魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第57話 城郭

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 アルベクは出立《しゅったつ》までの短い期間、ジュナを講師に宮殿でバシュヌ将国の礼儀作法を学んできた。
 三日というのはあっという間で、バシュヌ将国に向かう当日となる。朝から宮殿に出向いたアルベクは、礼服に身を包んだ。

「お似合いですよ、アルベク様。しかし、バシュヌに着きましたら、我が国の衣服をお召しいただきたいのです。そうすれば、国の者もあなた様に心を許すでしょう」
「なるほど、承知いたしました」

 現地の人間の心を掴むのに必要なことは、その土地の服装をし、その土地の食べ物を食べることだと聞いたことがある。将王の心象をよくするためにも、その作戦は良さそうだ。

「アルベク、そなたはヴァルスレンの人間なのだから、こちらの服装で堂々と行くべきだと我は思うが……」

 謁見の間の玉座に座っている皇帝アリスティアは、少し不満げに言う。

「何を纏われようと、アルベク様の心はヴァルスレン帝国とともにあるでしょう。しかし、国内には貴国に良い感情を持たない者もおります。その者たちにむけて、あくまで形だけでも繕っておかなければ……」
「そういうものか…… まあいい。ジュナの好きにしろ。それでだ……」

 アリスティアは手で合図を送り、二人の従者に黒い縦長の箱と、小ぶりな黒い箱を持ってこさせた。

「これがバシュヌ将国への贈り物だ。ジュナの話を聞きつつ、将王が喜びそうなものを選んだ」

 従者が箱を開けると、黒い鞘に納められた長剣が姿を現す。それは宝石や金銀で装飾されている訳ではないが、重厚な風格があった。

「この剣は、初代皇帝ガイードを持っていたものだ。ガイード帝は無類の剣術好きでな、多数の剣のコレクションを有していて、その中のひとつだ」
「そんな貴重なものを……」
「バシュヌは武人の国という。なれば、こういうものが喜ばれよう。しかも、現将王は豪奢を嫌うという。飾り気のないが気品のあるこの剣が相応しいだろう」

 アリスティアはそう言って笑った。そして、もう一つの小ぶりな箱の方に視線をやる。

「それとこちらの箱には親書が入っている。我の申したいことはここにすべて書いてある。忘れず渡せよ」
「は!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、出立の時刻になった。

「では、アルベク様参りましょうか…… 転移の術を使えば、一瞬で将国に到達します。お覚悟はよろしいですね?」
「は、はい。お願いいたします」

 大小二つの箱を抱えたアルベクは言う。貴重な贈り物と親書を手が滑って落としでもしないか気が気でなかった。

「頼むぞアルベク。失敗してもそなたを責めんが、それでも精一杯やってこい」
「はい! 全身全霊をかけて、交渉に取り組む所存です!」
「うむ。では行ってまいれ」

 アリスティアはアルベクに笑いかける。

「アルベク様、失礼いたします」

 そう言って、ジュナはアルベクの左肩に手を置く。

「皇帝陛下、行ってまいります」
「ジュナ、アルベクを頼むぞ」
「畏《かしこ》まりました……」

 ジュナの身体が白く光り、その光はアルベクをも包み込む。そして、次の瞬間にはアルベクとジュナの身体はアリスティアの前から消えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 光に包まれたと思ったら、アルベクは巨大な大樹の前にもジュナとともに立っていた。その大樹は淡いピンク色の花をつけており、幻想的で美しい。

「……ここが、バシュヌ将国」

 花に見とれながら、アルベクは呟いた。

「はい、こちらは将国が誇る桜の木といいます。そして、後ろに見えるのが、シュザク城です」

 アルベクが後ろを振り返ると、そこには巨大な城郭が聳《そび》えたっていた。
 何重もの強固な石垣で囲まれたその城はまさに鉄壁の要塞であり、立派な白の五重の楼閣も目を引く。

 また、アルベクのいる大樹から歩いて数歩の距離には、鉄板の張った門があり、何人もの将国兵の姿があった。

「……おお、ジュナ様。お帰りに」
「それと、あなた様が……」

 門の前の将国兵はアルベクとジュナの姿を見ると、駆け寄ってきた。見れば、皆頭に髷《まげ》を結っている。

「ただいま戻りました。このお方が、アルベク様です」

 ジュナは将国兵にアルベクを紹介する。すると、長身の将国兵が他の将国兵をかき分け、姿を現す。

「おかえりなさいませ、姫様。そして、よくお越しくださいましたアルベク殿。私は鬼術衆がひとり、ヨジュムと申します」

 そう言って、その男は頭を下げる。よく見ると、二十代半ばぐらいの青年で、鼻筋の通った美男子であった。
 鬼術衆と言ったが、その出で立ちは武人そのものだった。

「アルベク・レーニスです。お招きいただき光栄に存じます」

 アルベクも頭を下げる。しかし、鬼術衆はヴァルスレン帝国からの独立を強く訴え、反対派を暗殺する危険な集団と聞いている。警戒は怠らないようにしようとアルベクは心に誓った。

「このヨジュムめが、アルベク殿を御殿までご案内いたします。」

 彼はにこやかに微笑むと、部下と思われる将国兵に門の扉を開けさせた。
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