婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、前世知識で辺境生活を満喫中。無口な騎士様に溺愛されているので、今さら国に泣きつかれても知りません

カインズ

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第8話『三日坊主と、百回目のジャム作り』

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長く、暗く、そして凍えるように厳しかった冬が、ようやくその支配の終わりを告げようとしていた。
それは、ある朝、突然やってきた。
窓の外で、これまで聞いたことのない、甲高い鳥の声が聞こえたのだ。イザベラが慌てて窓を開けると、肌を刺すような冷気の中に、ほんの一滴、ミルクを垂らしたかのような、柔らかな気配が混じっていた。土の匂い。雪の下で、春を待ちわびていた大地の、生命の匂いだった。

見れば、館の屋根から滴り落ちる雫が、陽光を浴びてきらきらと輝いている。軒下のつららが、ぽたり、ぽたりと、まるで時を刻むように溶け落ちていく。その音は、長い沈黙を破る、春の訪れのファンファーレのようだった。
谷間を流れる小川も、分厚い氷の鎧を脱ぎ捨て、せせらぎの音を取り戻し始めていた。その水の輝き、風の温かさ、土の香り。世界が、ゆっくりと、しかし確実に、再生へと向かっている。イザベラは、その生命力に満ちた光景を前にして、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んだ。

「春ですわ……!」

彼女の心もまた、この雪解けと共に、新しい希望で満たされていた。
冬の間にエルマおばあさまから学んだ保存食の知恵。あれを応用し、この土地ならではの特産品を作り上げる。今度こそ、現実離れした計画ではない。この土地に根ざし、人々の生活に根ざした、地に足の着いた計画だ。

「よし、やるからには完璧に! 最高の逸品を生み出してご覧にいれますわ!」

イザベラの新たな挑戦が、春の訪れと共に幕を開けた。
彼女が目を付けたのは、この辺りの山に自生する、小指の先ほどの大きさの、真っ赤な野生のベリーだった。村人たちはそれを「熊イチゴ」と呼び、見向きもしなかったが、一口かじってみると、驚くほど濃厚な甘酸っぱさが口の中に広がった。
「これですわ! この力強い味! これを煮詰めて、長期保存の効く『こんふぃちゅーる』にすれば、きっと素晴らしい特産品になるはず!」
『こんふぃちゅーる』という言葉に、村人たちが「?」という顔をしたが、イザベラは気にしなかった。要するに、ジャムだ。

彼女は早速、エルマの家の厨房を借り切り、一人で試作に取り掛かった。村の子供たちに駄賃をやって集めさせた大量の熊イチゴを、大きな銅鍋に入れる。そこに、けちけちと集めた貴重な蜂蜜を加え、火にかける。
「ふふふ、見てなさい。わたくしの完璧な計算によれば、最高の甘酸っぱさと、宝石のような深紅の色合いを持つ、至高の逸品が生まれるはずですわ!」
彼女は木のヘラを手に、自信満々に鍋をかき混ぜ始めた。王宮で化学の講義も受けているのだ。糖度と酸度の完璧なバランスなど、計算すれば導き出せる。そう信じていた。

――だが、現実は非情だった。

第一回目の試作品は、火加減を間違え、鍋の底に真っ黒な炭の塊と化した。部屋中に立ち込める、甘ったるい焦げ臭さ。イザベラは、ヘラを握りしめたまま、黒い物体を前に呆然と立ち尽くした。
「……これは、その、キャラメリゼが少し、進みすぎただけですわ」
誰に言うでもない言い訳が、虚しく響いた。

気を取り直した第二回目。今度は火を弱くしすぎた。いつまで経っても煮詰まらず、ただの「熊イチゴの蜂蜜温め」が完成した。味は悪くなかったが、これではすぐに腐ってしまう。保存食には程遠い。

第三回目。蜂蜜の量を減らし、酸味を活かそうとした。結果、口に入れた瞬間、顔のすべてのパーツが中心に寄るかと思うほどの、凶悪な酸味の塊が生まれた。味見したエルマは、一言「……寿命が、縮んだ」と呟いて、腰をさすりながら部屋を出ていった。

失敗は、その後も続いた。
甘すぎたり、水っぽすぎたり、色がどす黒くなったり。瓶詰めに成功したかと思えば、数日後に蓋を開けると、青緑色の、ふわふわとした芸術的なカビが一面に咲き誇っていた。
イザベラの自信は、失敗の山を前にして、春先の雪のように急速に溶けていった。

「なぜですの!? なぜ、わたくしの計算通りにいかないの!?」
十数回目の失敗作を前に、イザベラはついにヒステリーを起こした。鍋を床に叩きつけたい衝動に駆られたが、貴重な銅鍋を壊すわけにもいかず、代わりに自分の頭をかきむしった。
「材料の量、加熱時間、糖度、すべて完璧なはず! それなのに、なぜ毎回、違う結果になるの!? この世界の物理法則は、どうなっているのよ!」

