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チャプター1(初任務編)
第九話 『橋上の魔物』
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廃墟がある場所からしばらく。
僕たちは高梨さんに入った急な仕事の依頼により『水影大橋』へと
やって来ていた。
水影大橋はその名の通り市内外を隔てる海峡をの最狭部を結ぶ吊橋であり、
その見栄えと景観の良さから市内屈指の観光スポットとして人気の高い場所
である。
加えて市内と市外を繋ぐ重要なバイパスであることもあり、
日もくれた今でも多くの自動車が片側二車線の道路をひっきりなしに
行き交っていた。
「凄い人通りあるけど本当にこんなところに怪異がいるの?」
「――――? あ、そっか天寺くんにはまだ説明してなかったわね」
一瞬、僕の疑問にきょとんとした表情を浮かべた高梨さんが
こちらに視線を向ける。
「天寺くん、最初にあった学校の時のこと覚えてる?」
「それは勿論。忘れもしないよ」
彼女の質問の糸が判らずとりあえず聞かれたことに正直に答える。
「それがどうかしたの?」
「あの時、天寺くんは大きな声で助けを求めた。けれどそれで人は来なかった。
どうしてだと思う?」
「――――それは夜だから気が付かなかったとか?」
「本当にそう思う?」
そう尋ねられ僕は思考を巡らせる。
「(そういえば高梨さんは以前、あの怪異のことを人を自身の領域に誘き出して
襲うと云っていた……ということはつまり…………)」
「あれは怪異の領域だった」
「その通りよ。正確には境界だけどね」
「ってことはここにもその境界があるんだね」
「ええ。下を見て」
橋の入口。彼女の指さす地面を見つめる。
するとそこには薄っすらとではあるが湯気の様な境界線がゆらゆらと
揺れているのに気が付いた。
「これが境界…………」
「これを霊力を持った人間が意識的に通ることで境界の中に入れる」
そう告げると再度彼女はこちらに振り替えると真剣な表情で続ける。
「だから引き返すならここが最後。これ以上付いてくるつもりならある程度の危険は
覚悟してもらわないといけない」
「分かってる。けれど僕は行くよ、高梨さんが許してくれるならだけどね」
「師匠の御守りもあるし天寺くんがいいなら構わないわ」
と、高梨さんは徐に左手を前に差し出す。
「これから境界に入るから私の手、握ってて」
「うん」
僕が手を握ると同時に彼女は一歩、橋に向かって足を踏み出す。
その直後、正面の空間に水面の様な波紋が広がったかと思うと、
次の瞬間には周囲の雑音や先程まで行き交っていた車のヘッドライトの
光が消えた。
それはまるで水面や鏡の中の世界に入り込んだような不思議な感覚だった。
「ここが境界――――」
「ええ、そしてあれがここの主みたいね」
視線の先、橋の柱である塔と呼ばれる部分付近に目を向けると
何もない空中をふよふよと浮遊する魚型の怪異を発見する。
「高梨さんあれっ!」
「ッ――最悪な状況ね…………」
浮遊する怪異の真下。
そこにいたのは一人の少年、恐らくは小学校低学年くらいの男児であった。
どうやら意識はあるようだが、大分衰弱しているらしく道路の真ん中で
倒れこんでいた。
「あの怪異、恐らく羅霧魚ね」
「ラムギョ?」
「霧を使って人を攫って衰弱させる怪異よ」
「それって…………どうしよう高梨さん」
「落ち着いて天寺くん。まずは私があの怪異の気を引き付ける。
その間に君があの少年を保護して」
「分かった!」
そうしてまずは高梨さんが薙刀を取り出し一気に橋の中央へ目掛けて駆けだす。
すると彼女の動きに釣られて怪異が降下してくるかと思われたが――――。
「高梨さんッ!」
「ッ――――!?」
直後、橋の下から回り込むようにして出現した”何か”に高梨さんは
弾き飛ばされる。だが僕の声が届いたおかげが直撃は避けられたようだった。
「大丈夫、高梨さん?」
「ええ何とか…………けれどこれは厄介ね」
