ツムギ ツナグ

みーな

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混沌の泉編

64話

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「僕が神の皇子の座を降りたのは14年前。その時にある事件が起き、俺は自ら神皇子の座を降りた。」
 笑ってそう言うルクト。だが、その笑顔にはどこか翳りがあるようにも感じ取れた。
「…その事件の事ももう言ったら?ルーナと俺はもう知ってるし、恐らく、今の神の皇子も知ってる筈。この中で知らないのはリリエだけでしょ?」
 スカイの言葉にあー、そうだな……。と呟くように言うと、リリエに笑顔を向けて問い掛けた。
「リリエは、その事件の事、知りたいか?」
 その質問に、リリエは頷いて自己の意思を肯定する。ルクトはその肯定を見て、静かに話始めた。




━━14年前、ルクトがまだ神の皇子をしていた頃、神の皇都及び神たちの生活範囲全体にある噂が立っていた。それは神の皇子ルクトが、皇子としての責務をこなしていない、というものだった。
 しかし、ルクトは毎日皇子としての責務をこなしていた。どこからその噂が立ったのかは分からない。それは当然嘘だ。だがそれを神たちが知るよしも無かったのはたしか。
 そしてある日、神たちはその噂に踊らされ、神の皇子に反対運動を起こした。ルクトは、焦ることもなく、皆が不安ならば、と余りにもあっさりと神の皇子の座を降りた。その代わりに、現在の神の皇子、レスデオが神の皇子となったのだ。



「……まぁ、こんな感じだ。そして、神たちの間では、その反対運動及び神の皇子の交代が無かったことにされている。」
「えっ…?」
 そのルクトの言葉に、リリエは思わず声を上げた。
「ルクトの存在を、他の神たちは忘れたことにしているってこと……?」
 リリエの言葉にルクトは頷いた。
「どうして?だって…噂に踊らされた神たちのせいでルクトは神の皇子の座を降りざるを得なくなったんだよね?なのに、その事に罪悪感を感じるどころか忘れるなんて、おかしいよ……!」
 リリエはそう呟く。ルクトはリリエに笑みを溢し、優しく言った。
「だから、僕は自ら皇子の座を降りたって言っただろ?神たちのせいで僕は神の座を降りた訳じゃない。ただ、僕が神の皇子という立場に立つ上での覚悟が浅かった。それだけだ。」
 ルクトの言葉に、まだ何かを言いたげにしていたものの、リリエは黙りこんだ。
 リリエが黙ったせいか、その場を静寂が包む。
「…ルクト兄さん、あれから前皇女はまだ見つかってないの?」
 スカイが不意に発した言葉に、ルクトは一瞬驚いたようにスカイを見たが、直ぐに悲しげに頷いた。
「まだ見つからないどころか、手掛かりの欠片さえも見付からない…。」
「前神の皇女様……?」
「あ、リリエは知らないよね、前神の皇女、ユノ・アルセリカ。俺も顔を見たことが無いからどんな人かは全く分からないけど……、ルクト兄さんが皇子の座を降りた時に同時に皇女の座を降りたらしいけど、それから消息不明で、ルクト兄さんが探してるんだよ」
「じゃあ、私たちも探すのを手伝えば……」
 リリエの言葉に、スカイは首を横に振った。
「無理だよ。手伝おうにも、ルクト兄さんがユノって人の特徴を少しも教えてくれない。ルクト兄さんのプライドなのかなんなのか、教えてくれない理由はわからないけど。」
 リリエは、ただ不安そうなルクトを見やった。




 暗い部屋。照明が点いているのかすら不明瞭な部屋で、淡い藤色の髪が揺れた。
「…《虹》を、どうしても手に入れなければ……。」
 藤色の髪を持つその者は、スヴールとあの時会話していた女性だろう。そして女性は若干俯いていた顔を上げた。その目の前には鏡。辛うじて視界に入り見ることのできる鏡の中、何かの肖像画のようなものが反射している。
 肖像画らしき絵には、藤色の髪を持ち鏡の前に立つその者とほぼ瓜二つの女性。鏡の前に立つその者との違いを上げるならば、微笑んでいるか否かだろう。否、瓜二つ、ではなく恐らく同一人物だ。
 絵の下には、その描かれた女性の名であろう文字が書かれている。その名前は──ユノ・アルセリカ。
「だが、手はまだ余る程にある。……まずは、あの余計な取り巻きの内の一人、ルクト・サーフィラーからだ…。序でに、スカイ・レーシェードにも手を打とう。……あの時、折角忠告してあげたというのに…。、と………。」
 ニヤリと怪しさしか感じない笑顔をその口元に浮かべ、鏡の前から女性は身を翻した。




「……あ、そうだ。一応、言っておこうかな」
 スカイが不意に言ってリリエを見た。
「?」
「俺、純血の神の種族じゃないから。」
「…へ?」
 嫌な予感がして、リリエは妙な声を上げた。リリエの嫌な予感、それは大抵、必中の予感だ。
「つまり、俺はハーフなの。神と人の。」
「ええええええええ!?」
 あぁ、やっぱりぃぃぃ!と内心でも嫌な予感が的中したことと、衝撃の事実に叫びながら驚いて、想像通りのリリエの反応に呆れたのか、スカイはため息を1つ吐いた。
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