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第12話 鎧魔導士
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帝都ロージアの繁華街の裏路地に、その居酒屋はあった。
一人の少年が居酒屋の扉を開ける。歳は十六前後。
「あらいらっしゃい。でも、まだ開店前よ」
妙齢の女性店主はそう告げるが、少年はお構いなしに店に入ると、カウンターの席に腰かけた。
「バシュルがやられたって?」
少年は気だるそうに言う。その髪も瞳もともに灰色だった。しかし、これは本来の色ではなく、魔術で変化させたものであった……
「ええ、新しい鎧殻装兵が出たらしいわ」
「ふーん、戦ってみたいね」
「フェルザーに大人しくしているように言われなかった?」
女性店主は呆れたように笑うと、ジュースの入ったコップを少年の前に置く。
「でもみんな勝手に動いているでしょ? そもそも、フェルザーはなんで動かないんだろうね……」
「時がくるのを待っているのよ」
「今の帝国なんて、倒すのは簡単そうなのに」
「皇帝の力を侮ってはだめよ…… 彼ら一族の力はいまだ健在なんだから」
フェルザーはつまらなそうな顔をして、出されたジュースを飲む。ひどく酸っぱいオレンジジュースだった。
「ここのところ帝都で魔術師たちが暴れているけど、それはフェルザーの意思ではないもの。彼は計画が狂って迷惑そうにしていたわ」
「力が有り余ってる魔術師たちに動くなと言うのは、無理な話だよ。フェルザーはそこのところがわかってない」
「それで、ネオ。あなたはどうして帝都に来たの?」
「うん? 退屈だったから」
ネオと言われた少年はイタズラっぽく笑う。
「フェルザーに怒られるわよ」
「別にいいよ。その新しい鎧殻装兵とやらに、ちょっかい出してこようかな」
「はぁ、止めても聞かなそうだし、好きになさい。ただ、ほどほどにね」
「はいはい」
ネオはそう言って、ジュースをもう一口飲んだ。
「ルーラ、やっぱりこのジュース美味しくないね……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アルベクがライサーと試合をしてから、もう二週間がたっていた。
すでにアルベクは鎧殻警備隊の藍色の隊服に身を通した隊員であり、日夜厳しい稽古に励んでいる。
剣術の稽古で鍛えていたとはいえ、慣れない軍隊生活はなかなかにキツイものがあった。それでも、持ち前の順応力で乗り切っている。
賃貸集合住宅から警備隊本部の宿舎に移ったアルベクは、二人の相部屋で寝起きをしていた。そこではライサーと同室で、明るい性格であり武術にも詳しい彼がいることは嬉しかったが、そのいびきのうるささには辟易していた。彼に長らく同居人がいなかったのは、皆、いびきに堪えかねて別の部屋に移ったからだった。
「もう二週間か……ここの生活にも慣れたか?」
宿舎の部屋のベッドに横になりながら、ライサーが聞いてきた。
「だいぶね。 ……ただ、あんたのいびきにはなれない」
「はは、そりゃ悪い」
「しかし、ここのところ魔術師は大人しいな」
バシュルが現れて以降、魔術師がらみと思われる事件は起こっていなかった。平和なのはありがたいが、これで魔術師との戦いが終わったとはとうてい思えなかった。
「帝都で暴れている魔術師は、カノア島からやってきたと思うんだが、命令をうけて暴れているとはどうも思えないんだよな…… やってることはちんけな殺しだしなぁ」
「案外、中心人物とされるフェルザーも、魔術師の統制がとれていないのかもしれない」
「かもな…… まあ、なんにせよ謎だらけだ」
魔術師の脅威について、帝国の上層部もさすがにもう隠し通せないと思ったのか、徐々に新聞などで報道され始めた。百年ぶりの魔術師の復活の報は、帝国の人々に驚きと恐怖をもって迎えられた。
首都防衛を担う鎧殻警備隊への期待はかつてない程高まり、それがアルベクには重圧となって伸し掛かる。ついこの前まで学生だった身には重い使命だとも思っていた。
「なんにせよ、やるしかないさ」
「……そうだな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ネオは帝都の大通りを歩きながら、どうやって新型の核玉《コア》を持つ鎧殻装兵と戦おうかと考えてきた。
鎧殻警備隊本部を直接襲うか……それとも……
「あー面倒だ。普通に核玉《コア》の力を使って変身すれば、向こうから来るでしょ」
そう言うと、ネオの胸部が黒く光り、瞬間黒い炎が身体を覆う。
ヴァルスレン帝国の人間が鎧殻装という装甲を肉体に纏うことで鎧殻装兵となるのに対し、カノア島で開発された新しい核玉《コア》は肉体そのものを変質させる。こうして強化変身した者を、カノア島では『鎧魔導士《がいまどうし》』と呼んでいた。鎧魔導士になると、強靭な肉体が手に入るだけでなく、魔力まで向上する。その魔術は鎧殻装でも無効化できない場合がある程だ。
炎を纏ったネオの身体は強靭な肉体を手に入れ、その上を灰色の外殻・『鎧魔殻《がいまかく》』が覆う。
顔は山羊《やぎ》の頭蓋骨のような鎧魔殻で覆われ、頭頂部も山羊のような角が生えていた。
肉体は比較的細身ながら、その力は人間時からはるかに強化され、全身に鎧魔殻を備えており、堅牢であった。
「ば、化け物!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