彼女の言う通り突如出現した”何か”もとい、二体目の怪異の出現により
状況は更に悪化した。
二体目の怪異は姿形も最初に発見した怪異と全く同じであり、
恐らく同じ種類の怪異だと素人目ながらも分かる。
「羅霧魚の一番厄介な特性は人を食べれば食べる程に霊力を強化し
個体を増殖させていく。やっぱりアイツ、かなりの人を食っているようね」
「そんな…………ならあの子も早く助けないと」
「そうね。天寺くん作戦変更よ。君はあの子を保護したら一目散に境界を離脱して」
「出られるの?」
「御守りの効果があれば平気。その後は京条寺に」
「高梨さんはどうするの?」
「私はアイツを祓うわ」
「…………」
「心配しないで。最優先は貴方とあの子の命。そうでしょ?」
「分かった」
「よしなら行って! 御守りがあれば怪異は貴方に触れられない!」
彼女の言葉を受け意を決しダッ――――と地面を蹴りだし少年に向かって
全力疾走で駆け寄る。
当然、怪異の一体が少年を奪われまいと急降下し牙を剥く。
「くそッ!」
少年を確保し御守りを付けた右手を上に掲げる。
すると静電気が走ったかのような衝撃と共にバチリと音を鳴らし
僕の右手が怪異を弾き飛ばす。
ぎょゃぁと何とも言えない鳴き声を漏らし羅霧魚が空中を泳ぎながら遠のく。
「(本当に凄い効き目だな、これ。いや今はそんなことより早くこの子を
境界の外へ!)」
少年の身体は思ったよりも小さく軽かったこともあって抱えて走るのには
問題がない。しかし視界の端でもう一体の怪異を引き付けながら、
苦戦する高梨さんの様子を見るにそううかうかもしていられない。
「うぉぉ!!」
走りながら追ってくる怪異の攻撃を避けつつ車線横にある歩道へと移動し、
そのまま境界の外へ。
「ぐへっ!」
勢いあまって地面へと転げる。
しかし瞬時に体を捻ったおかげで少年に怪我を負わせることはなかった。
「よし、後はこの子を京条寺に!」
そう思い立ち上がった瞬間、ふと聴き馴染みのある声が響く。
「――――宗?」
「え…………?」
咄嗟のことに視線を上げると、そこには僕の数少ない友人、
滝谷勝の姿があった――――。
僕たちは高梨さんに入った急な仕事の依頼により『水影大橋』へと
やって来ていた。
水影大橋はその名の通り市内外を隔てる海峡をの最狭部を結ぶ吊橋であり、
その見栄えと景観の良さから市内屈指の観光スポットとして人気の高い場所
である。
加えて市内と市外を繋ぐ重要なバイパスであることもあり、
日もくれた今でも多くの自動車が片側二車線の道路をひっきりなしに
行き交っていた。
「凄い人通りあるけど本当にこんなところに怪異がいるの?」
「――――? あ、そっか天寺くんにはまだ説明してなかったわね」
一瞬、僕の疑問にきょとんとした表情を浮かべた高梨さんが
こちらに視線を向ける。
「天寺くん、最初にあった学校の時のこと覚えてる?」
「それは勿論。忘れもしないよ」
彼女の質問の糸が判らずとりあえず聞かれたことに正直に答える。
「それがどうかしたの?」
「あの時、天寺くんは大きな声で助けを求めた。けれどそれで人は来なかった。
どうしてだと思う?」
「――――それは夜だから気が付かなかったとか?」
「本当にそう思う?」
そう尋ねられ僕は思考を巡らせる。
「(そういえば高梨さんは以前、あの怪異のことを人を自身の領域に誘き出して
襲うと云っていた……ということはつまり…………)」
「あれは怪異の領域だった」
「その通りよ。正確には境界だけどね」
「ってことはここにもその境界があるんだね」
「ええ。下を見て」
橋の入口。彼女の指さす地面を見つめる。
するとそこには薄っすらとではあるが湯気の様な境界線がゆらゆらと
揺れているのに気が付いた。
「これが境界…………」
「これを霊力を持った人間が意識的に通ることで境界の中に入れる」
そう告げると再度彼女はこちらに振り替えると真剣な表情で続ける。
「だから引き返すならここが最後。これ以上付いてくるつもりならある程度の危険は
覚悟してもらわないといけない」
