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ロストチャイルド編
71話
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「…どうして?」
金輪際、魔法は使うな。そう言った彼の瞳を見つめる。
確かにリリエ自身、あんな即興で覚えた付け焼き刃のような代物を多用すべきでないことは、無知ながらも勘づいていた。
本来1つしか覚えられないという属性魔法が4つも備わっているのだから、どんな事が反動として起こるかは分からないのだ。
それはちゃんと理解していた。
けれど、今になって忠告をしてきた彼の真意が、少しだけ知りたかった。
「どうしても何も、それがリリエの為だからに決まってるでしょ。」
彼は呆れた目をこちらに向けて、ため息混じりに呟いた。
スカイらしい、なんてくすりと微笑んだ。
どうして、と問いかけてはみたものの、彼女自身─二度とはないと思うが─そうあれと願っているのだ。何も起こっていなくても、今後何があるか分からないものだから。
故に本人も、釘を刺されずとも使う気など更々無かった。
笑ったせいで訝しげな目を向けてくる彼にわざとらしく肩を竦めてみせる。
「なんで笑ってんの」
「ごめんって、スカイらしいなって思っただけだよ」
ふぅん、とそれでも尚訝しげな目を向けてくる彼。忠告を真に受けていない、とでも思っていそうで「大丈夫、魔法はもう使わないから」とちゃんと答えた。
それならいいけど、と訝しげな目を止めた彼にほっとして、放置していた2人をそろそろ止めてやろうと玄関先へ足を向けた。
「リューシャ?ルクト?そろそろ中に…」
扉を開けて、きっと凄惨な状況であろうそこへ諦めて目を向ける。
しかしそこには、尚も外であることを介さずに揉め合うルクトとリューシャの姿…ではなく、ただ2人で横に並んで─リューシャはわざわざ人の姿になって─しゃがみ込み、リリエの家の玄関へ背を向けていた。
「2人とも?何してるの?」
当然唖然とした彼女は怖々と家から外へ出て、しゃがむ二人の背に近付きつつ訊ねる。
すると唐突に銀の髪が勢いよく立ち上がり、ガバッという効果音が最適な程の勢いで彼女はこちらを振り向いた。
そのすばやさにリリエは驚いて肩を震わせる。しかしそれ以上に、こちらに向けられた異様なほど輝く瞳に彼女は呆然とせざるをえなかった。
「リュ、リューシャ…?」
「リリエ、見て!すっごく可愛いのこの子!」
そこまでの距離でもないのだが、腕を引っ張りしゃがませるルーナの行動にされるがまま、リリエは困惑を拭えぬままに彼女の示す先を見やった。
そこには座り込んだおおよそ12、3ほどの少年。タレ目気味の瞳は不安そうにこちらを見上げ、困った様子でこちらを見つめている。
リリエはその姿に反射的に可愛い、と感じた。
「…何してんの」
不意に聞こえた言葉に唐突に我に返る。振り返れば、いつの間にか家から出てきたスカイが腕を組んで、相も変わらずな愛想のない固い表情で立っている。
あ、え?と己の中でスカイの言葉を繰り返して、自分は何をしていただろうと思案した。
ルクトとルーナの小競り合いをとめようとして家から出て…私は何をしていただろう?
