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第7話 ヒーロー試験、カンニング疑惑。
しおりを挟む朝。
俺は机に突っ伏したまま、缶コーヒーを3本目あけていた。
「……いや、徹夜で“ヒーロー倫理試験”の問題作る悪役って何だよ。」
そう、今日はヒーロー候補生たちの筆記試験の日。
内容は“法令遵守”“対人配慮”“戦闘時の公共財破損リスク”など、
要は――正義を暴走させないための理性テスト。
俺は悪役なのに、なぜかその出題責任者である。
しかも監督官の横には、あのスーツ女・美影(みかげ)ユリ。
相変わらず涼しい顔だ。
「アオトさん、問題の“模擬悪役対策”の設問、少し辛口すぎませんか?」
「“悪役を殴るときは、カメラの死角を確認せよ”ってやつか?」
「そう、それです。」
「いや、あれ現場で必要だろ。」
⸻
試験開始。
100人の候補生が真剣な顔で問題を解く。
会場の空気はピリピリしていて、
――だが、俺は気づいた。
一番前の席で、
カガリが……やたら視線を下に落としている。
(おいおい、まさか……)
俺はそっと近づいた。
机の下、ちらりと光るスマホ。
画面には――
《ブラック・アオトン模擬悪役攻略メモ(非公式)》
って見出し。
「……お前、それどこで手に入れた?」
「ち、違うんです! 勉強用で! SNSに載ってて!」
「SNS……誰が上げたんだよそんなもん。」
「“悪役ファンコミュ”ってとこに……」
……おい待て。
俺、ファンコミュあんの?
いつの間に出来たんだよ“ブラック・アオトン応援サークル”。
⸻
試験後。
ヒーロー管理局の会議室で、美影と俺は報告書を見ていた。
「一応、カンニング疑惑の件、処分は保留にしました。」
「ありがたいけど、なんか俺が犯人扱いされてない?」
「……実際、あなたの“講義資料”がネットに流出してました。」
「え、それ守秘義務違反って俺じゃなくね!?」
「投稿者、“怪人ファンクラブ管理人”――登録者:アオト。」
「俺ぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
どうやら、昔の自己PR用アカウントがまだ生きていたらしい。
しかも自動投稿設定で、授業ノートを“悪役の心得コラム”として更新してた。
「うわぁ……炎上の仕組み、こうやって始まるんだな……」
美影が苦笑する。
「今どきのヒーロー試験、SNS分析まで項目に入ってるんです。あなた、講師なのに一人で試験潰しかけましたね。」
「……いや、悪役だから、ある意味成功じゃね?」
「皮肉を言える余裕があるのはいいことです。」
⸻
その日の午後、カガリが謝りに来た。
「本当にすみません、先生。俺、悪気なくて……」
「気にすんな。むしろ、ネットリテラシーの授業やるか?」
「……はい!」
真面目に返事すんなよ。
⸻
夜。
家に帰ると、玄関のポストに封筒が届いていた。
差出人――ヒーロー管理局。
中には、一枚の紙。
《特別任命:模擬悪役顧問(正式採用)》
……おいおい。
カンニングで処分どころか、昇進ってどういう理屈だ。
美影からのメッセージも添えられていた。
「あなたの“悪役視点”が、ヒーローたちに必要です。
ただし次からは、SNSのパスワード管理を徹底してください。」
「……まったく、俺の人生、ボケとツッコミで回ってんな。」
缶コーヒーを一口。
夜の街を見上げると、遠くでまたヒーローが空を飛んでた。
ピカピカの正義が、今日も誰かを救ってる。
でも、その下には――
ちゃんと悪役がいる。
「ま、悪役にも昇給あっていいよな。」
⸻
次回:
第8話「悪役、炎上する。」
――《トレンド1位:ブラック・アオトン先生、授業中に悪の哲学を語る!?》
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