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リューシャ編
2話
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「…僕で良かったら、話を聞くよ。もう一度聞くけど、何があった?」
そう聞くルクトの正面にリューシャをぎゅっと抱いたリリエが暗い顔を少し俯かせて座っている。ルクトの問いかけにリリエはゆっくりと口を開いた。
「…とても…不安なの…なにか、良くないことが、もうすぐ起こりそうで…」
「なにか、良くないこと?」
ルクトの繰り返した言葉に頷くリリエ。
「その、良くないことっていうのは、リリエ自身に?それとも、この世界とかに?」
ルクトの問いに首を横に振り、リリエは呟くように答えた。
「…その、どっちでもない…不安なのは、リューシャのこと。…リューシャに、なにか悪いことが起きそうで、今までにないくらい不安なの…」
リューシャを抱くリリエの腕に少し力が入る。
「その不安は、いつから?何があって不安に?」
「…それは、ついさっき。…私、皇都にいつも通りリューシャと行ってたんだけど…そこで、竜の使いが2人来て、その内の1人がちらっと私とリューシャの方を見たんだけど…その目がまるで、リューシャか私に何かを感じたみたいな目で…でも、私からなにかを感じるなんてことないだろうし、どう考えてもリューシャにその何かを感じたとしか考えられないの…」
リリエの言葉にルクトは考え込む。
「…でも、リューシャはまだ子供の竜…そんな、驚くようななにかも持ってはいないはずだし…元々そんな力を持っていたにしても、2年も一緒のリリエが気づかない訳ない…だから、不安なのか?」
「…うん…ごめんね…ルクトには関係ないのに…」
暗く、少し顔を俯かせたまま言うリリエの言葉に首を横に振るルクト。
「いや、そんなことない。僕なんかを頼ってくれるなんて、凄い嬉しいよ。」
「ありがとう、ルクト。」
そうルクトに笑いかけ、リリエは息を吐くと、リューシャを撫でながら言った。
「でも、リューシャがもしあのとき目をつけられたのなら、かなり警戒しないといけなくなるよね…」
「そうだな。目的がリューシャだとしたら、かなりの確率で狙ってくる。…でも、普段はリリエがずっと抱いてるか、一緒にいるから、当分は狙えないと思うけどな。」
「うん。私もなるべくリューシャと離れないようにする。……でも、なんかルクトに相談したら、ちょっと気が楽になったよ。」
リリエは笑いながらそう言って立ち上がる。
「もういいのか?リリエ」
「うん。大丈夫だよ。本当にありがとう。」
そうルクトに微笑み、ルクトの家を出た。自分の家に帰りながら、いつの間にか眠っていたリューシャに呟いた。
「…ずっと一緒だよ。リューシャ」
″絶対に、離れたくないから…″
そして家に帰るリリエを見送りながら、ルクトは呟いた。
「リリエに、辛い思いなんて絶対にさせない…絶対に。」
その目には固い意志が宿っていた。
その頃、人の皇都にある城では、竜の使いが竜の城からの伝言を皇女と皇子に伝えていた。
「…竜の皇女が消えた…?それは、いつから?」
そう使いの者に問いかけるのは、人の皇女であるレイナ・キューセルカ。
「はい。皇女様は2年前から行方不明でして…」
「…竜の皇女は、リレーニ殿であったな?彼女は好奇心旺盛でよく城から居なくなることが多いと聞いていたが…」
人の皇子であるヴェイス・キューセルカの言葉に小さく首を横に振りながらレイナは答える。
「でも、今回はおかしいです。2年も居なくなるなんて…いくら好奇心旺盛だとしても、彼女は自分のすべきことがちゃんと分かっていました。なのに帰ってこないなんて、よほど重要なことか、何か良からぬことに巻き込まれたか…」
「竜の皇子様も表情には出されませんが、とても心配なされていて…」
その言葉にレイナは頷いた。
「…分かりました。リレーニ殿らしき竜を見ていないか、民の者たちに聞いておきます。他には、いなくなった者はいないのですね?」
「…はい。他にはいません…。…よろしくお願いします」
そう言い、竜の使いは帰っていった。今回は一言も喋らなかった、リリエとリューシャを見た使いはそっと誰にも聞こえない声で呟いた。
「必ず…連れ戻す…」
そして、ヴェイスとレイナも神妙な顔持ちで話をしていた。
「…ヴェイス…竜とは…」
「…ああ…我々の知るうちには彼女しかいないが…」
「まあ、とりあえず話だけでも聞いてみましょう。あの子が子供であれ、可能性はゼロではないのだから…」
「…そうだな。」
ヴェイスはそう言いながら頷く。そして、とある人物を城に呼ぶためと、竜の皇女を探すための準備を始めた。
その頃リリエは、家の中でとある探し物をしていた。
「…リューシャを、守るために…私は…」
そう家の中になぜかある書庫でリューシャを守れるようになる何かを探していたリリエは、ふと見つけた本を見て息を飲んだ。
「…!…《4つの古の力》…?」
リリエはその本をほとんど無意識に手に取ると、立ち上がりリビングへと戻った。
「…リューシャ、大丈夫だからね…私、頑張るから…」
