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ロストチャイルド編
70話
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穏やかな日差しが家にやんわりと射し込んでいる。珍しく人の姿で陽だまりに寝転がるルーナは日の温かさに微睡んでいた。あまりに気持ちがいいものだから眠りに落ちかけていたが、不意に家の前に誰かの立つ気配を感じてふっ、と意識が戻ってきた。
するとそれと同時に扉を叩く音がして、読書をしていたリリエが反射的に立ち上がった。
「ルクトかな?スカイかな?」
「スカイじゃない?静かだし」
本当?と嬉々とした様子で扉を開けば、そこに立っていたのはルーナの予想通りスカイだった。
「いらっしゃいスカイ!ルクトは後から?」
彼はうん、と軽く頷くと彼はちらりと窓辺に寝そべるルーナを見つめた。彼女は気持ちよさげに目を閉じて日を浴びているが、視線には気づいていたらしく、不意に何?と薄らと目を開けて、スカイに視線を寄越した。
「いくら来客が俺だからってさ、くつろぎすぎじゃない?」
若干冷ややかさも含まれたその言葉に何ともなしに彼女はふっと笑みをこぼす。
「だってこんなにのんびりと穏やかに日向ぼっこ出来る時間なんて向こうでは殆ど無かったんだよ?だからいいでしょ?」
そう言ってごろんと寝返りを打つルーナにはぁとため息を吐く。
「…セレナ様にたまに甘えて竜の姿で毛繕いして貰ってた傍付きはどこの誰だっけ。」
呟くようにスカイの口から出たその言葉にルーナは反射的に勢いよく起き上がった。
「待って、どうしてそれをスカイが知ってるの?いつ見たの?ねぇ、ちょっとスカイ!?」
なぜ知っているのかとスカイを問い詰めようとする彼女。然しスカイは無視を決め込んでしまい、一切ルーナの言葉を受け付けず全ての問いをスルーする。
「スカイ!教えなさい!どこでそれを聞いたの!?絶対にあなたは見てないでしょ!」
中に入ることを勧められ、リビングのテーブルに頬杖を付いた状態でルーナに一瞬も視線を合わせない彼に後ろから迫るも欠片も口を割る気はないようにみえる。
「ねぇ!無視しないで!ちょっと!」
ルーナがどんなに話しかけてもスカイは一言も口を開かない。
そんな状況に苦笑していると、不意に扉のノック音が聞こえた。それと共にリリエ?と呼ぶ声が聞こえ、ルクトの来訪を察した。はーい!と返事をして扉のノブに手を掛けたその時。
「ルクト兄さんから聞いた。」
「…え?」
「ルクト兄さんが、ルーナがそんなことしてたって教えてくれた。」
えっ、と言葉をこぼしたのはリリエもルーナも同時で、その瞬間に果たしてこの扉を開けても良いものだろうかと手の動きが停止した。
背後から微かに感じる扉の向こう側に立つ者へと向けられている殺気に、完全に扉を開けるという行為にストップがかかる。扉の向こうにいるルクト本人はこの状況など知る由もないだろう、どうしたリリエー?と呑気にこちらを心配する声音の声が聞こえる。
これは果たしてどうするべきなのか。このまま開けなければきっと彼女はリリエを扉からひっぺがし、蹴破ってルクト諸共粛清するだろう。かといって開けても背後からルクトへ強烈な攻撃が飛ぶのは明白だ。
「リリエ~?開けてもいいのよ~?ルクト待ってるし~」
甘ったるい可愛げな声が背後から聞こえるが当然比例して殺気も悶々と燃え上がっている。
しかし改めて考えれば、ルーナの怒りはルクトに向いている。今は、それにリリエが巻き込まれるか否かの瀬戸際だ。
…結局ルクトがやられるのは確定条件では?ならばもうどうにでもなれだ。ルクト、ごめんね!と心の中で謝っておいて、彼女は扉を開けた。
