魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第51話 友

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 二十一歳のアルベク・レーニスは、セリオス大学の四年生になっていた。 
 そろそろ自分の将来の進路を決めねばいけない時期なのだが、どうもそちらに意識を向けられずにいる。

 なぜなら、ここ一年、魔女セフィーネが行方をくらませているからだ。
 セリオス大学の同学年である彼女を、アルベクはこの一年必死に探したが、手掛かりさえつかめずにいた。 

 彼女の性格についてはアルベクも色々と思うところはあったが、いなくなると寂しいものである。なにより、彼女は帝国工廠で核玉《コア》という兵器の開発に携わっていた。そんな彼女が、なにか危険なことに巻き込まれていなければ良いというのが、アルベクの偽らざる気持だった。

「まったく、どこに行ったんだよ、セフィーネ……」

 大学図書館で授業の課題に必要な蔵書を探しながら、アルベクは呟いた。

「……なんだ、また恋しい彼女の事を考えているのか、アルベク?」

 アルベクが振り向くと、同学年のライゼル・ステムセンが立っていた。金髪の美しい髪に緑の瞳をもつこの美青年は、アルベクの友人でもあった。

「……ライゼル。そういう冗談は好きじゃないな」
「はは、そう怒るな。僕は君を励ましたいんだ……」
「……まったく、殿下は人の気持ちをお分かりになりませんね…… そんなんじゃ行く末は暴君ですよ」
「おいおい、殿下はよせ…… それに僕は王位にはつけないさ……」

 ライゼルはヴァルスレン帝国に服属しているステムセン王国の第三王子である。そんな高貴な出だが、ヴァルスレンに従者もつけずに留学して、平民のアルベクにも気さくに接してくれる。ただ、やはり王族の家の出ゆえか、時より無神経な言動をし、そのたびにアルベクは彼をたしなめている。

「それで、なんか用があるのか?」
「それが……実に言いにくい事なんだが、僕はもうじき家の都合でステムセンに帰らねばならなくなった……」

 残念そうにライゼルは言う。

「なっ…… それは急だな…… せめて卒業まで何とかならないのか?」
 
 しかし、彼は首を横に振る。

「こればかりはな…… しかし、もう会えなくなる訳ではない。君もたまには我が家に遊びにくればいい」
「……簡単にいうなよ。ステムセンの王宮にそう気軽に行ける訳ないだろ……」
「うん? そうか? 我が家はいつでも君を歓待するぞ」
「……」

 冗談なのか本気なのか、ライゼルの言葉は判断に惑う。いや、おそらく彼は本気なのだろうが……

 ライゼルはあたりを見回し、近くに人がいないのを確認してから言う。

「……なにかあれば真っ先に僕を頼れ。僕や僕の一族はずっと君の味方だ……」
「……あ、ああ。そう言って貰えるのはありがたいよ。ほんとに」
「冗談ではなく、これは本心だ」
 
 ライゼルはその緑の瞳でアルベクを真っ直ぐ見つめる。

「ここのところ色々きな臭い。二年前にフォーレス陛下が崩御し、アリスティア陛下の治世になってからだが……」

 皇帝アリュード・ヴァルスレンがカノア島で戦死し、その弟のフォーレスが皇位についたものの、それからすぐに病没する。そして、妹のアリスティア・ヴァレスレンが新たな皇帝となっていた。
 彼女は気弱だったフォーレストとは真逆で、気の強い女性だという噂だった。 

「ひとつ言えるのは、ヴァルスレンが大陸すべてを支配する時代の終焉は近いという事だ……」
「ライゼル、今のは聞かなかったことにするよ……」

 誰かがこっそり聞いていないかとアルベクはヒヤヒヤした。しかし、ライゼルは毅然とした態度だった。

「なに、僕は事実を言っただけさ。恐れる必要なんてない。とにかく、赤の鎧殻装兵だった君も、これから面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。そしたら、僕や僕の家を頼れ」
「仮にそういう状況になったとして、おまえやステムセン王家に迷惑がかからないか……」

 それを聞いて、ライゼルはふっと笑う。

「友人間でそんなことを気にしてもしょうがない。僕もいざというときにも君を頼らせてもらう。いいかい?」
「ああ、そうだな。ただ、何も危険なことがないようにと願うよ」
「それじゃあ、僕はもう行かなければならない。これまで楽しかったよアルベク」
「それは俺も一緒だ。また会える日を願っているよ」

 そう言って、お互い抱擁を交わす。

「大学の門まで見送るよ」
「いや、これから学長など色々と会ったり、手続きしなければならないんだ」
「なるほど、それは残念だな……」
「では、さらばだ……」

 彼は名残惜しそうにアルベクの身体から手を放す。そして、無理に笑顔を作りながらアルベクと別れて、学長室に向かっていった。
 
「また一人、友が行ってしまうのか……」

 アルベクはひとりため息をついた。
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