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五十嵐青年が対応に困っていると、チャイムの音が響いた。
渡りに船と言わんばかりに、五十嵐青年は口を尖らせる山本の傍から離れ、玄関に向かう。
ドアスコープを覗く前に、ぴくりと体が小さく跳ねた。
山本の時とは違い、予想外の来客だ。
もし、あの女が立っていたら。
そんなことを心配してしまい、五十嵐青年の呼吸は荒くなる。
安心を求め覗き込んだ先には、見覚えのある男が立っていた。
あの日、五十嵐青年を一方的に責めた男。
五十嵐青年の言い分など聞かず、男は女を泣かすなと言い放った男。
かすかな悲鳴をあげ、小さく後ずさる。
二歩後進したところで、五十嵐青年の足は身体を支えることをやめた。
五十嵐青年が向かった先で、何か大きな音がした。
「晴汰くん?」
五十嵐青年からの返事は返ってこない。
山本はソファから跳ねるように立ち上がり、足早に玄関へ向かう。
そこには、呼吸を荒くしながら倒れこむ五十嵐青年の姿があった。
「晴汰くん!」
山本は五十嵐青年を起き上がらせようと右腕に触れたが、すぐに腕を離す。
五十嵐青年の顔が見えるよう位置を変えてしゃがみ込み、顔色を確認する。
大きな音がしてから間もないからだろう、五十嵐青年の顔色は大きく変わっていなかった。
五十嵐青年の吐き出す荒い呼吸が、山本の心をかき乱す。
山羊ではなかった山本が知っている情報をかき集め、声をかける。
「袋、いる?」
まるで痙攣のように小さく首を振る五十嵐青年を、山本はただ見つめるしかなかった。
「五十嵐」
ドアの向こうから声が聞こえ、山本はドアを睨みつける。
「なんの用事ですか」
「あの、俺は、五十嵐と同じゼミの人間で、五十嵐に謝ろうと思って」
「帰って」
その一言で、山本は訪問客を突き放した。
「今、五十嵐さんは過呼吸を起こして倒れているんです。出直してください」
山本が突き放しても訪問客の言い淀む様に、山本は勢いよく立ち上がり、力強くドアを開ける。
ドアの向こうには、暗い表情を浮かべた青年が立っていた。
少し日に焼けた肌と体格の良さから、本来ならば快活さを感じるだろう。
しかし、彼の両目の下にうっすらと浮かぶクマや生気の感じられない瞳は、快活さを打ち消すには十分すぎた。
ドアから出てきた山本へ掛ける言葉を探す男に、ドアを開けたまま言葉をぶつける。
「体調が悪い相手に話す言葉があるんですか。早く帰ってください」
「でも、これを逃すと会えない、かも」
ばつが悪そうに足元を見つめる男を、山本は睨みつけた。
「これ以上晴汰くんを苦しめるな」
山本が荒げた声に、目の前の男は小さく肩を震わせる。
「す、すいませ」
「次同じことがあったら、頭突きするから」
逃げるように背中を向ける男に、追い打ちをかける声がかかる。
小走りで玄関を去る姿を確認すると、山本はドアを閉めようとする。
そんな山本の裾が、小さく引っ張られる。
「まって」
荒い呼吸のまま、五十嵐青年は怒りに満ちた青年を見つめていた。
小走りで逃げ出す男に追いつくのは、山本にとって容易なことだった。
声をかけることなく男を追い、追手からから逃げようとする男に軽々と近づき肩を叩くまでに山本は息を弾ませることはなかった。
「待って。晴汰さんが呼んでるから戻って」
困惑の表情を浮かべる男の手を取り、引っ張る。
「俺は連れて行きたくないけど、晴汰さんのお願いだから」
そう言いながら、男を振り返り睨みつける。
息を切らしながらも怯える様子を確認すると、山本は冷笑を浮かべながら前を向いた。
渡りに船と言わんばかりに、五十嵐青年は口を尖らせる山本の傍から離れ、玄関に向かう。
ドアスコープを覗く前に、ぴくりと体が小さく跳ねた。
山本の時とは違い、予想外の来客だ。
もし、あの女が立っていたら。
そんなことを心配してしまい、五十嵐青年の呼吸は荒くなる。
安心を求め覗き込んだ先には、見覚えのある男が立っていた。
あの日、五十嵐青年を一方的に責めた男。
五十嵐青年の言い分など聞かず、男は女を泣かすなと言い放った男。
かすかな悲鳴をあげ、小さく後ずさる。
二歩後進したところで、五十嵐青年の足は身体を支えることをやめた。
五十嵐青年が向かった先で、何か大きな音がした。
「晴汰くん?」
五十嵐青年からの返事は返ってこない。
山本はソファから跳ねるように立ち上がり、足早に玄関へ向かう。
そこには、呼吸を荒くしながら倒れこむ五十嵐青年の姿があった。
「晴汰くん!」
山本は五十嵐青年を起き上がらせようと右腕に触れたが、すぐに腕を離す。
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五十嵐青年の吐き出す荒い呼吸が、山本の心をかき乱す。
山羊ではなかった山本が知っている情報をかき集め、声をかける。
「袋、いる?」
まるで痙攣のように小さく首を振る五十嵐青年を、山本はただ見つめるしかなかった。
「五十嵐」
ドアの向こうから声が聞こえ、山本はドアを睨みつける。
「なんの用事ですか」
「あの、俺は、五十嵐と同じゼミの人間で、五十嵐に謝ろうと思って」
「帰って」
その一言で、山本は訪問客を突き放した。
「今、五十嵐さんは過呼吸を起こして倒れているんです。出直してください」
山本が突き放しても訪問客の言い淀む様に、山本は勢いよく立ち上がり、力強くドアを開ける。
ドアの向こうには、暗い表情を浮かべた青年が立っていた。
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しかし、彼の両目の下にうっすらと浮かぶクマや生気の感じられない瞳は、快活さを打ち消すには十分すぎた。
ドアから出てきた山本へ掛ける言葉を探す男に、ドアを開けたまま言葉をぶつける。
「体調が悪い相手に話す言葉があるんですか。早く帰ってください」
「でも、これを逃すと会えない、かも」
ばつが悪そうに足元を見つめる男を、山本は睨みつけた。
「これ以上晴汰くんを苦しめるな」
山本が荒げた声に、目の前の男は小さく肩を震わせる。
「す、すいませ」
「次同じことがあったら、頭突きするから」
逃げるように背中を向ける男に、追い打ちをかける声がかかる。
小走りで玄関を去る姿を確認すると、山本はドアを閉めようとする。
そんな山本の裾が、小さく引っ張られる。
「まって」
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息を切らしながらも怯える様子を確認すると、山本は冷笑を浮かべながら前を向いた。
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