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玉砕
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寺院では起き上がれない病人を除き、夕食を食堂でとる。
ほんわりと温かみのある光の下でとる薬膳料理は、ゼルバルトには少々物足りないものだったが、味のほうはなかなかだった。
ユナ・ルーが調子の良い時は、セシェンテルと三人で食事するのが常になっていたが、今日はユナ・ルーが倒れたので二人ともおらず、一人で食事をとった。
そして木のプレートに用意された食事を、二人分、ユナ・ルーの部屋に運ぶ。
「ユナ・ルーはどうだ?」
「眠ってらっしゃいます。進行は止まりましたので、暫くは大丈夫でしょう」
意識のないユナ・ルーの顔色は、淡いランプの光の下、青い白い。まるで蝋人形のようで、恐ろしくなる。
ゼルバルトは食事を薬草が散乱するテーブルの上に置いた。
「なあ。話があるんだ。早いほうがいい」
「そうですか」
セシェンテルは腰を上げ、ゼルバルトについて部屋を出た。
ユナ・ルーの部屋は寺院の奥に位置していた。すぐ側に十字路があり、外に面している方角に小さなベランダがある。
ここから昼に見える景色は、近くの山脈を見渡すことが出来、なかなか絶景だ。
夜風に吹かれるそこで、彼女と向き合った。
「昼間の件だが、ユナ・ルーが落ち着いてからにしてもらいたい」
「そのほうがよろしいですね。わたしとしましても、ユナ・ルー様を最優先にしなくてはなりません。ただ、あの……」
セシェンテルは声を潜めた。
「今だけ、少しだけでよいのです。抱きしめて頂けませんか? それを励みに頑張りますので」
(ぐうっ)
可愛すぎる。
ゼルバルトは注意深く周囲の気配を探り、誰もいないこと、壁のむこうのユナ・ルーがまだ眠っていることさえも確認してから、そっとセシェンテルの華奢で、やわらかな身を抱きしめた。
その髪からふわりと優しい香りがする。
ユナ・ルーのためとはいえ、想い合っているのに暫く触れ合えないとは……
ゼルバルトは鋼鉄の意志でセシェンテルと離れた。
「このことは、ユナ・ルーには内密に。そのときが来るまで」
「分かりましたわ」
ふうっとゼルバルトは息を吐く。
禿げそう、というか白髪が生えそうだ。
ユナ・ルーは久々に白い影の夢を見ていた。
声をだすと周辺にも聞こえてしまうので、心の中で呼びかける。
(お前が来るとろくなことがない。去れ、アチェンラ)
ミカエの仇とばかりに邪険にしたが、無為の神は満足気に笑うばかり。
「あの男、セシェンテルと恋仲になったぞ」
頭が真っ白になった。
いつかゼルバルトが、誰かと恋に落ちて結ばれることを、覚悟していた。
覚悟?
望んでいたのではなく?
見返りがいらないのは本当なのに。
ふと脳裏に、抱きあうゼルバルトとセシェンテルの姿が浮かび上がった。
杭を打たれるような激しい痛みが胸を襲う。
それだけではない。
体中の血が沸き立ち、ぐるりと逆流しはじめて、視界が真っ赤になった。
知らぬ間に苦しみ叫んでいたのか、ゼルバルトが駆け込んできた。
「ユナ・ルー、しっかりしろ。ユナ・ルー! セシェンテル、頼む……」
くるしい。いたい。はりさける。なんで。
急激に代謝するアニムが暴れ、混乱する頭の中で、しかし「その時が来た」と。
最初からずっと分かっていた。
ゼルバルトは自分を愛さないと。
この瞬間をもって、『ユナ・ルー』は消失した。
ゼルバルトはひとしきり苦しみもがき、腕の中で目を開いたままぐったり脱力したユナ・ルーに呆然としていた。
明らかに今までの反応とは違う。
鈍い動作で腰元を見やると、秘宝は見事に砕け散っていた。
「アチェンラ神がいらしたようです」
残念そうなセシェンテルに、なんで、と掠れた声で聞く。
なぜ。アチェンラはこの地に近づけないと言っていたのに。
