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第7話 ポカポカモンスター
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第7話 ポカポカモンスター
①大夢とカラス
4月中旬、よく晴れた平日の午後。
自室で横になっていた大夢。
「……暇やん。金もなければ予定も無い。履歴書も出しちゃいました。別にずっとゴロゴロしててもいいけどあたし、知ってるの。暇は人間をダメにするって。だから遊びたいな~、でも金も無ければやらなきゃならない事も無いし~」
大夢はやる事が無くなると独り言が普段の倍以上になる。あと何故か口調が女々しくなる。
━━コンコンコンコン
「誰やろ?奥沢先輩ならもっと乱暴な叩き方するし、泉美ちゃんは4回も叩かない……ってかまだ学校から帰ってる時間じゃ無いか……」
ぶつぶつ言いながら玄関の戸を開ける。
━━ガチャ
「はーい」
パサパサパサッ
「アホー アホーアホンダラー」
1羽のカラスが空へと消えていく。
「……この感情、なんと言い表せば良いのだろうか。ってか、アホンダラってなんやねんコラあぁ!!」
大夢は地団駄踏むが、残ったのは大夢の靴跡と、靴の裏に着いたカラスの糞だけだった。
「ったく、散々やわ……次見かけたら唐揚げに……」
ゴンゴンゴンッ
「この叩き方は……奥沢先輩やな。あの人、バイト休みなんかな?……はいはーい」
━━ガチャ
「アホーカース」
パサパサパサッ
「……なっ……確かにさっきの叩き方は奥沢先輩のはずやったのに……あっ」
足元を見ると、鉄亜鈴が落ちていた。
「え、これで叩いたっちゅう事?どんだけ屈強な顎と硬い嘴(くちばし)しとんねん……」
キツネ……もといカラスに頬をつままれた気分になる大夢だった。
「絶対許さん……あのカラス、次会ったら取っ捕まえて丸焼きにしたる……」
コンコンコン
「……あんのカラス、奥沢先輩の真似なら許したけど可愛い可愛い泉美ちゃんの真似までしやがって……絶対丸焼きに!!」
━━ガシャッ ドン
「ええ加減にせぇやごらぁ!!しつこいんじゃてめぇ丸焼きにすんどぉ!!……って、あれ……?」
「ふえぇ……」
扉の先に居たのは箱を持った制服姿で半泣き状態の泉だった。
「ご……ごめんなしゃーーい!!」
「ぎゃーー!!ごめん!!勘違いで!!」
逃げ出そうとする泉美を引き止めひたすら謝る大夢。
その後誤解を解くのに10分以上かかったとか。
━━チリンチリン
「夫婦喧嘩は犬も食わないでありますよー!プフー、傑作!」
「ダメお巡り!だまらっしゃいやー!!」
②ティータイムは天使様と
━━203号室
「……っ……っ……ふぇ……」
「本当に申し訳ない!」
誤解は解けたものの、泣き続ける泉美を部屋にあげた大夢はひたすら(安い)土下座を繰り返す。
「もう……いいから……っ」
「うぅ……よりによって可愛い可愛い泉美ちゃんを泣かせてしまうなんて……なんてクズNEETなんや俺は……(あ、今日は白パンツだ……)」
クズの極みNEETこと大夢の視線には気づいていないが、泉美は赤くなる。
「うぅ……かわいくないよぉ……」
「いや、絶対可愛いから。間違いなく可愛いから。これは泉美ちゃんであれ否定させない(白パンツ♪白パンツ♪」
「もぅ……それを言ったら月島さんは……確かに働いてないからニートかもしれないけど、クズじゃないよ……」
「えー、でも親の脛かじって一人暮らししてるニートは屑じゃない?」
「でもちゃんと就活してるし、いつも私の事褒めてくれるから屑なんかじゃないよ」
「泉美ちゃん……ぐふっ(うわぁ…々俺ほんまにクズやん……流石に反省せなな……)」
目が赤いが、優しく笑う泉美に大夢はまた胸打たれていた。そして、自分の行動をくいあらためる。
奏子がいれば「何自分等いちゃついとんねん」とツッコミを入れて居たであろう。
「そういえばまだ3時前だけど、泉美ちゃん学校は??」
「今日は先生達がみんな出張で、お昼までだったんですよ。」
「なるほろ。にしては遅かったね?」
「友達とお昼ご飯食べて喋ってたら2時過ぎてて……」
「そーなのね。泉美ちゃんちゃんと友達居たのね……いつも友達の話聞かないからてっきりボッチなのかと思ってた……良かった」
「友達いるよ!?」
感動をそのまま表情にしたような笑みを向ける大夢をぽこぽこ叩く泉美。
「で、何でうちに?奥沢先輩みたく用もなく暇つぶしに来たわけやないやろ?」
「あのね、帰りに前から気になってた可愛いケーキ屋さんも寄ってきたんだ。そしたらすごく美味しそうなケーキがあったんだよ!月島さんの分も買ってきたから一緒に食べようと思って!」
「うわぁ……泉美ちゃんマジ天使。泉美ちゃんマジ天使。大事な事やから2回言うたで」
「も……もう!からかわないでよー!!」
またもや真っ赤になった泉美を見て、大夢は満面(もとい半面)の笑みを浮かべて居た。
「わぁ、コーヒーメーカー持ってたんだ!」
大夢はコーヒーメーカーを使い、2人分のコーヒーを入れる。
「コーヒー好きの嗜みよ。ほい、ミルクとシュガー。使えへんけど、来客用に一応用意してあるよ。」
「ありがとうございます」
「じゃ、いただこかな」