「分かってる。けれど僕は行くよ、高梨さんが許してくれるならだけどね」
「師匠の御守りもあるし天寺くんがいいなら構わないわ」
と、高梨さんは徐に左手を前に差し出す。
「これから境界に入るから私の手、握ってて」
「うん」
僕が手を握ると同時に彼女は一歩、橋に向かって足を踏み出す。
その直後、正面の空間に水面の様な波紋が広がったかと思うと、
次の瞬間には周囲の雑音や先程まで行き交っていた車のヘッドライトの
光が消えた。
それはまるで水面や鏡の中の世界に入り込んだような不思議な感覚だった。
「ここが境界――――」
「ええ、そしてあれがここの主みたいね」
視線の先、橋の柱である塔と呼ばれる部分付近に目を向けると
何もない空中をふよふよと浮遊する魚型の怪異を発見する。
「高梨さんあれっ!」
「ッ――最悪な状況ね…………」
浮遊する怪異の真下。
そこにいたのは一人の少年、恐らくは小学校低学年くらいの男児であった。
どうやら意識はあるようだが、大分衰弱しているらしく道路の真ん中で
倒れこんでいた。
「あの怪異、恐らく羅霧魚ね」
「ラムギョ?」
「霧を使って人を攫って衰弱させる怪異よ」
「それって…………どうしよう高梨さん」
「落ち着いて天寺くん。まずは私があの怪異の気を引き付ける。
その間に君があの少年を保護して」
「分かった!」
そうしてまずは高梨さんが薙刀を取り出し一気に橋の中央へ目掛けて駆けだす。
すると彼女の動きに釣られて怪異が降下してくるかと思われたが――――。
「高梨さんッ!」
「ッ――――!?」
直後、橋の下から回り込むようにして出現した”何か”に高梨さんは
弾き飛ばされる。だが僕の声が届いたおかげが直撃は避けられたようだった。
「大丈夫、高梨さん?」
「ええ何とか…………けれどこれは厄介ね」
彼女の言う通り突如出現した”何か”もとい、二体目の怪異の出現により
状況は更に悪化した。
二体目の怪異は姿形も最初に発見した怪異と全く同じであり、
恐らく同じ種類の怪異だと素人目ながらも分かる。
「羅霧魚の一番厄介な特性は人を食べれば食べる程に霊力を強化し
個体を増殖させていく。やっぱりアイツ、かなりの人を食っているようね」
「そんな…………ならあの子も早く助けないと」
「そうね。天寺くん作戦変更よ。君はあの子を保護したら一目散に境界を離脱して」
「出られるの?」
「御守りの効果があれば平気。その後は京条寺に」
「高梨さんはどうするの?」
「私はアイツを祓うわ」
「…………」
「心配しないで。最優先は貴方とあの子の命。そうでしょ?」
「分かった」
「よしなら行って! 御守りがあれば怪異は貴方に触れられない!」
彼女の言葉を受け意を決しダッ――――と地面を蹴りだし少年に向かって
全力疾走で駆け寄る。
当然、怪異の一体が少年を奪われまいと急降下し牙を剥く。
「くそッ!」
少年を確保し御守りを付けた右手を上に掲げる。
すると静電気が走ったかのような衝撃と共にバチリと音を鳴らし
僕の右手が怪異を弾き飛ばす。
ぎょゃぁと何とも言えない鳴き声を漏らし羅霧魚が空中を泳ぎながら遠のく。
「(本当に凄い効き目だな、これ。いや今はそんなことより早くこの子を
境界の外へ!)」
少年の身体は思ったよりも小さく軽かったこともあって抱えて走るのには
問題がない。しかし視界の端でもう一体の怪異を引き付けながら、
苦戦する高梨さんの様子を見るにそううかうかもしていられない。
「うぉぉ!!」
走りながら追ってくる怪異の攻撃を避けつつ車線横にある歩道へと移動し、
そのまま境界の外へ。
「ぐへっ!」
勢いあまって地面へと転げる。
しかし瞬時に体を捻ったおかげで少年に怪我を負わせることはなかった。
「よし、後はこの子を京条寺に!」
そう思い立ち上がった瞬間、ふと聴き馴染みのある声が響く。
「――――宗?」
「え…………?」
咄嗟のことに視線を上げると、そこには僕の数少ない友人、
滝谷勝の姿があった――――。
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