セシェンテルは「お許しください」と呟いた。
「アチェンラ神がこの地へ近づけないのは本当です。それなのに来たということは―――イニア神がアチェンラ神を招いた、ということです」
「なんだと……?」
「お逃げください」
セシェンテルは唇を噛み、涙を零した。
「わたしたち神の子も神の御意志を全て聞かされる訳ではないのです。ここはもう安全ではございません。今すぐお逃げください!」
「だが、逃げたところでどうすればいい!?」
「ユナディロを目指してください。ユナディロ神はアチェンラ神とは不仲、さらに愛するミカエ様を失ってアチェンラ神とは敵対しておられます。さあ、早く!」
ゼルバルトはユナ・ルーをジプシーの織物で包み、抱えて寺院を飛び出した。
竜馬で急斜を下りながら、最悪の事態が起こったことに整理がつかないでいる。
ひとつは、セシェンテルのこと。
彼女もイニア神に裏切られた形だが、それでも「逃げて」といい、共に来るとは言わなかった。神を捨ててでもゼルバルトを選ぶ気はない。つまりは、そういうことだ。
しかしそれを責める義理はない。ゼルバルトもまた、ユナ・ルーを捨ててまで彼女と一緒になろうとは思わないからだ。
麓の街まで降りて、未だに虚ろな目を開けたままのユナ・ルーの頬を叩く。
脈を確認したが正常で、命に別状はないよう。それだけが救いだ。
「ユナ? ユナ・ルー?」
「………」
ユナ・ルーは一度瞼を閉じてから、再び目を開ける。
「ゼル?」
名を呼ばれたのに腰が抜けて、ゼルバルトはユナ・ルーを抱いたまま地面に腰を下ろした。
「秘宝が砕けた。すげえ苦しんでたし。大丈夫か」
「問題ない」
「とりあえず、ユナディロに向かうぞ。いいな?」
「ユナディロ?」
ゼルバルトの腕から離れ、ユナ・ルーが立ち上がる。
そのころには、彼らの居る場所は寺院麓の町外れではなかった。
「な、なんだ貴様らは!」
人気のない納屋の裏手にいたゼルバルトたちは、なぜか一瞬にして強面の兵隊に囲まれている。
囲まれているのはイニア風の建物ではなく、鏡のように磨かれた白い壁。
背後にあるのは装飾のある机で。
どこだ、ここは。
「ユナディロ、来たいって言っただろう?」
不思議そうに首を傾げるユナ・ルー。
突如現れた不審者を捕らえんと動く兵たちは、しかし厳しい声で「控えろ!」と叱責された。
「この御方を誰と心得る! 下がれ!!」
「く…クレナノルク陛下?」
ゼルバルトからすると頭上から、聞いたような声がする。
のそのそ立ち上がって顔を確認すると、声の主はやはりクレナノルクで、兵を退出させた後、ユナ・ルーに膝を折った。
「偉大なる御方。お目覚めになられたのですね」
ユナ・ルーはこれといって返事はしなかった。
ぼんやりして、何処とも知れない虚空を見ている。本当に何かをその両の目で見ているのかすら、怪しいものだった。
深淵の闇に繋がっているかのような、硝子玉の瞳。
本物の、無機物の人形に見えた。
ゼルバルトは頭痛を覚えて顔を顰め、額に触れる。
「なんでイニアにいたのに、ユナディロの王城なんだ? しかも陛下の執務室って」
「無論、ユナ・ルーさまの御力でございます、世界の王よ」
反射的にユナ・ルーを見るが、「?」と首を傾げられるばかり。
ゼルバルトの口元が引きつった。
「陛下。秘宝が砕けたんだ」
「そのようでございますな」
「ユナ・ルーはこれ、どうなったんだ」
「王よ。混乱なされているようだ」
クレナノルクはかぶりを振り、腰を上げる。
「この方々を御部屋にご案内せよ!」
「おいっ、陛下!」
「お話は明日に。貴方さまが落ち着かれてからにいたしましょう」
確かに、もう無茶苦茶だ、何もかも。
以前も宿泊した例の広くて華美な部屋に通され、ゼルバルトは荒々しく長椅子に沈む。
「なあ、なんだよ。説明してくれよ!」
「何が知りたい?」
長筒を抱えたユナ・ルーが首を傾げる。
……長筒?