「ルクト兄さんとルーナ、止めに行ったんじゃなかった?見るからにリリエが実力行使で止めました、って感じだけど。」
え、とスカイが見つめる後ろを振り返れば、何故か地面に倒れ込むルクトとルーナ。さっきまで両サイドで座り込んでいたはずだと思ったのに、と一瞬戸惑ってから直ぐにはっとして2人に声をかける。
「る、ルクト!?ルーナ!?どうしたの!?さっきまで2人とも倒れてなんてなかったのに…!」
演技ではないリリエの困惑した声に、さしものスカイも微かに眉間に眉を寄せた。
「リリエのせいじゃないってこと?」
「当たり前でしょ!スカイの中での私って、そんなに実力行使な性格してたの!?」
「実際、実力行使じゃなかった?」
「こんな時に失礼だなぁもう!ルクト運んで!」
慌てて倒れるルーナを抱えて、スカイのあっけらかんとした言葉に悪態をつきながら彼女を部屋へ運び込んだ。その華奢な身を自分のベッドに横たわらせ、スカイに運ばれてきたルクトはやむなくソファへ寝かせ、ほっと息を吐く。
「びっくりした…。スカイが来るまで、2人共倒れてなんてなかったんだよ?ほんとだからね?」
それよりも、実力行使な性格、なんて言ったこと忘れないから。と念を込めつつじとりとした目でスカイを見つめれば、彼はふうん、とそよ風のように向けられた視線を流しながら声を返した。
「周りに人は?俺が来る前。」
不意に訊ねられて、リリエは思考を巡らせる。
人…。
人は、あそこに居ただろうか。
ルクトとルーナは居た。それはきちんと覚えている。
後は、誰かもう1人…居たような、居なかったような。
何故かつい先程のことなのに曖昧な記憶にもどかしさが募る。
頭を押さえてうんうんと唸っても、どうしてか霞がかった記憶は鮮明にならなかった。
「ごめんなさい、思い出せない。多分、いなかったのかな...」
「思い出せないならいいよ。どうせ2人でまた言い合いしてたんだろうし、罵倒し疲れて倒れた可能性も低くないから。」
そんなことあるのだろうか、と疑問になりつつ、どこか呆れた目をするスカイが妙にリアルで、逆にそうなのかもしれない...。と変に納得してしまう自分が居ることに、思わずリリエは笑みをこぼした。
「スカイが言うと本当にそんな気がする。」
「本当だよ。昔の話だけど、ルクトとルーナが口喧嘩してて、何を言い合ってたのか、5分後、床に2人で寝てたとかバカみたいな話あるからさ。」
「な、何がどうなって…?」
「さぁ?セレナ様は見てたらしくて笑ってたけど。俺には意味がわからなかったよ。」
何それ、とおかしくなって笑っていると、他にも聞く?とスカイが話題を持ち掛けてくるものだから、聞きたい!とリリエは思わず身を乗り出した。
金輪際、魔法は使うな。そう言った彼の瞳を見つめる。
確かにリリエ自身、あんな即興で覚えた付け焼き刃のような代物を多用すべきでないことは、無知ながらも勘づいていた。
本来1つしか覚えられないという属性魔法が4つも備わっているのだから、どんな事が反動として起こるかは分からないのだ。
それはちゃんと理解していた。
けれど、今になって忠告をしてきた彼の真意が、少しだけ知りたかった。
「どうしても何も、それがリリエの為だからに決まってるでしょ。」
彼は呆れた目をこちらに向けて、ため息混じりに呟いた。
スカイらしい、なんてくすりと微笑んだ。
どうして、と問いかけてはみたものの、彼女自身─二度とはないと思うが─そうあれと願っているのだ。何も起こっていなくても、今後何があるか分からないものだから。
故に本人も、釘を刺されずとも使う気など更々無かった。
笑ったせいで訝しげな目を向けてくる彼にわざとらしく肩を竦めてみせる。
「なんで笑ってんの」
「ごめんって、スカイらしいなって思っただけだよ」
ふぅん、とそれでも尚訝しげな目を向けてくる彼。忠告を真に受けていない、とでも思っていそうで「大丈夫、魔法はもう使わないから」とちゃんと答えた。
それならいいけど、と訝しげな目を止めた彼にほっとして、放置していた2人をそろそろ止めてやろうと玄関先へ足を向けた。
「リューシャ?ルクト?そろそろ中に…」
扉を開けて、きっと凄惨な状況であろうそこへ諦めて目を向ける。
しかしそこには、尚も外であることを介さずに揉め合うルクトとリューシャの姿…ではなく、ただ2人で横に並んで─リューシャはわざわざ人の姿になって─しゃがみ込み、リリエの家の玄関へ背を向けていた。
「2人とも?何してるの?」
当然唖然とした彼女は怖々と家から外へ出て、しゃがむ二人の背に近付きつつ訊ねる。
すると唐突に銀の髪が勢いよく立ち上がり、ガバッという効果音が最適な程の勢いで彼女はこちらを振り向いた。
そのすばやさにリリエは驚いて肩を震わせる。しかしそれ以上に、こちらに向けられた異様なほど輝く瞳に彼女は呆然とせざるをえなかった。
「リュ、リューシャ…?」
「リリエ、見て!すっごく可愛いのこの子!」
そこまでの距離でもないのだが、腕を引っ張りしゃがませるルーナの行動にされるがまま、リリエは困惑を拭えぬままに彼女の示す先を見やった。
そこには座り込んだおおよそ12、3ほどの少年。タレ目気味の瞳は不安そうにこちらを見上げ、困った様子でこちらを見つめている。
リリエはその姿に反射的に可愛い、と感じた。
「…何してんの」
不意に聞こえた言葉に唐突に我に返る。振り返れば、いつの間にか家から出てきたスカイが腕を組んで、相も変わらずな愛想のない固い表情で立っている。
あ、え?と己の中でスカイの言葉を繰り返して、自分は何をしていただろうと思案した。
ルクトとルーナの小競り合いをとめようとして家から出て…私は何をしていただろう?
