って行った。
「何なんだよ、仕事は幾らでも有るってのに」
「まあまあ、ちょっと座れや、な?」
この忙しい時に何を、そう思い険を深くする敦賀には委細構わずに応接セットのソファへと腰を下ろす高根、こちらの言う事を聞く気は無いな、彼の表情を見た敦賀はそう思いながら苛立ちの混じった溜息を吐き向かいへと腰を下ろす。
「で?話ってな何なんだよ」
「タカコを見付けたら何が有っても捕まえろ、今度こそ絶対に離すな。親父さんからの伝言だ。あいつの心は、今でもお前と共に在る、今回の事で分かるだろ?任務に忠実なだけなら、危険を冒して陸軍を拉致して戦闘服を奪う必要なんか無い、それ以前に博多に戻って来る必要だって無い。俺達大和の、お前の事を心に留め置いてるからこそ、あいつは今、ああして博多に戻って来た」
「……あいつに消えろって言ったのはその糞だぞ、今更何を――」
「お前のその気持ちは俺にも分かるよ、俺だって副長の事を軽蔑したさ、正直。それでもな、人間ってのは反省するしそれで行動を修正もする、副長はそれをやってると、俺はそう思うぜ?許せとは言わねぇよ、ずっと拗れたままの上にあんな事が有ったんだしな。ただ、副長の、親父さんの今の気持ちは知っておいてやれ。あの人はもう、お前等二人の障害じゃねぇよ」
今更父の事を許す気にはなれない、あの夜の言動は、自分はともかくとしてタカコを酷く傷付けた。息子を、我が子を思っての事と言ってはいたが、だからと言って誰に何をしても言っても良いものではないだろうとぶり返す怒りを感じつつ大きく舌打ちをすれば、高根はそんな敦賀を見て困った様に笑い、ポケットから取り出した煙草に火を点ける。
「で、だ、これは俺からのお願いなんだけど、やっぱり同じ事をお前に頼みたいわけよ。次にあいつを見付けたら、何が有っても何をやってでも構わねぇ、絶対に捕まえろ。で、手足折ってでもぶった斬ってでも連れて帰って来い。あいつはお前にも必要だろうがよ、俺にも龍興にも浅田さんにも、小此木や横山さんにも、大勢の人間にとって必要な人間だ。あいつが俺達と心理的にも完全に訣別したってんなら話は別だがよ、状況を見る限りそうじゃねぇ。それならさ、ずっと大和に、海兵隊にいて欲しいんだよ、俺は。だからさ、お前が今でもあいつに惚れてて必要としてるんなら、見付けた時には躊躇うな、何が有っても捕まえろ、絶対に離すな。どうせあいつ人外だし、手足折って切り落としても直ぐに次のが生えて来るだろ、気にしねぇで思い切りやっちまえ」
おどけた調子で若干酷い物言いをする高根、それでも口調とは違いその眼差しはあくまでも真っ直ぐで穏やかさと優しさを湛えていて、敦賀はそれを見て大きく溜息を吐き、がしがしと頭を掻きながら口を開いた。
「人外だの手足切り落としてでも直ぐに次のが生えて来るだの……そんな化け物とどうこうなろうと思ってる自分に若干の疑問を感じるんだが……間違ってると言い切れねぇのがまたな」
「……お前さ、俺が言った事だけど、そこは否定するところだと思うぞ……結婚考える程に惚れた女だろうが」
「俺も否定できるもんならしたいところなんだがな……ま、とにかく、お前や親父になんぞ言われなくても分かってる。次に会ったら絶対に逃がさねぇよ、とっ捕まえてぶん殴る」
物騒な事を言う割にはその眼差しは先程迄とは違って随分穏やかで、それを見て高根はこちらは一安心だなと小さく笑い、仕事に戻るかと立ち上がる。
「じゃ、お仕事しますか。市街地の方はどうなってる?」
「非戦闘員の退去の完了は確認した、放棄車両の撤去も粗方。警察の退避はいつになる予定だ?」
「退去の完了が確認とれたなら直ぐにでも話がいくだろうよ」
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