魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第48話 決戦

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 アルベクとリーナ、強化された二人の戦士は互いに全力の技を繰り出す。
 アルベクもこれ以上手を抜けば、仲間が犠牲になるかもしれない――そう思って、手加減をしなかった。あとは、傷つけてもセフィーネの治癒魔術あると考えていた。

「そうだよ、アルベク。全力でやろう。幼い日のように……」
「できれば殺し合いでなく、試合をお前としたかったよ」

 アルベクは切ない気持ちを押し殺す。

 剣術でアルベクが僅かに上手《うわて》なものの、リーナの剣術の腕も一流で、さらに膂力《りょりょく》ではリーナが勝っていた。実力のほぼ拮抗しているお互いが、精緻な技を繰り出す。
 攻撃すればそれに対するカウンターが返ってきて、さらにその反撃も行われるなど、技の応酬が続いた。

 幼馴染同士の剣戟はなかなか決着が付かなかった。痺れをきらしたリーナは次の手に打って出る。

「剣術だけでなく、私には魔力がある」

 そう言うと。魔法陣を発動し、そこから冷気を噴出する。

「ちっ!」

 アルベクが剣で身体を庇った刹那、足元にも魔法陣が展開し鎖がアルベクの脚に巻き付く。とっさの事で、アルベクのバランスが崩れる!

「貰った!」

 リーナはアルベクめがけて、斬撃を繰り出す。しかし、アルベクは核玉《コア》の力で身体を転移させると、その攻撃を回避する。

「小手先の魔術なら、通用しないぞ」

 脚で鎖を軽々と引きちぎり、言う。

「そう? じゃあ、これはどう?」

 彼女は左手から、巨大な重力の塊を放出する。それはどんどん大きさを増していき、アルベクに迫っていく。
 避けられない攻撃ではなかったが、後ろにいる仲間が危ない。アルベクは左手をかざし、核玉《コア》の力で盾のような結界を発動させると、その攻撃を防ぐ。重力の塊はそれを押しつぶそうとする。

「負けるか!」

 アルベクは盾を展開する左手に力を込めて、それを押しのける。
 しかし、その隙にリーナは剣尖に核玉《コア》のエネルギーを集め、アルベク目掛けて放出した。
 それは結界を砕き、アルベクの身体を後方に吹き飛ばす。

「くっ!」

 地面に転がりつつ、すぐに体勢を整えるが、そこに転移してきたリーナが剣を振るう。

 魔術と剣術の組み合わせに翻弄されつつも、アルベクは冷静に攻撃を捌く。

「しぶといなぁ。これじゃどう」

 彼女の背後からいくつもの閃光が現れ、アルベクだけでなく、仲間たちを狙う。

「みんな!」
「君は無事でも、仲間はこれだけの攻撃を避けられない」

 しかし、その閃光は仲間たちの身体に当たる前に掻き消える。

「くっ、帝国の魔女!」

 リーナは鎧殻装を纏ったセフィーネが魔力で攻撃をかき消したのを見た。
 アルベクも、以前、彼女が魔術師の火球攻撃をかき消していたのを覚えている。

「はぁはぁ、アルベク……こっちの飛んできた攻撃は私が防ぐわ。だから、安心して戦って……」
「すまない。セフィーネ」

 腹部を貫かれた彼女も重症なはずだが、それでもなんとか魔力を全開にして、身体を無理やり起き上がらせていたのだ。

「リーナ!」

 アルベクは魔術を使わせる隙も与えず、リーナに連続攻撃を行う。

「このっ!」

 変幻自在の攻撃にリーナは苦戦する。転移魔術を使う一瞬の隙さえ、アルベクは与えなかった。
 刃と刃を合わせて、巧みに相手の剣を巻きにかかる。それをなんとか、堪えるリーナ。

(禁術を使ったこの私が押されている……そんなこと!)