リビングにある椅子でスヤスヤと眠るリューシャの頭をリリエはやさしく撫でながらそう言った。
そう聞くルクトの正面にリューシャをぎゅっと抱いたリリエが暗い顔を少し俯かせて座っている。ルクトの問いかけにリリエはゆっくりと口を開いた。
「…とても…不安なの…なにか、良くないことが、もうすぐ起こりそうで…」
「なにか、良くないこと?」
ルクトの繰り返した言葉に頷くリリエ。
「その、良くないことっていうのは、リリエ自身に?それとも、この世界とかに?」
ルクトの問いに首を横に振り、リリエは呟くように答えた。
「…その、どっちでもない…不安なのは、リューシャのこと。…リューシャに、なにか悪いことが起きそうで、今までにないくらい不安なの…」
リューシャを抱くリリエの腕に少し力が入る。
「その不安は、いつから?何があって不安に?」
「…それは、ついさっき。…私、皇都にいつも通りリューシャと行ってたんだけど…そこで、竜の使いが2人来て、その内の1人がちらっと私とリューシャの方を見たんだけど…その目がまるで、リューシャか私に何かを感じたみたいな目で…でも、私からなにかを感じるなんてことないだろうし、どう考えてもリューシャにその何かを感じたとしか考えられないの…」
リリエの言葉にルクトは考え込む。
「…でも、リューシャはまだ子供の竜…そんな、驚くようななにかも持ってはいないはずだし…元々そんな力を持っていたにしても、2年も一緒のリリエが気づかない訳ない…だから、不安なのか?」
「…うん…ごめんね…ルクトには関係ないのに…」
暗く、少し顔を俯かせたまま言うリリエの言葉に首を横に振るルクト。
「いや、そんなことない。僕なんかを頼ってくれるなんて、凄い嬉しいよ。」
「ありがとう、ルクト。」
そうルクトに笑いかけ、リリエは息を吐くと、リューシャを撫でながら言った。
「でも、リューシャがもしあのとき目をつけられたのなら、かなり警戒しないといけなくなるよね…」
「そうだな。目的がリューシャだとしたら、かなりの確率で狙ってくる。…でも、普段はリリエがずっと抱いてるか、一緒にいるから、当分は狙えないと思うけどな。」
「うん。私もなるべくリューシャと離れないようにする。……でも、なんかルクトに相談したら、ちょっと気が楽になったよ。」
リリエは笑いながらそう言って立ち上がる。
「もういいのか?リリエ」
「うん。大丈夫だよ。本当にありがとう。」
そうルクトに微笑み、ルクトの家を出た。自分の家に帰りながら、いつの間にか眠っていたリューシャに呟いた。
「…ずっと一緒だよ。リューシャ」
″絶対に、離れたくないから…″
そして家に帰るリリエを見送りながら、ルクトは呟いた。
「リリエに、辛い思いなんて絶対にさせない…絶対に。」
その目には固い意志が宿っていた。
その頃、人の皇都にある城では、竜の使いが竜の城からの伝言を皇女と皇子に伝えていた。
「…竜の皇女が消えた…?それは、いつから?」
そう使いの者に問いかけるのは、人の皇女であるレイナ・キューセルカ。
「はい。皇女様は2年前から行方不明でして…」
「…竜の皇女は、リレーニ殿であったな?彼女は好奇心旺盛でよく城から居なくなることが多いと聞いていたが…」
人の皇子であるヴェイス・キューセルカの言葉に小さく首を横に振りながらレイナは答える。
「でも、今回はおかしいです。2年も居なくなるなんて…いくら好奇心旺盛だとしても、彼女は自分のすべきことがちゃんと分かっていました。なのに帰ってこないなんて、よほど重要なことか、何か良からぬことに巻き込まれたか…」
「竜の皇子様も表情には出されませんが、とても心配なされていて…」
その言葉にレイナは頷いた。
「…分かりました。リレーニ殿らしき竜を見ていないか、民の者たちに聞いておきます。他には、いなくなった者はいないのですね?」
「…はい。他にはいません…。…よろしくお願いします」
そう言い、竜の使いは帰っていった。今回は一言も喋らなかった、リリエとリューシャを見た使いはそっと誰にも聞こえない声で呟いた。
「必ず…連れ戻す…」
そして、ヴェイスとレイナも神妙な顔持ちで話をしていた。
「…ヴェイス…竜とは…」
「…ああ…我々の知るうちには彼女しかいないが…」
「まあ、とりあえず話だけでも聞いてみましょう。あの子が子供であれ、可能性はゼロではないのだから…」
「…そうだな。」
ヴェイスはそう言いながら頷く。そして、とある人物を城に呼ぶためと、竜の皇女を探すための準備を始めた。
その頃リリエは、家の中でとある探し物をしていた。
「…リューシャを、守るために…私は…」
そう家の中になぜかある書庫でリューシャを守れるようになる何かを探していたリリエは、ふと見つけた本を見て息を飲んだ。
「…!…《4つの古の力》…?」
リリエはその本をほとんど無意識に手に取ると、立ち上がりリビングへと戻った。
「…リューシャ、大丈夫だからね…私、頑張るから…」
リビングにある椅子でスヤスヤと眠るリューシャの頭をリリエはやさしく撫でながらそう言った。
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