大夢は苺のショートケーキを一口食べる。
「んっ……んん!?なんともまあ優しい甘さの生クリーム!それにこのスポンジの卵の濃厚さ!白と黄のマリアージュ……世界の愛と優しさに包まれたような味……」
「え……えと、あの」
某自由の女性の像のようにケーキの乗った皿を持ち上げて微笑んでいる大夢を見て固まる泉美。
「うん……とりあえず食べ物で遊んじゃ、めっだよ。」
「はーい、ごめんなさい」
大人しく皿を下ろし、再び食べだす大夢。
「でもこれ天にも昇る美味さよ。何、泉美ちゃんやっぱり天使なの?俺を昇天させちゃうの?」
「も……もう!天使じゃないもんっ!だいたい買ってきたケーキだし」
「あっはっは、そうやったね。でも天使って神様の使いやから、ケーキを作った人が神様ならら泉美ちゃんがあってなくね?」
「だから違うってばー」
ツッコミ及びイチャイチャ警察不在のティータイムは世界で一番甘かった。
③ポカポカモンスター
━━午後4時のタソガレ地区
「ふぃ~、ケーキと泉美ちゃんから砂糖を過剰摂取しちゃったし夕飯までに軽く運動しとかなな~」
大夢は住宅地をフラフラ歩いて居た。
「今日はどんなご馳走作ってくれるんかなぁ!!」
なんだかんだ今日も夕飯をご馳走してもらうことになった大夢はやたら機嫌がいい。
『━━行けー!クリージオン、ブリザードバースト!』
『甘いわね!ライオネル、バーンファング!!』
十字路でどこへ行こうか迷っていると、子供の声が聞こえた。
「ん?クリージオンにライオネルって……ポカポカモンスターやん」
向かいの列を見ると小さな公園があり、5人の子供達がゲームに熱中していた。
ポカポカモンスターとは略してポカモンと呼ばれるモンスターを育成し戦わせる、ほのぼのとした名前とは裏腹にハードで戦略的な激しいバトルを繰り広げるゲーム。
「ぐあぁ!!嘘だろ……俺の……俺のクリージオンが一撃で……」
『馬鹿ね、属性相性も考えない奴に負けるわけないでしょ。」
赤髪の少年を見下す金髪の少女の瞳は氷のように冷たかった。
だが、使っていたモンスターは少年が氷属性、少女は炎属性と性格とは真逆だった。
「……クッソー!!もう一戦だ!もし次負けたらタソガレ団の団長のは座をくれてやる!!行けっ、ドルギオン!!」
「別にそんなもの欲しくないんだけど……ポカモントレーナーとしてバトルを挑まれて逃げるわけにはいかないわね……ライオネル!」
少年のドルギオンは地属性のモグラ型ポカモン、対してライオネルは炎属性のライオン型ポカモン。相性だけ見れば少年の方が有利。だがしかし……
「海音お姉ちゃんがんばれ!!」
「一馬くんも負けないでー!!」
大夢は一つ疑問があった。
「(あそこに居る赤金と水色髪の少女、赤と白髪の少年の4人は間違いなく本物や。やけど……)」
「ドルルルゥゥアアァァ!!」
「グオオォォォァァァアア!!」
「(なんでポカモン達が実体化して見えるねん!!)」
少年達は手に携帯ゲーム機を持っていたが、まるで隣にモンスターがいるかのように指示を出し戦わせていた。
━━そして
「よく耐えたわ、ライオネル!カウンターで倍返しよ!」
「なにぃ!?ああぁぁぁ!!」
ライオン型のモンスターに自分のモンスターを倒された少年は尻餅を着く。
「クッソー!!悔しい悔しい悔しいー!!……でも約束だ、今日から俺達タソガレ団のボスはお前……」
「だからそんなものに興味はないわ。それじゃあわたしは帰る。次はもうちょっと強くなってからにしなさいよね」
少女は公園の出口に突っ立っていた大夢の横を通り抜ける。
「うぅ……クソーー!!」
「一馬くん……」
「一馬お兄ちゃん、元気出して。海音お姉ちゃんのポカモン、とっても強いもん。あれだけ粘ったんだからよく頑張ったとあたしはおもうよ!!」
白髪の少年は一馬と呼ばれる少年の肩に手を置き、水色髪の少女は一馬の手を握る。
「うるせぇやい…………ん?」
一馬は公園の入口にいる大夢に気付く。
「何見てんだよ……」
「ん?あーごめんね、さっきやってたのポカモンでしょ?俺もポカモン好きだからさ、楽しそうにバトルしてんなぁと思って見てたのよ。そしたらポカモンが実体化してたからビックリしてね。あれ何?」
すると一馬では無く、水色ボブカットの小さな少女がニコニコしながら近づいて来て、大夢に手を出す。
「あたしは七瀬美国(ななせみくに)。小学校3年生!ミクって呼んで良いよ!」
「え、あ、うん。ミクちゃん?月島大夢です。22歳……」
突然の自己紹介に戸惑いつつも、何とか握手を交わす大夢。お得意の反面の笑みも大して疑問に思われないまま美国は口を開く。
「えっとね、さっきのはイマジネーションだよ!」
「イマジネーション?」
「うん!」
すると美国は折りたたみ式携帯ゲーム機CS(コンパクトステーション)を開き、ポカモンを始める。
「郁人お兄ちゃん、相手してくれるー?」
「うん、いいよー」
一馬の横にいた白髪の少年は近寄って来て、美国と同じようにCSの電源を入れ、ポカモンを始める。
「あ、高嶺郁人(たかみねいくと)です……小学6年生。」
「えと、よろしく……」
大夢と郁人は何故かお互いにぺこぺこしていた。
「じゃあ行っくよー!!パピット!」
「じゃあ僕はビリリドン!!」
