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白秋
はくしゅう2
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俺と同時期に働き始めた彼女はちゃんと仕事を覚えている。
この職場で最年少ということもあり、誰にでも敬語も使う。
仕事の内容に不満はない。
鋭い目つき。そして敵を作りそうな発言の数々。
こう言ってはなんだが、彼女はとても絡みづらい相手だった。
彼女が牛丼を準備し、俺が席まで運ぶ。
注文の数だけ、対象を切り裂くような鋭い目線を向けられるのだった。
身内にも、律花という目つきの悪い人間はいる。
だが、律花の目つきの悪さが与える印象と、三宅さんの目つきの悪さが与える印象は、似て非なるものだ。
身内だからと贔屓目で見ているところもあると思う。
それを引いたとしても、己の目つきの悪さに引け目を感じている律花と、目の前に立つ人間を切り裂こうとする三宅さんの目は、別の何かだ。
さらに言うと、三宅さんに関する問題はもう一つある。
自分が間違っていると思っている事柄を指摘してくる。
彼女は、間違いを見つけた時に放っておけないようだ。
うまく乗り切れるか考えると、肩が重くなる。
「せんぱーい、夏が終わったのになんで俺には彼女がいないんですかね?」
夜の慌ただしい時間を切り抜け、店内にはスタッフのみになった。
最後の客が外に出た瞬間、悠二は俺に擦り寄り雑談をふっかけてくる。
「そういう機会に恵まれなかったから?」
深く考えず回答し、自分の傷を抉ってしまう。
「結構出会いあったはずなんすよね。サークルの合宿とかも行ったし。高校時代の友達に会って女の子紹介してもらったし!」
この悠二という男は、一つ年下の同じ学部に所属している。
それがきっかけで仲良くなったが、同じバイト先でなかったら仲良くなれないタイプの人間だと思う。
軽音楽サークルのボーカルで、人見知りしない性格。
常連さんや子どもに人気で、悠二がシフトに入っていないことを知った常連客が落胆して帰る姿もよく見られる。
「デートも行ったんですけど、みんなノリ悪くて。店員さんとちょーっと雑談しただけで、怖い顔して帰っちゃうの。チャラすぎでしょ、って言って」
全く困っていない様子で、わざとらしく肩をすくめる。
「結局顔で選ぶんだ!ってビンタされたりもした。顔で選んでるならお前みたいなの選んでないっての」
「はぁ」
俺は言葉を濁すことしか出来ない。
最初は注意していたが、馬の耳に念仏を唱えるのも馬鹿らしくなり放置している。
「そのノリ悪い女子、見る目ありますね。長尾さんも見習えば彼女出来るんじゃないですか」
厨房から攻撃的な言葉と鋭い目線が飛んできた。
悠二は怯むことなく声の主を睨みつけ
る。
「誰彼構わず攻撃してくる人に言われたくない」
腕組みをして鋭い眼光を放っている悠二。
食器洗浄機から出した食器を拭きながら攻撃をする三宅さん。
「気に食わないこと全部に食ってかかってたら生きるの大変だよ? 高校で習わないの?」
「まだ習ってないので、何の授業で習うか教えてください。先輩なんだからご存知ですよね」
今日もこうなった……。
険悪なムードから逃げるため、気配を消して悠二の傍から離れる。
台拭きを持って清掃を開始した。
机という机を磨くように拭き、レジに山積みになっていた不要レシートを処分する間も、二人のやり取りが耳に入り、頭痛がする。
「早く戻って来てくれよ……」
二人のやり取りにかき消された愚痴は、幸か不幸か俺以外には届かなかった。
この職場で最年少ということもあり、誰にでも敬語も使う。
仕事の内容に不満はない。
鋭い目つき。そして敵を作りそうな発言の数々。
こう言ってはなんだが、彼女はとても絡みづらい相手だった。
彼女が牛丼を準備し、俺が席まで運ぶ。
注文の数だけ、対象を切り裂くような鋭い目線を向けられるのだった。
身内にも、律花という目つきの悪い人間はいる。
だが、律花の目つきの悪さが与える印象と、三宅さんの目つきの悪さが与える印象は、似て非なるものだ。
身内だからと贔屓目で見ているところもあると思う。
それを引いたとしても、己の目つきの悪さに引け目を感じている律花と、目の前に立つ人間を切り裂こうとする三宅さんの目は、別の何かだ。
さらに言うと、三宅さんに関する問題はもう一つある。
自分が間違っていると思っている事柄を指摘してくる。
彼女は、間違いを見つけた時に放っておけないようだ。
うまく乗り切れるか考えると、肩が重くなる。
「せんぱーい、夏が終わったのになんで俺には彼女がいないんですかね?」
夜の慌ただしい時間を切り抜け、店内にはスタッフのみになった。
最後の客が外に出た瞬間、悠二は俺に擦り寄り雑談をふっかけてくる。
「そういう機会に恵まれなかったから?」
深く考えず回答し、自分の傷を抉ってしまう。
「結構出会いあったはずなんすよね。サークルの合宿とかも行ったし。高校時代の友達に会って女の子紹介してもらったし!」
この悠二という男は、一つ年下の同じ学部に所属している。
それがきっかけで仲良くなったが、同じバイト先でなかったら仲良くなれないタイプの人間だと思う。
軽音楽サークルのボーカルで、人見知りしない性格。
常連さんや子どもに人気で、悠二がシフトに入っていないことを知った常連客が落胆して帰る姿もよく見られる。
「デートも行ったんですけど、みんなノリ悪くて。店員さんとちょーっと雑談しただけで、怖い顔して帰っちゃうの。チャラすぎでしょ、って言って」
全く困っていない様子で、わざとらしく肩をすくめる。
「結局顔で選ぶんだ!ってビンタされたりもした。顔で選んでるならお前みたいなの選んでないっての」
「はぁ」
俺は言葉を濁すことしか出来ない。
最初は注意していたが、馬の耳に念仏を唱えるのも馬鹿らしくなり放置している。
「そのノリ悪い女子、見る目ありますね。長尾さんも見習えば彼女出来るんじゃないですか」
厨房から攻撃的な言葉と鋭い目線が飛んできた。
悠二は怯むことなく声の主を睨みつけ
る。
「誰彼構わず攻撃してくる人に言われたくない」
腕組みをして鋭い眼光を放っている悠二。
食器洗浄機から出した食器を拭きながら攻撃をする三宅さん。
「気に食わないこと全部に食ってかかってたら生きるの大変だよ? 高校で習わないの?」
「まだ習ってないので、何の授業で習うか教えてください。先輩なんだからご存知ですよね」
今日もこうなった……。
険悪なムードから逃げるため、気配を消して悠二の傍から離れる。
台拭きを持って清掃を開始した。
机という机を磨くように拭き、レジに山積みになっていた不要レシートを処分する間も、二人のやり取りが耳に入り、頭痛がする。
「早く戻って来てくれよ……」
二人のやり取りにかき消された愚痴は、幸か不幸か俺以外には届かなかった。
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