そんなもの、寺院に置いてきた。のに。
ゼルバルトは唇を震わせた。
「まず、なんでイニアにいたのにユナディロにいるかってことだ」
「座標など瑣末な問題。ゼルが望むなら遠い星でも違う世界にでも行ける」
「秘宝が砕けて、何が起こった」
「体が代謝を起こしアニムとなってから再構築された。あなたの知る生身の人間ユナ・ルーは消失したとも言える」
事務的に淡々と情報を吐き出すユナ・ルーにぞっとした。
唇が、動いていない。
「ユナ・ルーは消えちまったのか?」
「ある意味では」
「返せよ」
胸ぐらを掴み、揺れる声で凄んだ。
「返してくれよ。俺が望むならなんでも手に入るってんなら、ユナ・ルーを返してくれ!」
「ユナ・ルーもユナ・アニムも同じユウナルイ。本質が同じものを返すという望みは不合理」
「何言ってんだか訳わかんねえよ!!」
「あなたは少し、眠るべき」
ユナ・ルーの掌で目元を覆われると、怒りや悲しみや混乱がふっと消えて眠くなる。
そのまま抵抗することも出来ず、意識が落ちた。
ゼルバルトの体が崩れる瞬間、彼の身をベッドに転移させた。
それを見届けてから、ユナ・ルーはどうしたものかと考える。
以前話をした別のユナ・アニムが言ったとおり、ゼルバルトは今ここにいるユナ・ルーを求めない。
とはいえ、ゼルバルトに説明した通り変異する前のユナ・ルーもユナ・アニムもユウナルイなので、彼の望みを叶えることが難しい。
それこそ、時間を巻き戻さぬ限りは。
なるほどこれは、ユナ・アニムが過去の自分を頼りに来る訳だ。ゼルバルトの望みはなんでも叶えてやりたいが、のっけから無理難題である。
けれど、その件に関しては解決法を発見済み。
ゼルバルトは悪夢でも見ているのか、魘されている。
彼は秘宝が砕けることを忌避していた。そのうえユナ・ルーを失った形では、苦しむのも無理は無い。
このまま夢も見せず眠らせるのが良いとは思ったが、彼の意志として目覚めたがっているので、その通りにしてやった。
「おはよう、ゼル。あれからあまり経っていないが」
「………」
やつれ、顔色の悪い状態のゼルバルト。
ひとまず彼の血流の悪さなどを改善したが、精神的なものからくるようで、あまり功を奏さない。
精神を操作することは、容易い。
だが、それはゼルの望みにそぐわない。また、望み自体が彼の精神によるものである。従って彼の精神を操作するのは本末転倒だ。
「駄目だ……どうしても、ユナディロか、クレナノルクに話聞かねえと。俺……」
「そう。二人同時がいいか? それとも片方ずつか」
「この際二人同時で」
なげやりにぼやくゼルバルトの望みどおり、遍在するアニムであるユナディロの存在を捉えてこの場で具現化させ、クレナノルクを連れ出した。
秩序の神ユナディロは髭を蓄えた知的な壮年の男で、出現してすぐ膝を折った。クレナノルクのほうは事態を察するのに数秒かかったが、すぐに神に倣って頭を垂れる。
「ゼルが話を聞きたいって」
「仰せの通りに、偉大なる御方」
「その偉大なる御方って、なに」
ぶっきらぼうに、喧嘩を売るように尋ねるゼルバルトに、「左様」と答えるユナディロ。
「その御方は今や全ての神の上位にあらせられる存在。
遍在しながらこの世に具現し、あらゆる事象を司り、また破壊し、創造することの出来る御方」
「なんでそんなふうになっちゃったの」
「アチェンラの企みによって。アチェンラはそのような存在を創る技術を得たが、それを己で身につけず、選定した神の子に与えた」
「それは、なんで?」
「アチェンラの歪んだ妄想ゆえに。あの者は、己を含めた我々が神と呼ばれること、また崇められることを不満に感じていた。
神と呼ばれるに相応しい存在に固執し、そして望み通りに神の子を育てた」
アチェンラはまず、相応しい素体……ユウナルイを見つけ、それを此方の世界に呼んだ。
彼が考える神には良心と高潔な思想がいるとし、それを身につけさせるため、財を厭い自然を愛するジプシーの群れに放り込む。
そして不屈の精神を育てるため、兵として戦地へ送り、心身を鍛える他、強姦や拷問によって自我を削いだ。
「ありとあらゆる苦痛を覚えさせ、狂うことも死によって救われることも許さず、諦念を植え付け、そして望みの神の子ユナ・ルーを作り上げた。
そしてその最後の仕上げが、秘宝」
「秘宝が………?」
鸚鵡返しに訊くゼルバルトに、ユナディロは苦渋の表情で呻く。
「あなた方がこの地を訪れた際に、話すべきか話すまいか悩んだ。話さぬと決めたその理由も、今から申し上げる。
まず、秘宝が選ぶ人間だが……秘宝は神の子ユナ・ルーの精神と連結していることは、聞いたか」
「セシェンテルから、すこし」
「そう、秘宝はユナ・ルーの心そのものだった。だが、アチェンラは秘宝に細工を施した。
秘宝が選ぶのは、ユナ・ルーが恋をする相手。
そしてアチェンラが施した細工とは、その中でもユナ・ルーを愛さない者を選ぶという設定」
「……………」
ひゅう、とゼルバルトの喉から空気の音がする。
ユナ・ルーとしてはそろそろ落ち着いて横になってほしいのだけれど、この調子では全てを聞かずにはおとなしく眠ってくれまい。
「俗に言って、ユナ・ルーが片思いをすることが決まっている相手。それが貴方様だった」
「なんか、最後の仕上げというには、ちゃちにも感じるけど」
「そうだろうか? 本当にそう思われるか?