2人が対戦を開始すると、2人の出したポカモンが2人の隣に現れた。
④ポカモン・イマジネーションバトル
「妖精属ウサギ型ポカモンのパピットに雷属カイジュウ型ポカモンのビリリドンか……それでバトルなんて始めて一体……」
「大夢お兄ちゃん、今パピットとビリリドンは見えてる?」
美国が大夢の方を振り返る。
「あ、うん。で、結局これは一体……」
「イマジネーションだよ!あたし達のイメージを実体化させてるの!」
「いや、意味は分かるんやけど、なんで実体化してるんかなぁって……」
すると、美国と郁人は顔を合わせ、大夢の方を向いて口を開く。
『イマジネーションだよっ!』
「……わけわかめやん」
大夢は頭を抱える。
「……でも何でアンタに見えるんだよ。イマジネーションは子供だけにしか見えないはずなのに……」
ずっと黙っていた一馬が口を開く。
「え、そうなん?」
「ああ、普通はな。でなけりゃ大人が大騒ぎしてるやろ?」
「そうそう……」
「それにもしおとなたちに見られたら、今頃あたしたち、へんなけんきゅーしゃさんに頭切られて脳みそのシワほじくりまわされてるよ!」
男3人が固まる。
「……なあミクちゃん、何可愛らしい顔でエゲツない事言うてるん?」
「えへへ、わかんなーい♪」
舌を出して、自分の頭をコツンと小突く美国にを見て、男達は開いた口が閉じなかった。。
「じゃ、郁人お兄ちゃん、バトルだよっ♪」
『(女って怖えぇ……)』
「パピット、スカイトルネードキック!」
「ビリリドン、受け止めて!」
人間のような姿をしたウサギ型モンスター「パピット」が飛び上がり回転しながら、雷を帯びたティラノサウルスのような姿のモンスター「ビリリドン目掛けて落下してきた。
「スカイトルネードキックは空属性の技!雷属性のビリリドンには大して効果がないはずやろな……」
「がんばってー!!」
『パピイィィ!!』
「耐えて!ビリー」
『ぎゃおおおぉぉううぅぅ……』
「えっ……」
だが大夢の予想は大きく外れ、パピットの攻撃はビリリドンの体力を大きく削る。
「な……なんで……」
「それがイマジネーションってやつなんだよ」
一馬が地べたに座り、腕を組む。
「イマジネーションは子供の持つイメージの力なんだ。だからポカモンのタイプ相性で不利でもイメージ力が強ければタイプ相性すらも覆す事があるのさ!」
「意味わかんねーけど……科学……やなった、イメージの力ってすげー」
大夢は何が何だかわかってなかった。
「あー……負けちゃった」
郁人はへなへなっと尻餅つく。
「やったー!!」
「ミクちゃんすごいね。でもなんで1vs1なの?」
ポカモンの対戦は基本的に6vs6である。
「えっとね、イマジネーションバトルはとっても疲れるから1体までしか出せないんだ!」
「あー……そうなの」
よく見ると美国も立ってはいるもののふらふらだった。
「ゲームは一日1時間とか昔は言ってたけどこうなるからかぁ」
違うだろう。
⑤
「結局のところ……イマジネーションがなんなのかはよくわからなんだな。あと子供にしか見えへんのに何で俺に見えたんかな?」
「何であんたに見えたかなんて知らねーよけどよ、イマジネーションはイマジネーションだ。それ以上も以下も無ぇよ。」
「 こ……答えになって無いやん……」
「難しく考えて答えが出るものじゃ無いんだよ、多分。それにお兄さんに見えたのは……」
「きっと大夢お兄ちゃんまだ子供なんだよ!」
「げはっ」
無邪気な顔で誰もが言えなかった事をさらっと口にした美国。
「ミクちゃん……ひでぇ……」
「テヘヘ、ゴメンナサーイ♪」
大夢、小3女児に完敗。
キンコーンカンコーン🎵
「あ、もう6時前だよ、帰らなきゃ!」
美国が公園の中心に立つ時計を指差す。
「そうだね、ミクちゃん送るよ」
「はーい、ありがとう郁人お兄ちゃん!じゃあね、一馬お兄ちゃん!大夢お兄ちゃんも今度一緒にポカモンしようね!」
「あ、うん。今度は持ってくる……」
「約束だよー!!」
「それじゃあお先に」
美国と郁人は公園を出て、南へ消えて行った。
「じゃ、俺も帰るぞ」
「あー、俺も帰らなな。アパートのお隣さんが飯ご馳走してくれんねん!」
大夢はその場でスキップしてるつもりだろうが、ただ跳ねているだけだった。
「どっち帰るん?」
「……あっちだけど」
一馬は面倒くさそうに西を指差す。
「お、奇遇。俺もそっちー。一緒に帰ろー!!」
「や……嫌(や)だよ!何でおっさんと……」
「まあまあ、そう言わずにさ!!」
「ちょ、ちょ、おい!手離せよ!!」
大夢は一馬の手を握り、跳ねながら(スキップのつもり)公園を後にする。
「ランララランラ~ン♪」
「わ、わかった、一緒に帰るから!手だけ離してくれ!!」
「えー、まあいいや。」
大夢は一馬の手を離す。
「ハァ……っつうかあんたこの辺の人なの?」
「最近、あそこのアパートに引越してきた。」
大夢が100メートルほど先の向日葵荘を指差す。
「げっ……向日葵荘かよ……」
「え……なんかまずかった?」
「……」
一馬は無言で歩き続ける。
⑥
「ここ、俺ン家」
「そこ!?」
一馬が指差した家は花岡という表札が付いた向日葵荘の真正面にある赤い屋根と白い壁の一戸建てだった。
「ま……マジかぁ。……え、待って。ってことは……」
