魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

文字の大きさ
2 / 94

第2話 鎧殻警備隊

しおりを挟む
 屋敷の地下室の扉を蹴り開けた瞬間、吐き気がするような血生臭さと腐敗臭が、カインの鼻を突いた。

 「隊長……これは……」

 部屋に踏み入るのを躊躇する部下たちを尻目に、カインは中に足を踏み入れた。
 あたり一面、惨殺された死体が転がっている。殺されてまだ間もない死体もあれば、腐敗して目も当てられない死体など、様々な老若男女の死体で部屋は覆いつくされていた。
 そして、部屋の中央には骸の山が築かれており、その上には全身に黒い革製の包帯を巻いた、ミイラ男のような人間が胡坐をかいている。

「よう、客人。よくここがわかったな」
「……死体から降りろ、罰当たりな犬畜生」
「ふふ、そう怒るなよ。魔力もない人間をいくら殺したって、サタナキアでは罪にはならねえのよ」 
 滅びたサタナキア皇国の名前を出し、カインの言葉を包帯男はせせら笑う。

「それにな……これは復讐だ。貴様らヴァルスレン人へのな」
「無差別殺人が復讐か……しょうもない仇の返し方だ。おまえ、魔術師の生き残りか……」
「そうさ。俺たちが闇に潜む時間は終わった。これから百年前の恨みを晴らす時だ」
「まさか、本当に生き残りがいるとはな……」

 カインは死体の山の中に、まだ十歳にもならない少女の亡骸があるのを見た。冷静になろうと努めても、怒りが頭から湧き上がって抑えが効きそうにない。

 ここのところ首都で大量の行方不明者が出ているとの報告がカインにあった。いたるところから情報を集めて、ようやくこの屋敷にたどり着いていたというのに、待っていたのは最悪の結末である。
 皆が皆、この男に惨殺され、生きている者は一人としていなさそうだ。 

「自己紹介がまだだったな。俺はザルバス。あんたらは、ヴァルスレンの鎧殻警備隊《がいかくけいびたい》だろ?」

 ――鎧殻警備隊《がいかくけいびたい》、それは帝国ロージアの首都防衛と首都の治安維持を同時に担う、鎧殻装兵《がいかくそうへい》を中心に構成された部隊である。
 いざとなれば、鎧殻装を纏い、直接戦闘に参加する実戦部隊だ。
 しかし、戦争がもはや遠い過去のものとなったヴァルスレンにおいて、鎧殻警備隊の仕事も首都内の治安維持が中心である。

「ああ、首都の治安を揺るがす輩を成敗するのが俺達の仕事だ。おまえら、鎧殻装を纏え!」
「はっ!」

 そう言うと、カインとその部下たちの胸部が光り輝く。その光は胸に埋められた核玉《コア》の輝きである。光は少しずつ彼らの身体全体に至る。より正確に言えば、光の粒子が全身を覆っていた。
 そして、光の粒子が変化し、徐々に明確な実体と質量を持ちはじめ、全身を守る強固な装甲へと姿を変えた。
 こうして、肉体を鎧殻装で身を固めた兵士たちが顕現する。

 部下の鎧殻装は土埃《カーキ》色であり、飾り気のない丸型の頭部には、横一直線に開いた覗き穴だけが存在した。胴体を覆う装甲は厚く、無骨である。また、手には銃剣型の波動武装を持っている。
 彼らが使用しているのは百年以上前に開発された旧式の核玉《コア》だ。核玉《コア》の出力が低い分、肉体への負担も比較的軽く、適合率があまり高くない兵でも鎧殻装を纏うことが出来る。

 対して、カインの核玉《コア》は十年前に開発された、比較的新しいタイプである。         
 鎧殻装は深い海のように青く、顔を覆う部分の装甲には、目の部分をくり抜いたような覗き穴があった。
 胴体を覆う装甲はカインの身体にフィットして、旧式の鎧殻装に比べてずっとスマートである。しかし、強度は旧式から格段に向上していた。
 その手には銃剣ではなく、槍が握られていた。穂先は鋭く、超高周波が流れて切れ味を増していた。