彼女は、まだ本当の意味で理解していなかったのだ。
世界のあらゆる事象は、単純な一本の線の上にはない。それは、無数の要素――その日の気温、湿度、鍋の材質、火の強さの微妙な揺らぎ、果実の熟れ具合の個体差、かき混ぜる速さ――が複雑に絡み合い、影響し合って、一つの結果を生み出す。それは、計算式で割り切れるような、単純なものではない。まさに、生き物そのものなのだ。

「……もう、やめますわ」
二十回を超える失敗の後、イザベラは、ぽつりとそう呟いた。
心が見事に、ぽっきりと折れてしまっていた。
「どうせ、わたくしなんかが何をしても無駄なのですわ。王都を追放され、公爵家からも見捨てられた、役立たずの女。それが、このわたくし……」
彼女は厨房に鍵をかけると、館の自室に閉じこもってしまった。三日坊主、いや、二十日坊主だった。

ベッドに突っ伏し、枕に顔をうずめる。
悔しくて、情けなくて、涙も出なかった。
『ここで諦めたら、わたくしは本当に何もできない女になってしまう』
そう奮い立たせていたはずの心は、どこかへ消え去ってしまった。もう、頑張れない。頑張る意味が、分からない。
王都での、あの屈辱の日々が蘇る。何をしても「正しすぎて、冷たい」と王子に拒絶された。必死に努力すればするほど、孤立していった。
ここでも、同じだ。
努力なんて、無駄なのだ。どうせ、自分は、誰にも認められない。

その日の夕方、カイルが部屋の扉をノックした。
「食事だ」
「……要りませんわ」
「そうか」
それきり、カイルは何も言わずに立ち去った。追いかけても、励ましてもくれない。その突き放すような態度が、イザベラの孤独感をさらに深めた。
(そうよ、どうせあの男も、心の底ではわたくしを馬鹿にしているに違いないわ……)

翌日も、イザベラは部屋から出なかった。
窓の外からは、村人たちの話し声や、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。春の訪れに、皆が浮き立っている。その明るい声が、まるで自分だけが世界の幸福から取り残されているようで、耳を塞ぎたくなった。

二日目の夕方。
また、カイルが扉をノックした。
「……イザベラ」
いつもより、少しだけ静かな声だった。
「エルマ殿が、心配していたぞ。あんたの作った、あの酸っぱいだけのジャムを、あのお婆さんは捨てずに、肉料理のソースに使っていた。『酸っぱいのが、かえって肉の脂をさっぱりさせて、うまい』とな」

「……!」
イザベラの肩が、ぴくりと震えた。
失敗作だと思っていた、あの塊が。役に立っていた?

「誰も、お前のことを役立たずだとは思っていない。失敗ばかりしている、不器用な奴だとは、思っているだろうがな」
カイルは、扉の向こうで続けた。
「諦めるのは、まだ早いんじゃないか。お前は、まだ百回も試してはいないだろう」

百回。
その言葉が、イザベラの心に、ずしりと重く響いた。
自分は、まだたったの二十回しか失敗していない。それだけで、すべてを投げ出そうとしていた。
かつて、王宮で刺繍の練習をしていた時のことを思い出す。最初は全く上達せず、何度も指を針で刺した。それでも、来る日も来る日も練習を続け、師である女官長に「公爵令嬢の嗜みとしては、完璧です」と言わしめた。
剣の稽古もそうだった。素振りで腕が上がらなくなっても、豆が潰れて血が滲んでも、一日も休まなかった。
なぜ、あの頃の自分は、あんなにも続けられたのだろう。
なぜ、今の自分は、こんなにも脆いのだろう。

——違う。
わたくしは、諦めたくない。
心の奥底から、小さな、しかし確かな声が聞こえた。
ここで諦めたら、本当に、王子に言われた通りの「ただ正しいだけの、中身のない女」になってしまう。
ここで投げ出したら、心配してくれたエルマおばあさまや、不器用ながらも気にかけてくれる村人たちに、顔向けができない。
そして、何よりも。
このまま何者にもなれずに終わるなんて、このわたくし自身が、許せない。

イザベラは、ベッドから勢いよく身を起こした。
瞳には、再び闘志の火が灯っていた。

彼女は部屋を飛び出すと、厨房の鍵を開け、再び銅鍋の前に立った。
『まだ生じていない悪(諦め、怠惰)を生じさせない』
『すでに生じた悪(自己嫌悪、絶望)を断ち切る』
カイルの言葉が、彼女の行動哲学へと昇華していく。