「一生許さない、この告げ口魔!」
「ぶごふっ!?」
一瞬、まさに刹那的な出来事だった。扉を開けたと同時に風の速さでリューシャの姿のルーナが、ルクトの顔面ど真ん中に見事なパンチをお見舞したのだ。
ごめんルクト…私は何も知らないから…。と目の前の惨状に見て見ぬふりを決めつけ、そっと扉を閉めた。その内落ち着いたら入ってくるだろう…多分。
今日彼らがリリエの家に集まったのは、ルクトとスカイがリリエに話したいことがあると告げられたからだった。
「ねぇスカイ、ルクトの言っていた話したいことって何?」
本来はルクトも話に混ざるべきなのだろうが、彼は今絶賛外でルーナと水掛け論の最中だ。
彼は机に頬杖をついて、ぼんやりと窓から外を眺めていたがちらりと彼女に視線を向けて、ん。と答えた。
「この前、ルーナがセレナ様のとこ行ってたでしょ?あの時の話なんだけど。…サフェル。あいつ逃げたでしょ?あれから行方は全く分からないんだって。でもこの世界から出ていってはないらしいからさ、あいつ結構戦闘慣れしてたし気をつけて欲しいって。それだけ。」
この話の為だけにわざわざ俺も連れてくなんて、いよいよルクト兄さんの過保護も度が過ぎて来たんじゃないの?なんてぼやくスカイにふふ、と微笑んだ。
なんだかんだ言いつつもちゃんと着いてくるあたり、彼も似たようなものだと思う。
「何笑ってんの。笑うとこなかったでしょ。」
「んー?ルクトは相変わらずだなぁと思って」
「ルクト兄さんが相変わらずなのは昔からでしょ?」
「はは、そうだったね!…あー、そろそろ止めた方が良いかなぁ」
尚も玄関前で繰り広げられるルーナとルクトの論争を止めるべく、リリエは踵を返して2人を止めに行く。
「リリエ。」
名前を呼ばれて、反射的に彼を振り返る。彼は射貫くようにこちらを見つめていた。
「どうしたの?スカイ」
「金輪際、どんな状況でも、魔法は使わないで。」
彼は、ただじっと真っ直ぐに、リリエの瞳を見つめていた。
するとそれと同時に扉を叩く音がして、読書をしていたリリエが反射的に立ち上がった。
「ルクトかな?スカイかな?」
「スカイじゃない?静かだし」
本当?と嬉々とした様子で扉を開けば、そこに立っていたのはルーナの予想通りスカイだった。
「いらっしゃいスカイ!ルクトは後から?」
彼はうん、と軽く頷くと彼はちらりと窓辺に寝そべるルーナを見つめた。彼女は気持ちよさげに目を閉じて日を浴びているが、視線には気づいていたらしく、不意に何?と薄らと目を開けて、スカイに視線を寄越した。
「いくら来客が俺だからってさ、くつろぎすぎじゃない?」
若干冷ややかさも含まれたその言葉に何ともなしに彼女はふっと笑みをこぼす。
「だってこんなにのんびりと穏やかに日向ぼっこ出来る時間なんて向こうでは殆ど無かったんだよ?だからいいでしょ?」
そう言ってごろんと寝返りを打つルーナにはぁとため息を吐く。
「…セレナ様にたまに甘えて竜の姿で毛繕いして貰ってた傍付きはどこの誰だっけ。」
呟くようにスカイの口から出たその言葉にルーナは反射的に勢いよく起き上がった。
「待って、どうしてそれをスカイが知ってるの?いつ見たの?ねぇ、ちょっとスカイ!?」
なぜ知っているのかとスカイを問い詰めようとする彼女。然しスカイは無視を決め込んでしまい、一切ルーナの言葉を受け付けず全ての問いをスルーする。
「スカイ!教えなさい!どこでそれを聞いたの!?絶対にあなたは見てないでしょ!」
中に入ることを勧められ、リビングのテーブルに頬杖を付いた状態でルーナに一瞬も視線を合わせない彼に後ろから迫るも欠片も口を割る気はないようにみえる。