「ルクト兄さんとルーナ、止めに行ったんじゃなかった?見るからにリリエが実力行使で止めました、って感じだけど。」
え、とスカイが見つめる後ろを振り返れば、何故か地面に倒れ込むルクトとルーナ。さっきまで両サイドで座り込んでいたはずだと思ったのに、と一瞬戸惑ってから直ぐにはっとして2人に声をかける。
「る、ルクト!?ルーナ!?どうしたの!?さっきまで2人とも倒れてなんてなかったのに…!」
演技ではないリリエの困惑した声に、さしものスカイも微かに眉間に眉を寄せた。
「リリエのせいじゃないってこと?」
「当たり前でしょ!スカイの中での私って、そんなに実力行使な性格してたの!?」
「実際、実力行使じゃなかった?」
「こんな時に失礼だなぁもう!ルクト運んで!」
慌てて倒れるルーナを抱えて、スカイのあっけらかんとした言葉に悪態をつきながら彼女を部屋へ運び込んだ。その華奢な身を自分のベッドに横たわらせ、スカイに運ばれてきたルクトはやむなくソファへ寝かせ、ほっと息を吐く。
「びっくりした…。スカイが来るまで、2人共倒れてなんてなかったんだよ?ほんとだからね?」
それよりも、実力行使な性格、なんて言ったこと忘れないから。と念を込めつつじとりとした目でスカイを見つめれば、彼はふうん、とそよ風のように向けられた視線を流しながら声を返した。
「周りに人は?俺が来る前。」
不意に訊ねられて、リリエは思考を巡らせる。
人…。
人は、あそこに居ただろうか。
ルクトとルーナは居た。それはきちんと覚えている。
後は、誰かもう1人…居たような、居なかったような。
何故かつい先程のことなのに曖昧な記憶にもどかしさが募る。
頭を押さえてうんうんと唸っても、どうしてか霞がかった記憶は鮮明にならなかった。
「ごめんなさい、思い出せない。多分、いなかったのかな...」
「思い出せないならいいよ。どうせ2人でまた言い合いしてたんだろうし、罵倒し疲れて倒れた可能性も低くないから。」
そんなことあるのだろうか、と疑問になりつつ、どこか呆れた目をするスカイが妙にリアルで、逆にそうなのかもしれない...。と変に納得してしまう自分が居ることに、思わずリリエは笑みをこぼした。
「スカイが言うと本当にそんな気がする。」
「本当だよ。昔の話だけど、ルクトとルーナが口喧嘩してて、何を言い合ってたのか、5分後、床に2人で寝てたとかバカみたいな話あるからさ。」
「な、何がどうなって…?」
「さぁ?セレナ様は見てたらしくて笑ってたけど。俺には意味がわからなかったよ。」
何それ、とおかしくなって笑っていると、他にも聞く?とスカイが話題を持ち掛けてくるものだから、聞きたい!とリリエは思わず身を乗り出した。
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