ツムギ ツナグ

みーな

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リューシャ編

48話

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「霧が、凍らない…?」



リリエはスカイが霧を凍らせられなかったことに驚愕し、そう呟く。だが、当の本人はそれほど驚いた様子を見せずに逆に納得と呆れの混ざったため息をついた。



「はぁ…霧に温度上昇付加アディッションで霧が蒸発しないギリギリまで温度を上げて、俺の氷を防ぐとはね。それも、俺に詠唱が聞こえないように小さい声で言ったみたいだし」
「スカイ様に霧が効かないことは承知しています。ですから対策をさせていただきました。」



スカイに言葉で敬意は見せているが、スヴールのその表情はどこか上から目線になっているような気がする。



「…俺の氷に、そんなので本当に対抗できると思ってんの」



スカイはスヴールに聞こえない声でそう呟いて再び霧に向かって手を伸ばした。



「リリエ、俺の後で良いから魔法使って。」
「え?スカイ、突然何を…」



急の言葉に動揺しているリリエに構いもせず、スカイは手を前へと伸ばした。



「【レイシャンド・フリーズ】」
「ちょ、ちょっと!…もう…【レイディング・アースム】!」



突然のことすぎて何が何だか分からないが、スカイにはただ魔法を使えとだけ言われた。いくら混乱しているとはいえその言葉を無視するわけにもいかず、とりあえずリリエは魔法を放った。スカイの詠唱にまた氷の欠片が霧に向かって放たれ、リリエの詠唱で地面が強く波打つ。全くの無い地面と氷の欠片。こんな闇雲な攻撃がなんになるのかとスヴールが内心小馬鹿にしたとき、波打つ地面が氷の欠片に触れて凍りついた。そして氷は一度に地面の全てを凍りつかせ、地面が一気に冷えたことによって最終的には温度上昇の付加アディッションが掛けられた霧でさえも凍りつかせていった。



「…!さすが、ですね。温度上昇付加を掛けた霧でもさえも地面の水分を使って凍りつかせるとは」



驚嘆したようにスヴールはそう呟く。その呟きはもちろんスカイとリリエにも聞こえており、スカイは冷たくスヴールに言う。



「あんただったらこれくらい予想の範疇でしょ。万が一予想から外れてたとしても、想定外と呼べるほどでも無いだろうし」



そう言うスカイにスヴールはフッと笑う。スカイの言葉はあながち間違っていないのだろう。



「そうですね。まあ、これくらいでこの私が負けるわけが無いのです。…なぜなら、私の扱う霧の属性魔法ぞくせいまほうは、私のかける付加アディッション次第で、どんな者や魔法より有能な魔法になるのだからな」



また、スヴールの目に狂気が混ざる。だが今度はその目に怯えたりなどしない。



「有能な魔法かどうかは、個人で差があると思いますよ。」





〝大切なのは、自分の扱う魔法の特性をちゃんと理解して、どれだけ魔法の持つ力の全力を出せるか。〟





リリエがスヴールに言った後に、誰かが、とても深い所へ沈んでしまった記憶の中で、優しくそう言った気がした。でも、それは空耳のような気もして、よく考えずに記憶の隅へと追いやってしまった。



「…その言葉、しっかり覚えておくんだな。そう言ったことを後悔させてやろう」



スヴールは笑みを含めてそう言うと右手を高く上へと掲げた。



「【オーグ・インステンティ】、【アディッション・エンボリービースト】」



そう2つの詠唱を唱えると、スヴールが立つ後ろに大きな霧が出現し、霧は巨大な獣へと変化した。



「1つ言っておくけど、付加アディッションで魔法に実体を持たせることは簡単だし、しようと思えば誰だってできる。たかがそれだけで自分の魔法を有能だと勘違いしているなら、お前に魔法を使う価値は無いと思うけど」



スカイはそう言うと右手を霧の獣にかざすように伸ばした。



「【フリージエン・コンプリーネス】」



まるで口からこぼれるかのように発せられた詠唱は、どんな魔法かと考察も対策もする暇なく、呆気なく霧の獣の両前足を凍らせた。



「足、だけ…?」



たったその一部だけの攻撃に何か意味があるのかと首を傾げたリリエだが、魔法を放った後のスカイの悔しそうな表情を見て、それがスカイの求めていた攻撃では無かったのだと理解できた。



「フリージエン…そしてこの氷の温度…まさか…」



放ったスカイの氷にスヴールは何かを感じ取ったのか意味深げな表情を見せていた。



「相変わらず、制御の難しさは変わらない…か…。やっぱり、まだ俺には早すぎってことだね」
「…スカイ?」



どこか呆れるように呟いてため息をつくスカイに、心配になって声を掛けた。ただ、自分が声を掛けたところで心配が減るわけでも消えるわけでも無いのだが。



「大丈夫。今の俺の実力じゃ使えない技を無理に使っただけだから。次からは失敗しない。」
「…うん、そっか。」



自分は、失敗を責めたいわけではなかった。純粋にスカイが心配になっただけであり、それに自分にはスカイのこの失敗を責められるほど強いわけでもないのだ。だからだろうか。次からは失敗しないというその言葉が、リリエの心に刺すかのような痛みを感じさせたのだった。



「……気にしない。気にしない。今そんな妙な所に気をとられちゃったら、足手まといになるよ?」



リリエはそう呟いて自分に言い聞かせ、スカイの魔法によって前足を凍結されている獣の方へ、己の手をかざした。
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