 剣の技量で負けても、力で押し切ろうとリーナは腕に力を込める。当然、核玉《コア》の出力も最大限上げて。

 しかし、アルベクは逆に腕の力を緩め、その攻撃を剣で巧みに受け流す。リーナの剣がアルベクの身体を逸れていく。

「しまった!」

 瞬間、リーナの右肩に鋭い痛みが走る。アルベクの剣は彼女の肩を切り裂いていた。しかし、鎧魔殻の堅さが幸いしたのか、彼女が瞬時に後方に下がったからか、攻撃は致命傷にはならなかった。

「リーナ。もう終わりにしよう」

 剣尖を彼女の喉元にむけて構え、アルベクは言う。

「魔女に降伏なんて言葉はない」

 彼女の右肩の傷から銀色の光が放出され、すぐさま塞がる。禁術でさらに命を縮める代わりに、傷を治したのだ。

「ほら治った……うっ……」

 禁術の力を使いすぎた反動がとうとう来た。もう自分は長くない……リーナはそう思った。

(早くアルベクを倒して、他の鎧殻装兵も殺さなきゃ…… それができれば、この命なんてどうでもいい)

「私は負けないよ、アルベク」
「リーナ…… なら……仕方ない」

 アルベクは渾身の力で、諸手突きを繰り出す。

(来た!)

 それを待っていたリーナは、得意技を繰り出す。アルベクの長剣の刃に己の刃を押し当て、軌道を逸らす。そして、剣を回転させ、カウンターの突きを繰り出したのだ。
 当然、そうすればアルベクが防ぐしかないと彼女は考えた。そこを剣を左側に回し、斬りつけるつもりであった――が、アルベクは彼女の予想に反して、体勢を低くして突きを躱す。そして、彼女の胴を剣で一閃したのである。

「なっ!? そんな」

 血を噴き出し、彼女はよろめく。だが、倒れると見せかけて、片手突きを繰り出す。しかし、アルベクはそれを冷静に刀身で弾く。

「リーナ!」

 彼女の名を叫び、がら空きとなった彼女の身体を袈裟斬りにする。

「うっ……くぅ……」

 彼女が小さく呻き、 鎧魔殻が消失する。そして、彼女は今度こそ地面に倒れた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「私の負け……か。……初めて、アルベクに負けたなぁ」

 地面に横たわりながら、リーナは呟く。
 アルベクは彼女の上半身を抱える。

「リーナ、さっきみたいに傷を防げ。死んでしまう」
「無理だよ。もう一度あの力を使えば、今すぐに死んじゃうよ」
「そんな……俺は……」

 彼女が傷を回復できると考えたから、彼女を袈裟斬りにした。自分の考えの甘さを思い知る。

「禁術を使ったのね…… 悪いけど、もう彼女は助からないわ」
 
 アルベクが後ろを振り向くと、セフィーネが転移の魔術を使ってこちらに来ていた。

「助からない? セフィーネ…… リーナの傷を塞いでくれ……頼むよ」
「彼女は力を得る代わりに、呪われた魔術を使ってしまった…… 傷を塞いでも良いけど、どのみちあと数分で命が尽きるわ」
「……そんな」

 アルベクは驚愕する。彼女が自分の命を犠牲にしてまで戦っていたことを知る。
 
「そう……だからもういいの……」
「何がもういいだ……」
「……私は君の仇だよ。身勝手な理由で君の両親を殺した」
「……ああ、だから、生きて罪を償ってくれ……」

 アルベクの瞳から涙がこぼれる。仇だと分かっているし、彼女のやったことは許されない。それでも、死にゆく幼馴染の姿を見るのは、悲しくて仕方がしなかった。

「あいかわらず、君は甘いね……」

 リーナは微笑を浮かべる。   

「ねぇ、アルベク…… 私はね、自分のことを身勝手だと思うけど、後悔はしてないんだよ。時間を巻き戻せても、サタナキアのために、また同じことをする。だから、私のために泣く必要なんてないのに……」
「分かってる……でも心と体ってのはどうしようもないんだ……」
「そっか……じゃあ、しょうがないね……」

 呆れたように、どこか切なそうに、彼女は言う。

「ああ、今、未来が見えた。シェルド人がいなくなった後も、魔術を使える人間が生まれてくる未来が。きっと、彼らがヴァルスレン帝国を滅ぼすよ」
「……そうか。それが未来だってんなら、仕方ないな」

 帝国のやってきたことが正しい事ばかりでないのは、アルベクも知っている。いつか滅びの未来はやってくるだろう。それは仕方のない事だと思う。
 
「ふふ、否定しないんだね……」
「どんな未来がきても、自分が正しいと思う選択をするだけだ」
「……はは、君らしいね」

 そして、目を閉じる。

「ねえアルベク、もう疲れたよ」
「……リーナ?」
「先に行くね……」
「待て、待ってくれリーナ!」
「さよなら、アルベク」

 そう言って彼女は息絶えた。

「リーナ……おい……リーナ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 アルベクは絶叫する。
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