意図的に肉体的苦痛と精神的苦痛によって感情と感覚を奪われ、その者が唯一知らぬものをわざと残し、最後の最後に取り上げたのだ。アチェンラは。
秘宝が割れる条件は恋の喜びを知ること、砕ける条件は、恋の痛みを知ること。文字通りの玉砕、すなわち失恋だ。それによってユナ・ルーは完結し、感情の全てを失った」
「失った?」
「今の御方には、貴方への恋心など残されてはいない。それでもちゃちと申されるか?」
話に聞き入っていたゼルバルトが、口を開けたまま此方を振り向く。
「なに?」
質問か望みでもあるのかと、ユナ・ルーは首を傾げる。
「お前、俺が……ジプシーであることが好きって、前に言ってたよな」
そんな記憶はあるのだが、どうにもユナ・ルー時代のことは曖昧で。
過去と現在に区別をつけるため、過去のユウナルイをユナ・ルー、現在のユウナルイをユナ・アニムと考えることにする。
「好きって、なに?」
逆に問い返すと、ゼルバルトは頭を抱えて伏した。
ユナ・アニムは彼の背を撫でる。
「ゼル。ゼル? 泣かないで、ゼル」
「御方が貴方をそのように気遣い、望みを叶えようとするのは、ユナ・ルーが貴方を愛していたからだ。
もはやそれ以外に、御方に為すべきことはない。
未来永劫、貴方と貴方の子孫を、その御方は守り、あらゆる望みを叶え続ける」
「他に……することがないから?」
「そうだ」
どうしてゼルバルトは泣いているのだろう。
今側にいるユウナルイがユナ・アニムで、ユナ・ルーではないから? 側にいると約束して、ちゃんと側にいるけれど、ユナ・アニムでは役立たずなのだろうか。
俺は、要らないんだろうか。
「あまりに酷たらしい試みだ。殺しても飽きたらず、アチェンラはユナ・ルーを弄び続けた。
私はアチェンラにそのような残虐な真似をやめさせようとしたが、力及ばなんだ。
あまつさえ、多くの神はアチェンラに同調した。
ある者は盲信のため、ある者は利のために。イニアが裏切ったのもそのためだ。アチェンラに迫害される多くのものは、アチェンラに対抗する手段としてユナ・ルーの完結を望んだ」
「………じゃあ、なんで教えてくれなかったんだ。秘宝が砕ける前に。
俺がじたばたしてる様を見るのはさぞかし楽しかったろうよな?」
「申し上げたはずだ。秘宝は、ユナ・ルーを愛さない者を選ぶ。告げたところで、貴方は……」
「愛さなかったって?」
「違うのですか」
ユナディロの声音に迷いが混じった。
「愛してなかったら、誰がここまでやるか!!!!」
「だが、実際に秘宝は砕けた!」
「アチェンラの糞野郎が設定したとかいうのは、俺の性癖までだろ!? そりゃ抱くなら女のほうがいい! けど、そんな事情があるなら性別なんかどうでもよかった、ユナ・ルーを愛してたんだ……」
「それは違う」
ユナ・アニムが口を挟んだ。
「ゼルはあの時点で真相を聞いていても、やはり俺を愛せない。
正確には、愛そうとしたけど、セシェンテルに心を奪われて、やはりユナ・ルーは失恋した。だから秘宝は砕ける。
貴方が本当にユナ・ルーを愛すようになるのは、ユナ・ルーを失った後でしかありえない」
何度も繰り返すうちに無数に存在が増えてしまったユナ・アニムは、あらゆる可能性をもってゼルバルトの望みを叶えようとした。
だから、秘宝の割れる条件を知っているか知らないか、その程度の差異は問題にならない。
そんなものは、とうの昔に試されている。
「ゼル。これは不可避のことだった。誰を責めても、自分を責めても仕方がない。もし責めたいのなら、アチェンラくらいは殺す。それで貴方の気が晴れるのなら、何度でも殺す。永遠に苦しめてもいい」
そういえば、ここで己の為すべきことを思い出した。
「ユナディロ。ミカエを返す」
「な、」
ユナ・アニムはミカエの情報を過去に遡って収集し、ありとあらゆる条件と演算の結果、最良であろう状態で彼女を復元した。
光り輝く純白の乙女が降り立った。むろん、足の状態も良好。
「ミカエ」
失ったはずの最愛の人を前に、ユナディロは唖然とする。
だが、ミカエは復活してすぐにユナ・アニムと嘆くゼルバルトに気づき、さめざめと泣いた。おそらくユナ・ルーを悼んで。
