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session 01:偽装
しおりを挟むワシントンDCの街角で緩やかな湾曲設計された巨大スクリーンに淡々とニュース映像が流れていた。
瞬く街のライトと車のヘッドライトに照らされながら行き交う人々の中にこの映像を見ている人はどれ程存在するというのか。
この洒落た舞台にうつろな目をした40代と見える男が突然、立ちすくんだ。
その光景の影からため息交じりの独り言のような口調で素性を確かめる。
「身なりは地味で無精髭、やさぐれた容姿にロングコート。おまけにヨダレ付きか。
どいつもこいつも。」
向いのもう一人は手の甲を表に片手で中指を動かしながら合図する。
合図が送られた直後に立ちすくんでいた男は瞳孔を開き、狂い笑ったように叫ぶ。
「meryX'mas!!」
続けてロングコートに隠し持っていたマシンガンを両手に周囲へ銃口を向け、発狂しながら無差別乱射を始めた。
周辺は特段に騒ぐ事もなく、冷静に伏せる者や周辺から散っていく者がいる。
一人は男性、もう一人は男性と思しき者が低い姿勢で飛び出して発狂した男へ銃口を向けて連射した。
軽装した軍事服姿のようなダークグリンのパンツと金髪でパンク風に立った髪、
もう片方はウエットスーツ風の姿とショットカットでダークブラウンの髪に
大胆なシャギーの入った髪型が印象的に見える。
ジャックという呼び名が飛ぶと物陰からダークブラウンの髪を持つ者と別の場所から呼ばれた金髪の男が
銃を構えながら横たわった実行犯にゆっくりと近づく。
瞳孔の開いたまま血まみれになった姿を確認するとジャックと呼ばれていた金髪の男は銃を下ろした。
「また人形か。」
「だろうな、プラスチック臭がする。どう見てもヤク中だ。」
「なぁ・・・イサ。
全く、この世の中どうかしちまっている。」
イサと呼ばれた者は何かに取り憑かれたかの様に生返事をする仕草にジャックは腰を下ろして人形を見つめながら続けた。
「こんな御時世に政治家はタダ飯を食らう。
世の中は何も動いちゃいないのにな。」
「その分、我々も十分に利用させて貰っている。 」
死体化した人形にマイクロスキャンを通して無感情に答えたイサの台詞に彼は腰を上げると一呼吸置いた後、肩をすくめて言葉を続けた。
「そうだったな。」
イサは腰を上げた彼には特に目を向けず、死体を眺めて続けた。
「個人認証はない、人形だ。」
「そろそろ、スクラッパーが来るぜ。」
ジャックは両手を挙げて参ったとでも言う様なポーズを取る。
周辺は落ち着きを取り戻し、まばらに人が行き交い始めた。
中には2人の姿にちらちらと目を向けつつ歩く人もいる。
エージェントの仕事が無ければ職の宛もない、皮肉な物だ。
ドラッグ中毒者、その多くは人造的に作られたクローン人間、俗にいう人形。
ドラッグの蔓延は後を絶たず、その後において世界的にも常用が容認される代償として
不振な行動をした場合には殺害容認される。
人形の殺戮、そんな日々に私達の前にはただ、無惨な姿に化した死体が横たわる。
そしてその横たわる人形と狂気の中で特別に驚く事もなく人間はその出来事に大した感情もなく平然とする。
街角のカメラは監視と警告を行い、感情の無いロボットは横たわる人形をスクラップしていく。
この世界は死の臭いに満ちている・・・
社会は人形という名のクローンを利用し、人形が新たな奴隷社会を形成する。
それが人間の性(サガ)というものなのか?