大通りを歩いていた人々は、突然の怪物の顕現に慌てふためき、悲鳴をあげて逃げ惑った。
「ふふ、こうして待ってれば、鎧殻装兵も来るだろう」
ネオはほくそ笑んだ。
一人の少年が居酒屋の扉を開ける。歳は十六前後。
「あらいらっしゃい。でも、まだ開店前よ」
妙齢の女性店主はそう告げるが、少年はお構いなしに店に入ると、カウンターの席に腰かけた。
「バシュルがやられたって?」
少年は気だるそうに言う。その髪も瞳もともに灰色だった。しかし、これは本来の色ではなく、魔術で変化させたものであった……
「ええ、新しい鎧殻装兵が出たらしいわ」
「ふーん、戦ってみたいね」
「フェルザーに大人しくしているように言われなかった?」
女性店主は呆れたように笑うと、ジュースの入ったコップを少年の前に置く。
「でもみんな勝手に動いているでしょ? そもそも、フェルザーはなんで動かないんだろうね……」
「時がくるのを待っているのよ」
「今の帝国なんて、倒すのは簡単そうなのに」
「皇帝の力を侮ってはだめよ…… 彼ら一族の力はいまだ健在なんだから」
フェルザーはつまらなそうな顔をして、出されたジュースを飲む。ひどく酸っぱいオレンジジュースだった。
「ここのところ帝都で魔術師たちが暴れているけど、それはフェルザーの意思ではないもの。彼は計画が狂って迷惑そうにしていたわ」
「力が有り余ってる魔術師たちに動くなと言うのは、無理な話だよ。フェルザーはそこのところがわかってない」
「それで、ネオ。あなたはどうして帝都に来たの?」
「うん? 退屈だったから」
ネオと言われた少年はイタズラっぽく笑う。
「フェルザーに怒られるわよ」
「別にいいよ。その新しい鎧殻装兵とやらに、ちょっかい出してこようかな」
「はぁ、止めても聞かなそうだし、好きになさい。ただ、ほどほどにね」
「はいはい」
ネオはそう言って、ジュースをもう一口飲んだ。
「ルーラ、やっぱりこのジュース美味しくないね……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アルベクがライサーと試合をしてから、もう二週間がたっていた。
すでにアルベクは鎧殻警備隊の藍色の隊服に身を通した隊員であり、日夜厳しい稽古に励んでいる。
剣術の稽古で鍛えていたとはいえ、慣れない軍隊生活はなかなかにキツイものがあった。それでも、持ち前の順応力で乗り切っている。
賃貸集合住宅から警備隊本部の宿舎に移ったアルベクは、二人の相部屋で寝起きをしていた。そこではライサーと同室で、明るい性格であり武術にも詳しい彼がいることは嬉しかったが、そのいびきのうるささには辟易していた。彼に長らく同居人がいなかったのは、皆、いびきに堪えかねて別の部屋に移ったからだった。
「もう二週間か……ここの生活にも慣れたか?」
宿舎の部屋のベッドに横になりながら、ライサーが聞いてきた。
「だいぶね。 ……ただ、あんたのいびきにはなれない」
「はは、そりゃ悪い」
「しかし、ここのところ魔術師は大人しいな」
バシュルが現れて以降、魔術師がらみと思われる事件は起こっていなかった。平和なのはありがたいが、これで魔術師との戦いが終わったとはとうてい思えなかった。
「帝都で暴れている魔術師は、カノア島からやってきたと思うんだが、命令をうけて暴れているとはどうも思えないんだよな…… やってることはちんけな殺しだしなぁ」
「案外、中心人物とされるフェルザーも、魔術師の統制がとれていないのかもしれない」
「かもな…… まあ、なんにせよ謎だらけだ」
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「なんにせよ、やるしかないさ」
「……そうだな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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鎧殻警備隊本部を直接襲うか……それとも……
「あー面倒だ。普通に核玉《コア》の力を使って変身すれば、向こうから来るでしょ」
そう言うと、ネオの胸部が黒く光り、瞬間黒い炎が身体を覆う。
ヴァルスレン帝国の人間が鎧殻装という装甲を肉体に纏うことで鎧殻装兵となるのに対し、カノア島で開発された新しい核玉《コア》は肉体そのものを変質させる。こうして強化変身した者を、カノア島では『鎧魔導士《がいまどうし》』と呼んでいた。鎧魔導士になると、強靭な肉体が手に入るだけでなく、魔力まで向上する。その魔術は鎧殻装でも無効化できない場合がある程だ。
炎を纏ったネオの身体は強靭な肉体を手に入れ、その上を灰色の外殻・『鎧魔殻《がいまかく》』が覆う。
顔は山羊《やぎ》の頭蓋骨のような鎧魔殻で覆われ、頭頂部も山羊のような角が生えていた。
肉体は比較的細身ながら、その力は人間時からはるかに強化され、全身に鎧魔殻を備えており、堅牢であった。
「ば、化け物!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
大通りを歩いていた人々は、突然の怪物の顕現に慌てふためき、悲鳴をあげて逃げ惑った。
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ネオはほくそ笑んだ。
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