一歩間違えれば、彼女がユナ・ルーのような存在になっていたからだろう。
「……そんなことが出来るなら」
涙で濡れた顔で、悔しそうにゼルバルトはユナ・アニムを睨んだ。
「ユナ・ルーを返してくれ」
ユナ・アニムは彼をそっと抱きしめた。
「そんなにユナ・ルーに会いたい?」
「会いたい……」
「それには方法は一つしかないけど、それでいい?」
「ゼロじゃないんだろ?」
ユナ・アニムは頷く。
ここまでは予定通り。
でも今までとは違う。
今度は、うまくやる。そして、次はない。
秘宝が砕けた状態で、ゼルバルトとユナ・ルーを引き合わす。
ユナ・アニムの犠牲によって。
ほんわりと温かみのある光の下でとる薬膳料理は、ゼルバルトには少々物足りないものだったが、味のほうはなかなかだった。
ユナ・ルーが調子の良い時は、セシェンテルと三人で食事するのが常になっていたが、今日はユナ・ルーが倒れたので二人ともおらず、一人で食事をとった。
そして木のプレートに用意された食事を、二人分、ユナ・ルーの部屋に運ぶ。
「ユナ・ルーはどうだ?」
「眠ってらっしゃいます。進行は止まりましたので、暫くは大丈夫でしょう」
意識のないユナ・ルーの顔色は、淡いランプの光の下、青い白い。まるで蝋人形のようで、恐ろしくなる。
ゼルバルトは食事を薬草が散乱するテーブルの上に置いた。
「なあ。話があるんだ。早いほうがいい」
「そうですか」
セシェンテルは腰を上げ、ゼルバルトについて部屋を出た。
ユナ・ルーの部屋は寺院の奥に位置していた。すぐ側に十字路があり、外に面している方角に小さなベランダがある。
ここから昼に見える景色は、近くの山脈を見渡すことが出来、なかなか絶景だ。
夜風に吹かれるそこで、彼女と向き合った。
「昼間の件だが、ユナ・ルーが落ち着いてからにしてもらいたい」
「そのほうがよろしいですね。わたしとしましても、ユナ・ルー様を最優先にしなくてはなりません。ただ、あの……」
セシェンテルは声を潜めた。
「今だけ、少しだけでよいのです。抱きしめて頂けませんか? それを励みに頑張りますので」
(ぐうっ)
可愛すぎる。
ゼルバルトは注意深く周囲の気配を探り、誰もいないこと、壁のむこうのユナ・ルーがまだ眠っていることさえも確認してから、そっとセシェンテルの華奢で、やわらかな身を抱きしめた。
その髪からふわりと優しい香りがする。
ユナ・ルーのためとはいえ、想い合っているのに暫く触れ合えないとは……
ゼルバルトは鋼鉄の意志でセシェンテルと離れた。
「このことは、ユナ・ルーには内密に。そのときが来るまで」
「分かりましたわ」
ふうっとゼルバルトは息を吐く。
禿げそう、というか白髪が生えそうだ。
ユナ・ルーは久々に白い影の夢を見ていた。
声をだすと周辺にも聞こえてしまうので、心の中で呼びかける。
(お前が来るとろくなことがない。去れ、アチェンラ)
ミカエの仇とばかりに邪険にしたが、無為の神は満足気に笑うばかり。
「あの男、セシェンテルと恋仲になったぞ」
頭が真っ白になった。
いつかゼルバルトが、誰かと恋に落ちて結ばれることを、覚悟していた。
覚悟?
望んでいたのではなく?
見返りがいらないのは本当なのに。
ふと脳裏に、抱きあうゼルバルトとセシェンテルの姿が浮かび上がった。
杭を打たれるような激しい痛みが胸を襲う。
それだけではない。
体中の血が沸き立ち、ぐるりと逆流しはじめて、視界が真っ赤になった。
知らぬ間に苦しみ叫んでいたのか、ゼルバルトが駆け込んできた。
「ユナ・ルー、しっかりしろ。ユナ・ルー! セシェンテル、頼む……」
くるしい。いたい。はりさける。なんで。
急激に代謝するアニムが暴れ、混乱する頭の中で、しかし「その時が来た」と。
最初からずっと分かっていた。
ゼルバルトは自分を愛さないと。
この瞬間をもって、『ユナ・ルー』は消失した。
ゼルバルトはひとしきり苦しみもがき、腕の中で目を開いたままぐったり脱力したユナ・ルーに呆然としていた。
明らかに今までの反応とは違う。
