行方

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嘘の行方不明 前編

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 白い天井、号泣している母、病室を急いで出ていく父、僕が寝ているベッドの周りを走り回る看護師。それが僕が覚えている中での最も古い記憶だ。

 小学六年生の夏休みに入る少し前、僕は下校中に交通事故にあったらしい。「らしい」と付けるのは母から聞いた話だからであって、僕には事故に遭った記憶が一切無かった。両親のことや友人のこと、生活をする上での動作などは覚えていた。しかし、僕がどんな人物であったか、どんな事をしてきたかのような僕に関することは全て無くなっていた。 
 事故に遭う前の僕を形成していた記憶が無くなったからか、事故後僕のことを別人のようだと言う人が多かった。もちろん、両親も例外ではない。
 事故前の僕は特に目立った子ではなかったらしい。容姿は整っていたが、勉強もスポーツも中の下。一人で居ることが多く、友人と呼べる人もいなかったようだ。
 事故後、僕は正反対の自分になっていた。積極的でよく人と喋るようになり、勉強もスポーツも得意になった。もちろん女子にもモテて、僕の周りは常に誰かしら居た。
 そんな僕に母は優しかった。母は世間体を気にする人だった。そんな人が周りから褒められるようになった僕を可愛がらないわけがない。
 父は初め、僕のことを奇妙に思っていた。いくら記憶が無くなったからと言っても、ここまで性格が変わるのはおかしいのではないかと考えたようだ。まあ、普通はそうだろう。だが、僕が中学に上がる頃、自営業をしていた父に周りの人間が「良い後継者を持っていて羨ましい限りだ。」と言うようになり僕を誇りに思い始めた父も僕に優しくなった。
 
 なんの不自由もなく幸せな人生を送っていた。そんな俺が自分の違和感を感じるようになったのは、生徒会長になった高校二年生の秋。皆に慕われ彼女も居り、こんな幸せな人生を送っているのは国内でも数人しか居ないのではないか、と思わせるような俺の人生。しかし、俺は心にぽっかり穴が空いたような感覚に襲われた。

「俺にはまだ何かほしい物があるのだろうか...。」
などと考えながら過ごしていた大学一年生。 
 そんな俺を変える出来事が、なんの前触れもなく訪れた。本当にたまたまだった。日頃料理をしていても指なんて切ることのなかった彼女が、その日は少し指を切った。手当をするために救急箱を持ってキッチンに行った俺は彼女の傷を見た。その瞬間、俺はなんとも言えない気持ちになった。喜び、というわけではないが、ぽっかりと空いた穴が満たされた気分になった。その後のことはよく覚えてないが、俺が彼女を殺したことは確かだった。

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