━━ガシャッ
「一馬!あんたいつまで遊んで……って、あら」
開いた扉から一馬の母親と思われる女性が出てくる。若々しく、紺色のエプロンがよく似合っていた。
「あなた……確か向日葵荘の……」
「あはい、向日葵荘103号室の月島です」
「綾崎さんとこの娘さんを押し倒して……」
「誤解だー!!!!」
大夢は一馬の母親と思われる女性の発言に被せるように否定する。
「じゃあ、2階のサラリーマンの兄ちゃんに毒ガスを吸わせて意識不明に追いやった……」
「いや、微妙に違うし!」
「それじゃあ毎朝毎朝美人な女の子とラジオ体操して騒いでる……」
「違っ………くないか、次からもう少し静かにします」
「うん」
大夢は頭を下げる。
「で、どうでもいいけど、なんでうちの子と……」
「別に良いだろ、そんな事!早く飯にしようぜ!!」
「え、あ、えぇ……なんだかよくわかんないけど、うちの子が迷惑とか」
「滅相も無いです、ただ遊んでもらってただけです」
再び大夢が頭を下げると、花岡母はキョトンとして、口を開く。
「あら、そう。なんだか知らないけど暇ならまた相手してやってちょうだい。あの子、母親の私が言うのもアレだけど、友達が少な……」
「母ちゃん飯!!」
先に家に入った一馬の声が中から聞こえる。
「ああ、はいはい、それじゃあまたね。……母ちゃんは飯じゃ無いわよ!!!!」
━━バタンッ
「母ちゃん飯ーかぁ、……ホームシックたぁらしくないなぁ、ははっ……いや、元々ホームシックになりやすいタイプでした。」
大夢は独り呟きながら向日葵荘へと足を進める。
━━綾崎家前
コンコンコン
「 いーずーみーちゃん」
『ハーイ』
パタパタと部屋の中から走ってくる音が聞こえてくる。
バタンッ
「月島さん、いらっしゃ……って、今日はえらく汚れてるね」
「えっ……」
よく見ると確かに大夢の服は砂埃に塗(まみ)れ、腕や脚も汚れていた。
「ご飯が出来るまでもう少しかかるから先にシャワーでも浴びてきたら?汗もかいてるみたいだし」
「た……確かに人様の家で御呼ばれする格好やありませんでした!すぐにシャワー浴びてきます!!」
「べ……別に月島さんが気持ち悪く無いのかなぁって思っただけなんだけどなぁ……まあご飯は逃げないし、ごゆっくりどうぞー」
大夢は一目散に自室へ戻った。
⑦今日も始まるよ、向日葵荘夕食会
━━綾崎家
「ただいまー!」
「月島さん、おかえりなさい」
「なんや自分ら、また見せつけか、コラ」
「あ、奥沢先輩、ちゃーす」
「これくらいで見せつけてるとか思い込むお前は何か可哀想だな」
「瀬田さんもちゃーす。ってかみなさん勢揃いなんすね」
ダイニングの席には既に奏子と孝一が腰掛けていた、2人共リビング側に。
「こ……これはまさか……あたし泉美ちゃんの隣の席!?」
「そうだけど……私の隣は嫌?」
泉美が心配そうに大夢を見る。
「嫌なわけない、嬉しすぎて……」
「鼻血ブーすんなよ、月島」
「先輩、昇天したら骨は地元に……」
「ハイハイ、早よ食べよな。いただきます」
『いただきます』
「たくさん食べてくださいね!」
こうして、今日も向日葵荘夕食会は始まる。
ガツガツガツガツ
モシャモシャモシャモシャ
カランッ
大夢は箸を置き、右の握り拳を上げる。
「あー、美味い!全部美味いけど特にこの青椒肉絲!!ピーマンの苦さとタレがよく絡んだ肉の甘味が程よく混ざり合って……」
「月島さん、わかった、美味しいのはよくわかったから落ち着いて……」
━━カランッ
次は奏子が箸を置く。
「いや、この鮭が一番やろ!何やねんこのふっくらとしてて優しい風味……これはまさか酒か!?鮭に酒を少しかけたらふっくらするって聞いたことあるで!間違いない!!」
「あ、はい、当たりです……っていうか奥沢さんも落ち着いて……」
━━カランッ
『エッ……』
今度は孝一が箸を置き、3人の視線が集まる。
「えっと……だな。……うん、この豆腐、美味いな、なんか白いし四角いし……」
「……瀬田さん、無理にノろうとせんでええんですよ?」
「そやで、瀬田やん。何もしないよりやって後悔した方がえぇって言うけど、中途半端は恥ずかしいだけやで」
「……なんかお前らに言われるとすげぇ悔しいわ。もう二度とノるもんか、ケッ」
「み、みんな落ち着いてください!!食事は楽しくしましょうよ~……」
泉美がフォローをいれるも既に手遅れだった。
「あ、そういえば、夕方向かいの家の子達と公園で会ったよ」
「お向かいは花岡さんの家だから一馬くんだね」
「そうそう、ポカモンやってたんだけど、すごかってんで!ゲームの中のポカモンがポンポン出てきて……」
━━カランッ
「クスッ……月島さん、からかわないでくださいよ~。ゲームの中の物が出てくるわけないじゃないですか……フフッ」
「えっ」
笑いをこらえる泉美に戸惑う大夢。
「ぶほっ……あの公園の餓鬼ども、よくポカモンバトルごっこやってるけど……まさか一緒になってやってたんか……うひゃっ」
「いや、マジで子供達のイマジネーションって力でポカモンが出てきて……」
「イマジネーションって要はイメージの事だろ?月島、お前一応大人だろ?妄想癖も虚言癖も痛いだけだぞ?」
「な……なんで誰も信じてくれへんの……」
撃沈する大夢。