人間から生まれた道化師(クローン)・・・社会が敢えて受け入れるというのなら、それも悪くは無い。
相変わらず、巨大なスクリーンには感情を放棄した映像が流れている。
「日本時間の昨日16時、日本政府より声明が発表されました。
先月、議員80%削減が可決されましたが、本国会において国家主席制となる事が全会一致で可決。
中共連合が推進する一国4制度の準備として、新たに浦切政権が誕生する事となりました。
これにより、来季をもって自衛隊を解散し、子供のいじめ、虐待問題に対する防止策として言動抑止とする子供法案が可決する見通しとなりました。
この法案は子供がストレスと感じ、訴えた場合は例外なく懲役10年以上の実刑判決が出されるというものです。
尚、これに先立ち現職の公務員80%が削減を施行、国民保護法により日本国籍を持つ者に毎月100万円が支払われる事になります。
また、中共連合への編入と外交政策、とりわけ180年前に起きた第二次世界大戦の戦後処理問題について積極的な取り組み姿勢として1京ドル規模の追加賠償へ踏み切る事で合意しました。
ワシントンDCから議員インタビューです。
「日本はグローバル化によって、国際的な責任を果たす事になり最も国民に優しい国となった。評価し歓迎すべき事だ。」
一息つくと、続けてこう答える。
「我が国に住む、超低所得層も恩恵に預かりたいね。」
テロップに流れた「プッシュ」と書かれたウエイブした白髪に腹の出ているタレ目の白人議員は「これで満足かね?」と言わんばかりの態度と流し目で肩をすくめ、記者の向けたマイクに向かって答えている。
そのスクリーンにイサとジャックが乗るホバーは接近し、浮遊しながら横切っていく。
「超低所得層か。」
「ブラックジョーク飛ばすくらい、酷い政策って事だろ?
そもそも、日本国籍を持ってる奴の中から純潔の日本人はどれだけ残っているのか聞きたいね。」
ジャックはそう答えると首をすくめた。
スクリーンは淡々とプッシュ氏のコメントからコマーシャル映像に切り替わる。
「カゴハラ製薬のジャンクフード、ミルフィーユ!」
中学生くらいのアイドルが三人、チェキをしてポースを取りながらお菓子を食べるようなイメージの映像が流れる。
「カゴハラは栄養もカロリーもバッチリお食事。噛める時間が長いからダイエットにも最適!
植物の環境も守ろう!」
アイドルはピースポーズと笑顔で締め括った。
「所でイサ、お前何か食ってないか?」
「あぁ、汚物食っている。」
「俺も見習いたいね、平然とした顔でそのシュールなジョーク。」
「そういうジャックのジャンクフードの中身は特別か?」
「中身を想像しちまうからよ。下水処理の再生添加食品なんていちいち想像してたら洒落にならねぇだろ。」
「下水と言わず、素直に便所と言ったらどうだ?」
「イサ、お前よく食えるなぁ。」
ジャックはやれやれといった表情を浮かべる。
「そういや今日はクリスマスだけどさ。
用事あるか?」
「無いな。」
助手席に座っているジャックはその光景に親指で指しながら呟いた。
「なぁ、イサ・・・
あそこにパーティーやってるエロい影が浮いてるんだが、後で入ってみるか?」
電話ボックスのような高層建造物の表面に映像が流れる。
映像はアニメに出てくるような人物のホログラムの影が立ち、淫蕩な仕草をする。
イサは無表情のままジャックの横に振り向いた。
「・・・溜まっているのか?」
ジャックの顔をまじまじ見ながら運転をするイサにジャックは空を仰いだ様な顔で一瞬、言葉を詰まらせるとこう返した。
「いや、ジョークだ・・・聞かなかった事にしてくれよ。」
一呼吸おくと目を細めながらぼそっと言葉を続けた。
「で、・・・頼むから前見てくれ、事故るぞ。」
その頃、ウエストエンドのとある病院では静寂した様相が一変した。
待機モードの医療ロボットがシグナルを受信し、ELランプが点滅すると停止していたモータが作動する。
ホバーはワシントンDCの中心街を通過した所でコンソールシグナルが入った。
サングラスの様な形状をしたスコープの空間映像に記号が送られた。
「マネキンが暴走したらしいな。」
「で、病院名は?」
「リッチブランドだそうだ。」
「悪趣味な名前なこった、金持ちの寄り集まりか?」
「さぁな。老人が多いだけに年金パージでも狙ったのかもな。」
「やれやれ、酷い言いようだねぇ。
それにしても今日はバイク追い掛けまわす警察も忙しいな。
モヒカンに紫のサングラス、パンクレザー、ウケ狙いか?」