「へぇ、鎧殻装かい? じゃあこっちも」

 そう言うと、ザルバスの胸部も黒く光り、次の瞬間には黒い炎が全身を覆う。

 その炎は黒い包帯をを焼き焦がしたかと思うと、肉体そのものを変貌させる。全身の筋肉は膨れ上がり、体躯は一回り以上大きくなった。
 
 肉体は獣のような黒い毛で覆われ、顔は狼を思わせるような形状になり、裂けた口からは不揃いな大きさの牙が並んでいた。指には鋭く長い爪が伸びている。そして、顔を頭蓋骨のような白い外殻が覆い、まるで、骸骨の仮面をかぶった狼男のようだ……
 
「なんだ、この変身は……魔術か?」
 
 カインが怪訝そうに呟く。

「ははっ、違うねぇ。これもお前らとは別タイプの核玉《コア》の力さ」

 ザルバスは跳躍し、地面に降り立つ。そして、とてつもない速度でカインの部下の一人に接近すると、勢いそのままに拳を振るう。たった一撃で、部下は後方の壁に吹き飛ばされる。見れば、鎧殻装は大きく凹んでいるのがわかった。

「貴様!」

 激情した他の部下が銃剣の引き金を引く。赤い閃光がザルバスの胸に直撃する。しかし、彼は多少よろめいただけで、傷ひとつついていなかった。

「そ、そんな馬鹿な……」

 かつて魔術師の防衛魔術すら易々と突破した銃剣の光弾は、新たな敵に対して全くの無力だったのだ。

「こっちも武器を使うぜ!」

ザルバスの右手が発光し、武器が顕現する。それは、巨大な戦斧であった。色は彼の頭部の外殻と同じであり、同一の物質から出来ていることを思わせる。

「おまえらは下がっていろ。俺がやる」
 
 カインはそう命令すると槍を突き出す。しかし、ザルバスは驚異的な反射神経で、その攻撃を戦斧の側面で受ける。そして、戦斧を盾のように使い、攻撃を防ぎつつ前進してくる。

「図体のわりにすばしっこい奴め……」

 カインは目標を脛に切り替えて、足払いせんと槍を一閃する。これもザルバスは跳躍して躱す。

「あたらねえよ!」

 そのまま、空中で一回転し、戦斧を振り下ろす。カインは右側に飛びのけて躱すが、その際に死体を踏みつけた。嫌な感触ととともに赤い鮮血が飛び散る。

「ちっ!」 
「はは、死体なんて気にしていた戦えないぞ!」

 ザルバスは死体などお構いなしに踏みつけて突進してくる。
 カインは戦斧の連続攻撃を何とかいなしながら、反撃の機会を伺った。そして、石突を敵の横顔に当てようとするが、これもザルバスは後方に跳躍して避ける。

「だんだんお前の攻撃が読めてきたぞ、鎧殻装兵……」
「それはどうかな?」
「強がるなよ。核玉《コア》の出力も違うんだ」

 ザルバスは裂けた口でニヤリと笑うと、再度攻撃態勢に入る。その瞬間だった。カインは槍の柄を右手で掴むと、ザルバスめがけて、全力で投擲した。 

「何っ!」

 ザルバスは虚を突かれたように動きを止めるも、なんとか戦斧でガードする。しかし、一瞬の隙をカインは見逃さず、勢いよく下半身に組み付き、押し倒す。

「くっ、この!」

 お互いが地面に倒れ伏し、死体の上で転がる。だが、単純な格闘ではカインが上手だった。ザルバスの背中に回り込み、その首を両腕で締めにかかった。首は太く厚かったが、核玉《コア》の出力で強化された膂力で力いっぱい締め上げた。

 ザルバスは何とかカインを振りほどこうと、鋭い爪を彼の腕を引っ搔いたが、鎧殻装はその程度の攻撃はものともしなかった。
 やがて、ザルバスの身体が痙攣したかと思うと、そのまま動かなくなった。怪物はようやく息絶えたのである。

「胸糞わるい勝利だ……」

 とどめを刺したカインは立ち上がり、ザルバスの死体と、惨殺された人々の死体を見つめた……

(俺たちが闇に潜む時間は終わった。これから百年前の恨みを晴らす時だ)

 ザルバスの言葉通りなら、このようなむごい事件がこれからも続くのだろう。カインはため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...