だが、泉美達が、大夢の話が事実だと知るのはそう遠くない日である事をまだ誰も知らない。
第7話 完
①大夢とカラス
4月中旬、よく晴れた平日の午後。
自室で横になっていた大夢。
「……暇やん。金もなければ予定も無い。履歴書も出しちゃいました。別にずっとゴロゴロしててもいいけどあたし、知ってるの。暇は人間をダメにするって。だから遊びたいな~、でも金も無ければやらなきゃならない事も無いし~」
大夢はやる事が無くなると独り言が普段の倍以上になる。あと何故か口調が女々しくなる。
━━コンコンコンコン
「誰やろ?奥沢先輩ならもっと乱暴な叩き方するし、泉美ちゃんは4回も叩かない……ってかまだ学校から帰ってる時間じゃ無いか……」
ぶつぶつ言いながら玄関の戸を開ける。
━━ガチャ
「はーい」
パサパサパサッ
「アホー アホーアホンダラー」
1羽のカラスが空へと消えていく。
「……この感情、なんと言い表せば良いのだろうか。ってか、アホンダラってなんやねんコラあぁ!!」
大夢は地団駄踏むが、残ったのは大夢の靴跡と、靴の裏に着いたカラスの糞だけだった。
「ったく、散々やわ……次見かけたら唐揚げに……」
ゴンゴンゴンッ
「この叩き方は……奥沢先輩やな。あの人、バイト休みなんかな?……はいはーい」
━━ガチャ
「アホーカース」
パサパサパサッ
「……なっ……確かにさっきの叩き方は奥沢先輩のはずやったのに……あっ」
足元を見ると、鉄亜鈴が落ちていた。
「え、これで叩いたっちゅう事?どんだけ屈強な顎と硬い嘴(くちばし)しとんねん……」
キツネ……もといカラスに頬をつままれた気分になる大夢だった。
「絶対許さん……あのカラス、次会ったら取っ捕まえて丸焼きにしたる……」
コンコンコン
「……あんのカラス、奥沢先輩の真似なら許したけど可愛い可愛い泉美ちゃんの真似までしやがって……絶対丸焼きに!!」
━━ガシャッ ドン
「ええ加減にせぇやごらぁ!!しつこいんじゃてめぇ丸焼きにすんどぉ!!……って、あれ……?」
「ふえぇ……」
扉の先に居たのは箱を持った制服姿で半泣き状態の泉だった。
「ご……ごめんなしゃーーい!!」
「ぎゃーー!!ごめん!!勘違いで!!」
逃げ出そうとする泉美を引き止めひたすら謝る大夢。
その後誤解を解くのに10分以上かかったとか。
━━チリンチリン
「夫婦喧嘩は犬も食わないでありますよー!プフー、傑作!」
「ダメお巡り!だまらっしゃいやー!!」
②ティータイムは天使様と
━━203号室
「……っ……っ……ふぇ……」
「本当に申し訳ない!」
誤解は解けたものの、泣き続ける泉美を部屋にあげた大夢はひたすら(安い)土下座を繰り返す。
「もう……いいから……っ」
「うぅ……よりによって可愛い可愛い泉美ちゃんを泣かせてしまうなんて……なんてクズNEETなんや俺は……(あ、今日は白パンツだ……)」
クズの極みNEETこと大夢の視線には気づいていないが、泉美は赤くなる。
「うぅ……かわいくないよぉ……」
「いや、絶対可愛いから。間違いなく可愛いから。これは泉美ちゃんであれ否定させない(白パンツ♪白パンツ♪」
「もぅ……それを言ったら月島さんは……確かに働いてないからニートかもしれないけど、クズじゃないよ……」
「えー、でも親の脛かじって一人暮らししてるニートは屑じゃない?」
「でもちゃんと就活してるし、いつも私の事褒めてくれるから屑なんかじゃないよ」
「泉美ちゃん……ぐふっ(うわぁ…々俺ほんまにクズやん……流石に反省せなな……)」
目が赤いが、優しく笑う泉美に大夢はまた胸打たれていた。そして、自分の行動をくいあらためる。
奏子がいれば「何自分等いちゃついとんねん」とツッコミを入れて居たであろう。
「そういえばまだ3時前だけど、泉美ちゃん学校は??」
「今日は先生達がみんな出張で、お昼までだったんですよ。」
「なるほろ。にしては遅かったね?」
「友達とお昼ご飯食べて喋ってたら2時過ぎてて……」
「そーなのね。泉美ちゃんちゃんと友達居たのね……いつも友達の話聞かないからてっきりボッチなのかと思ってた……良かった」
「友達いるよ!?」
感動をそのまま表情にしたような笑みを向ける大夢をぽこぽこ叩く泉美。
「で、何でうちに?奥沢先輩みたく用もなく暇つぶしに来たわけやないやろ?」
「あのね、帰りに前から気になってた可愛いケーキ屋さんも寄ってきたんだ。そしたらすごく美味しそうなケーキがあったんだよ!月島さんの分も買ってきたから一緒に食べようと思って!」
「うわぁ……泉美ちゃんマジ天使。泉美ちゃんマジ天使。大事な事やから2回言うたで」
「も……もう!からかわないでよー!!」
またもや真っ赤になった泉美を見て、大夢は満面(もとい半面)の笑みを浮かべて居た。
「わぁ、コーヒーメーカー持ってたんだ!」
大夢はコーヒーメーカーを使い、2人分のコーヒーを入れる。
「コーヒー好きの嗜みよ。ほい、ミルクとシュガー。使えへんけど、来客用に一応用意してあるよ。」
「ありがとうございます」
「じゃ、いただこかな」
大夢は苺のショートケーキを一口食べる。
「んっ……んん!?なんともまあ優しい甘さの生クリーム!それにこのスポンジの卵の濃厚さ!白と黄のマリアージュ……世界の愛と優しさに包まれたような味……」
