青春活動

獅子倉 八鹿

文字の大きさ
13 / 41
白秋

はくしゅう7

しおりを挟む
「来てくれてありがとうございます、特待生さん! 改めて自己紹介しますね」
 茶髪の女性スタッフは、スカートのウエスト部分に取り付けた名札を見せてくれた。

 黒地に銀色のマーカーで『板木アリシャ』と書かれており、四隅には、金色のマーカーで六芒星が描かれていた。
 どちらも大きく、自己主張が強い。

「ステラ魔法学園日本校首席、板木アリシャです」

 見た目は大幅に変わっているが、今朝俺に声をかけてきたアリシャに間違いないようだ。
「先程は、どうも」
 俺からも浅いお辞儀をし、椅子に座る。

「特待生さん、なんとお呼びすれば良いですか?」
 アリシャは、満面の笑みで俺に問いかける。
 よく考えてみると、俺がアリシャの名前を一方的に知っているだけだった。
 アリシャからすると、俺はただのモブ客のままだ。
「えーっと……」
 しかし、なんと名乗ろう。

 正直、特待生さんのままでいいのだが、特待生のままでと伝えるのも気が引ける。
 下の名前か? 上の名前か? 個人情報は公開せずWINGの名前がいいのか?
「じゃあ――奏汰で」
 WINGのアカウント名を出す寸前で思い直し、本名を告げた。
 別にインフルエンサーや芸能人でもないし、本名の方が無難だろう。
 WINGのアカウント名は読みにくいし、有名人気取りだと思われたくない。

「じゃあ、奏汰くん。よろしくお願いします」
「お願いします」
 俺が体験し損ねた青春を、体験させてください。
 そう思いながら、再び頭を下げた。

 アリシャがリードしてくれたお陰で、飲み物と食べ物の注文ができた。
 あまり散財したくはなかったが、これから会話をする上で、1人だけ飲み食いするのも気が引けた為、隅に書いてあるスタッフ用の飲み物も一緒に注文すると、初めて自分の分の飲み物を注文してくれた客だと嬉しそうに話してくれた。


 黒い革のショルダーバッグから取り出したペンで、同時に取り出した伝票に注文を記入すると、アリシャはカウンターの奥へ向かった。

 一人になった隙を見て、再び室内を見回す。
 以前蒼依と行ったカフェにとは違い、客はスタッフとのコミュニケーションに夢中な様子で、他の客を見る暇はないようだ。
 客もスタッフも笑顔で、カフェのように身構える必要がない。
 カフェはカフェでも、コンカフェの方が楽かもしれない。

「お待たせしました。コーラとチョコレートパンケーキです」
 アリシャが、トレーを持ってカウンターの奥から戻ってきた。
 目の前に置かれたトレーを見ると、注文したもの以外に、茶色いボトルと、鉛筆よりも少し長く茶色い棒が一緒に乗っているのが分かった。

「奏汰さんにお願いがあるんです。特待生さんである奏汰さんと一緒に美味しくなる魔法をかけたくて」
 アリシャの言葉が、急に澱みないものに変わる。
 もしかして、メイドカフェでよく見る「萌え萌えビーム」のようなものを言わされるフラグではないか?
 やけに言い慣れているように感じる。
「え、あ、はい」
 動揺しているのを悟られまいと振る舞ってみるが、アリシャにはバレているだろう。

「一緒に仕上げの魔法、かけてもらえませんか?」

 予想通りだった。

「あ、はい……」
 もちろん、俺に拒否はできない。
 やりたくないと言えば拒否できるだろうが、俺にはそんな勇気がない。

「この杖を持って、せーのって言うので、デリシャステラって言ってくださいね!」
 アリシャは、トレーに乗った杖を俺に渡す。先程ペンを取り出したショルダーバッグからもう一本杖を取り出す。

「はい……」
「せーの!」

「デリシャステラー」

 そう言いながら杖をトレーに向けていると、身体の奥深くから寒気が溢れ、身体全体広がるのが分かる。

 前言撤回だ。
 コンカフェは、カフェより苦手。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...