鈍い動作で腰元を見やると、秘宝は見事に砕け散っていた。
「アチェンラ神がいらしたようです」
残念そうなセシェンテルに、なんで、と掠れた声で聞く。
なぜ。アチェンラはこの地に近づけないと言っていたのに。
セシェンテルは「お許しください」と呟いた。
「アチェンラ神がこの地へ近づけないのは本当です。それなのに来たということは―――イニア神がアチェンラ神を招いた、ということです」
「なんだと……?」
「お逃げください」
セシェンテルは唇を噛み、涙を零した。
「わたしたち神の子も神の御意志を全て聞かされる訳ではないのです。ここはもう安全ではございません。今すぐお逃げください!」
「だが、逃げたところでどうすればいい!?」
「ユナディロを目指してください。ユナディロ神はアチェンラ神とは不仲、さらに愛するミカエ様を失ってアチェンラ神とは敵対しておられます。さあ、早く!」
ゼルバルトはユナ・ルーをジプシーの織物で包み、抱えて寺院を飛び出した。
竜馬で急斜を下りながら、最悪の事態が起こったことに整理がつかないでいる。
ひとつは、セシェンテルのこと。
彼女もイニア神に裏切られた形だが、それでも「逃げて」といい、共に来るとは言わなかった。神を捨ててでもゼルバルトを選ぶ気はない。つまりは、そういうことだ。
しかしそれを責める義理はない。ゼルバルトもまた、ユナ・ルーを捨ててまで彼女と一緒になろうとは思わないからだ。
麓の街まで降りて、未だに虚ろな目を開けたままのユナ・ルーの頬を叩く。
脈を確認したが正常で、命に別状はないよう。それだけが救いだ。
「ユナ? ユナ・ルー?」
「………」
ユナ・ルーは一度瞼を閉じてから、再び目を開ける。
「ゼル?」
名を呼ばれたのに腰が抜けて、ゼルバルトはユナ・ルーを抱いたまま地面に腰を下ろした。
「秘宝が砕けた。すげえ苦しんでたし。大丈夫か」
「問題ない」
「とりあえず、ユナディロに向かうぞ。いいな?」
「ユナディロ?」
ゼルバルトの腕から離れ、ユナ・ルーが立ち上がる。
そのころには、彼らの居る場所は寺院麓の町外れではなかった。
「な、なんだ貴様らは!」
人気のない納屋の裏手にいたゼルバルトたちは、なぜか一瞬にして強面の兵隊に囲まれている。
囲まれているのはイニア風の建物ではなく、鏡のように磨かれた白い壁。
背後にあるのは装飾のある机で。
どこだ、ここは。
「ユナディロ、来たいって言っただろう?」
不思議そうに首を傾げるユナ・ルー。
突如現れた不審者を捕らえんと動く兵たちは、しかし厳しい声で「控えろ!」と叱責された。
「この御方を誰と心得る! 下がれ!!」
「く…クレナノルク陛下?」
ゼルバルトからすると頭上から、聞いたような声がする。
のそのそ立ち上がって顔を確認すると、声の主はやはりクレナノルクで、兵を退出させた後、ユナ・ルーに膝を折った。
「偉大なる御方。お目覚めになられたのですね」
ユナ・ルーはこれといって返事はしなかった。
ぼんやりして、何処とも知れない虚空を見ている。本当に何かをその両の目で見ているのかすら、怪しいものだった。
深淵の闇に繋がっているかのような、硝子玉の瞳。
本物の、無機物の人形に見えた。
ゼルバルトは頭痛を覚えて顔を顰め、額に触れる。
「なんでイニアにいたのに、ユナディロの王城なんだ? しかも陛下の執務室って」
「無論、ユナ・ルーさまの御力でございます、世界の王よ」
反射的にユナ・ルーを見るが、「?」と首を傾げられるばかり。
ゼルバルトの口元が引きつった。
「陛下。秘宝が砕けたんだ」
「そのようでございますな」
「ユナ・ルーはこれ、どうなったんだ」
「王よ。混乱なされているようだ」
クレナノルクはかぶりを振り、腰を上げる。
「この方々を御部屋にご案内せよ!」
「おいっ、陛下!」
「お話は明日に。貴方さまが落ち着かれてからにいたしましょう」
確かに、もう無茶苦茶だ、何もかも。
以前も宿泊した例の広くて華美な部屋に通され、ゼルバルトは荒々しく長椅子に沈む。
「なあ、なんだよ。説明してくれよ!」
「何が知りたい?」
長筒を抱えたユナ・ルーが首を傾げる。
……長筒?