「え……えと、あの」
某自由の女性の像のようにケーキの乗った皿を持ち上げて微笑んでいる大夢を見て固まる泉美。
「うん……とりあえず食べ物で遊んじゃ、めっだよ。」
「はーい、ごめんなさい」
大人しく皿を下ろし、再び食べだす大夢。
「でもこれ天にも昇る美味さよ。何、泉美ちゃんやっぱり天使なの?俺を昇天させちゃうの?」
「も……もう!天使じゃないもんっ!だいたい買ってきたケーキだし」
「あっはっは、そうやったね。でも天使って神様の使いやから、ケーキを作った人が神様ならら泉美ちゃんがあってなくね?」
「だから違うってばー」
ツッコミ及びイチャイチャ警察不在のティータイムは世界で一番甘かった。
③ポカポカモンスター
━━午後4時のタソガレ地区
「ふぃ~、ケーキと泉美ちゃんから砂糖を過剰摂取しちゃったし夕飯までに軽く運動しとかなな~」
大夢は住宅地をフラフラ歩いて居た。
「今日はどんなご馳走作ってくれるんかなぁ!!」
なんだかんだ今日も夕飯をご馳走してもらうことになった大夢はやたら機嫌がいい。
『━━行けー!クリージオン、ブリザードバースト!』
『甘いわね!ライオネル、バーンファング!!』
十字路でどこへ行こうか迷っていると、子供の声が聞こえた。
「ん?クリージオンにライオネルって……ポカポカモンスターやん」
向かいの列を見ると小さな公園があり、5人の子供達がゲームに熱中していた。
ポカポカモンスターとは略してポカモンと呼ばれるモンスターを育成し戦わせる、ほのぼのとした名前とは裏腹にハードで戦略的な激しいバトルを繰り広げるゲーム。
「ぐあぁ!!嘘だろ……俺の……俺のクリージオンが一撃で……」
『馬鹿ね、属性相性も考えない奴に負けるわけないでしょ。」
赤髪の少年を見下す金髪の少女の瞳は氷のように冷たかった。
だが、使っていたモンスターは少年が氷属性、少女は炎属性と性格とは真逆だった。
「……クッソー!!もう一戦だ!もし次負けたらタソガレ団の団長のは座をくれてやる!!行けっ、ドルギオン!!」
「別にそんなもの欲しくないんだけど……ポカモントレーナーとしてバトルを挑まれて逃げるわけにはいかないわね……ライオネル!」
少年のドルギオンは地属性のモグラ型ポカモン、対してライオネルは炎属性のライオン型ポカモン。相性だけ見れば少年の方が有利。だがしかし……
「海音お姉ちゃんがんばれ!!」
「一馬くんも負けないでー!!」
大夢は一つ疑問があった。
「(あそこに居る赤金と水色髪の少女、赤と白髪の少年の4人は間違いなく本物や。やけど……)」
「ドルルルゥゥアアァァ!!」
「グオオォォォァァァアア!!」
「(なんでポカモン達が実体化して見えるねん!!)」
少年達は手に携帯ゲーム機を持っていたが、まるで隣にモンスターがいるかのように指示を出し戦わせていた。
━━そして
「よく耐えたわ、ライオネル!カウンターで倍返しよ!」
「なにぃ!?ああぁぁぁ!!」
ライオン型のモンスターに自分のモンスターを倒された少年は尻餅を着く。
「クッソー!!悔しい悔しい悔しいー!!……でも約束だ、今日から俺達タソガレ団のボスはお前……」
「だからそんなものに興味はないわ。それじゃあわたしは帰る。次はもうちょっと強くなってからにしなさいよね」
少女は公園の出口に突っ立っていた大夢の横を通り抜ける。
「うぅ……クソーー!!」
「一馬くん……」
「一馬お兄ちゃん、元気出して。海音お姉ちゃんのポカモン、とっても強いもん。あれだけ粘ったんだからよく頑張ったとあたしはおもうよ!!」
白髪の少年は一馬と呼ばれる少年の肩に手を置き、水色髪の少女は一馬の手を握る。
「うるせぇやい…………ん?」
一馬は公園の入口にいる大夢に気付く。
「何見てんだよ……」
「ん?あーごめんね、さっきやってたのポカモンでしょ?俺もポカモン好きだからさ、楽しそうにバトルしてんなぁと思って見てたのよ。そしたらポカモンが実体化してたからビックリしてね。あれ何?」
すると一馬では無く、水色ボブカットの小さな少女がニコニコしながら近づいて来て、大夢に手を出す。
「あたしは七瀬美国(ななせみくに)。小学校3年生!ミクって呼んで良いよ!」
「え、あ、うん。ミクちゃん?月島大夢です。22歳……」
突然の自己紹介に戸惑いつつも、何とか握手を交わす大夢。お得意の反面の笑みも大して疑問に思われないまま美国は口を開く。
「えっとね、さっきのはイマジネーションだよ!」
「イマジネーション?」
「うん!」
すると美国は折りたたみ式携帯ゲーム機CS(コンパクトステーション)を開き、ポカモンを始める。
「郁人お兄ちゃん、相手してくれるー?」
「うん、いいよー」
一馬の横にいた白髪の少年は近寄って来て、美国と同じようにCSの電源を入れ、ポカモンを始める。
「あ、高嶺郁人(たかみねいくと)です……小学6年生。」
「えと、よろしく……」
大夢と郁人は何故かお互いにぺこぺこしていた。
「じゃあ行っくよー!!パピット!」
「じゃあ僕はビリリドン!!」
2人が対戦を開始すると、2人の出したポカモンが2人の隣に現れた。
④ポカモン・イマジネーションバトル
「妖精属ウサギ型ポカモンのパピットに雷属カイジュウ型ポカモンのビリリドンか……それでバトルなんて始めて一体……」
