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山本のため。
もちろん、五十嵐青年の脳内にその気持ちがない訳では無い。
だが、その気持ちより強いのは、『山羊への罪滅ぼし』だ。
五十嵐青年自身、山羊の世話をしていた男の中身が山羊になってしまったなどという非科学的な事柄を信じている自分はおかしいのではないかと考える。
山本の妄想なのではないかと考えることもあるが、公園で話す山本の眼差しを思い出すと、本当の事だと信じてしまう。
五十嵐青年は、年季の入った箱を慎重に持ち上げる。
「やりたいのってこれ? それともすごろく?」
山本の目が輝く。
「どっちも! あ、あとこれもしたい! すぴーどってやつもしたい!」
これもこれも、と持ってきたものを全て持ち上げようとする山本を手で制する。
「待て待て。何時間遊ぶつもりだよ」
「え、いっぱい」
「具体的に言って」
「えー、っと……」
首を傾げながら天井を仰ぐ山本に小さくため息を吐いた。
「じゃあ、とりあえず一番時間がかかりそうなすごろくから」
目の輝きを一層強くしながら子犬のように飛びついてくる山本から目を逸らしながら、五十嵐青年はすごろくの箱を開いた。
すごろくなんて、と内心馬鹿にしていた五十嵐青年だが、始めてみると夢中になっていた。
ルールからコマの色決めまで、興味津々な山本からの疑問が止まらず、開始も進行もスローペースだ。
だが、新鮮な反応を見せる山本がおかしく、進みの遅さを感じない。
「なんだよ人面犬のゲームで大儲けって」
自分のコマを進めつつ、古めかしいパッケージに相応しい過去の流行に苦笑する。
「人面犬ってホントにいるのかな」
その時代に生を受けず、今までの大半を山羊として生きていた「彼」の真面目な呟きに吹き出す。
左横に座る山本は、神妙な顔つきで五十嵐青年の止まったマスを見つめる。
「そんなの、いるわけないだろ」
「えっ」
目玉が飛び出しそうな程目を丸くする山本に、五十嵐青年は笑みをこぼす。
「僕も詳しく知らないけど、都市伝説ってやつでしょ」
笑いながら言い放たれた言葉に納得できない様子で、ブツブツと独り言を言う山本が微笑ましい。
人面犬のことが頭から離れない様子の山本を見ると、五十嵐青年のターンが来るまで少し時間が掛かりそうだ。
すごろくを開くためにテーブルの上から後ろに移動させた煙草の箱に手を伸ばす。
箱を包むフォルムが指先に触れた時、その手は山本に押さえられた。
「え」
煙草吸いたいんだけど。
二人の目が合った後に続くはずだった不機嫌なぼやきは、唇に押さえられる。
五十嵐青年が呆気にとられている間に、触れていた柔らかいものは離れていく。
きっと触れていた時間は短かったはずだが、長く触れていたように唇の感触が残り続けていた。
「煙草って身体に悪いんでしょ」
五十嵐青年はコクコクと頷く。
「じゃあダメ。食べちゃダメ」
「食べてはないけど」
「口に入れてるじゃん」
「それはそうだけど煙草ってのは」
仕組みを説明する前に、五十嵐青年の身体は山本に引き寄せられた。
再び唇が触れる。今度は触れるだけでなく、暖かくて柔らかいものが五十嵐青年の口内に侵入する。
口内に侵入する山本の舌に、自分の舌を無我夢中で絡ませる。
目を閉じ、柔らかさを味わう脳内に、喫煙を邪魔された怒りなど残っていない。
離れては触れ、お互いの口内を味わい尽くした後、二人は離れた。
「一緒にいるときは、煙草じゃなくて僕のベロ吸って」
「いや、それもおかしくないか」
もちろん、五十嵐青年の脳内にその気持ちがない訳では無い。
だが、その気持ちより強いのは、『山羊への罪滅ぼし』だ。
五十嵐青年自身、山羊の世話をしていた男の中身が山羊になってしまったなどという非科学的な事柄を信じている自分はおかしいのではないかと考える。
山本の妄想なのではないかと考えることもあるが、公園で話す山本の眼差しを思い出すと、本当の事だと信じてしまう。
五十嵐青年は、年季の入った箱を慎重に持ち上げる。
「やりたいのってこれ? それともすごろく?」
山本の目が輝く。
「どっちも! あ、あとこれもしたい! すぴーどってやつもしたい!」
これもこれも、と持ってきたものを全て持ち上げようとする山本を手で制する。
「待て待て。何時間遊ぶつもりだよ」
「え、いっぱい」
「具体的に言って」
「えー、っと……」
首を傾げながら天井を仰ぐ山本に小さくため息を吐いた。
「じゃあ、とりあえず一番時間がかかりそうなすごろくから」
目の輝きを一層強くしながら子犬のように飛びついてくる山本から目を逸らしながら、五十嵐青年はすごろくの箱を開いた。
すごろくなんて、と内心馬鹿にしていた五十嵐青年だが、始めてみると夢中になっていた。
ルールからコマの色決めまで、興味津々な山本からの疑問が止まらず、開始も進行もスローペースだ。
だが、新鮮な反応を見せる山本がおかしく、進みの遅さを感じない。
「なんだよ人面犬のゲームで大儲けって」
自分のコマを進めつつ、古めかしいパッケージに相応しい過去の流行に苦笑する。
「人面犬ってホントにいるのかな」
その時代に生を受けず、今までの大半を山羊として生きていた「彼」の真面目な呟きに吹き出す。
左横に座る山本は、神妙な顔つきで五十嵐青年の止まったマスを見つめる。
「そんなの、いるわけないだろ」
「えっ」
目玉が飛び出しそうな程目を丸くする山本に、五十嵐青年は笑みをこぼす。
「僕も詳しく知らないけど、都市伝説ってやつでしょ」
笑いながら言い放たれた言葉に納得できない様子で、ブツブツと独り言を言う山本が微笑ましい。
人面犬のことが頭から離れない様子の山本を見ると、五十嵐青年のターンが来るまで少し時間が掛かりそうだ。
すごろくを開くためにテーブルの上から後ろに移動させた煙草の箱に手を伸ばす。
箱を包むフォルムが指先に触れた時、その手は山本に押さえられた。
「え」
煙草吸いたいんだけど。
二人の目が合った後に続くはずだった不機嫌なぼやきは、唇に押さえられる。
五十嵐青年が呆気にとられている間に、触れていた柔らかいものは離れていく。
きっと触れていた時間は短かったはずだが、長く触れていたように唇の感触が残り続けていた。
「煙草って身体に悪いんでしょ」
五十嵐青年はコクコクと頷く。
「じゃあダメ。食べちゃダメ」
「食べてはないけど」
「口に入れてるじゃん」
「それはそうだけど煙草ってのは」
仕組みを説明する前に、五十嵐青年の身体は山本に引き寄せられた。
再び唇が触れる。今度は触れるだけでなく、暖かくて柔らかいものが五十嵐青年の口内に侵入する。
口内に侵入する山本の舌に、自分の舌を無我夢中で絡ませる。
目を閉じ、柔らかさを味わう脳内に、喫煙を邪魔された怒りなど残っていない。
離れては触れ、お互いの口内を味わい尽くした後、二人は離れた。
「一緒にいるときは、煙草じゃなくて僕のベロ吸って」
「いや、それもおかしくないか」
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