大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第392章『スズメバチ』

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第392章『スズメバチ』

 旗艦となる様な大型の艦艇でも日本海、特に対馬区が直ぐ目の前に在る様な位置では揺れも大きく感じる。船酔いには強い海軍の者達にもこの揺れはそれなりに堪えるのか、投錨によって碇を中心に大きな円を描きつつ揺れ続けている艦の乗員達も何処と無く元気が無い様子だ。それをあちこちに感じつつ、ドレイクは大和海兵隊基地の様子を甲板から眺めていた。
 碇を中心とした円運動を考慮して接触しないだけの間隔を空けて停泊している艦艇群は不気味な沈黙を保ったまま、何とも言えない重苦しさを全身に受けている感覚が有る。自国の艦艇に乗艦している自分ですらそう感じるのだ、大和の面々が受ける重圧と感じる不安は凄まじいものだろう。
 この艦がマクマーンの、そして彼を操るヨシユキの意向を受けて動いている事は間違い無い、そうでなければタカコの部下の発砲や自分が彼女を刺した事が問題にならない筈が無い。配下に在る他の艦艇も、何処迄事情を知っているのかはともかくとして大差は無い筈だ。
 そんな中『敵陣』に居残る事になり、タカコの部下達との連携もとれる様にはなったものの何とも心許無い状況が続いている事に変わりは無い。マクマーンはともかくとしてヨシユキの掌中にいる事が落ち着かない、自分に聞かされていたのは上陸部隊の動きに関しての事のみで、タカコに聞かされなかければヨシユキの関与は思い浮かばなかっただろう。底の知れない恐ろしい男、彼が描いている筈のこれから先の絵図面はどんなものなのか、それがどんな方向性だったとしても、碌なものではない事だけは確かだ。
『ドレイク、どんな様子だ』
『ようカリート。地上には動きは無いな、今のところは』
『お前に愛称で呼ばれる覚えは無いんだがな』
 海兵隊基地を見詰めつつ考え込んでいたドレイクに声を掛けて来たのはタカコの部下、カルロス・チスネロス。カリートと呼ばれた事に眉根を寄せた彼がドレイクの脇に立ち、その後は暫くの間双方無言のまま並んで基地を見ていた。
『……どう動くのかね、『奴』はよ』
『さぁな……強襲揚陸艦も空母も揃い踏みだ、ヤマトにとっては愉快な事にはならんだろうよ、どう転んでもな』
『強襲揚陸艦って……『イオージマ』がもう投入されるのか、俺が本国を離れた時にはまだ実用化前だった筈だが』
『今回が初の実戦投入だ、ヤマトは実験場の扱いだな』
『空母ってのは……まさか』
『……ああ、『アレ』も遂に実用化だ、こいつも今回が初の実戦投入になるらしいな。様子を見てると空母の方に動きが出て来た、そろそろ出るんじゃないのか』
『……大丈夫なのかよ、あいつは』
『どうだかな……それはボスと行動を共にしてる他の奴の働きを信じるしか無いな』
 交わす言葉はそう多くはなく、夫々がこれから先の事に思いを馳せる。投入される新兵器がどう使われるのか、控え目に見ても大和に対して有効的な作戦行動ではないのは確かだ。そんな中で大和の地へと残っているタカコ、彼女達が現在どんな行動を採っているのかを知る術は無いが、今迄の経緯を考えれば大和軍と行動を共にする事は無いにせよ彼等を助ける為に動いているに違い無い。だとすれば、侵攻艦隊が動き出した時には彼女達は自国軍部隊と対立する事になる。真っ向からぶつかり合う事は無いだろうが、受ける損害が出来るだけ軽微であって欲しいと願わずにはいられない。
『型通りの人なら下の俺達も気が楽なんだがな……ま、少なくとも退屈だけは絶対にしないんだが、こういう時ばかりは流石に胃が痛くなるな』
『一昨々年の八月か……消息を絶った時には大騒ぎだったな』
『……ああ、生きていると知った時にはほっとしたが、そうなったらなったでまたこんな按配だ』
『あいつと奴の確執を知ってる筈のお前等が、形だけとは言え奴の……ヨシユキの配下に降った、それだけでもお前等にとってあいつがどんなに大きいのか大切なのか、それが分かるな』
『ジェフとマリオとアリサの三人がワシントンを離れた時には、奴がマクマーンと繋がっている事の確かな証拠が無かった。それ以前に正規軍迄もを動かそうとしてるなんて流石に考えもしてなかったが、内部に協力者がいなけりゃ流石に不可能だってマクマーンに見当を付けて内偵を進めたが、間に合って良かったよ、だからこそ俺達は今ここにいるし、ウォルコット議長からの命令書を届ける事も出来たんだからな』
『後は出来るだけ――』
 周囲の目と耳を気にしながら小声で言葉を交わす二人、それを途切れさせたのは、後方から聞こえ始めた内燃機の駆動音だった。耳を打ったそれに弾かれた様に振り返り、甲板の反対側へと駆け出し辿り着いた先で視界に入った物を見詰めつつ二人は驚愕と嫌な予感に顔を歪めつつ、大きく舌を打ち歯を軋らせた。

『ボス!艦艇に動きが有りました!!』
 様子を観察する為に潜り込んだ民家、客間と思しき部屋を仮眠室にして布団を敷き詰めており、タカコはその一つに潜り込んで寝息を立てていた。そんな時に耳に飛び込んで来たのはカタギリが張り上げた自分を呼ぶ声、それに双眸を見開き布団を跳ね飛ばして起き上がり仮眠室を出て階段を駆け上がる。
『何が有った!!』
『見て下さい、その方が早い!!』
監視に使用している二階の一室の扉を開けて中へと駆け込めば、双眼鏡を手に窓の外を見ていたカタギリが自分の足元に置いてあった双眼鏡を蹴って寄越す。足癖が良くないな等とちらりと考えたタカコがそれを手に取り、カタギリが見ている方向へと向けたそれを覗き込めば、彼女の動きはそこで暫くの間停止する事になった。
 やや四角張ったオタマジャクシの様な機体、その上部には高速で回転する四枚の金属製の翅。機体の尾部には上部とは違う向きに設置されたやや小振りの四枚の金属製の翅が同じ様に高速で回転し、向きの違う二組の回転翼によって姿勢を制御されている機体が、一機だけではなく目視出来るだけでも十ばかり、日本海の上空から対馬区の方向へと編隊を組んでゆっくりと飛行しているのが見て取れる。
『……ホーネット……!実用化されたのか……!!』
 まだワシントンにいた頃には実用化には至っていなかった回転翼機、垂直離発着が可能でそれに必要とする範囲は固定翼機とは比べ物にならない程に小さく狭く、空中に於いても小回りが利き一点に制止する事も可能。大量の兵員や物資や兵器の輸送には不向きだが戦闘に於いては絶大な力を発揮するであろうと期待されていた新兵器が、今、タカコの目の前にその不気味な姿を晒していた。
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