ある意味凄惨な異世界 ～ 憧れた異世界転移だったのに ～

26話

「止めないでください！　こんな惨状を黙って見てられません！！」
「モンスターを追っ払う策でもあるのか？」
「そんなものはありません！　気合と根性で体当たりです！」
「アグレッシブ過ぎじゃね？　いくらなんでもそれは危ないから止めとけって」
「でも、このまま見てるだけなんて・・・はっ！　マコト様が行ってくれるんですね！？」
「・・・はい？」
「さすが伝説のお助けキャラです！　もうすぐ騎士団も来ますからお願いします！」
「いやいやいやいや！！　誰もそんなこと言ってないから！！」
「・・・そうですか。何も言わずに行くつもりだったんですね。そして人知れず、みんなの為に犠牲になるつもりだったんですね・・・」
「都合よく解釈すんなッ！！　感動して涙を拭く小芝居も止めろ！！」
「・・・もしかして、モンスターさんが怖いんですか？」

　涙を拭く小芝居をしていたファンナさんはその動きを止めて、今度は探るように下から俺を覗き込んできた。

「イタズラしてるだけと仰ってたような気もしますけど、もしかして、本当はモンスターさんが怖いだけじゃないんですか？」
「な、ななな何言ってんだよ！　べべべべ別にあんな奴ら怖くもなんともないんですけど！？　た、ただ、ほら、アレだ・・・あ、ああいうのは素人が勝手に手をだすと専門の方たちの迷惑になっちゃうかも知れないだろ？　そう！　そうだよ！　だからここは手を出さずにいるのが正解なんだよ！　けしてイタズラっぽいことしかしてないけど見た目はめちゃくちゃ怖いから近づきたくないとか思ってるわけじゃないんだよ！！」

　俺は自分の正当性を早口でまくし立て、腕を組んで一人頷く。
　非の打ち所のない正論だ。うん。
　ファンナさんがジト目で俺を見てるような気がするけど、きっと気のせいだ。

「じゃあ僕が行きます！！」

　いつの間にか俺とファンナさんの周りには、結構な数の住人が集まって来ていた。
　そしてその中の一匹。股下４０センチくらいだけど、身長は俺と同じくらいで、チェック柄の服を着た、長いタレ耳が特徴の２足立ちの犬が手を挙げて前に出てきた。


「騎士団が来るまでまだ少しかかります。少しでも被害を食い止める為に、僕、行きます！」

　足は短いけど、やっぱり犬は勇敢だな。なんて思っていると、

「いえワタシが行きます！」

　今度はペルシャ猫っぽい、白い毛並みで上品な感じの猫が手を挙げ前に出てきた。

「やっぱりここは私が行きます！」

　さらにファンナさんまでまた行くとか言い出しやがった。
　まあ誰が行くことになっても、俺はここで精一杯応援してるから、死なない程度に頑張ってきてくれ。
　そんな勇気ある決断で静観することに決めた俺だったけど、手を挙げて前に出てきた連中だけじゃなく、なぜか他の住人たちも「じーっ」と俺を見ている。