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リューシャ編
50話
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「っ?!」
轟音が聞こえたリリエはその方向を向くが、辺りは霧。どこから音が聞こえたかこの場で特定することはほぼ不可能だろう。だが、スカイが攻撃を仕掛けたか、あるいはスヴールがスカイを攻撃したか。そのどちらかだというのは容易に想像がついた。
そして、先程まで動いている気配の無かったスカイが突然攻撃を仕掛けるとは思えない。だから、おおよそ後者であるということは推測できた。しかし問題なのはそこからだ。
「この霧…どうやって払えばいいの?」
いくらスカイの援護をしたいといえども、こんな視界の悪い中で無闇に魔法を扱えばスヴールを攻撃できたとしてもスカイも同時に攻撃してしまうかもしれない。かといって無理に動けばこちらも狙われてしまう。一番早いのは、この霧を払って視界を元に戻すこと。
スカイは狙われてしまっているから無理に魔法を使うことができない。だから、今スヴールの不意を突けるのは自分だけだ。不意を突いて霧を払うことが出来れば、スカイが後は無双してくれる…はず。
しかし今の自分ではどうしてか風が使えない。それはミストと戦ったときに実証されている。もしかすればあの時のみダメだっただけなのかもしれないが、ここで失敗すれば完全にスヴールのペースに持ち込まれてしまうだろう。それだけはなんとしてでも避けなければならない。
「…せめて、せめて今だけでいいから、風の魔法が使えれば…」
そう意識を集中させるが、風の魔法が使えるような気配は無い。やはり今では使うことが出来ないのか。…いや、諦めない。諦められない。
今でも、近くからなにかがぶつかるような音は聞こえている。一刻も早くこの霧を払わなければならない。スカイを援護するために、今は一度だけでも風の魔法が必要だ。
″なんで…なんで突然使えなくなったの?私だけ、4つもの属性魔法を扱うのはやっぱり駄目ってこと…?″
そうも思ったが、なぜ今更。こんな大切なところで使えなくなるなら、元から習得出来ない方が良かった。だがもし、もう使えなくなったのではなく一時的に使えないだけなら、無理にでも使う。それでスヴールに勝てるなら問題は無いだろう。いつの間にか胸の前で握っていた両手に、力が込もる。
神と竜と人が共存するこの世界で、願ったり祈ったりする対象は、神ではなく『虹』。その虹に、リリエは願うだけしか手はないような気がしていた。
″一度でいいから、風で霧を払わせて…!″
強く、ただ強く、虹に願った。
──・よ、・・祈・・・えよ。
不意に、どこからか声が聞こえたが、その言葉はどうしてか聞き取れず、その言葉を発したのが誰かも分からなかった。しかしその瞬間、体に何かが満ちていくような感覚に陥り、自分の口がとても自然に、無意識に動いた。
「【エクレセンデット・ストーム】」
次の言葉、詠唱はハッキリと耳に届いた。するとリリエを中心として暴風が巻き起こり、霧を全て払った。辺りを見回せば、突然のことで呆然としているように見えるスカイとスヴール。スカイが無事なことを確認できて、なぜか少しばかり、体から力が抜けた気がした。
「良かった…霧、払えたみたい」
リリエはそう笑みを溢すが、それと同時に体から完全に力が抜け、意識も遠退いていく。
″あ…こんなところで気を失う暇なんて無いのに…″
そう心の中で沈んでいこうとする意識に抗おうとしたが、意味もなくリリエは気を失ってしまった。
そんな、気を失ったリリエの体を支えたのは、スカイ。気づかない間にリリエの後ろへ回っていたようだ。
「…その娘…確か風の魔法は今は使えなかった筈だ。」
目を細めそう言うスヴールに、スカイはリリエを抱き上げて呟くように言った。
「虹か、虹の巫女にでも願ったんじゃないの」
「虹の巫女?この世界にもう存在していたのか?」
「……さあね」
意味が分からない単語を並べてスカイとスヴールは会話を少し交わし、スカイはリリエを部屋の端へ運んで壁にもたれさせた。
「やっぱり、リリエは無茶ばっかだよね」
ただ一言だけ、聞こえないにしてもリリエに囁いて、立ち上がりながらスヴールに言った。
「まさか、獣の姿を構成する霧を全部霧散させるなんてね。それも、俺だけに集中攻撃だし。そんなに俺を警戒してんの?」
「当たり前だろう。お前の氷は私の隠しようもない弱点だ。沈めるしか手はないからな。【サプレイ・レボウ】」
その詠唱と共にスヴールの両サイドに弓矢が出現し、スカイをしっかりと狙い撃つ。
「さっき、俺を狙い撃ちしてたのはその技?それ追跡能力あるからめんどくさいんだけど」
そうは言いながらも、スカイはひらりと攻撃を避けていく。
魔法は、恐らく温度上昇付加がかけられている可能性が高いから使わない。
「…そういえば。」
「?」
追跡してくる上に数も少しずつ増えている矢を軽くかわしながらスカイは思い出したかのように言った。
「俺、魔力温存してて余裕で魔力が余ってるんだよね。」
「……!」
その言葉に、スヴールは何かを思い出したのか目を見開いた。しかしすぐに口元に笑みを浮かべる。
「そうか…すっかり忘れていたが、スカイ様は私との戦いでまだ魔力を使っていなかった…。良いだろう。私もまだ魔力は使っていない。どちらがどちらの魔法に押しきられるかな?」
まるで実験を楽しみにしている研究者のような笑みを浮かべ、次々に弓矢を生成しながら、スヴールは魔力を発動させた。それに呼応させるかのようにスカイも魔力を発動させ、スヴールの放つ弓矢に対抗するように氷を放った。
