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意地悪な姉様は素直になれない
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「ちょっと、まだ掃除出来てないのかい?」
「申し訳ありません、お義母さま」
そう言うと、あの子は頭を下げる。
「グズでノロマね。成長が見られない」
「早くしてよー。私のお部屋も汚いわ」
悪態を付く、お母様とお姉様。
普段通りなら、私も一緒になって言っていただろう。
ノロマ。不細工。灰まみれで汚い。
あの子に対する悪口は、この数年で何十個も思いついてきた。
……お母様とお姉様の悪口を少し変えただけだけど。
私は拳を握る。
でも、今日からは変えるんだ。
「ねえ、あなたのお部屋も掃除してもらったら? 舞踏会の準備で忙しいでしょう?」
お姉様の言葉に、握った拳が解ける。
「そうね、お願いするわ」
「分かりました」
あの子は眉ひとつ動かさず、目を伏せる。
いつも通りの日常だった。
仕立てて貰ったドレスが完成したとのことで、私は一人馬車に揺られていた。
今回参加する舞踏会は、大きなチャンスだ。王子様とお近づきになれると噂されていた。
今回は張り切って、私だけ隣町の仕立て屋にお願いした。
お母様には普段の仕立て屋を提案されたが、せっかくの舞踏会なのだから城下町の仕立て屋にお願いしてみたいと伝え、断った。
お店のガラス窓に、意気地無しの顔が映る。
あの子にも、いい思いをさせてあげたい。
心優しい、あの子に。
あの子の優しさに触れたのは、つい数日前だ。
普段通りあの子をいびり、服を洗濯しろと命令して眠りについた夜、夜中に目が覚めた。
一階に降りて用を足し、寝室に戻る時、リビングの窓際に目をやった。
満月の光に照らされたあの子が、何やらゴソゴソと作業をしている。
月の光が逆光になって見えない。
「何してるの」
興味が口から零れた。
驚いた様子もなく、あの子がこちらを振り向く。
「裁縫を」
「裁縫? お母様かお姉様に頼まれたの?」
「いえ、お洗濯をしていたらお義母様のスカートの裾がほつれていたので」
「へえ」
「後……私の勝手ではあるのですが……」
「な、なによ」
先程とは違い、歯切れの悪い言葉に腹が立つ。
「あの、お姉様のスカートの裾に、刺繍を」
「刺繍?」
恐る恐る持ち上げる橙色の布は、私のスカートだった。
裾の辺りに、赤い糸を使った薔薇の刺繍が施してある。
一流の仕立て屋には劣るが、とても繊細で可愛らしい。
何より、薔薇は私の好きな花だ。
火が灯ったように、心が温かい。
感謝が喉元まで上がったが、プライドが蓋をした。
「そんなことして、明日の仕事に支障が出たら許さないから」
「支障が出ないようにいたします」
それだけ言うと、私は部屋に戻ってしまった。
あの小さな火は、数日経った今も心に灯ったままだ。
火は小さい故にプライドを焼き払えない。
冷気を纏ったプライドに消されないよう、火を灯し続けるだけだった。
「まぁ! とても素敵!」
ドレスを着用した私を、わざとらしくも聞こえる程の大声が迎える。
「お似合いですわ!」
「私も気に入りました。ありがとうございます」
お母様から預かったお金を払い、外に出る。
迎えの馬車が来るまで少し時間があった。
ふと、小さな店が目に入った。
糸やボタンなど、庶民向けの裁縫道具が並んでいる。
私は悩むことなく、古びたドアを開いた。
金に余裕がないなんてあってはならない。
それは母の口癖だ。
そのため、あの子以外は普段から多めに金銭を持ち歩いている。
普段は小腹満たしのパンを買うことが多いが、今日はパンではなく数種類の刺繍糸とあの子が使っているものより良さそうな刺繍針を購入した。