バイクはサーフィンでもするかの様に空中回転と奇声を発しながら横切っていく。
その背後からランプを点滅させ、サイレンを鳴らしながら猛スピードで追いかける警察の車両が通り過ぎていく。
病院に到着したイサとジャックは入り口の壁に背をつけ、銃を構えて体制をつくる。
「ジャック、突入するぞ。」
「了解。で、いきなりドンパチ行くか?」
「いや、様子を見た方がいい。」
「じゃ、俺が先にドアを蹴飛ばす。そのタイミングで中腰体制の突入。」
「あぁ、問題ない。」
病院内に侵入すると人影を感知した医療ロボットが突如、急速発進して二人の位置に近づく。
注射器を発射すると二人は近くにある長椅子を立てて伏せながら注射器をかわす。
向かってくるロボットをジャックが拳銃で数発打って応戦するとロボットはスピンした。
スピンしたロボットとは別のロボットが影から現れ、襲いかかる。
「おい、ここは本当に病院か?」
レールガンを片手に引きながら不満そうにジャックが問うとイサは柱の影に隠れてマシンガンを連射しながら冷静に答える。
「目の前のマネキンが証拠だ。」
「しかも総出でご一行様歓迎か、嬉しいねぇ。」
ジャックの呆れたとも受け取れる言葉に、溜息が加わる。
イサはコンソールスコープを赤外線スキャナーモードにすると事務室のセキュリティーボックスにブレーカーコンソールが集約されている事を確認する。
「ジャック、手が空かない。スコープを確認してくれ。」
イサが叫ぶとジャックは片手でGOサインの合図した。
柱に隠れていたイサが銃を乱射しながら隣の柱に飛び込む間、
ジャックは銃弾を避ける様に低い体勢で医療用ベッドに飛び込み、通路に向かって投げつけるとマネキン数体が華麗にスピンして破損した。
「あぁ、こりゃスクラップだな勿体無ねぇ。」
ジャックはそうぼそっとつぶやくとおもむろに頭を掻いた。
銃を構えて体制を立て直すと奥の事務室に駆け込む。
金属製の頑丈に見えるボックスをこじ開けたジャックはプラスチック製で保護された板を銃で叩き、
赤色のブレーカーを落とす。
RX-A100の型番が表記された医療マシンは全て待機モードになり、歯ぎしりするようなモーターの回転する音が萎んだ。
階段を途中で上がろうとしたマシーンはスカート状の下は歩行モードを示すパイプとキャタピラがむき出しのまま静止している。
ジャックとイサは病棟を回るとそこには無残な光景を目にする。
廊下で倒れ、首にナイフが突き刺さり、血が壁と床に撒かれ、病棟ではベットに横たわって
窒息死したように見える患者、注射器で空気を混せられて死亡したように見える患者、
飛び散った血痕や人工呼吸器、心電図などの医療器具が患者から剥ぎ取られて散乱した状態だった。
2人は病棟全てを回り、互いに確認を取る仕草を入れると首を横に振りながら肩を落とした。
「全員死亡。」
イサはコンソールスコープに思念を送り、情報結果を送信した。
「なぁ、旧式システムをわざわざ入れてる意味はなんだったんだろうな。
遠隔コントロール出来りゃ出向かなくても済んだだろうに。」
「投資を渋ったのか、ジャックされる想定だったのは知らんが旧式システムが仇になるとは皮肉なものだな。」
派手に損傷した医療ロボットにジャックは近づき、チラチラと指を指しながら問いかけた。
「イサ、こいつが吐き出したボックスはどうする。今回はパスか?」
「必要だろう、抜き取れるか。」
ジャックは手をヒラヒラさせながらOKの合図を返した。
ワシントンDCの街角で巨大なスクリーンでは淡々としたニュース映像が流れていた。
「昨日、ウエストエンドのリッチブランド病院で医療ロボットが暴走しました。
入院患者の殆どは高齢者と確認されており、現地警察は原因の特定を進めています。
尚、医療ロボット製造会社のヒューテックでは事故原因の調査・解析を急いでいます。」
これが文明と時代が求めた代償と一言で片付けるのは容易い。
自動運転の普及は、全てを頼れば政治的な意図でジャックされ、交通手段は混乱する。
マシンや人形に依存する人間社会と管理、そして事件や食に至るまでこの社会は欺瞞が溢れている。
そして我々はオートメーションという響きの良い言葉を信じるべきではないのか。
もしそうであれば、我々は物事の一つ一つにおいて選択が必要であり、
その選択は安易に受け入れる行為が正しいと言えるのだろうか。
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