そんなもの、寺院に置いてきた。のに。
ゼルバルトは唇を震わせた。
「まず、なんでイニアにいたのにユナディロにいるかってことだ」
「座標など瑣末な問題。ゼルが望むなら遠い星でも違う世界にでも行ける」
「秘宝が砕けて、何が起こった」
「体が代謝を起こしアニムとなってから再構築された。あなたの知る生身の人間ユナ・ルーは消失したとも言える」
事務的に淡々と情報を吐き出すユナ・ルーにぞっとした。
唇が、動いていない。
「ユナ・ルーは消えちまったのか?」
「ある意味では」
「返せよ」
胸ぐらを掴み、揺れる声で凄んだ。
「返してくれよ。俺が望むならなんでも手に入るってんなら、ユナ・ルーを返してくれ!」
「ユナ・ルーもユナ・アニムも同じユウナルイ。本質が同じものを返すという望みは不合理」
「何言ってんだか訳わかんねえよ!!」
「あなたは少し、眠るべき」
ユナ・ルーの掌で目元を覆われると、怒りや悲しみや混乱がふっと消えて眠くなる。
そのまま抵抗することも出来ず、意識が落ちた。
ゼルバルトの体が崩れる瞬間、彼の身をベッドに転移させた。
それを見届けてから、ユナ・ルーはどうしたものかと考える。
以前話をした別のユナ・アニムが言ったとおり、ゼルバルトは今ここにいるユナ・ルーを求めない。
とはいえ、ゼルバルトに説明した通り変異する前のユナ・ルーもユナ・アニムもユウナルイなので、彼の望みを叶えることが難しい。
それこそ、時間を巻き戻さぬ限りは。
なるほどこれは、ユナ・アニムが過去の自分を頼りに来る訳だ。ゼルバルトの望みはなんでも叶えてやりたいが、のっけから無理難題である。
けれど、その件に関しては解決法を発見済み。
ゼルバルトは悪夢でも見ているのか、魘されている。
彼は秘宝が砕けることを忌避していた。そのうえユナ・ルーを失った形では、苦しむのも無理は無い。
このまま夢も見せず眠らせるのが良いとは思ったが、彼の意志として目覚めたがっているので、その通りにしてやった。
「おはよう、ゼル。あれからあまり経っていないが」
「………」
やつれ、顔色の悪い状態のゼルバルト。
ひとまず彼の血流の悪さなどを改善したが、精神的なものからくるようで、あまり功を奏さない。
精神を操作することは、容易い。
だが、それはゼルの望みにそぐわない。また、望み自体が彼の精神によるものである。従って彼の精神を操作するのは本末転倒だ。
「駄目だ……どうしても、ユナディロか、クレナノルクに話聞かねえと。俺……」
「そう。二人同時がいいか? それとも片方ずつか」
「この際二人同時で」
なげやりにぼやくゼルバルトの望みどおり、遍在するアニムであるユナディロの存在を捉えてこの場で具現化させ、クレナノルクを連れ出した。
秩序の神ユナディロは髭を蓄えた知的な壮年の男で、出現してすぐ膝を折った。クレナノルクのほうは事態を察するのに数秒かかったが、すぐに神に倣って頭を垂れる。
「ゼルが話を聞きたいって」
「仰せの通りに、偉大なる御方」
「その偉大なる御方って、なに」
ぶっきらぼうに、喧嘩を売るように尋ねるゼルバルトに、「左様」と答えるユナディロ。
「その御方は今や全ての神の上位にあらせられる存在。
遍在しながらこの世に具現し、あらゆる事象を司り、また破壊し、創造することの出来る御方」
「なんでそんなふうになっちゃったの」
「アチェンラの企みによって。アチェンラはそのような存在を創る技術を得たが、それを己で身につけず、選定した神の子に与えた」
「それは、なんで?」
「アチェンラの歪んだ妄想ゆえに。あの者は、己を含めた我々が神と呼ばれること、また崇められることを不満に感じていた。
神と呼ばれるに相応しい存在に固執し、そして望み通りに神の子を育てた」
アチェンラはまず、相応しい素体……ユウナルイを見つけ、それを此方の世界に呼んだ。
彼が考える神には良心と高潔な思想がいるとし、それを身につけさせるため、財を厭い自然を愛するジプシーの群れに放り込む。
そして不屈の精神を育てるため、兵として戦地へ送り、心身を鍛える他、強姦や拷問によって自我を削いだ。
「ありとあらゆる苦痛を覚えさせ、狂うことも死によって救われることも許さず、諦念を植え付け、そして望みの神の子ユナ・ルーを作り上げた。
そしてその最後の仕上げが、秘宝」
「秘宝が………?」
鸚鵡返しに訊くゼルバルトに、ユナディロは苦渋の表情で呻く。
「あなた方がこの地を訪れた際に、話すべきか話すまいか悩んだ。話さぬと決めたその理由も、今から申し上げる。
まず、秘宝が選ぶ人間だが……秘宝は神の子ユナ・ルーの精神と連結していることは、聞いたか」
「セシェンテルから、すこし」
「そう、秘宝はユナ・ルーの心そのものだった。だが、アチェンラは秘宝に細工を施した。
秘宝が選ぶのは、ユナ・ルーが恋をする相手。
そしてアチェンラが施した細工とは、その中でもユナ・ルーを愛さない者を選ぶという設定」
「……………」
ひゅう、とゼルバルトの喉から空気の音がする。
ユナ・ルーとしてはそろそろ落ち着いて横になってほしいのだけれど、この調子では全てを聞かずにはおとなしく眠ってくれまい。
「俗に言って、ユナ・ルーが片思いをすることが決まっている相手。それが貴方様だった」
「なんか、最後の仕上げというには、ちゃちにも感じるけど」
「そうだろうか? 本当にそう思われるか?