「大夢お兄ちゃん、今パピットとビリリドンは見えてる?」
美国が大夢の方を振り返る。
「あ、うん。で、結局これは一体……」
「イマジネーションだよ!あたし達のイメージを実体化させてるの!」
「いや、意味は分かるんやけど、なんで実体化してるんかなぁって……」
すると、美国と郁人は顔を合わせ、大夢の方を向いて口を開く。
『イマジネーションだよっ!』
「……わけわかめやん」
大夢は頭を抱える。
「……でも何でアンタに見えるんだよ。イマジネーションは子供だけにしか見えないはずなのに……」
ずっと黙っていた一馬が口を開く。
「え、そうなん?」
「ああ、普通はな。でなけりゃ大人が大騒ぎしてるやろ?」
「そうそう……」
「それにもしおとなたちに見られたら、今頃あたしたち、へんなけんきゅーしゃさんに頭切られて脳みそのシワほじくりまわされてるよ!」
男3人が固まる。
「……なあミクちゃん、何可愛らしい顔でエゲツない事言うてるん?」
「えへへ、わかんなーい♪」
舌を出して、自分の頭をコツンと小突く美国にを見て、男達は開いた口が閉じなかった。。
「じゃ、郁人お兄ちゃん、バトルだよっ♪」
『(女って怖えぇ……)』
「パピット、スカイトルネードキック!」
「ビリリドン、受け止めて!」
人間のような姿をしたウサギ型モンスター「パピット」が飛び上がり回転しながら、雷を帯びたティラノサウルスのような姿のモンスター「ビリリドン目掛けて落下してきた。
「スカイトルネードキックは空属性の技!雷属性のビリリドンには大して効果がないはずやろな……」
「がんばってー!!」
『パピイィィ!!』
「耐えて!ビリー」
『ぎゃおおおぉぉううぅぅ……』
「えっ……」
だが大夢の予想は大きく外れ、パピットの攻撃はビリリドンの体力を大きく削る。
「な……なんで……」
「それがイマジネーションってやつなんだよ」
一馬が地べたに座り、腕を組む。
「イマジネーションは子供の持つイメージの力なんだ。だからポカモンのタイプ相性で不利でもイメージ力が強ければタイプ相性すらも覆す事があるのさ!」
「意味わかんねーけど……科学……やなった、イメージの力ってすげー」
大夢は何が何だかわかってなかった。
「あー……負けちゃった」
郁人はへなへなっと尻餅つく。
「やったー!!」
「ミクちゃんすごいね。でもなんで1vs1なの?」
ポカモンの対戦は基本的に6vs6である。
「えっとね、イマジネーションバトルはとっても疲れるから1体までしか出せないんだ!」
「あー……そうなの」
よく見ると美国も立ってはいるもののふらふらだった。
「ゲームは一日1時間とか昔は言ってたけどこうなるからかぁ」
違うだろう。
⑤
「結局のところ……イマジネーションがなんなのかはよくわからなんだな。あと子供にしか見えへんのに何で俺に見えたんかな?」
「何であんたに見えたかなんて知らねーよけどよ、イマジネーションはイマジネーションだ。それ以上も以下も無ぇよ。」
「 こ……答えになって無いやん……」
「難しく考えて答えが出るものじゃ無いんだよ、多分。それにお兄さんに見えたのは……」
「きっと大夢お兄ちゃんまだ子供なんだよ!」
「げはっ」
無邪気な顔で誰もが言えなかった事をさらっと口にした美国。
「ミクちゃん……ひでぇ……」
「テヘヘ、ゴメンナサーイ♪」
大夢、小3女児に完敗。
キンコーンカンコーン🎵
「あ、もう6時前だよ、帰らなきゃ!」
美国が公園の中心に立つ時計を指差す。
「そうだね、ミクちゃん送るよ」
「はーい、ありがとう郁人お兄ちゃん!じゃあね、一馬お兄ちゃん!大夢お兄ちゃんも今度一緒にポカモンしようね!」
「あ、うん。今度は持ってくる……」
「約束だよー!!」
「それじゃあお先に」
美国と郁人は公園を出て、南へ消えて行った。
「じゃ、俺も帰るぞ」
「あー、俺も帰らなな。アパートのお隣さんが飯ご馳走してくれんねん!」
大夢はその場でスキップしてるつもりだろうが、ただ跳ねているだけだった。
「どっち帰るん?」
「……あっちだけど」
一馬は面倒くさそうに西を指差す。
「お、奇遇。俺もそっちー。一緒に帰ろー!!」
「や……嫌(や)だよ!何でおっさんと……」
「まあまあ、そう言わずにさ!!」
「ちょ、ちょ、おい!手離せよ!!」
大夢は一馬の手を握り、跳ねながら(スキップのつもり)公園を後にする。
「ランララランラ~ン♪」
「わ、わかった、一緒に帰るから!手だけ離してくれ!!」
「えー、まあいいや。」
大夢は一馬の手を離す。
「ハァ……っつうかあんたこの辺の人なの?」
「最近、あそこのアパートに引越してきた。」
大夢が100メートルほど先の向日葵荘を指差す。
「げっ……向日葵荘かよ……」
「え……なんかまずかった?」
「……」
一馬は無言で歩き続ける。
⑥
「ここ、俺ン家」
「そこ!?」
一馬が指差した家は花岡という表札が付いた向日葵荘の真正面にある赤い屋根と白い壁の一戸建てだった。
「ま……マジかぁ。……え、待って。ってことは……」
━━ガシャッ
「一馬!あんたいつまで遊んで……って、あら」
開いた扉から一馬の母親と思われる女性が出てくる。若々しく、紺色のエプロンがよく似合っていた。
「あなた……確か向日葵荘の……」