彼女はまず、これまでの失敗の記録を羊皮紙に書き出した。感情的にではなく、客観的な事実として。
「一回目:火が強すぎた。結果、炭化」
「三回目:蜂蜜不足。結果、凶悪な酸味」
「七回目:瓶の煮沸消毒不足。結果、カビ発生」
失敗の原因を一つ一つ分析し、次は何を試すべきかを考える。
ただ闇雲に努力するのではない。学び、改善し、そして続ける。これこそが、「正しい努力」なのだ。

翌朝、イザベラが再び厨房に立っていると、ひょっこりとエルマが顔を出した。
「なんだい、小娘。まだやるのかい」
「ええ。百回までは、諦めないと決めましたので」
イザベラの真剣な目に、エルマは満足そうに頷いた。

「なら、一つ、知恵を貸してやる」
エルマはそう言うと、囲炉裏の隅から、白い灰をひとつまみ持ってきた。
「これを、ほんの少しだけ鍋に入れてみな。そうすると、酸っぱさの角が取れて、味がまろやかになる。わしの婆さんの、そのまた婆さんの代からの知恵だよ」

イザベラは、半信半疑で、その灰を煮詰めている鍋に加えた。
すると、どうだろう。あれほど暴力的だった酸味が、嘘のように和らぎ、果実本来の豊かな香りと甘みを引き立て始めたのだ。
「こ、これは……! 魔法ですの!?」
「魔法じゃねえよ。ただの、経験さ」
エルマは、しわくちゃの顔で笑った。

その日を境に、イザベラのジャム作りは、彼女一人の挑戦ではなくなった。
彼女の諦めない姿を見ていた村人たちが、一人、また一人と、力を貸し始めたのだ。
薪割りが得意な木こりの男は、ジャムを煮詰めるのに最適な、火力が安定する薪を持ってきてくれた。
「お嬢様、このナラの木はな、火持ちがいいんだ。これでやれば、焦げ付くことも減るはずだぜ」
手先の器用な細工師の女は、瓶の蓋を密閉するための、革を使った見事なパッキンを考案してくれた。
「これなら、カビも生えにくくなるんじゃないかしら」
そして、多くの主婦たちが、それぞれの家で代々受け継がれてきた、ささやかな知恵を授けてくれた。
「煮詰める時に、リンゴの皮を少し入れると、とろみがつくんだよ」
「最後に、強い酒をほんの少し垂らすと、香りが良くなるし、長持ちもするんだ」

厨房は、いつしか共同作業の場となり、活気と笑い声で満たされるようになった。
『まだ生じていない善(協力、成功)を生じさせる』
『すでに生じた善(村人との絆、小さな成功)を育てる』
イザベラは、自分が正しいと信じる努力を続けることが、意図せずして、周りの人々を巻き込み、より大きな良い流れを生み出していくことを実感していた。それは、彼女が一人で完璧な計画を立てていた時には、決して得られなかった感覚だった。

そして、試行錯誤を繰り返すこと、九十九回目。
ついに、奇跡は起きた。

鍋の中で、コトコトと煮詰められていた熊イチゴのジャムは、夕暮れの光を受けて、まるでルビーのように、深く、透明な輝きを放っていた。ヘラですくい上げると、ぽってりとした、完璧なとろみ。
一口、味見してみる。
最初に、熊イチゴの力強い香りが鼻に抜け、次に、凝縮された果実の甘みが広がる。そして、後から、蜂蜜の優しい甘さと、それを引き締める心地よい酸味が追いかけてくる。
複雑で、深みがあって、そして、どこまでも優しい味。

「……できた」
イザベラの口から、震える声が漏れた。
「できましたわ……!」

その場にいた全員から、わっ、と歓声が上がった。
エルマも、カイルも、集まっていた村人たちも、皆、満面の笑顔だった。イザベラは、その笑顔の輪の中心で、込み上げてくる熱いものを、もう抑えることはできなかった。
涙が、次から次へと溢れ出てくる。
しかし、それはもう、悔しさや情けなさの涙ではなかった。
喜びと、感謝と、そして、これまで感じたことのないほどの、深い達成感から来る、温かい涙だった。

その夜、村の広場では、ささやかな宴会が開かれた。
完成したばかりのジャムを、焼きたての黒パンにつけて、皆で味わう。
「うめえ!」「こりゃ、王都のどんな菓子よりもうめえぞ!」「お嬢様、やったな!」
村人たちの賞賛の声が、イザベラの胸に染み渡った。

諦めないこと。
それは、孤独な戦いではなかった。
正しいと信じる努力を、誠実に続けること。その姿が、人の心を動かし、知恵を集め、やがては想像もしていなかった大きな力を生み出す。
イザベラは、春の日差しのように温かい人々の輪の中で、そのことを、心の底から学んでいた。

彼女の特産品開発は、ただの金儲けの手段ではなく、この共同体を一つにする、大切な絆となっていた。
三日坊主で終わらなかった挑戦は、彼女の人生で、最も価値のある、百回目の正直となったのだった。
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