「ねぇ!無視しないで!ちょっと!」
ルーナがどんなに話しかけてもスカイは一言も口を開かない。
そんな状況に苦笑していると、不意に扉のノック音が聞こえた。それと共にリリエ?と呼ぶ声が聞こえ、ルクトの来訪を察した。はーい!と返事をして扉のノブに手を掛けたその時。
「ルクト兄さんから聞いた。」
「…え?」
「ルクト兄さんが、ルーナがそんなことしてたって教えてくれた。」
えっ、と言葉をこぼしたのはリリエもルーナも同時で、その瞬間に果たしてこの扉を開けても良いものだろうかと手の動きが停止した。
背後から微かに感じる扉の向こう側に立つ者へと向けられている殺気に、完全に扉を開けるという行為にストップがかかる。扉の向こうにいるルクト本人はこの状況など知る由もないだろう、どうしたリリエー?と呑気にこちらを心配する声音の声が聞こえる。
これは果たしてどうするべきなのか。このまま開けなければきっと彼女はリリエを扉からひっぺがし、蹴破ってルクト諸共粛清するだろう。かといって開けても背後からルクトへ強烈な攻撃が飛ぶのは明白だ。
「リリエ~?開けてもいいのよ~?ルクト待ってるし~」
甘ったるい可愛げな声が背後から聞こえるが当然比例して殺気も悶々と燃え上がっている。
しかし改めて考えれば、ルーナの怒りはルクトに向いている。今は、それにリリエが巻き込まれるか否かの瀬戸際だ。
…結局ルクトがやられるのは確定条件では?ならばもうどうにでもなれだ。ルクト、ごめんね!と心の中で謝っておいて、彼女は扉を開けた。
「一生許さない、この告げ口魔!」
「ぶごふっ!?」
一瞬、まさに刹那的な出来事だった。扉を開けたと同時に風の速さでリューシャの姿のルーナが、ルクトの顔面ど真ん中に見事なパンチをお見舞したのだ。
ごめんルクト…私は何も知らないから…。と目の前の惨状に見て見ぬふりを決めつけ、そっと扉を閉めた。その内落ち着いたら入ってくるだろう…多分。
今日彼らがリリエの家に集まったのは、ルクトとスカイがリリエに話したいことがあると告げられたからだった。
「ねぇスカイ、ルクトの言っていた話したいことって何?」
本来はルクトも話に混ざるべきなのだろうが、彼は今絶賛外でルーナと水掛け論の最中だ。
彼は机に頬杖をついて、ぼんやりと窓から外を眺めていたがちらりと彼女に視線を向けて、ん。と答えた。
「この前、ルーナがセレナ様のとこ行ってたでしょ?あの時の話なんだけど。…サフェル。あいつ逃げたでしょ?あれから行方は全く分からないんだって。でもこの世界から出ていってはないらしいからさ、あいつ結構戦闘慣れしてたし気をつけて欲しいって。それだけ。」
この話の為だけにわざわざ俺も連れてくなんて、いよいよルクト兄さんの過保護も度が過ぎて来たんじゃないの?なんてぼやくスカイにふふ、と微笑んだ。
なんだかんだ言いつつもちゃんと着いてくるあたり、彼も似たようなものだと思う。
「何笑ってんの。笑うとこなかったでしょ。」
「んー?ルクトは相変わらずだなぁと思って」
「ルクト兄さんが相変わらずなのは昔からでしょ?」
「はは、そうだったね!…あー、そろそろ止めた方が良いかなぁ」
尚も玄関前で繰り広げられるルーナとルクトの論争を止めるべく、リリエは踵を返して2人を止めに行く。
「リリエ。」
名前を呼ばれて、反射的に彼を振り返る。彼は射貫くようにこちらを見つめていた。
「どうしたの?スカイ」
「金輪際、どんな状況でも、魔法は使わないで。」
彼は、ただじっと真っ直ぐに、リリエの瞳を見つめていた。
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