轟音が聞こえたリリエはその方向を向くが、辺りは霧。どこから音が聞こえたかこの場で特定することはほぼ不可能だろう。だが、スカイが攻撃を仕掛けたか、あるいはスヴールがスカイを攻撃したか。そのどちらかだというのは容易に想像がついた。
そして、先程まで動いている気配の無かったスカイが突然攻撃を仕掛けるとは思えない。だから、おおよそ後者であるということは推測できた。しかし問題なのはそこからだ。
「この霧…どうやって払えばいいの?」
いくらスカイの援護をしたいといえども、こんな視界の悪い中で無闇に魔法を扱えばスヴールを攻撃できたとしてもスカイも同時に攻撃してしまうかもしれない。かといって無理に動けばこちらも狙われてしまう。一番早いのは、この霧を払って視界を元に戻すこと。
スカイは狙われてしまっているから無理に魔法を使うことができない。だから、今スヴールの不意を突けるのは自分だけだ。不意を突いて霧を払うことが出来れば、スカイが後は無双してくれる…はず。
しかし今の自分ではどうしてか風が使えない。それはミストと戦ったときに実証されている。もしかすればあの時のみダメだっただけなのかもしれないが、ここで失敗すれば完全にスヴールのペースに持ち込まれてしまうだろう。それだけはなんとしてでも避けなければならない。
「…せめて、せめて今だけでいいから、風の魔法が使えれば…」
そう意識を集中させるが、風の魔法が使えるような気配は無い。やはり今では使うことが出来ないのか。…いや、諦めない。諦められない。
今でも、近くからなにかがぶつかるような音は聞こえている。一刻も早くこの霧を払わなければならない。スカイを援護するために、今は一度だけでも風の魔法が必要だ。
″なんで…なんで突然使えなくなったの?私だけ、4つもの属性魔法を扱うのはやっぱり駄目ってこと…?″
そうも思ったが、なぜ今更。こんな大切なところで使えなくなるなら、元から習得出来ない方が良かった。だがもし、もう使えなくなったのではなく一時的に使えないだけなら、無理にでも使う。それでスヴールに勝てるなら問題は無いだろう。いつの間にか胸の前で握っていた両手に、力が込もる。
神と竜と人が共存するこの世界で、願ったり祈ったりする対象は、神ではなく『虹』。その虹に、リリエは願うだけしか手はないような気がしていた。
″一度でいいから、風で霧を払わせて…!″
強く、ただ強く、虹に願った。
──・よ、・・祈・・・えよ。
不意に、どこからか声が聞こえたが、その言葉はどうしてか聞き取れず、その言葉を発したのが誰かも分からなかった。しかしその瞬間、体に何かが満ちていくような感覚に陥り、自分の口がとても自然に、無意識に動いた。
「【エクレセンデット・ストーム】」
次の言葉、詠唱はハッキリと耳に届いた。するとリリエを中心として暴風が巻き起こり、霧を全て払った。辺りを見回せば、突然のことで呆然としているように見えるスカイとスヴール。スカイが無事なことを確認できて、なぜか少しばかり、体から力が抜けた気がした。
「良かった…霧、払えたみたい」
リリエはそう笑みを溢すが、それと同時に体から完全に力が抜け、意識も遠退いていく。
″あ…こんなところで気を失う暇なんて無いのに…″
そう心の中で沈んでいこうとする意識に抗おうとしたが、意味もなくリリエは気を失ってしまった。
そんな、気を失ったリリエの体を支えたのは、スカイ。気づかない間にリリエの後ろへ回っていたようだ。
「…その娘…確か風の魔法は今は使えなかった筈だ。」
目を細めそう言うスヴールに、スカイはリリエを抱き上げて呟くように言った。
「虹か、虹の巫女にでも願ったんじゃないの」
「虹の巫女?この世界にもう存在していたのか?」
「……さあね」
意味が分からない単語を並べてスカイとスヴールは会話を少し交わし、スカイはリリエを部屋の端へ運んで壁にもたれさせた。
「やっぱり、リリエは無茶ばっかだよね」
ただ一言だけ、聞こえないにしてもリリエに囁いて、立ち上がりながらスヴールに言った。
「まさか、獣の姿を構成する霧を全部霧散させるなんてね。それも、俺だけに集中攻撃だし。そんなに俺を警戒してんの?」
「当たり前だろう。お前の氷は私の隠しようもない弱点だ。沈めるしか手はないからな。【サプレイ・レボウ】」
その詠唱と共にスヴールの両サイドに弓矢が出現し、スカイをしっかりと狙い撃つ。
「さっき、俺を狙い撃ちしてたのはその技?それ追跡能力あるからめんどくさいんだけど」
そうは言いながらも、スカイはひらりと攻撃を避けていく。
魔法は、恐らく温度上昇付加がかけられている可能性が高いから使わない。
「…そういえば。」
「?」
追跡してくる上に数も少しずつ増えている矢を軽くかわしながらスカイは思い出したかのように言った。
「俺、魔力温存してて余裕で魔力が余ってるんだよね。」
「……!」
その言葉に、スヴールは何かを思い出したのか目を見開いた。しかしすぐに口元に笑みを浮かべる。
「そうか…すっかり忘れていたが、スカイ様は私との戦いでまだ魔力を使っていなかった…。良いだろう。私もまだ魔力は使っていない。どちらがどちらの魔法に押しきられるかな?」
まるで実験を楽しみにしている研究者のような笑みを浮かべ、次々に弓矢を生成しながら、スヴールは魔力を発動させた。それに呼応させるかのようにスカイも魔力を発動させ、スヴールの放つ弓矢に対抗するように氷を放った。
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