意図的に肉体的苦痛と精神的苦痛によって感情と感覚を奪われ、その者が唯一知らぬものをわざと残し、最後の最後に取り上げたのだ。アチェンラは。
秘宝が割れる条件は恋の喜びを知ること、砕ける条件は、恋の痛みを知ること。文字通りの玉砕、すなわち失恋だ。それによってユナ・ルーは完結し、感情の全てを失った」
「失った?」
「今の御方には、貴方への恋心など残されてはいない。それでもちゃちと申されるか?」
話に聞き入っていたゼルバルトが、口を開けたまま此方を振り向く。
「なに?」
質問か望みでもあるのかと、ユナ・ルーは首を傾げる。
「お前、俺が……ジプシーであることが好きって、前に言ってたよな」
そんな記憶はあるのだが、どうにもユナ・ルー時代のことは曖昧で。
過去と現在に区別をつけるため、過去のユウナルイをユナ・ルー、現在のユウナルイをユナ・アニムと考えることにする。
「好きって、なに?」
逆に問い返すと、ゼルバルトは頭を抱えて伏した。
ユナ・アニムは彼の背を撫でる。
「ゼル。ゼル? 泣かないで、ゼル」
「御方が貴方をそのように気遣い、望みを叶えようとするのは、ユナ・ルーが貴方を愛していたからだ。
もはやそれ以外に、御方に為すべきことはない。
未来永劫、貴方と貴方の子孫を、その御方は守り、あらゆる望みを叶え続ける」
「他に……することがないから?」
「そうだ」
どうしてゼルバルトは泣いているのだろう。
今側にいるユウナルイがユナ・アニムで、ユナ・ルーではないから? 側にいると約束して、ちゃんと側にいるけれど、ユナ・アニムでは役立たずなのだろうか。
俺は、要らないんだろうか。
「あまりに酷たらしい試みだ。殺しても飽きたらず、アチェンラはユナ・ルーを弄び続けた。
私はアチェンラにそのような残虐な真似をやめさせようとしたが、力及ばなんだ。
あまつさえ、多くの神はアチェンラに同調した。
ある者は盲信のため、ある者は利のために。イニアが裏切ったのもそのためだ。アチェンラに迫害される多くのものは、アチェンラに対抗する手段としてユナ・ルーの完結を望んだ」
「………じゃあ、なんで教えてくれなかったんだ。秘宝が砕ける前に。
俺がじたばたしてる様を見るのはさぞかし楽しかったろうよな?」
「申し上げたはずだ。秘宝は、ユナ・ルーを愛さない者を選ぶ。告げたところで、貴方は……」
「愛さなかったって?」
「違うのですか」
ユナディロの声音に迷いが混じった。
「愛してなかったら、誰がここまでやるか!!!!」
「だが、実際に秘宝は砕けた!」
「アチェンラの糞野郎が設定したとかいうのは、俺の性癖までだろ!? そりゃ抱くなら女のほうがいい! けど、そんな事情があるなら性別なんかどうでもよかった、ユナ・ルーを愛してたんだ……」
「それは違う」
ユナ・アニムが口を挟んだ。
「ゼルはあの時点で真相を聞いていても、やはり俺を愛せない。
正確には、愛そうとしたけど、セシェンテルに心を奪われて、やはりユナ・ルーは失恋した。だから秘宝は砕ける。
貴方が本当にユナ・ルーを愛すようになるのは、ユナ・ルーを失った後でしかありえない」
何度も繰り返すうちに無数に存在が増えてしまったユナ・アニムは、あらゆる可能性をもってゼルバルトの望みを叶えようとした。
だから、秘宝の割れる条件を知っているか知らないか、その程度の差異は問題にならない。
そんなものは、とうの昔に試されている。
「ゼル。これは不可避のことだった。誰を責めても、自分を責めても仕方がない。もし責めたいのなら、アチェンラくらいは殺す。それで貴方の気が晴れるのなら、何度でも殺す。永遠に苦しめてもいい」
そういえば、ここで己の為すべきことを思い出した。
「ユナディロ。ミカエを返す」
「な、」
ユナ・アニムはミカエの情報を過去に遡って収集し、ありとあらゆる条件と演算の結果、最良であろう状態で彼女を復元した。
光り輝く純白の乙女が降り立った。むろん、足の状態も良好。
「ミカエ」
失ったはずの最愛の人を前に、ユナディロは唖然とする。
だが、ミカエは復活してすぐにユナ・アニムと嘆くゼルバルトに気づき、さめざめと泣いた。おそらくユナ・ルーを悼んで。
一歩間違えれば、彼女がユナ・ルーのような存在になっていたからだろう。
「……そんなことが出来るなら」
涙で濡れた顔で、悔しそうにゼルバルトはユナ・アニムを睨んだ。
「ユナ・ルーを返してくれ」
ユナ・アニムは彼をそっと抱きしめた。
「そんなにユナ・ルーに会いたい?」
「会いたい……」
「それには方法は一つしかないけど、それでいい?」
「ゼロじゃないんだろ?」
ユナ・アニムは頷く。
ここまでは予定通り。
でも今までとは違う。
今度は、うまくやる。そして、次はない。
秘宝が砕けた状態で、ゼルバルトとユナ・ルーを引き合わす。
ユナ・アニムの犠牲によって。
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