馬車に揺られながら、目を閉じる。
今度こそ素直になれますように、と祈りながら。
「申し訳ありません、お義母さま」
そう言うと、あの子は頭を下げる。
「グズでノロマね。成長が見られない」
「早くしてよー。私のお部屋も汚いわ」
悪態を付く、お母様とお姉様。
普段通りなら、私も一緒になって言っていただろう。
ノロマ。不細工。灰まみれで汚い。
あの子に対する悪口は、この数年で何十個も思いついてきた。
……お母様とお姉様の悪口を少し変えただけだけど。
私は拳を握る。
でも、今日からは変えるんだ。
「ねえ、あなたのお部屋も掃除してもらったら? 舞踏会の準備で忙しいでしょう?」
お姉様の言葉に、握った拳が解ける。
「そうね、お願いするわ」
「分かりました」
あの子は眉ひとつ動かさず、目を伏せる。
いつも通りの日常だった。
仕立てて貰ったドレスが完成したとのことで、私は一人馬車に揺られていた。
今回参加する舞踏会は、大きなチャンスだ。王子様とお近づきになれると噂されていた。
今回は張り切って、私だけ隣町の仕立て屋にお願いした。
お母様には普段の仕立て屋を提案されたが、せっかくの舞踏会なのだから城下町の仕立て屋にお願いしてみたいと伝え、断った。
お店のガラス窓に、意気地無しの顔が映る。
あの子にも、いい思いをさせてあげたい。
心優しい、あの子に。
あの子の優しさに触れたのは、つい数日前だ。
普段通りあの子をいびり、服を洗濯しろと命令して眠りについた夜、夜中に目が覚めた。
一階に降りて用を足し、寝室に戻る時、リビングの窓際に目をやった。
満月の光に照らされたあの子が、何やらゴソゴソと作業をしている。
月の光が逆光になって見えない。
「何してるの」
興味が口から零れた。
驚いた様子もなく、あの子がこちらを振り向く。
「裁縫を」
「裁縫? お母様かお姉様に頼まれたの?」
「いえ、お洗濯をしていたらお義母様のスカートの裾がほつれていたので」
「へえ」
「後……私の勝手ではあるのですが……」
「な、なによ」
先程とは違い、歯切れの悪い言葉に腹が立つ。
「あの、お姉様のスカートの裾に、刺繍を」
「刺繍?」
恐る恐る持ち上げる橙色の布は、私のスカートだった。
裾の辺りに、赤い糸を使った薔薇の刺繍が施してある。
一流の仕立て屋には劣るが、とても繊細で可愛らしい。
何より、薔薇は私の好きな花だ。
火が灯ったように、心が温かい。
感謝が喉元まで上がったが、プライドが蓋をした。
「そんなことして、明日の仕事に支障が出たら許さないから」
「支障が出ないようにいたします」
それだけ言うと、私は部屋に戻ってしまった。
あの小さな火は、数日経った今も心に灯ったままだ。
火は小さい故にプライドを焼き払えない。
冷気を纏ったプライドに消されないよう、火を灯し続けるだけだった。
「まぁ! とても素敵!」
ドレスを着用した私を、わざとらしくも聞こえる程の大声が迎える。
「お似合いですわ!」
「私も気に入りました。ありがとうございます」
お母様から預かったお金を払い、外に出る。
迎えの馬車が来るまで少し時間があった。
ふと、小さな店が目に入った。
糸やボタンなど、庶民向けの裁縫道具が並んでいる。
私は悩むことなく、古びたドアを開いた。
金に余裕がないなんてあってはならない。
それは母の口癖だ。
そのため、あの子以外は普段から多めに金銭を持ち歩いている。
普段は小腹満たしのパンを買うことが多いが、今日はパンではなく数種類の刺繍糸とあの子が使っているものより良さそうな刺繍針を購入した。
馬車に揺られながら、目を閉じる。
今度こそ素直になれますように、と祈りながら。
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