「あはい、向日葵荘103号室の月島です」
「綾崎さんとこの娘さんを押し倒して……」
「誤解だー!!!!」
大夢は一馬の母親と思われる女性の発言に被せるように否定する。
「じゃあ、2階のサラリーマンの兄ちゃんに毒ガスを吸わせて意識不明に追いやった……」
「いや、微妙に違うし!」
「それじゃあ毎朝毎朝美人な女の子とラジオ体操して騒いでる……」
「違っ………くないか、次からもう少し静かにします」
「うん」
大夢は頭を下げる。
「で、どうでもいいけど、なんでうちの子と……」
「別に良いだろ、そんな事!早く飯にしようぜ!!」
「え、あ、えぇ……なんだかよくわかんないけど、うちの子が迷惑とか」
「滅相も無いです、ただ遊んでもらってただけです」
再び大夢が頭を下げると、花岡母はキョトンとして、口を開く。
「あら、そう。なんだか知らないけど暇ならまた相手してやってちょうだい。あの子、母親の私が言うのもアレだけど、友達が少な……」
「母ちゃん飯!!」
先に家に入った一馬の声が中から聞こえる。
「ああ、はいはい、それじゃあまたね。……母ちゃんは飯じゃ無いわよ!!!!」
━━バタンッ
「母ちゃん飯ーかぁ、……ホームシックたぁらしくないなぁ、ははっ……いや、元々ホームシックになりやすいタイプでした。」
大夢は独り呟きながら向日葵荘へと足を進める。
━━綾崎家前
コンコンコン
「 いーずーみーちゃん」
『ハーイ』
パタパタと部屋の中から走ってくる音が聞こえてくる。
バタンッ
「月島さん、いらっしゃ……って、今日はえらく汚れてるね」
「えっ……」
よく見ると確かに大夢の服は砂埃に塗(まみ)れ、腕や脚も汚れていた。
「ご飯が出来るまでもう少しかかるから先にシャワーでも浴びてきたら?汗もかいてるみたいだし」
「た……確かに人様の家で御呼ばれする格好やありませんでした!すぐにシャワー浴びてきます!!」
「べ……別に月島さんが気持ち悪く無いのかなぁって思っただけなんだけどなぁ……まあご飯は逃げないし、ごゆっくりどうぞー」
大夢は一目散に自室へ戻った。
⑦今日も始まるよ、向日葵荘夕食会
━━綾崎家
「ただいまー!」
「月島さん、おかえりなさい」
「なんや自分ら、また見せつけか、コラ」
「あ、奥沢先輩、ちゃーす」
「これくらいで見せつけてるとか思い込むお前は何か可哀想だな」
「瀬田さんもちゃーす。ってかみなさん勢揃いなんすね」
ダイニングの席には既に奏子と孝一が腰掛けていた、2人共リビング側に。
「こ……これはまさか……あたし泉美ちゃんの隣の席!?」
「そうだけど……私の隣は嫌?」
泉美が心配そうに大夢を見る。
「嫌なわけない、嬉しすぎて……」
「鼻血ブーすんなよ、月島」
「先輩、昇天したら骨は地元に……」
「ハイハイ、早よ食べよな。いただきます」
『いただきます』
「たくさん食べてくださいね!」
こうして、今日も向日葵荘夕食会は始まる。
ガツガツガツガツ
モシャモシャモシャモシャ
カランッ
大夢は箸を置き、右の握り拳を上げる。
「あー、美味い!全部美味いけど特にこの青椒肉絲!!ピーマンの苦さとタレがよく絡んだ肉の甘味が程よく混ざり合って……」
「月島さん、わかった、美味しいのはよくわかったから落ち着いて……」
━━カランッ
次は奏子が箸を置く。
「いや、この鮭が一番やろ!何やねんこのふっくらとしてて優しい風味……これはまさか酒か!?鮭に酒を少しかけたらふっくらするって聞いたことあるで!間違いない!!」
「あ、はい、当たりです……っていうか奥沢さんも落ち着いて……」
━━カランッ
『エッ……』
今度は孝一が箸を置き、3人の視線が集まる。
「えっと……だな。……うん、この豆腐、美味いな、なんか白いし四角いし……」
「……瀬田さん、無理にノろうとせんでええんですよ?」
「そやで、瀬田やん。何もしないよりやって後悔した方がえぇって言うけど、中途半端は恥ずかしいだけやで」
「……なんかお前らに言われるとすげぇ悔しいわ。もう二度とノるもんか、ケッ」
「み、みんな落ち着いてください!!食事は楽しくしましょうよ~……」
泉美がフォローをいれるも既に手遅れだった。
「あ、そういえば、夕方向かいの家の子達と公園で会ったよ」
「お向かいは花岡さんの家だから一馬くんだね」
「そうそう、ポカモンやってたんだけど、すごかってんで!ゲームの中のポカモンがポンポン出てきて……」
━━カランッ
「クスッ……月島さん、からかわないでくださいよ~。ゲームの中の物が出てくるわけないじゃないですか……フフッ」
「えっ」
笑いをこらえる泉美に戸惑う大夢。
「ぶほっ……あの公園の餓鬼ども、よくポカモンバトルごっこやってるけど……まさか一緒になってやってたんか……うひゃっ」
「いや、マジで子供達のイマジネーションって力でポカモンが出てきて……」
「イマジネーションって要はイメージの事だろ?月島、お前一応大人だろ?妄想癖も虚言癖も痛いだけだぞ?」
「な……なんで誰も信じてくれへんの……」
撃沈する大夢。
だが、泉美達が、大夢の話が事実だと知るのはそう遠くない日である事をまだ誰も知らない。
第7話 完
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